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  • 五つのゲーム

    なんでもないことなんだけど
    私は女の子か男の子かよくわからない。

    よくわからないまま私は、とりあえず
    隣町の女の子だけの学校に通っている。


    もうひとり、私の友だちで、やっぱり
    女の子か男の子かよくわからない子がいて

    その子と私で、どちらか女の子っぽいか
    どちらが男の子っぽいかということを

    ふたりで競争することになった。


    全校生徒の前で私は弁明したのだけれど
    なにを話したのか忘れる癖があって

    結局つまり、
    そういうことになってしまったのだ。


    どんな競争をするのか、とっても不安。

    すでに内容はしっかり決まっているらしい。
    全部で五つのゲームをするのだそうだ。

    しかも、今日の放課後、体育館で。


    どうしてこうなるのかな。
    きっと生徒会とかで決めたんだろうな。

    うちの生徒会長が誰なのか知らないけど、
    いくらなんでも私でないことだけは確か。

    案外、私の競争相手の子かもね。


    ああ、いやだな。
    いやなことだらけだ。

    ゲームは苦手。
    わけわかんなくなるんだから。

    だって頭、悪いんだもん。
    五つもゲームしたら、死んじゃうよ。

    面倒くさいから
    いっそ死んじゃおうかな。


    でも、死ぬのも面倒くさいな。


    今日はもう家に帰っちゃって
    みんな忘れたことにしようかな。

    そうしようかな。
    どうしようかな。

    ああ、眠い。


    ところで、ええと、なんだっけ?
    なにを考えていたのか、忘れちゃった。
     

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  • 霊園通り

    2012/08/30

    怖い話

    深夜、彼女を荷台に乗せて
    僕は自転車のペダルを漕いでいた。

    道沿いに高い塀が延々と続いているのは
    そこに大きな霊園があるからだ。


    「ここよ。この通りで人が消えるの」

    彼女の声は震えていた。

    タクシーに乗った乗客が必ず
    この霊園通りで消えるというのだ。

    ただの噂話に過ぎないが
    まったく怖くないこともない。

    それで、つい強がりを言ってみたくなる。

    「振り向くと、君が消えていたりしてね」


    なんの反応もなかった。
    いやな予感がした。

    振り向くと、しかし、そこに彼女はいた。

    「なんで黙ってるのさ」
    「だって・・・・・・」

    彼女は視線を落とした。


    なるほど。

    彼女の足が消えかけていた。
     

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  • 豚の頭

    2012/08/29

    変な話

    あたし今、近所のスーパーにいるの。

    カゴなんか持って買い物してるけど、
    それどころじゃないのよ。

    野菜売り場、なかなか見つかんなくて。


    目の前にあるのは精肉売り場かしら。

    牛の頭や豚の頭や鶏の頭が
    それぞれ、きれいに並んで売られているわ。

    どういう仕掛けなのか
    売り場の両端に並んでる豚の頭が
    生きてるみたいにニタニタ笑ってる。

    ドキリとしてしまうわ。
    こんなの、買う人いるのかしら。


    「あら、奥さんも買い物?」

    その声に振り向いたら
    同じ団地に住んでる奥さんなのよ。

    名前は、ええと、思い出せないけど、
    なんというか、笑顔に見覚えがあるわ。

    「ええ、まあ、その、
     これでも買い物なんですかね」

    まったく、あたしったら
    なにをあせっているのかな。


    「まあ、おいしそうな豚の頭ね」

    そう言われて
    自分のカゴの中を見ると、

    なぜか豚の頭が一個、丸ごと入っていて
    こっちを見上げてニタッと笑っているのよ。

    うわっ。
    いつの間に・・・・・・

    信じられない。


    すぐに売り場に返したいけど
    触れたくもなくて。

    「これ、お譲りしますわ」

    笑顔の主婦にカゴごと差し出したの。

    「えっ、いいの? 悪いわね」

    信じられないことに
    彼女は素直に受け取ってくれて

    そのまま逃げるように
    スーパーの奥へ奥へと消えていったわ。

    なんて、おかしな人。

    そういえば、今さら気づいたけど、
    彼女、あの豚の笑顔にそっくりだったわ。


    ああ、もうダメ。

    とても買い物なんか続ける気になれない。

    そうよ。
    食べ物なんかなくても平気よ。

    あんな豚の頭とか食べるくらいなら
    いっそ飢え死にする方がマシよ。

    そうよ、そうよ。
    そうしましょう、そうしましょう。

    なんて決意して
    スーパーを出ようとしたらね、

    なぜか出口が見つからないの。


    ああ、どうしましょう。

    あたし、困ったわ。
    あたし、本当に困ったわ。
     

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    • Tome館長

      2013/07/20 01:30

      「広報まいさか」舞坂うさもさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2013/07/15 17:06

