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Tome館長

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  • 眠れない

    2013/01/25

    怖い話

    捨てられた死体を道端で見つけた。

    夕暮れが迫っていた。
    帰宅の途中だった。


    まるで眠っているような美しい少女。

    白い服が破れ、
    胸が赤く染まっていた。

    カメラあれば写真を撮りたかった。
    スケッチブックあれば写生してみたかった。

    あいにく、どちらも持っていなかった。

    仕方ないので
    しっかり網膜に焼き付けようとして

    僕は黙ってじっと
    死体の少女を見つめた。

    まぶた、唇、鎖骨、膝小僧、ふくらはぎ・・・

    いつまでも見続けていたかった。
    でも、すぐに暗くなってしまった。


    諦めるしかない。
    そのまま僕は帰宅した。


    布団に入ったけれど
    あの死体のことを考えると眠れない。

    やがて明日、朝になれば
    きっと誰かが持ち去ってしまうだろう。

    美しさだって失われてしまうかもしれない。

    残念だ。
    でも、諦めるしかない。

    だって、なにしろ道端に捨てられた
    ただの少女の死体なのだから。


    けれど
    そうなのだけれど

    なかなか眠れないまま
    僕はいつまでも後悔していた。


    冷ややかだったであろうその肌に
    触れもしなかったことを。
     

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    • Tome館長

      2015/07/05 15:12

      「さとる文庫 2号館」もぐらさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2013/11/28 12:39

      「広報まいさか」舞坂うさもさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2013/11/23 14:03

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 泣かないで

    2013/01/24

    思い出

    高校二年の授業中、
    校内放送があって名前を呼ばれた。

    (なんだろう?)

    職員室へ行き、
    受話器を受け取り、

    父親の事故死を告げられた。


    階段裏の掃除道具なんか置く
    狭くて暗い場所で

    しゃがんで
    泣いた記憶がある。


    父親が死んだことが悲しくて泣いたのは
    二日くらいあとのこと。

    その時は
    母親がかわいそうで泣いた。


    早退して

    高校から近くの市立病院まで
    走って行く途中、

    尿意がして
    我慢できなくなった。


    公衆トイレに駆け込み、
    情けない気持ちで小便しながら

    (現実はドラマみたいにならない)


