Tome Bank

main visual

Tome館長

m
r

Tome館長

CREATOR

  • 3

    Fav 1,204
  • 9

    View 6,031,537
  • p

    Works 3,356
  • ヴェルレーヌ研究

    2008/11/30

    論 説

    フランス象徴派の詩人として名高いポール・ヴェルレーヌ
    いくつかの作品を分析してみたい。


      秋の日の
      ヰ゛オロンの
      ためいきの
      身にしみて
      ひたぶるに
      うら悲し。

      鐘の音に
      胸ふたぎ
      色かえて
      涙ぐむ
      過ぎし日の
      おもいでや。

      げにわれは
      うらぶれて
      ここかしこ
      さだめなく
      とび散らう
      落葉かな。
                           (上田敏訳)


    有名な『落葉』である。

    「ヰ゛オロン」はヴァイオリン。
    「ヰ゛」は「ゐ」の濁音で、「vi」の苦しい発音表記。
    現代なら「ヴィオロン」と表記するところ。

    読みやすく、素朴で、美しい詩だと思う。

    だが、「秋という季節に特有の感傷的な気分」を
    歌ったにしては、表現がややオーバーではなかろうか。

    感じやすい女学生や詩人ならともかく、
    一般人にはそぐわないものがあるような気がする。

    できれば誰にでもしっくりくる詩にしたい。

    そこで、試みとして、次のように表現を変形してみよう。


      秋の日の
      ヰ゛オロンの
      ためいきの
      歯にしみて
      ひきつるに
      あな痛し。

      鐘の音に
      頬おさえ
      転がりて
      涙ぐむ
      食べし日の
      おもいでや。

      げにわれは
      うらぶれて
      ここかしこ
      さだめなく
      腐りゆく
      虫歯かな。


    『虫歯』である。

    やはり表現はオーバーかもしれないが、象徴的な曖昧なものを
    具体的なわかりやすいものに置き換えただけで、
    これなら一般人にもしっくりくるものがあると思う。

    また、音楽性や素朴な構成の美しさも損ねてはいないと思う。


      巷に雨の降るごとく
      われの心に涙ふる
      かくも心に滲み入る
      この悲しみは何ならん?

      やるせなき心のためには
      おお、雨の歌よ!
      やさしい雨のひびきは
      地上にも屋上にも!

      消えも入りなん心のうちに
      故もなく雨は涙す。
      何事ぞ! 裏切りもなきにあらずや?
      この喪その故を知らず。

      故知れぬかなしみぞ
      げにこよなくも堪えがたし
      恋もなく恨みもなきに
      わが心かくもかなし!
                          (堀口大学訳)


    次は、これも有名な『巷に雨の降るごとく』である。

    やはり美しい詩であるが、
    これも「雨の日に特有の鬱々と沈んだ感情」を歌ったにしては、
    普通の人には大袈裟に感じざるを得ない。

    具体的なイメージが欲しいところである。


      巷に雨のふるごとく
      われの頭の毛がぬける
      かくも心に滲み入る
      この悲しみは何ならん?

      やるせなきぬけ毛のためには
      おお、雨の歌よ!
      いやらしいき雨のひびきは
      額にも頭頂にも!

      消えも入りなん毛髪のうちに
      故もなく雨は涙す。
      何事ぞ! 裏切りにもなきにあらずや?
      この喪その故を知らず。

      故知れぬかなしみぞ
      げにこよなくも堪えがたし
      かつらもなく薬もなきに
      わが心かくもかなし!


    ヴェルレーヌの写真を思い出せば、
    「ああ、なるほど!」と頷けるのではなかろうか。

    ただし、あまりに理解しやすいイメージのために、
    趣や深みがなくなっている。

    笑い話と同じで、笑ってそれだけで終わりそうである。


      空は屋根のかなたに
        かくも静かに、かくも青し。
      樹は屋根のかなたに
        青き葉をゆする。

      打ち仰ぐ空高く御寺の鐘は
        やわらかく鳴る。
      打ち仰ぐ樹の上に鳥は
        かなしく歌う。

      ああ神よ。質朴なる人生は
        かしこなしけり。
      かの平和なる物のひびきは
        街より来る。

      君、過ぎし日に何をかなせし。
        君いまこそここにただ嘆く。
      語れや、君、そも若きおり
        何をかなせし。
                          (永井荷風訳)