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 晴れたらいいね

    2012/08/27

    ひどい話

    晴れたらいいね

      彼女を殺そ
       ランラララン


    晴れたらいいね

      彼女を埋めよ
       ランラララン


    晴れたらいいね

      彼女はいない
       ランラララン

         ランララ
        ランラン

      ランラララン
     

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    • Tome館長

      2012/08/28 11:48

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2012/08/27 19:31

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • 悪魔の子

    2012/08/26

    怖い話

    両親は心中した。
    その子を残して。

    遺書はなかった。
    その子が燃やしたから。

    ふたりの大人を死に追いやったのだ。
    その幼い子が。

    かわいらしい子だった。
    絶望させるくらいに。

    両親は奴隷でしかなかった。
    あわれなことに。

    「パパもママも、きらい」
    ちょっとすねてみただけなのに。
     

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    • Tome館長

      2013/07/14 23:11

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2012/09/03 15:52

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • アゴの枕

    2012/08/24

    愉快な話

    僕は、砂浜の海岸線すれすれに穴を掘り、
    まぬけな魚が落ちてくるのを待っていた。

    そこへ幼なじみの歯医者がやってきた。

    「どれどれ、口を大きく開けてごらん」

    彼は根っからの歯医者である。
    歯医者でない彼を僕は知らない。

    僕は、素直に口を開けてやり、
    彼に歯をよく見せてやる。

    「よしよし。ここだ、ここ」

    彼は、耳のすぐ下に手をかけると、
    不気味な音を立て、僕のアゴをはずした。

    それを砂浜に掘られた穴に投げ捨てるや、
    手提げカバンから鋼鉄のアゴを素早く取り出す。

    生身のアゴがはずれた部分に鋼鉄のそれを合わせ、
    耳の下あたりにボルトを差し込む。

    さらにスパナを使ってナットを締める。

    「うんうん。ピッタリだ」

    なにがピッタリなのか
    僕にはよくわからない。


    そんなことをされているうちに
    いつの間にか足もとに潮が満ちてきていた。

    まぬけな魚が一匹、砂浜の穴に落ちていて
    捨てられた僕のアゴを枕に眠っている。
     

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  • 肘泳ぎ

    2012/08/22

    愉快な話

    浅いプールを這っている。

    潜水は勿論、溺れることすらままならぬ。
    水深が足らないために泳げないのだ。

    ただし、プールの底は滑らかなので
    肘や膝が擦れて痛い、ということはない。


    たくさんの人々が這っている。

    スクール水着の女の子が多いところを見ると
    どうやら学校の付属プールらしい。

    いくらか水深のあるプール中央では
    泳ぐように這う人の姿も見える。

    いわゆる肘泳ぎである。

    肘泳ぎで這い進み、女の子にぶつかると
    その体をトカゲのようにヌルリと乗り越えてゆく。

    女の子に乗り越えられることもある。

    これが、なかなか楽しい。

    気持ち良い。
    やめられなくなる。


    「しかし、肘泳ぎは疲れるな」

    プールサイドで日光浴してる友人に声をかける。
    彼は肘泳ぎの名人なのだ。

    「布団の中を這ってるみたいだろ」

    その通りなので、僕は感心する。
    「まったくだね」

    本当に布団の中を這ってるみたいだ。
     

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  • 2012/08/22

    怖い話

    歩いていたら穴に落ちてしまった。

    大きな穴なのに気づかなかった。
    考え事をしていたからだ。

    かなり深く、なかなか立派な穴だった。
    自力では脱出できそうもない。

    頭上を見上げる。
    丸く切り抜かれた青空が見える。


    しばらくすると、そこに顔が現れた。
    こちらを見下ろす。

    中年の男だ。
    おそらく通行人であろう。

    あるいは助けてくれるかもしれない。
    何か言わなくては。

    「すみません。落ちてしまいました」

    くだらないことを言ってしまった。
    軽蔑したような薄笑いを浮かべる男。

    「まったく信じられないね」
    唾を吐き捨てると、男は視界から消えた。

    腹が立った。

    だが、文句は言えない。
    実際、自分でも信じられないのだから。


    やがて、別の顔が現れた。
    若い女だった。

    「あの、大丈夫ですか?」

    とても優しそうな声。

    「ええ。なんとか無事です」
    「あら。心配して損しちゃった」

    すぐに女は消えてしまった。

    失敗した。
    軽率な返事をしたものだ。

    母性本能に訴えるべきだったのだ。


    だんだん腹が減ってきた。
    目がまわりそうだった。

    そのうち野良犬が一匹、現れた。
    見下ろして唸り、吠えて消えた。

    もう怒る元気も残っていなかった。


    さらに待ち続け、見上げ続けた。
    しかし、もう誰も現れなかった。


    日没の頃、穴にフタがされた。
     

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  • 鮎の衣

    2012/08/21

    変な話

    人里離れた山の渓流。
    若者が釣り糸を垂れていた。

    他には誰もいないようであった。
    草木が茂り、鳥と虫が鳴いていた。


    若者の竿に当たりがあった。

    鮎であった。
    よく跳ねる美しい川魚。

    それを魚籠に受ける、と
    若者は目を見張った。

    釣ったばかりの鮎の姿が消えていた。

    その鱗にも似た美しい生地の衣があるばかり。


    (天女の羽衣か、水龍の姫の着物か)


    若者は川上に目をやった。
    渓流の奥へと続く。

    耳を澄ますと
    呼ぶ声がするようであった。


    「見目うるわしき若者よ。
     わが衣を拾っておくれかえ?」


    それは遠い滝の水音だったかもしれない。
    あるいは吹き抜ける風のいたずらか。

    若者の目は、すでに夢見る男の目。

    渓流を遡るように
    ふらふらと若者は歩き始めた。

    やがて若者の姿は
    草木の茂みに隠されてしまった。


    あとは釣り具だけが残された。


    鳥と虫が鳴いている。

    うるさいほどに。
     

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    • Tome館長

      2013/07/11 00:28

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2012/12/25 23:32

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • 定期演奏会

    2012/08/20

    愉快な話

    拍手に迎えられ
    指揮者が舞台に登場した。

    咳払いが止むのを待ち
    指揮棒は振られた。

    静かな海交響楽団による
    定期演奏会の開演である。


    『霧の入り江』より序曲、
    組曲『バッカスの散歩』など。

    滞りなく演目は進み
    安らかな時が流れ

    いつの間にか
    すべての演奏が終了していた。


    「あなたは奇跡の指揮者です!」
    見知らぬ観客が楽屋を訪れた。

    「私に夢を見せてくれました!」
    感激のあまり指揮者に抱きついた。

    その頬は涙で濡れていた。

    「長年の不眠症が治ったんです!」
     

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