    そう思った。
     

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  • 明けの明星

    2013/01/23

    愉快な話

    「我が名は、明けの明星なり!」

    早朝、愛犬を散歩させていたら
    ステテコ姿の老人が走り過ぎながら宣言した。

    ああ、いやだいやだ。

    体が頑丈で頭が岩石みたいな老人には
    あたしゃ、なりたくないね。

    健康を見せびらかすのが趣味なんだろうな。
    誰も見たくないから隠せよ、まったく。


    「私のHNは愚陀羅よ!」

    登校中の女子中学生が担ぐバッグに
    ピンクの文字で書いてあった。

    ああ、いやだいやだ。

    外見ばっかりで中身のない女の子には
    娘をさせたくないね。

    なんでも飾らないと不安になるんだろうな。
    脳みそにもフリルが付いてるよ、きっと。


    「おまえは批判しかできんのか?」

    電信柱に小便をしながら
    愛犬が言葉で吠えた。
     

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  • いじめないで

    2013/01/22

    怖い話

    おねがいですから
    いじめないでください。


    せいかくがくらくて
    すがたかたちがみにくくて

    おこないやふるまいがいやらしくて

    いじめたくなるきもちも
    わからないではないですが

    とてもおちこみます。


    あなたは
    とにかくつよいひとなので

    あなたへしかえしするなんて
    とんでもないはなしですけど

    あなたにとってたいせつであろうものや
    あなたがまもりたいであろうものなら

    なんとなれば
    きずつけることくらいできそうです。


    なんでもありのいまのよのなか
    しゅだんなんかいくらでもあります。

    たとえば
    いま、ここに

    じつめいやじゅうしょ
    だれにもしられたくないじじつとか

    じじつでなくてもいやなことばかり
    かいてしまうことだってできるのです。


    それはもちろんきけんをともないますけど

    いじめられつづけることにくらべれば
    とるにたらぬことのようにおもわれます。


    ただし、
    いまのところ

    もちろんじょうだんです。

    ちゅういをうながしてみただけですけど
    おどされたとうけとられたとしたら

    それならそれでもいいです。


    そういうわけなので

    どうか
    よろしくです。
     

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  • 熱帯の夢

    2013/01/21

    変な話

    息苦しい夢から目覚めたら
    汗まみれの胸の上に亀が乗っていた。


    「この亀、悪い夢を喰うね」

    細長く黄色い舌を見せて
    混血の案内人が笑う。

    なるほど、どんな夢か思い出せない。


    酔ったようにカヌーが揺れている。

    流れているとも思えない密林の川面に
    牛を食べるという魚の唇が浮かぶ。


    なんの予告もなく
    矢のスコールが頭上を襲う。

    「あんた、酋長の娘に手を出したな!」

    案内人に非難されたが
    とんと記憶にない。

    夢の中で手を出したのだろうか。


    とりあえず頭の上に亀を乗せ、
    矢の雨を防ぐ。


    太腿の上では
    ライフルの銃身が曲がっていた。

    熱帯の暑さに項垂れてしまったのだろう。


    「シリカクセ! シリカクセ!」

    羽ばたきながら
    原色の鳥が警告する。

    しかし、手遅れだ。
    一本の矢が尻に刺さった。

    ストローみたいに空洞の矢。


    「それ、ちょっとだけ吸わせろ」

    混血の案内人の眼が
    飢えた獣のように血走っている。
     

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    • Tome館長

      2013/11/19 23:43

      「広報まいさか」舞坂うさもさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2013/11/19 11:37

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 鼓 動

    2013/01/19

    切ない話

    君の心がわからなくて


    僕は君を殴って

    乱暴にセーターを脱がして
    ブラジャーを引き千切って

    乳房をよけるように胸を切り開いて

    片側の胸骨を数本へし折って
    血の沼の中を手探りして

    君の心臓をむき出しにして


    でも
    それから

    それからどうすればいいのか


    やっぱり僕にはわからない。
     

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  • トトカ湾の女

    2013/01/19

    変な話

    ボートを盗み、
    女はトトカ湾へ逃げた。

    艦隊がボートを囲むように追う。

    女を海洋へ逃がしてはならない。
    捕獲が難しくなってしまうからだ。


    すっかり艦隊に包囲された女は
    諦めの表情、濡れたドレス。

    艦隊総指揮官として
    俺は甲板から女を見下ろす。


    女の手に光るものがあった。

    化粧鏡などではない。
    まっすぐ銃口がこちらを向いていた。

    「あんたなんか、大っきらい!」


    さすが、トトカ湾の女だ。
     

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  • どこまでも扉

    2013/01/18

    変な話

      扉を開ける。

    食堂だろうか。
    中央に大きなテーブルがある。

    テーブルの上には白い皿が置いてある。
    その皿の上には女の首が載っている。

    眉と唇の曲線が似ているような気がする。

    「ようこそ、いらっしゃいませ。
     お待ちしておりましたわ」


      違う。
      ここではない。

      扉を閉める。


      次の扉を開ける。

    熱帯のジャングルだろうか。
    天井から巨大な蛇が垂れ下がる。

    蛇の喉は膨らんでいる。
    開いた口の中に女の顔が見える。

    大蛇に飲み込まれつつある女が微笑む。

    「あら、いいのよ。
     そんなに気を遣わなくても」


      違う、違う。
      ここでもない。

      扉を閉める。


    そんなふうに
    扉の列が並んでいる。

    どこまでもどこまでも
    並んでいる。
     

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  • 明日へ向かって

    2013/01/17

    愉快な話

    そして翌日、
    撃たれてしまった。


    く、くそっ!

    ひどい出血だ。
    死ぬかもしれん。


    だ、誰だ?

    昨日、
    明日へ向かって撃った奴は。
     

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  • 唐突な迷惑

    2013/01/16

    変な話

    もうどうでもいいや、と思った。
    本当に、どうでもよくなってしまった。


    「あの、唐突でご迷惑でしょうが」
    そんなふうに見知らぬ女に声をかけた。

    「はい。なんでしょう?」

    目と目が合った。
    その素敵な瞳。

    いつまでも見つめていたかった。

    しかしながら
    抱きしめるのも殴られるのも億劫だ。

    「いえ。なんでもありません」
    すぐに、その場から逃げだした。


    酔っ払いと思われたことであろう。
    実際、相当な酔っ払いであった。

    だが、そんなことはどうでもいいのだ。

    吐いたっていい。
    転んだっていい。

    狂おうが死のうが問題じゃない。
    なにがどうなろうとなんでもない。

    で、そのまま帰って寝てしまった。


    そうなのだ。

    家に帰って寝たっていいのだ。
     

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    • Tome館長

      2013/11/14 20:09

      「広報まいさか」舞坂うさもさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2013/11/14 14:14

      「こえ部」で朗読していただきました!

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