1万8000人の登録クリエイターからお気に入りの作家を検索することができます。
2013/05/09
乳離れしたばかりの幼女を飼う。
ペットである。
ただもう可愛がりたいから飼うのだ。
法律のことなんか知らない。
気にしない。
望み通りの美女に育てるだけだ。
座敷牢の中に押し込み、
家の外へは出さないつもり。
世間の事など教えてやるもんか。
いやいや、待てよ。
恐ろしいところだと教えてやろう。
それは彼女にとって嘘ではない。
私なしでは生きられなくなるから。
そういうふうに育てる計画なのだから。
彼女、従順なペットになるだろう。
主人のためならどんな事でもする。
たとえ殺されても恨まない。
ふふふ・・・・
「これ、ポチや。
こっちに来て、私の靴をお舐め」
やれやれ、いいところだったのに。
ご主人様が、私をお呼びだ。
2013/05/08
ひとり、部屋の床に座っている。
開いた窓から空と建物の屋根が見える。
突然、部屋が回転を始める。
遊園地のコーヒーカツプの動きだ。
(これは夢に違いない)
ただちに確信する。
夢にしてはリアルだが、こんな事
どう考えても現実に起こるはずがない。
(どうせ夢なら好きな事してやろう)
ところが、あまりにリアルであるため
状況を変える操作ができない。
やがて、勝手に部屋が移動を始めた。
遊園地のジェットコースターの動きだ。
窓から見える光景が目まぐるしく変わる。
都会の鳥瞰図、針葉樹林、冬の山岳地帯、
野原、夕焼けの赤い海、花火、舞う粉雪、
稲妻の嵐、吹き上がる溶岩・・・・
そこで、目が覚めた。
不思議な夢だった。
起き上がり、
パジャマを脱ごうとして異変に気づく。
見ると、手が三本あるのだ。
右手と左手、そしてヘソのあたりから
三本目の手首が生えている。
しかも、この三本目の手は勝手に動く。
左手と右手で押さえつけようとするが
なかなかうまくいかない。
困ってしまった。
このままでは誰にも会えない。
そこで、本当に目が覚めた。
本当に不思議な夢だった。
2013/05/07
ひなびた山奥で
ひとり笛を吹いていた。
鳥のさえずりに調子を合わせ
そよ風のささやきに旋律をのせ・・・・
これでも都では、一時期ではあるが
「笛の名手」と称えられていたものだ。
やがて吹き疲れ、
うううんと背伸びをする。
見上げると、木の上に猿がいた。
小枝を手に持ち、口にくわえている。
笛吹く真似をしているらしい。
「おもしろい。猿に吹けるか」
木の上の猿に笛を放り投げてやった。
驚きながらも、猿は笛を受け取った。
さっそく口に当て、吹く真似をする。
しぱらくすると、かすかに鳴った。
「うまい、うまい。なかなか筋がよいぞ」
夕暮れが近づいたので、山を下りた。
さてさて。
あれから、あの笛はどうなったやら。
2013/05/06
ここで死ぬるは
ここで生まるるより多し
あるところに砂漠があり、
その果てに偉大な扉があった。
まだ誰にも開けられたことのない扉。
鍵穴はなく、わずかな隙間さえない。
だから、扉の向こう側を知る者は
どこにもいないのだった。
「黄金の宮殿がそびえているのだ」
「いや。世界を征服できる剣があるのだ」
「いやいや。きっと、どんな望みでも叶う
魔法の泉が湧いているに違いない」
そんなふうに
ただ己の欲望を投影するばかり。
この扉はカでは開かない。
呪文でも開かない。
爆薬でも壊れなかった。
空しい試みが繰り返され、
多くの猛者が扉の前で屍となった。
さて、ここで疑問がある。
開くことのない扉は
本当に扉だったのだろうか。
扉そっくりに描かれた
砂の絵ではなかったのか。
2013/05/05
秋でもないのにさびしくなってしまった。
やり切れない気分。
うまく説明できない。
三階のベランダから飛び降りてみた。
スタントマン顔負けの見事な着地。
少し気がまぎれたけど、それだけ。
銀行強盗もやった。
