Tome Bank

main visual

Tome館長

m
r

Tome館長

CREATOR

  • 3

    Fav 1,206
  • 9

    View 6,103,447
  • p

    Works 3,356
  • 少年たち

     草原を走る裸の少年たち。
     追い迫るは馬上の貴婦人。


    「どうしよう」
    「どうする?」

    「隠れようか?」
    「そんな場所ないよ」

    「見つかったら、どうする?」
    「踊って見せようか? 小鹿のように」

    「ぼくたち、小鹿じゃないよ」
    「残念ながら」

    「鉄砲かついだ猟師も一緒だ」
    「撃たれちゃう」

    「とにかく逃げよう」
    「捕まるよ。きっと殺される」

    「この先、罠が仕掛けてあるかも」
    「罠はきらいだ。痛いもん」

    「いっそ、わざと捕まってみようか」
    「抵抗せずに?」

    「歓迎するみたいに」
    「なるほどね」

    「そうだ、そうしよう」
    「どうせ逃げられやしないんだからね」
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 視 界

    2013/01/06

    変な話

    視界の上半分には空色の空がある。
    視界の下半分には海色の海がある。

    ふたつの境には水平線が引かれている。

    空の上にあるのは雲と太陽と昼の月。
    海の上に浮かんでいるのは小舟ひとつ。

    小舟の上にはひとりの漁師がいる。
    漁師は両手で釣竿を支えている。

    釣竿の先からは釣糸が垂れ、
    海面を突き抜け、海中に沈んでいる。

    その釣糸の先端には釣針が結ばれ、
    釣針には餌が刺さっている。


    海中にはたくさんの魚が泳いでいた。


    今、一匹の魚が餌を飲み込んだ。

    餌だけ。
    釣針は飲み込まなかった。

    すると、釣針から餌が消えた。

    餌が消えると、釣針も消えた。
    釣針が消えると、釣糸も消えた。

    釣糸が消えると、釣竿も消えた。
    釣竿が消えると、漁師の両手も消えた。

    漁師の両手が消えると、漁師も消えた。
    漁師が消えると、小舟も消えた。

    小舟が消えると
    雲と太陽と昼の月も消えた。

    雲と太陽と昼の月が消えると
    空も消えた。

    空が消えると、海も消えた。
    空と海が消えたので、水平線も消えた。


    そして、みんな消えてしまった。


    消え損なった魚だけが泳いでいる。
    じつに優雅に・・・

    でも、魚の姿は見えない。
    太陽も昼の月も消えてしまったから。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 子どもの言い分

