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  • 呪われた故郷

    2017/01/08

    怖い話

    たどり着いたら故郷は廃墟。

    土地は荒れ、建物は崩れ、人影はない。

     

    懐かしの生家は熔けかけていた。

    醜く変容したオブジェさながら。

     

    壁は指で押すだけで苦もなくへこむ。

    窓はすべて塞がれ、玄関は失われていた。

     

    裏口へまわり、歪んだドアから侵入した。

    屋内もひどいありさま。

     

    天井まで続くねじれた廊下。

    カーテンは糸を引き、椅子は腰砕け。

     

    前屈みの鏡台、酔いつぶれた浴槽。

    押入れには象牙らしきものまで生えている。

     

    服と靴が粘土のように重く感じられた。

    めまいがした。吐き気まで。

     

    懐かしすぎる場所にいるからだろう。

    ここから一刻も早く脱出しなければ。

     

    裏口まで戻るがドアは閉ざされていた。

    いくら力んでもノブはまわらない。

     

    ねじれて曲がったのは腕の方だった。

     

    「なにをしたって無駄よ。

     もうここから帰しはしないからね」

     

    忘れようもない声がした。

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  • 墓参り

    2016/11/23

    怖い話

    お盆の墓参り。親類縁者お揃いで山寺へ。
    夏の夕暮れ行き来する浴衣姿の家族連れ。
    坂のぼり、山門くぐり、さらに坂のぼる。
    盆花で飾られし先祖代々の苔むす墓の群。
    ロウソクに火を灯し、台の上に。線香も。
    数珠を手に黙祷。手持ち提灯に火を移す。
    坂くだり、山門くぐり、さらに坂くだる。
    つまづいて、家の前で提灯の火が消える。
    ひとり墓前まで戻り、迎え火を運ぶ沙汰。
    西日は沈み、人影まばらな夜道となりぬ。
    幾百もの灯明りに浮かぶ山のシルエット。
    蛍とび交うも、すれ違いし人の影はなし。
    灯明りに照らされ、卒塔婆の影ゆれ踊る。
    提灯のロウソクに火を移し、立ち上がる。
    不意の突風。提灯ゆれるも、迎え火残る。
    見渡せば、人気ない山の墓場は真っ暗闇。
    誰ぞ吹いたか突風で灯明りすべて寂滅す。
    残るは、ゆれる迎え火、かそけき蛍の光。

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  • 死神の部屋

    2016/11/19

    怖い話

    「生命維持管理室」という立派な名称があるにもかかわらず 

    ここは皆に「死神の部屋」と呼ばれている。

     

    ここでは個々の人間の基本的生命バロメーターが管理されている。

    若々しさ、健康、気分、欲望、やさしさ、理性、などなど。

     

    無機質な数値やグラフによって表すことも可能ではあるが 

    それでは直観的なイメージがつかみにくい。

     

    そのため現在に至るまで、昔からの伝統にのっとり 

    ロウソクとその炎の状態によってリアルに表示されている。

     

    ロウソクの太さは生命力の強さ、その長さは寿命。

    色は人格のようなものに相当する。

     

    そして、そのてっぺんで燃える炎の状態は 

    まさに今この瞬間における命の燃え具合を示している。

     

    実際に何が行われているかは想像するしかない。

     

    ただし、明るさ、色、勢い、形、それらの変化によって 

    おおよそのところは察せられる。

     

    この部屋において、これらロウソクとその炎を

    一元的に管理しているのが、生命維持管理官たち。

     

    いわゆる死神である。

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  • 押入れの女

    2016/11/15

    怖い話

    妙に安いな、と思いつつも借りたマンションは 

    どうやら事故物件だったらしい。

     

    寝室兼用の和室には引き戸式の押入れがあり 

    おもに寝具を入れておくわけだが、ここに出るのである。

     

    寝る前に閉めたはずのふすまが夜な夜な開き 

    中にいる何者かの眼が、外のこちらを覗くのである。

     