単独で成功した。
もともと失敗するはずがないのだ。
近所の公園で札束の焚き火をしただけ。
灯油をラッパ飲みした夜もあった。
翌朝、ひどい二日酔になって死ぬかと思った。
でも、昼になると空腹を感じてしまう。
つまり、健康なのだ。
なんの問題もない。
ちょっとさびしいだけ。
自由に束縛されているだけ。
なんでもいいけど
何かしていなけれぱどうしようもない。
絵を描いた。
詩も書いてみた。
でも、鑑賞してくれる人はいない。
ひとりもいない。
そう。
いないのだ。
ここにはもう、誰も。
2013/05/04
未開の土地に小さな部族があった。
貧しい部族ではあったが
唯一、古くから伝わる宝があった。
「犀の角」という名の笛である。
犀の角の形をした縦笛。
大昔、天から降りたと伝えられている。
これを吹くことを許されているのは
部族の中でも選ばれた者。
長となるよう定められた男だけである。
しかも、この笛を一度吹いたら
もう二度と吹いてはならないのだ。
正しくは、一度吹いたら
もう二度と吹けなくなるらしい。
その理由は謎とされている。
満月の晩、老いた長は皆を呼び集めた。
そして、集まった皆の前で
ある若者に犀の角を手渡した。
長は草原の上に浮かぷ月を指さし、
行け、と若者に合図をした。
若者はうなずき、
草原の向こうへ消えた。
季節が流れ、
やがて若者は戻ってきた。
ただし、もう彼は
ただの若者ではなかった。
この部族の長なのであった。
2013/05/03
あなたの肌に
わたしの針と糸で
刺繍をほどこすとしたら
どんな絵柄が
ふさわしいでしょう?
白っぽいうす色の糸では
きっと赤く染まってしまいますね。
すぐに
臙脂えんじにかわり
そのうち汚れて
なんともいやな色になりそう。
だったらはじめから
黒い糸で縫いましょう。
わたしの髪のように黒い糸。
わたしの心のように黒い糸。
あなたが死ぬまで悔やむように
黒い黒いわたしの
かなしげな笑顔はいかが?
2013/05/03
笛や太鼓が 鳴りやまぬ
祭囃子の にぎやかさ
火の粉 闇を焦がそうが
どうもならん
若い衆 いかに踊れど
なんもなりゃせん
かわいい娘っ子
山神様への 生贄じゃ
なんのために
生まれてきたんじゃろ
あげな器量よしで
皆に好かれとるに
なして あの若さで
いかにゃならんかの
きれいなベべ着て
皆に 恩ば着せて
いいのかの わしら
のうのうとしておって
あの世は この世
この世は あの世じゃろが
ほれほれ
山神様の お通りじゃ
娘っ子は 捕まるぞい
2013/05/01
大空を飛べる翼が
欲しい
と、君は言う。
そりゃ
僕だって
欲しくなる時はあるよ。
もっと自由になりたくてさ。
でもね、
それが
逃げるための翼なら
僕はいらない。
辛くなったり、
苦しくなったり、
もうどうにも
やり切れなくなったら
さすがに僕だって
欲しくなるだろうけど、
それでも
やっぱり僕はいらない。
だって
たとえ
どんなに空が広かろうと
また
どんなに空が明るかろうと、
このどっしりとした地面
この緑豊かな大地
こんな大切なものを
見限ってまで
生きていたくはないもの。
2013/04/30
やらねばならないのに
やれない時がある。
してはならないのに
してしまう時もある。
そういう時が
殺し屋にも
たまにはある。
あいつを殺さなければならなかった。
生かしておく事は許されない。
選択の余地などなかったのだ。
なのに俺は
どうしても殺せなかった。
殺さなければ逆に殺される。
死ぬ覚悟などできていない。
なのに俺は
あいつだけは殺せなかった。
理由はわからない。
ところがだ。
今でも俺は
こうして息をしている。
そう。
あいつ、勝手に死んでしまったのだ。
あいつの最期の笑み、
あれはなんだったのだろう。
そう。
あいつも殺し屋だった。
俺なんかとても敵わないくらい
凄腕の殺し屋だった。