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  • 転がり岩の秘密

    2013/04/29

    変な話

    荒れ果てた岩だらけの大峡谷。
    たまに大小の岩が転がり落ちてくる。

    一列に並んで転がってきた岩の集団が
    まるで人が運転する乗り物のように

    落ちる寸前、断崖の縁に躊躇して止まり、

    やがて決心がついたらしく飛び出し、
    放物線を描いて落下する光景も見られた。

    もし岩の中に運転手がいたとすれば、
    もう二度と彼は運転できないだろう。

    いかに荒れ果てようとも
    岩の行動としては奇怪すぎるように思えた。

    落ちたくないのに落ちなければならない。
    そのような理由でもあるのだろうか。

    何か秘密があるような気がしてきた。
    この大峡谷には隠された秘密がある。

    なぜ岩は転がり落ちて自減するのか。
    なぜ大峡谷が荒れ果ててしまったのか。

    これらの謎を解く鍵があるはずだ。
    そんな確信のようなものがある。

    しかし、なぜ秘密にするのか。
    知られると不具合でも起こるのか。

    まるで、そう、まるで・・・・


    興奮のため、息苦しくなってきた。

    その時だった。
    異変に気づいたのは。

    黒々とした、とんでもなく大きな岩が

    恐ろしい速度と地響きの迫力を伴って
    まっすぐこちらに向かって転がってくる。

    逃げようにも足がすくんで動けない。

    間に合わない。
    衝突され、押し潰され、確実に殺される。

    目の前が真っ暗になった瞬間、
    頭の中が真っ白になった。
     

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  • 寝 姿

    2013/04/27

    愛しい詩

    藍色の東の空の裳裾より
     瞼に切れ目を入れるよう

       物憂げな夜明けを装いつ
        薄紅に燃ゆる霧の丸帯は

          仕留め損ねた大蛇の如く
         山並みを避け 谷底を這い

       樹林の陰影と絡まりながら

     もう二度と逢う事もない君の
    柔らかな寝姿を偲ばせる
     

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    • Tome館長

      2013/09/15 19:37

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • ゴムの沼地

    2013/04/27

    変な話

    月夜なのに、どこにも月は見えない。

    今晩、どこやら秘密の場所で
    なにやら秘密の集会があるという。

    それに出席することになっているのに
    期待どころか不安で仕方がない。

    さような個人的心情はともかく、
    道端に古いロッカーが置かれてある。

    扉をはずして中に入り、元通り扉をはめる。

    そのロッカーの中はちゃんと
    エレベーターになっているのだった。

    いつも利用しているロッカーなのに
    こんな仕掛けがあるとは、ついぞ知らなんた。

    知らないうちに動き始めているし。

    到着したらしき独特の重力変化を感じた。
    ロッカーの扉をはずして外へ出てみる。

    そこは絵に描いたような月夜の停車場である。

    線路の上には貨物列車が停まっている。
    なぜなら貨物を積んでいるから。

    ゾンビのようなものが石炭の如く
    うずたかく積まれているのがわかる。

    まだ他の出席者の姿はないようだ。

    貨物列車の上に立ってみようとして
    積まれた貨物の上に足をかける。

    その得体の知れないなにものかは
    敏感に反応して、モゾモゾ動き始める。

    お化け屋敷のカラクリ人形のようでもあり、
    腐った酔っぱらい親父のようでもある。

    なんにせよ、足場が不安定だ。
    形容しがたい不気味な動きをする。

    「なんだ、うぐ、おまえは」
    「踏むな。うぐぐ、痛いじゃないか」

    「そこじゃない。うぐ、ここだ、うぐ」
    「うぐぐぐ、もっと、うぐぐぐぐ」

    なんとも気色悪い声である。

    ふと線路の向こう側を見ると
    月光に照らされた組織代表者の姿があった。

    彼の近くへ行かなけれぱならない。
    なのに、なかなか前進できない。

    わけのわからぬ貨物ゾンビを踏みながら
    ゴムの沼地に沈むような予感がするのだった。
     

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  • 君の面影

    2013/04/26

    空しい詩

    思い出は
     過去の影絵


    その光源
     遥か遠く

       君の面影