    その眼と視線を合わせてしまったが最後、もう動けなくなる。

    いわゆる金縛り。

     

    まぶたを閉じることもならず、一晩中にらめっこ。

    ふすまが閉まると、気を失うように眠る。

     

    夢だったのかな、と最初は疑ったものだが 

    どうも記憶が生々しすぎる。

     

    そのうち、ふすまのすき間から手が出てきた。

    日を置いて、片方の手首、ひじ、腕のつけ根まで。

     

    さらに、同じ具合に足も出てきた。

    じらすように足首、ひざ小僧、太ももまで突き出された。

     

    明らかに若い女、それもなかなかの美脚。

    情けない話、こんな状況なのに、おれは興奮してしまった。

     

    真夏に半裸の寝姿だったわけで 

    押入れの住人に股間の膨らみを見られたのだろう。

     

    調子づいたのか、ついに彼女は押入れの二段目から 

    こちら和室の畳の上に足を下してきた。

     

    なまめかしい浴衣姿である。

    そして、それをまた、なまめかしく脱ぐのである。

     

    (ははあ、なるほど)

    身動きすることもならず、おれは思った。

     

    (露出狂の幽霊だったか)

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  • 留守番

    2016/11/01

    怖い話

    ひとりでいい子になって 

    家の中で留守番をしていたら 

     

    なんだか留守番をしているのは

    僕ひとりではないような気がしてきた。

     

     

    たまに物音がするのだ。

     

    天井や床下、押し入れから

    なんだかわからない不安な音。

     

    それに、変な声。

    「ねえ、一緒に遊ぼうよ」

     

     

    僕の心の中の留守番は 

    いったい誰がしているんだろう。

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  • 美少女地獄

    2016/09/25

    怖い話

    「美少女地獄」というのは 

    ウスバカゲロウの幼虫の巣、アリジゴクに 

    何気なく近寄ったアリが陥るように 

    美しい少女たちが堕ちてしまう地獄である。

     

    普通の少女なら大丈夫だったろうに 

    なまじ美しく生まれ育ったばかりに 

    その仕掛けられた罠に近寄ってしまい 

    どうにも取り返しのつかないことになる。

     

    見目麗しければ、どうしても人目惹き 

    物心ついたばかりのまだ幼い頃から 

    蝶よ花よと褒められ、煽てられ 

    いやでも美少女に成長してしまう。

     

    すると、砂糖に群がるアリのごとく 

    いかがわしい誘惑のあの手この手が 

    すり寄り、撫でまわし、揉みあげて 

    いけない方へ方へと彼女らを導く。

     

    出版物やら広告やらが巷に乱れ飛び 

    よからぬ甘言を弄する鏡やら 

    華やかなすり鉢状のステージやら 

    嘘っぽい夢のような日々が演出される。

     

    ところが、そうこうするうち 

    あれよあれよと浮かれているうちに 

    ずるずるずるずる滑り落ちてしまい 

    もうにっちもさっちも抜け出せなくなる。

     

    隠れていた怪物が地中から這い出し 

    そのおぞましい姿を見せつけるように 

    その醜い本性をむき出しにして 

    怯えるばかりの美少女たちに襲いかかる。

     

    これがつまり、美少女地獄である。

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  • 闇のナイフ

    2016/09/21

    怖い話

    闇が怖い。

     

    暗くて見えないからではなく 

    ありもしないものまで感じてしまうから。

     

    闇に靴音が響く。

    不整脈を連想させる乱れたリズム。

     

    追われているような気がする。

    息が苦しい。

     

    どこかへ心臓が逃げようとしている。

     

    助けてやりたい。

    胸を裂いてあげたい。

     

    でも、ナイフを持っていない。

    落してなくしてしまったのだ。

     

    探さなくては。

    でも、どこ行けばいいのだろう。 

     

    わからない。

     

