Tome Bank

main visual

Tome館長

m
r

Tome館長

CREATOR

  • 3

    Fav 1,204
  • 9

    View 6,031,676
  • p

    Works 3,356
  • 爆弾を抱えて

    2017/02/05

    愉快な話

    おれは爆弾を抱えている。

     

    いや。比喩ではない。

    文字通り。

     

    ほれ、この通り。

     

    おれは、まさに自爆テロリストのように

    本物の爆弾を抱えているのだ。

     

    どうだ、物騒であろう。

    危険極まりない。

     

    うん。おれもそう思う。

    だが、仕方ないのだ。

     

    こうでもしていないと眠くなる。

    刺激が足らんのだ。

     

    生きている実感も 

    生きる意欲も湧いてこない。

     

    いっそ死んだ方がマシな気がしてくる。

    困ったものだ。

     

     

    なんだと? 

     

    いやいや、違う。

    これは時限爆弾ではないぞ。

     

    落としたら爆発するが 

    こうして抱えている分には大丈夫。

     

    しかし、なかなか大変ではある。

    疲れたし、転ぶ心配もある。

     

    さすがに怖くなってくる。

     

    そりゃそうだよ。

    なにしろ爆弾だもん。

     

    爆発しない爆弾は爆弾じゃない。

    Comment

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 乳首の精

    2017/01/20

    愉快な話

    眠気をこらえてまで起きていたいとは思わない。

    それで、すぐにフトンに入って寝た。

     

    なのに、なかなか眠れない。

    退屈してまで眠るのを待ちたくはない。

     

    自然、あれこれフトンの中で考える。

    よからぬ妄想を膨らませていたら、小人が現れた。

     

    「わたしは乳首の精、ニップルです」

    これはまた、変なのが出てきたものだ。

     

    「あなたの乳首を大きくしてさしあげましょう」

    「いや。かまわんでくれ」

     

    「あなたはさっき、大きな乳首を望まれましたよね」

    「ああ。言われてみれば、たしかに」

     

    「ですから、その願いを叶えてさしあげるのですよ」

    「いや。しかし、自分のは小さいままでいい」

     

    「では、どなたのを大きくしたいんですか?」

    「いや。べつに誰のでもいいんだが」

     

    「いい加減ですね」

    「まあ、できればグラマー美少女の胸がいいかな」

     

    「かしこまりました」

    そのままニップルなる乳首の精は消えてしまった。

     

    何も起こらない。

     

    「おいおい」

    フトンをはねのけて起き上がる。

     

    夜でもないから世間は明るい。

    部屋の中に小人の姿はない。

     

    「まさか」

    信じられない気持ちで首を振る。

     

    ひょっとしたら、ひょっとして 

    大変なことをしでかしてしまったのではあるまいな。

    Comment

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • カマキレナイ

    2016/12/30

    愉快な話

    オカマのカマキリがカマを研いでいました。

     

    カマキリがカマを研ぐなんて 

    まず滅多にあることではありません。

     

    でも、オカマのカマキリはキレやすいので 

    ついカマを乱暴に扱ってしまうのです。

     

    「オカマのカマキリ、キレジかな」

    そんなふうに子どもにからかわれたくらいで 

     

    「キーッ! 許さないわよ」

    カマをブンブン振りまわしてしまい 

     

    「パキン!」

    カマの先が石に当たって刃こぼれしたのです。

     

    「あら、いやだ」

     

    子どもたちは大喜び。

    「オカマのカマキリ、カマキレナイ」

     

     

    そういうわけなので 

     

    今はキレないけど、あとでいっぱいキルつもりで 

    こうしてオカマのカマキリがカマを研いでいるのです。

     

    「オカマのカマキリ、カマキレナイ。

     ググッとこらえてカマを研ぐ」

    Comment

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 金魚姫

    2016/12/29

    愉快な話

    彼女は美人でもなんでもない。

     

    いや。むしろ、その逆。

    目が大きいので「出目金」と呼ばれたりする。

     

    しかも彼女、よせばいいのに 

    派手なヒラヒラの赤い服を好んで着る。

     

    なので、なおさら金魚らしく見えてしまう。

     

    さらに彼女、茶色のプードルを飼っている。

    呆れたことに、名前が「フン」。 

     

    そう。彼女に引かれて散歩する姿は 

    まさに「金魚のフン」そのものである。

     

    本人は洒落た冗談のつもりらしいが 

    はた目にゃ、まわりくどい自虐にしか見えない。

     

    いわゆる変な女である。

    ただし彼女、声はじつに美しい。

     

    いっぱしのアナウンサーとして

    そこそこ有名なラジオ局に勤めている。

     

    太っているせいもあろうけれども 

    癒される声として、なかなか評判である。

     

    ガラス張りのスタジオの中で 

    今日も一日、しなやかに彼女は泳ぐ。

     

    「はーい。皆さん、こんばんわー。

     お元気ですか? 金魚鉢の中の金魚姫でーす」

    Comment

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 被告の包丁

    2016/12/21

    愉快な話

    わたくし、包丁です。

    答弁書に沿って答弁させていただきます。

     

    被告でありますところのわたくし、いわゆる文化包丁は 

    原告でありますところの検察官殿によって今回の凶悪犯罪 

    強盗致死事件に凶器として加担した、と糾弾されました。

     

    しかしながらわたくし、本来は料理道具です。

    なかなか重宝するという評判の日用品であります。

     

    凶器となる可能性はあったにせよ、日々の食事を用意するのに 

    必要不可欠な存在であると常日頃より自負しております。

     

