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2013/02/27
工事途中のプレハブ住宅のような建物。
開いた玄関から外の景色が見える。
奥に道があり、大きな黒い犬が
歩きながら興味深くこちらを眺めている。
あんなのに入られては大変だ。
ところが、あいにく玄関には扉がない。
ともかく入り口を塞ぐべきだろう。
建物の中を探し回り、扉らしきものを見つける。
しかし、大きさも形も合わない上
中央に楕円形の変な穴が開いている。
これで仮に入り口を塞いだとしても
この穴から犬が入り込みそうな気がする。
などと悩んだり考えたりしているうちに
すでに犬は建物の中に侵入していた。
さあ、困ったことになったぞ。
「あっちへ行け!」
追い払おうとして、握りこぶしを前に突き出す。
すると、犬は口を開け、その手に噛み付く。
牙は刺さらず、痛くもなんともない。
握りこぶしに犬の口蓋の感触を感じるだけだ。
ただし問題は、手が引き抜けなくなった事。
なんだか吸われているような気がする。
犬と視線が合う。
感情が読み取れない。
何を考えているのだ、この犬は。
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2013/02/26
その家庭において少年は、自分が
必要とされていない人間だと感じていた。
もしも今、自分がいなくなれば
この家庭はもっと明るくなり、
もっと快適な状態になるに違いない。
そんな気がするのだった。
自分は家族の誰にも愛されていない。
いらない子どもなのだ、と。
その学校において少年は、自分が
意味のない生徒であるように感じていた。
自分なんか学校にいようがいまいが
教師も同級生も誰ひとり気にしない。
学校で勉強しなければならない理由が
どうしても少年にはわからなかった。
自分自身の将来のためだ、と教師は言う。
立派な大人になるためだ、と。
だけど、少年は思う。
将来、こんな自分が大人になったって
誰ひとり喜ばないだろう、と。
その事実を認めても
平気でいられるようにするのが
学校の教育なのだ、と。
もうすぐ世界人口が
80億を超える。
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2013/02/25
急に雨が降ってきた。
窓辺で雨音を聴いていると
見知らぬ女が軒下に駆け込んできた。
雨宿りだな、と思った。
庭も垣根もなく、軒下があるだけ。
雨宿りに都合いいのだ。
「お嬢さん、家の中に入りませんか」
窓から首を出し、誘ってみた。
若い女は笑顔でこたえた。
「いいえ、結構です」
そうだろうな、と思った。
世の中そんなに甘くない。
「では、これを使いなさい」
雨傘を差し出してやった。
「あとで返してもらえばいいから」
女は雨傘を受け取ってくれた。
「すみません。ありがとうございます」
なかなか素直な性格ではないか。
「明日、必ず返します」
「いつでも結構ですよ」
その雨傘を差し、若い女は立ち去った。
でも、おそらく彼女、返してくれないだろうな。
自爆装置付きの雨傘なんか。
2013/02/25
天の川を小舟で渡っていた時のお話です。
風はなく、ほとんど波もありませんでした。
川面に目をやると、魚が泳いでいました。
これはまた珍しい事があるものです。
近づいて来たので姿がはっきり見えました。
どうもそれは魚とは違うようです。
二の腕まで水中に入れ、それを捕まえました。
なんとも異様な形をしておりました。
銀色の鱗に覆われ、尾ビレしかありません。
眼もエラも口らしきものさえないのでした。
突然、それは尾ビレから火炎を吹きました。
ですから私は驚いて、思わず手を離したのです。
結局、その姿は水中に消えてしまいました。
まことに不思議な事があるものです。
天の川を小舟で渡っていた時のお話でした。
2013/02/24
恐ろしく長い石段だった。
その石段を俺は上っている。
どこまで続くのか、上は霞んで見えない。
足が疲れたので、途中で休むことにした。
石段に腰かけ、ぼんやり見下ろす。
どこから続くのか、下も霞んで見えない。
やがて下の霞の中から片腕の男が現れた。
さっき追い越したばかりの男だった。
黙ったまま俺の横を通り抜ける。
無愛想で目付きの悪い男だ。
(なぜ奴は石段を上るのだろう)
なんとなく考えてしまった。
(なぜ俺も石段を上るのだろう)
休んでいるのに胸がドキドキしてきた。
(いつから俺は上っているのだろう)
思い出せない。
記憶も霞んでいた。
上っても下っても
なんだか同じような気がしてきた。
休んでいても同じかもしれない。
しばらくして立ち上がった。
一段一段、俺は石段を下り始めた。