    最後の詩は『無題』である。

    具体的な名前さえないのだから、
    象徴詩もここに極まった感がある。

    構造というか骨組みがしっかりしているので、
    いわゆる「替え歌」も作りやすい。

    そういう意味で、ヴェルレーヌの詩は
    噛めば噛むほど味が出るような傑作が多い。

    繰り返し味わいたいものである。


      空は廃墟のかなたに
        かくも静かに、かくも青し。
      人は廃墟のかなたに
        しかばねの海となる。

      打ち仰ぐ空高く原爆や水爆は
        ひややかに鳴る。
      打ち仰ぐ空の上にキノコ雲は
        むなしく歌う。

      ああ神よ、絶滅せり人類は
        おろかなりけり
      かの邪悪なる物のひびきは
        文明より来る。

      君、過ぎし日に何をかなせし。
        君いまこそここにただ嘆く。
      語れや、君、そも若きおり
        何をかなせし。
     

    Comment (3)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
    • Tome館長

      2012/07/28 13:24

      「こえ部」で一部を朗読していただきました!

    • Tome館長

      2012/07/28 13:21

      「こえ部」で一部を朗読していただきました!

    • Tome館長

      2012/07/26 12:33

      「こえ部」で一部を朗読していただきました!

  • ん が

    2008/11/30

    変な詩

    んがらみの そねしそねたも ほねそねし
     はらいそぱらそ けせらももねむ

    とやかにも ぱみれきうれい うんそねま
     ほことのまほれ しっぺ どどしと

    ぴこでもの へんなふべいな うにかもめ
     たまよねゆんげ ふじけらし なめ

    さげそねみ ぴりひらぴらも ふんこみな
     まよりにてむは もっけ もものけ

    どべじでだ うべかにこわそ しみずむれ
     へげなこまいそ うな かたじけね

    すっからむ べべしとて こみいとま
     くんげ なかんも へね ほねほねし

    ほけせてね いわなかんなも わなこめた
     ぱき ゆじかみれ おっことのそ

    おどろけぱしか はにかみて
     すふれ うずまや ふぬふみのふむ

    ぷゆときて わけながまそじ ずけいらむ
     ではめねそけた ことのゆかたび

    すんがらみんこふ ぶすけらま
     ほりそ まほにた ふねよらず げほ

    なぎればなぎれ こよ くにとぞみ
     ばいやもすぶれ そめきうずけや

    はなさきそげて しのばずり
     いでや まほろし えで ぱすがたに

    うんずきそめき ぽかそげた
     ぺりめ みからし へけもけた やも

    まんにんや はかなすびとし うくれやに
     すばたきそこね えでへにす

    ぺんでれでふじ ふけさばさ
     ぴへにえもえや とべきそこなり

    あんそみぽんじ ゆくれけそ
     ゆでらしけらし ぽこそみて はなぢ

    ほにほ にほほほ わかさしければ
     うずくゆかりな ひこまみれ しばくも

    とけちてやりね くずきもも
     へれでんがぼそ ほに むすくずれ

    すからぱや えけもけそねし すぱらがや
     ふずれゆかたび しでらまに ゆっけ

    えっせけほにか ぴこれども
     わかきくにちか えそ ほりぶでん

    さねばとじ さねさばとじね ほもよろず
     つのもことしき ぽか まことし

    むしき らびそで ほねこけた
     ぴやれ やんなも わかちにはんぺす

    ほのほなが ゆできことひら はりさげみ
     うんこざね もりこざむ やめられめ
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 老人の財宝

    まだ老人は探し続けている、
    どんな夢でも叶うはずの財宝を。


    古地図のような皺だらけの掌が
    財宝の隠し場所を暗示する。

    どれほどの財宝がどこにあるのか、
    肝心なことはなにひとつ知らない。

    伝説でしかない財宝を求め、
    すでに老人は全財産を失っている。


    それでも老人は探し続けている、
    掌の荒野に隠された伝説の財宝を。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • レレレ神殿