    たまたま今回の事件おいて凶器として使われてしまいましたが 

    当然ながら、これはわたくしの本意ではありません。

     

    わたくしを不当に扱い、強制的に使用した加害者の独断です。

    わたくしに抵抗の術はなかったのです。

     

    現場にわたくしがいたから殺害が成立した、というのが

    原告の主張でありますが、これにはまったく承服しかねます。

     

    わたくしは常に現場にいなければならなかったのです。

     

    もしわたくしが台所に待機しておらねば、殺害された被害者は 

    日々の暮らしに大変な支障をきたしていたはずです。

     

    つまり、わたくしが台所の包丁差しに置かれてあったのは 

    被害者本人の自由意思による決断の結果なのであります。

     

    わたくしの存在自体にいくらか悪しき要素があるとしても 

    それを含め、わたくしは必要とされていたのです。

     

    いわゆる「必要悪」なのであります。

     

    理想的な現実ではなく、現実的な理想と申しますか 

    妥協と協調による必然的な産物なのであります。

     

    皆さん、理想という名の夢を法廷で見ないでください。

    どうか不具合だらけの現実を真摯に見つめてください。

     

    わたくしもその被害者のひとりなのです。

     

    よって、被告でありますところのわたくしの無罪を 

    わたくし包丁は断固として主張いたします。

     

    わたくしからの答弁は以上です。

    ご清聴、ありがとうございました。

    Comment

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 人畜無害

    2016/12/20

    愉快な話

    近所のスーパーからの帰り道であった。

     

    着衣の大型犬が後足だけで立ち歩き 

    首輪だけの裸婦を四つん這いにさせて  

    ロープで引きずるように散歩させていた。

     

    なんとも不思議な光景であった。

     

    帰宅すると、書斎には着衣の猫が鎮座しており 

    その目の前の机上には裸の娘が寝転び 

    パソコン操作の邪魔をしていた。

     

    どうやらスーパーで買い物している間に

    人畜の立場が逆転したらしい。

     

    それならば仕方ない、と思い 

    私も人間として裸になろうとすると 

    着衣の猫が首を激しく振り、それを制した。

     

    「ああ。おまえはいい。脱ぐと見苦しい」

     

    まったく、失礼な奴だ。

    ついさっきまで飼い猫だったくせに。

    Comment

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 君は潜る

    2016/12/13

    愉快な話

    君は今、水面を見下ろしている。

     

    ほとんど波はない。

    鏡のように君の姿を映す。

     

    これから君は潜るつもりだ。

     

    望むものが水中にあると 

    あるかもしれないと、君が思うから。

     

    いや。

    すでに君は潜り始めている。

     

    息を止め、水面を通り抜ける。

    視界は悪くない。

     

    小さな魚が泳いでいる。

    熱帯魚のように色鮮やか。

     

    しかし、これではない。

    こんなもの、べつに欲しくない。

     

    君は息が苦しくなる。

    あわてて水面まで浮上する。

     

    深く潜れない。

    これでは見つけられない。

     

    さらに手に入れるなんて、夢の夢か。

    しかし、諦められない。

     

    君は再び潜る。

    もっと深くまで潜る。

     

    息が苦しくても潜り続ける君。

    Comment

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 秘密の通路

    2016/12/03

    愉快な話

    「ここからあたしんちへ行くにはね

     この通路を抜けるのが近道なんだよ」

     

    下校途中、あかねちゃんが言う。

     

    「えっ? それっておかしいよ。だって

     あかねちゃんち、この道をまっすぐのところじゃん」

     

    ぼくは算数の図形の話をしたくなる。

     

    「そう思うでしょ? でも違うんだな、これが」

    あかねちゃん、その狭い隙間から中に入ってしまった。

     

    しょうがないので、ぼくも続く。

     

    「ここ、よそんちの庭じゃないの?」

    「そうよ」

     

    「見つかったら怒られるよ」

    「平気だって。当然って顔してれば、大丈夫」

     

    それから小川を飛び越え、線路下のトンネルをくぐると 

    見覚えのある場所に出た。

     

    「あれ? ここって・・・・」

    「そうよ。あれがあたしんち」

     

    本当に近道なのだった。

    Comment

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 説得の作法

    2016/11/27

    愉快な話

    説得するには、まず相手を知ること。

    観察したり、打診したりする。

     

    何を好み、何をきらい、何を望み、何を恐れるか。

     

    好ききらい、いかんともしがたし。

    望みには応じられない場合が多い。

     

    そこで、相手の恐れを利用することになる。

     

    こちらの目的を相手に伝える必要はない。

    結果として目的を達成するまでだ。

     

     

    「まず、こいつを外すんだ」

    銃口を相手の額に押しつける。

     

    「次に、これをずり下げろ」

    逆らったら危険だぜ。

     

    「これも一緒だ」

    誰だって命は惜しいからな。

     

    「よし。こいつを持ち上げろ」

    撃たれたら痛いだろうし。

     

    「それから爪を立てて、ここを掻くんだ」

    ああ、そこそこ。

     

    「そ、そこが、すっごく痒かったんだ」

    Comment

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • うっかり

    2016/10/15

    愉快な話

    真夜中、細かい作業に疲れ 

    立ち上がり、窓を開け 

     

    ひとり ベランダに出て 

    深呼吸していたら 

     

    つい うっかり 

    夜空を飲み込んでしまった。

     

     

    ああ、驚いた。

     

    まったく 

    うっかりにも 程がある。

    Comment

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
RSS
k
k