        淡く霞む
     

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  • 野生のヒョウ

    2013/04/24

    切ない話

    野生の獣たちの話をしよう。


    一頭の野生の雄のヒョウがいた。

    こいつが子連れの雌のヒョウに近づいた。
    そして、しきりに挑発した。

    ところが、雌ヒョウは乗ってこない。
    母親としての自覚があるから。

    そこで雄のヒョウは雌ヒョウの子を殺した。
    愛くるしいばかりのヒョウの子を。

    さらにそれを食べてしまった。
    ひどく空腹でもあったから。

    すると雌ヒョウは母親でなくなった。
    ただの雌に戻ってしまった。

    すぐに発情し、交尾した。

    我が子を殺したそのヒョウと。
    我が子を食べたそのヒョウと。

    そして、そのヒョウの子を孕んだ。


    野生であるとは、つまり
    そういう事だ。
     

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  • 熊の置物

    残業を終えて、退社するところ。
    他に社員が二人いて、一緒に外に出る。

    私はポケットから玄関の鍵を出し、
    ドアの鍵穴に差し込み、一回転させる。

    まるで手応えがない。
    見ると、錠の金属部分が抜き取られている。

    いったいどういうことなのだろう。
    部下の男性社員は知らないという。

    そうであろう。
    新人なのだから無理もない。

    女性社員は知ったかぶりをする。

    ドアに施錠できない理由をいくら説明しても
    彼女は理解せずに鍵を回し続ける。

    だんだん腹が立ってきたので
    施錠せずに退社することを宣言する。

    どうせ朝一番で出社するのは私であり、
    泥棒が入ったとしても盗む物などないはずだ。

    じつに男らしい決断だ、と自惚れる。
    気づいたら、男性社員の姿が消えていた。

    気の利かない男のくせに
    気を利かしたつもりなのだろう。

    女性社員と二人で夜の街を歩きながら
    なぜかサーカスの話題で盛り上がる。

    サーカスの技にはそれぞれ番号があり、
    その数字が六桁か七桁もあるのだそうだ。

    どんな技があるのか考えていたら
    途中で食事でもするつもりだったのに

    いつの間にかベッドに寝ており、
    今まさに女性社員を抱こうとしている。

    思い出したのだが、彼女は人妻だった。

    いや、すでに離婚していたかもしれない。
    とすれば、私のために離婚したのだ。

    満ち足りた気分に包まれた瞬間、
    彼女の手が伸び、私の股間に触れる。

    その行動は予期していたはずなのに
    思わず女っぼい悲鳴をあげてしまう。

    なんとも恥ずかしくてならない。

    「寒かったから、手が凍っていたんだよ」

    なんとか冗談で誤魔化そうとするが
    冗談にもなんにもなってない気がする。

    「はい。これ、あげるわ」

    そうして彼女が目の前に差し出したのは
    小さな熊の置物であった。

    さっぱり彼女の心がつかめない。

    よく見ると、金属製である。
    木製でない熊の置物の意味がわからない。

    オフィスの玄関ドアから抜き取られた
    あの錠の金属部分を連想してしまうのは

    私の気の迷いなのだろうか。
     

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  • おぞましき告白

    2013/04/22

    怖い話

    私は人を殺したことがあります。
    夜道で痴漢に襲われた時のことです。

    私はもう必死で抵抗して暴れました。
    持っていた傘で男の顔を突いたのです。

    その石突が男の眼窩に刺さりました。
    先端が脳まで達して、男は即死。

    正当防衛で私は無罪になりました。

    その時、私は右肩を負傷。
    狂暴な痴漢の爪に引き裂かれたのです。

    右肩の傷はなかなか治りませんでした。
    むしろ悪化していくようでした。

    痛くて痛くて
    右腕を上げることもできないのです。

    化膿した肩は赤く腫れてしまい、
    その傷痕はひどく醜いものでした。

    まるで人の顔のように見えました。
    誰かに似ているような気さえします

    やがて、傷口が裂けました。
    膿が出て、そして・・・・

    「おい、お嬢さん」

    信じられないことでした。
    裂けた傷口が喋り出したのです。

    「よくも俺を殺してくれたな」
    いやらしい男の声でした。

    「こんなにかわいい顔してさ」
    右手が私の頬を撫でました。

    「ちょっと触っただけなのに」
    右手が私のお尻に触れました。

    「ちょっと揉んだだけなのに」