    靴音が大きくなる。

    鼓膜が破れそうなほどに。

     

    両耳の穴を両手の指で塞ぐ。

    まだ聞こえる。

     

    闇の中、かすかに光るものが見えた。

    その瞬間、靴音が消えた。

     

    ナイフだ。

    刃の部分がぼおっと光っている。

     

    地面に落ちているのだろうか。

    それとも、誰かが握っているのだろうか。

     

    ここからでは判然としない。

     

    でも、ナイフなんか怖くない。

    ただ闇が怖いだけ。

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  • 闇の中で

    2016/09/07

    怖い話

    じつは私は目が見えない。

    若い頃に病気で失明したのだ。

     

    ある日、家の中で手探りしながら腰を下ろそうとしたら 

    そこに椅子はなくて、そのままストンと落ちてしまった。

     

    なのに、すぐに床に尻が着かない。

    落ち続けているのは風を切る感じでわかる。

     

    ひょっとして開け放たれた窓から落ちたのだろうか。

     

    いやいや、そんなはずはない。

    仮にそうだったとしても、家は平屋なのだから。

     

    ああ、これはもしかしたら 

    死んでゆく時の感覚なのかもしれない。

     

    そう思いついた途端、安心したのか 

    ちゃんと椅子に座っている自分に気づいた。

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  • おぞまむし

    2016/08/19

    怖い話

    なにやら土壁の傷のようなものが 

    あちらこちらに散在している。

     

    だが、よく見ると、それらが動いている。

    しかも徐々に大きくなる。

     

    どうやら虫の巣に遭遇したらしい。

    節足動物の無数の脚がもぞもぞ蠢うごめいている。

     

    絶望的な予感と悪寒がする。

     

    片手ほどの大きさの虫の群が足もとに落ちる。

    そのままこちらに這い寄る。

     

    クモかもしれない。

    ゴキブリのような気がしないこともない。

     

    手の甲になにやら触れた。

    必死に腕を振る。

     

    うなじに冷たいものが落ちてきた。

    あるいは、この生臭い雨はヒルであろうか。

     

    イカの塩辛のような水たまりができる。

    裸足なので踏んではいけない。

     

    しかし、それとは別のものを踏んでしまった。

     

    とぐろを巻いたヘビ。

    おそらく冬眠明けのマムシであろう。

     

    悲鳴をあげ、飛びのいて逃げる。

    ところが、逃げ切れない。

     

    ぬらぬらしたタコまで這いずってくる。

    カエルのように跳びはねもする。

     

    おぞましさが頂点に達する。

    なのに、いまだ目覚める気配はない。

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  • 玄関ドアの前

    2016/07/21

    怖い話

    ドアチャイムが鳴ったので玄関へ向かう。

     

    普段なら「なんでしょうか?」とまず問うものだが 

    この時はなぜかそのままドアを開けてしまう。

     

    玄関ドアの前、共用階段の踊り場に 

    貧相な顔の若い男が立っていた。

     

    彼はこのマンションの同じ住人。 

    だが、その名前がすぐに思い出せない。

     

    なにやら問題が生じたらしく 

    管理組合役員である私のところに相談に来たらしい。

     

    組合費の滞納の件であったか

    何事かしばらく話し合ってから結論を出す。

     

    「ところで」と彼が言う。

    「理事長さんのお住まいはどこですか?」

     

    おかしなことを言う。

    私の住まいはここに決まっているではないか。

     

    不審そうに首をかしげていると 

    「いえね、昨日の夜、4時過ぎに運動公園で・・・・」

     

    「私に会ったのですか?」

    そう問いかけたのに彼は返事をしない。

     

    夕暮れが迫っているのか、踊り場は暗い。

    彼の表情がわかりにくくなっている。

     

    というか、彼の姿さえ見えにくい。

     

    いや、違う。

    その姿の向こう側が透けて見えるのだ。

     

    それどころか、今では玄関ドアの前に 

    もう誰もいない。

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