    ぼくが親を選んだわけではないし、
    ぼくが国を選べたはずもない。

    だからぼくは

    知らない人たちを親として
    知らない国に生まれてきたわけだ。


    最初は

    幼くて弱くて悪くて
    なんにもできなくて

    助けてもらわないことには
    生き続けることさえできなかった。


    大人たちは
    比較的長く生きているから

    いろんなことに自信たっぷりで
    いろんなことをぼくに命令した。


    ぼくが決めてもいないルールを
    ぼくに守らせようと強いるだけでなく、

    ぼくが疑っているのに
    疑うのはいけない

    とさえ言うのだ。


    知らないうちに
    ぼくは子どもでなくなり、

    子どもでないゆえに
    ぼくは大人になってしまったわけだけど

    ぼくが決めてもいない
    納得してもいないルールなんか

    たとえ従うしかないとしても

    ぼくは
    死んでも認めないからね。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 才 能

    2013/01/05

    切ない話

    友人が落ち込んでいた。


    「どうしたの?」
    「おれには才能がないんだ」

    「そうかな」
    「まわりは才能ある奴ばっかりだ」

    「それはそうだね」
    「もう情けなくってさ」

    「でも、君だって才能あるよ」
    「ないって」

    「いや。あるって」

    「どんな才能が?」
    「ええと、ほら、他人の才能を引き出す才能」

    「ああ。なるほど」
    「なかなかのもんだよ」

    「そうかな」
    「そうさ。立派な才能だよ」

    「まあ、才能と言えば、才能かな」

    「でもさ」
    「なんだよ」

    「それって、ちょっとさびしくない?」


    友人は黙ってしまった。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • ゲンブリオ山脈

    2013/01/04

    明るい詩

    ゲンブリオ山脈を越えた者は
    いまだかつていない。

    例外としては
    特殊な渡り鳥くらいだろう。

    この渡り鳥は
    上昇気流を上手に使う。

    らせん状に旋回しながら
    とんでもない高度にまで達する。

    上昇気流の助けがなければ越せないのだ。

    しかも、一年に一回のチャンスしかない。

    それを逃がしたら渡れない。
    死んでしまう。

    まさに必死のゲンブリオ山脈越えなのだ。


    たとえ必死になっても
    私には越せない。

    高くて、大きくて
    険しくて、苦しくて

    見上げるだけで呆れ返ってしまう。

    もう私なんか
    見上げてすぐに諦めてしまった。


    それでも私は
    ゲンブリオ山脈が大好きだ。

    あんまり大きすぎて
    抱きしめられないのが

    とても残念だ。
     

    Comment (2)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
    • Tome館長

      2013/10/31 15:02

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2013/04/17 18:01

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • 雪国つらら殺人事件

    2013/01/02

    ひどい話

    雪国で独り暮らしの老人が殺された。
    つららを凶器とする殺人事件だった。


    「刺さっとるな」
    「んだ。刺さっとる」

    隣家の村長と近所に住む駐在の会話である。

    「屋根から下がってたつららが落ちたんだな」
    「んだ。そんでその真下に寝てた」

    「寄り合いで、えらく酔ってたもんなあ」
    「んだ。酒が弱いくせに飲むのは好きだで」

    「事故だな」
    「んだ。事故だ」

    「でも、事故じゃつまんねえな」
    「んだ。村おこしになんねえ」

    「話題性が必要だんべ」
    「んだ。雪国つらら殺人事件とかな」


    こうして証拠品として落ちたつららは没収され、
    それを落とした屋根は駐在に逮捕された。


    さて、それからどうなったかと言うと

    しばらくは世間の話題になったようだが
    さすがに村おこしとまではならなかったようだ。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 星に願いを

    ねえ、神様。


    もしも
    巨大な流れ星が

    もの凄いスピードで

    まっすぐ自分に向かって
    落ちてくるのを

    たった今
    気づいたとしたとしたら

    「ここに落ちないで
     途中で消えてください」

    という
    願い事を

    しかも三回も
    唱えられるものでしょうか?
     

    Comment (2)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
    • Tome館長

      2013/10/30 02:31

      「広報まいさか」舞坂うさもさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2013/10/29 16:22

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 罪悪感

    皿の上に饅頭が二個のっていた。

    それは兄と僕、
    僕たち兄弟のオヤツだった。

    兄はまだ帰宅してなかった。
    家に僕ひとり。


    僕は、僕の分の一個を食べた。
    すごくおいしかった。

    腹が空いていたのだろう。
    とにかくおいしかった。

    だから、当然ながら
    もう一個の饅頭も食べたくなった。

    でも、それは兄の分だ。
    僕の分じゃない。

    二個とも食べてしまったら
    絶対に母に怒られる。

    兄だって怒るに違いない。
    それはわかっている。

    でも、どうしても食べたかった。
    食べたくて仕方なかった。

    我慢できない。
    食べたい。


    それで、食べてしまった。
    皿の上の饅頭、二個とも。


    知らんぷりして誤魔化そうとして
    誤魔化したつもりになって

    もしかしたら
    まんまと誤魔化せたのかもしれない。

    なぜなら
    その後の記憶が欠落しているから。


    あるいは
    良心を誤魔化しただけかもしれないけれど。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 化 粧

    2012/12/30

    切ない話

    金色の二頭立て馬車に揺られ
    美しく着飾った女は夜更けに帰宅した。

    女はひどく疲れていた。
    舞踏会で多くの紳士たちと踊り過ぎた。

    (もしも天井のシャンデリアが落ちてきたら)
    踊りながら心配ばかりしていた。

    (ドレスが赤く染まって、きれいかしら)


    女は絹のドレスを脱ぎ捨て
    化粧室の大きな鏡の前に立った。

    まず美しい髪飾りを取った。
    次に輝く首飾りをはずした。

    高価な腕輪と指輪とイヤリングもはずした。
    それから重いカツラを取り除いた。

    さらに優美な曲線の眉を消し、
    長くてセクシーな付けまつ毛をはぎ取った。

    しばらくためらった後、女は
    指でえぐるように片方の義眼を取り出した。

    そして、諦めた表情のまま
    象牙の入れ歯を口から吐き出すのだった。


    さらにナイフを頬に当て
    女は深くため息をつく。

    (心にも化粧できたら、すてきなのにね)
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 刑 事

    ドアを開けると、そこに刑事がいた。

    彼は私の名前を確認すると
    ミイラの猿の手を差し出した。

    それは私の大切な宝物だった。

    なぜか紛失してしまい、
    捜していたのだ。


    「これ、どこにあったんですか?」
    私は刑事に尋ねた。

    「・・・殺人現場」
    愛想のない刑事である。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
RSS
k
k