    右手が私のお乳を揉むのでした。

    「もう、ちょっとじゃ済まねえぞ」
    右手が全身を這いまわるのでした。

    私は、左手で右手を押さえようとしました。
    でも、どうしてもかなわないのです。

    右肩から先の感覚がなくなっていました。
    もう右腕は私のものではなかったのです。

    太くて浅黒くて、まるで男の腕です。
    おそろしいほど力があるのでした。

    そのうち右腕は
    私の着ている服を破り始めました。

    「誰か、助けて!」

    でも、家には誰もいないのでした。
    私は一人暮らしを悔やみました。

    右肩の顔は醜く笑いました。
    あの死んだ痴漢の顔にそっくりでした。

    「おいおい、お嬢さん。
     こんな姿を誰に見せるつもりだ?」

    私は愕然としました。

    そうです。
    誰にも見せられません。

    見せられるはずがありません。
    こんなおぞましい姿。

    ついに私は右手に屈したのです。

    そうです。
    もう抵抗するのを諦めたのです。

    この右手の責めは執拗で陰湿でした。
    とても言葉にできません。

    もう私は、ただひたすら
    声を殺すだけで精一杯なのでした。
     

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  • 恋 心

    2013/04/21

    愛しい詩

    切なさこもれる
     胸の内

       切り裂いて
        取り出して

          ほら 君に

        見せたくもあり
       見せたくもなし
     

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    • Tome館長

      2014/02/09 22:04

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2013/09/08 15:22

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • そう言うもの

    2013/04/20

    空しい詩

    そう言うものだ
     と言われてみれば

       そう言うもので
        あろうけれども


          そう言うものは
         そう言うふうに

       言いたくないし
      言われたくもない
     

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  • 検 品

    いわゆる女子高生であった。
    つまり、セーラー服を着た少女である。

    (やれやれ、またか)

    さすがに疲れが出る。
    まだ休憩時間には程遠い。

    だが、やらねばならんのだ。
    これが仕事なのだから。


    まず、ざっと全身を目視検査する。

    幼い表情。
    顔立ちは整っている。

    すらりと伸ぴた脚。
    いくらか産毛の多い腕。

    やや胸は小さいが、さほど間題はない。
    すぐに、脱衣作業に入る。

    「うっそー、信じられない」

    信じられなくても裸にしてしまう。
    さすがに抵抗するが、あまり力はない。

    手首と足首をベルトで台に固定する。
    この台は透明で、床は鏡になっている。


    表皮に傷は付いていないようだ。

    (分解するしかないな)
    電動ドライバーのスイッチを入れる。

    「な、なにをするつもり?」

    品物に返事をする気分ではなかった。

    どこかにネジが隠されているはずだ。
    ちょっと見ただけではわからない。

    指先で皮膚を押しながら探り出す。

    「いや、やめて!」

    ちょっと声が大き過ぎるようだ。
    だが、それが返品の理由にはならない。

    やはり内部に故障があるのだろう。


    (・・・・おかしいな)

    ネジが見つからないのだ。
    不思議な事に一本も。

    どこにもネジの感触がなかった。
    こんな事は初めてだった。

    どこか異常な気がした。
    あるいは最新タイプなのだろうか。

    台の上で裸の少女は泣き続けている。
    その瞳が作りものとは思えなかった。

    「キミ、本物の女子高生?」

    不安になって間いかけてみた。

    少女は必死にうなずくのだった。
    数値制御された表情とは思えなかった。

    (あるんだ、こんなことって!)

    仕事で感動するのは久しぶりだった。
    なんと、本物の女子高生なのであった。

    あたりを見まわす。
    監視ロボットの姿はない。


    疲れが消えてゆくのがわかった。
     

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