    2008/11/29

    愉快な話

    ほとんど誰も知らないが、

    レレレという名の神がいて、
    それを祭るレレレ神殿というものがある。


    ここの神様はひまなのだ。

    まったくといってよいほど
    仕事がない。


    どこかを支配しているわけはなく、
    なにかを任されているわけもない。

    なにもしない名ばかりの神なのだ。

    これでは崇められるはずもない。
    神殿があることさえ不思議なくらいだ。


    ところが、この神殿に祈る人がいる。

    「レレレの神よ、お願いです」

    なにやら罪深い人らしい。

    「どうか、なにもしないでください」
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • ルロイ広場

    2008/11/28

    明るい詩

    ルロイ広場の夜はふけて
     手招きするは 湿った月

       あちらこちらの梢の先から
        噴水みたく あふれるお酒

          ほら あの子が笑う
           ほら あの子が踊る


    ルロイ広場の夜はふけて
     焚火の上でこげる星

       誰もかれも浮かれ騒ぐよ
        笛と太鼓と足拍子

          ほら あの子が笑う
           ほら あの子が踊る
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 立方体の部屋

    あなたはひとり そこにいる


    床と天井は 正方形
    四方の壁も 正方形

    ドアも窓もない 立方体の部屋


    家具はなく 照明さえない
    なのに部屋全体が 明るい

    あなたの影は どこにも見えない


    壁も床も天井も 白く滑らか

    あなたは 息苦しさを感じる

    見えない出口を 探そうとあせる


    おそらくあなたは 壁を押すだろう

    すると その壁が床に変わる

    床だった面は 壁になる
    反対側の壁は 天井になっている


    床にうつ伏せに 倒れているあなた

    立ち上がれば 同じ部屋

    白く滑らかな 立方体の部屋


    あなたはもう 呼吸さえ忘れてる
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 妖 精

    2008/11/26

    愛しい詩

      触れたら魚になり
      つかんだら泡になる

      泣いたって
      知らんぷり

      いじわるな君の性格


    「浜辺で遊んでると、波にさらわれるよ」


    心配するけど
    どうせ君のことだから

    誰にも邪魔されることのない海底で

    夢を見ながら
    眠っているんだろうね



      触れたら鳥になり
      つかんだら風になる

      見つめても
      知らんぷり

      自分勝手な君の性格


    「雲の上に乗って、雪にでもなるつもり?」


    忠告したって
    どうせ君のことだから

    誰にも征服されることのない山頂に

    ひとり優雅に
    舞い降りるんだろうね
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • ようこそ

    2008/11/25

    明るい詩

    ようこそ ようこそ


    パパは金持ち ママ美人
    弟は賢くて 妹かわいくて

    おまけに私ときたら 狂ってる

    なんて素敵なマイファミリー!


    庭には五本脚の犬がいる
    屋根には三日月刺さってる

    玄関の扉は逆さまで
    廊下の真ん中 穴がある

    居間はプール 寝室クール
    台所なんか どこにもない


    さあさ 遠慮はしないでね

    ワニの靴なんか 脱いじゃって
    こんな家政婦 脱がしちゃって

    二階に上がって 窓を開けたら
    そこは秘密の地下室よ

    壁紙 血でにじんでるけど
    中世の家具 ずらり並んでるから

    きっと気に入ってもらえるわ


    これ なんだかわかる?

    洒落た陶器の便器じゃなくて
    ナマズヒゲ仕掛けの管弦楽団

    一緒に踊りたいけど
    あいにく指揮者は私なの


    だから 勝手に踊ってよ

    どうぞ 勝手に踊ってよ
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 軽 蔑

    2008/11/24

    愛しい詩

    僕は君が好きだけど
    君のすべてが好きなわけじゃなく

    好きなのは君だけじゃない。


    君を盗み見ながら
    僕が描くかもしれない似顔絵は

    きっと君に似ていない。


    僕は君が欲しいけど

    君が望むような僕なら
    たぶん君なんか欲しくない。


    君が僕でない誰かと愛し合えば
    僕は死にたくなるだろうけど

    本当に死んだりなんかしない。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 雪ん子

    なんにもない 暗い空だけど
    雪降れば 白いお山あらわれて

    村に雪ん子 やってくる


    雪みの 雪ぐつ 雪化粧
    リンゴ食べたような赤い頬

    笑顔こぼれて ぼたん雪

    泣いたら みぞれ
    手袋ぬれて

    粉雪 綿雪 雪わたり

    すべって転んで 雪合戦


    雪ん子 村の子らと遊ぶけど
    そんなに長くはいられない

    雪がやんだら お山が消える

    お山消えたら 帰れない
     

    Comment (2)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
    • Tome館長

      2014/09/03 09:52

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2011/02/15 18:33

      ケロログ「しゃべりたいむ」かおりサンが朗読してくださいました!

RSS
k
k