下るのは上るより楽だった。
しかし、どこまでも石段は続いていた。
(この石段はなんなのだろう)
よく似ているような気がした。
この石段も、その次の石段も、
その前の石段にしたって・・・・
こちらへ石段を上ってくる者がいる。
あの目付きの悪い片腕の男だった。
2013/02/22
公園で子どもが石蹴りをしている。
地面に丸や四角の線を引き、
石を蹴りながら片足になったり
歌ったり笑ったりしている。
石なんか蹴って
いったい子どもは
何が楽しいというのだろう。
ふと見下ろすと
俺の足もとに
蹴りやすそうな石が落ちていた。
なんとなく俺は
それを蹴っ飛ばしてみた。
石は弧を描いて空中を飛び、
見知らぬ奥さんの後頭部に当たった。
「ゴッツン!」
そのままバタリと地面に倒れる奥さん。
とんでもないことになってしまった。
「すみません! 大丈夫ですか?」
いくら呼んでも反応しない奥さん。
うつぶせのまま顔が地面に埋まっている。
くすぐろうか抱き起こそうか
俺は一瞬迷い、
それは失礼ではないか
などと考えているうちに
突き出ていた尻を
つい蹴ってしまった。
「痛い!」
奥さんのくぐもった声。
左右に揺れる尻。
ああ、よかった。
まだ生きている。
嬉しくなって
俺はもっと強く尻を蹴った。
「痛い!」
左右に大きく揺れる奥さんの尻。
これだ、これ。
これこそ大人の楽しみ。
ああ、尻蹴りは楽しいな。
2013/02/22
なんなんだろう
うまく言えないんだけど
このうまく言うとか
うまくやるとかやらないとか
そういうことも含めて
そういう方向で
いいのかなって
ああ
全然伝わらないよね
頭ん中
まだ整理できてないんだ
整理すべきかどうかも含めてね
とにかく
みんながみんな
そういう方向に進んでいるとして
そういう方向に進んでいても
問題なさそうなんだけど
そういう方向しか考えられない
という気さえするんだけど
でもね
そういう方向に進んでしまって
本当にいいのかなって
というか
そもそも
進んでいいのかなって
ああ
ごめん
もういいよ
自分で考えるからさ
2013/02/20
「そんな子はうちの子じゃない。出て行きなさい!」
母に怒鳴られ、僕は家を飛び出した。
西山の向こうへ陽は沈もうとしていた。
その夕陽を追いかけるように僕は歩いた。
(僕は悪くない。間違ってなんかいない!)
母があとをついて来ているのは知っていた。
振り向かなくても気配でわかった。
(ふん。やっぱり僕が心配なんだ)
西山のふもとに着いた頃には
あたりはすっかり暗くなっていた。
それでも僕はそのまま山道を登り始めた。
まるで夜空へ昇って行くような気分で。
(僕は悪くない。絶対に間違ってない!)
まだ母はついて来ていた。
かすかだが背後に足音がする。
気づかないふりをして僕はどんどん登り続けた。
すっかり夜になったが、月明かりがあるので
足もとは見えるのだった。
いつのまにか、知らない場所まで登っていた。
闇のどこかでフクロウの鳴き声がする。
踏んだ枝が折れて、ものすごい音がした。
けもの道に迷い込んだのかもしれない。
怒りは薄れ、だんだん怖くなってきた。
よく母はついてくるな、と僕は感心してしまった。
(よし。さすがにもういいだろう)
そう思って、僕はうしろを振り返った。
少し離れたところに白い姿が見えた。
目を凝らさなくても、それが母でないことはわかった。
それはシロだった。
近所の飼い犬なのだった。
2013/02/20
たそがれの公園。
「なにしてるの?」
たずねる少女。
「歩く練習」
こたえる少年。
「池の底を?」
「水面を」
「まさか」
「本当さ」
「うそつき」
「まず右足を水面に」
「歩けるもんですか」
「右足が沈む前に左足を」
「そんなの無理よ」
「あれ?」
「ほらね」
「おかしいな」
「ばかみたい」
空中を歩く少年。
2013/02/19
彼女、雨が降ったら酒を飲む。
すぐに川に変身してしまう。
ボロボロの傘が流れて来る。
競技用のプールも流れて来る。
ついには海まで流れて来ちゃった。
このままでは溺れちゃう。
もう川のままではいられない。
彼女、立ち上がり、教会へ行く。
懺悔室で告訴する。
「神父様はタマネギなのよ!」
市民は怒り、司祭を鍋で煮てしまう。
彼女、悔い改めて尼になる。
そのまま映画に主演で出演。
腰を振り振り、川で拾った傘を差す。
傘はボロボロ、気分は上々。
その途端、窓からプールがなだれ込む。
「水が汚れ、本日の競技は中止です!」
ショックで彼女、死んでしまった。
彼女の死体を海に捨てる。
だって海は拒めない。
やがて、妙な噂が巷に流れる。
あの行方不明のボロボロの傘、
じつはプールが隠し持っている、と。
そこで彼女、
やっと酔いから醒めたのだ。