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Tome館長

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  • 理想の鏡

    どこか誰も知らないところに
    理想の鏡があるという。

    理想の鏡はふたつあり、
    「異性の鏡」と「同性の鏡」があるという。


    「異性の鏡」の前に立てば、異性の姿が映る。
    あなた自身のはずなのに、なぜか異性の姿。

    しかも、あなたにとって理想の異性。

    あなたは鏡に映る異性に恋をする。
    なぜなら、まさしく理想の異性なのだから。

    あなたが微笑めば、鏡の中の異性も微笑む。
    あなたが服を脱げば、鏡の異性も服を脱ぐ。

    あなたがすることは
    鏡の異性も真似をする。

    この鏡の前で死ぬ者は
    とても幸福な人に違いない。


    「同性の鏡」の場合、同性の姿が映る。
    やはり、あなたにとって理想の同性。

    しかし、この鏡は見ない方がいい。

    この鏡の前で死ぬ者は
    とても不幸な人に違いない。
     

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  • けだるさのこもれる

    2013/07/25

    怖い話

    けだるくて
    何もする気になれない。

    起きたくない。
    外に出たくない。

    本も読みたくない。
    夢だって見たくない。


    そう言えば
    食欲もないな。

    最後に食べたのは
    どれくらい前だっけ?

    去年の夏から
    まったく食べてない気がする。

    すると、常識的に考えて
    生きていられるはずがない。


    それはまあ
    そうなのだが

    それを確かめるのも
    なんだかとっても

    億劫だ。
     

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  • 若い男

    2013/07/23

    怖い話

    おれは歩き続けていた。

    やっと自動販売機が見つかった。
    そのすぐ横に若い男がひとり立っていた。

    黒いサングラスをかけ、その口もとに
    不愉快な薄笑いを浮かべている。

    おれは自販機にコインを入れるのをやめ、
    おもむろに男を殴り倒してやった。

    そいつは地面にひっくり返ったまま
    おれを見上げ、まだ薄笑いを続けている。

    気持ち悪い奴だ。

    こんな野郎にかまっていられない。
    おれは再び歩き始めた。


    やっと新しい自販機が見つかった。

    そのすぐ横には、黒いサングラスをかけ、
    不愉快な薄笑いを口もとに浮かべ、

    若い男がふたり立っていた。
     

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  • 闇 女

    2013/07/21

    怖い話

    これは、私の友人の話。

    その友人が暗い部屋にひとりでいる。
    すると、音もなく女が部屋に侵入してくる。

    普通の女ではない。
    扉は閉まったままなのだ。

    友人は、この女を闇女と呼んでいた。
    闇に潜んでいると考えたのだ。

    闇女は長椅子に横たわる友人を見下ろす。

    暗くて見えないはずなのに 
    見下ろされているのがわかるそうだ。

    やがて闇女は友人の上に覆いかぶさる。

    闇女は裸だ。
    友人も裸にされてしまう。

    友人は信じられないような経験をする。

    汗とよだれを垂れ流し 
    牛のようにうめき続ける。

    本当に死にそうだった、と友人。
    いつか闇女に殺されてしまうだろう、とも。


    それは友人の孤独な妄想だと思っていた。

    ところが発見された時 
    友人は長椅子の上で死んでいた。

    部屋は内鍵が掛けてあり、密室なのだった。
     

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  • 社の石段

    2013/07/19

    変な話

    山の上に古びた社があった。

    長くて急な石段があるため
    訪れる者は減多にいないのだった。


    それは、ある朝のこと。

    猫が石段を上っていった。
    少女も石段を上っていった。
    浮浪者も石段を上っていった。
    坊主も石段を上っていった。


    やがて、その日のタ方。

    ヒゲを抜かれた猫が石段を下りてきた。
    服を破られた少女も石段を下りてきた。
    血まみれの浮浪者も石段を下りてきた。

    それで終わり。


    もう誰も石段を下りてこないのだった。
     

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  • ミズタマリ

    ミズタマリ ハ キライ


    イジワル バカリ スル コドモ ミタイ デ

    オイテキボリ ニ サレタ コドモ ミタイ デ

    イツマデモ ナキヤマナイ コドモ ミタイ デ
     

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    • Tome館長

      2014/04/20 19:43

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2013/07/18 10:52

      「しゃべりたいむ・・・」かおりさんが朗読してくださいました!

  • 空の向こう

    2013/07/17

    明るい詩

    手の届かぬ世界がある

      ということ


    それは
     哀しみばかりでなく

       時には
        救いにもなる

          ということ


    子どもみたいに
     思いっきり

       両手を空へ
        伸ばしてみる
     

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    • Tome館長

      2015/03/01 19:41

      「さとる文庫 2号館」もぐらさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2014/04/19 11:28

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • もみじ

    2013/07/16

    切ない話

    「もみじ」という名の喫茶店があった。

    店内の壁に額縁が飾ってあった。
    ありふれた水彩の風景画だった。

    その絵は毎週土曜日になると変わった。
    近所の貧乏画家が差し替えるのだ。

    一枚で一週間、コーヒーが飲める。
    それが店主と画家との約束なのであった。

    「そのうち、もっと価値が出るよ」
    コーヒーを飲みながら画家は笑った。


    ある土曜日、画家は来なかった。

    「とうとう絵が売れたのかな」
    なじみの客がそう呟いた。

    店主はちょっと首をかしげた。


    日曜日は喫茶店の定休日だった。


    「あいつ、死んだんだって」
    月曜日、なじみの客が店主に伝えた。

    「交通事故で、土曜日に」


    店主は壁の額縁を見上げた。
    それは先週の絵と違っていた。

    まっ赤なもみじの絵だった。
     

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    • Tome館長

      2014/04/18 16:11

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2013/09/30 23:15

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • 画家とモデル

    2013/07/14

    愉快な話

    画家の前にモデルが立っている。

    いわゆる美女である。
    そして、全裸だ。

    なにやら悩ましげなポーズをとっている

    うらやましい状況だが
    画家は裸婦を描きたいわけではない。

    着衣のモデルでは
    ふたりの関係を妻に疑われるからだ。

    じつは彼女、画家の恋人でもある。
    というか、恋人だからモデルなのだ。

    そういうわけなので
    妻が帰宅すると急いで脱がせたりする。


    さて、それはともかく
    画家というのは不思議な職業である。

    モデルからどんな魅力を引き出せるか。
    それをいかにキャンバスに定着するか。

    そんなどうでもいい問題で悩んでいる。

    これで喰っていけるのだから
    なかなか大したものだ。


    さて、そうこうするうちに
    とうとう絵が完成した。

    モデルに見せる。

    彼女、首をかしげる。
    なかなか魅力的なポーズ。

    「この絵の私、どうして服を着ているの?」
     

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  • 密 室

    2013/07/12

    ひどい話

    殺人事件が発生した。

    殺されたのは憶病な富豪。
    現場は完全な密室であった。

    窓はなく、地下深く、
    幾重もの金属とセラッミックスの扉。

    すべて内鍵が掛けられてあった。

    壁は厚く、隙間もなかった。
    通気口すらない。


    自殺でも事故でもなかった。

    死因は酸素欠乏。
    あまりにも完全な密室だったのだ。


    酸素供給システムもない。
    ひたすら丈夫なだけ。

    殺意のあった核シェルター。


    ただし、誰も捜査に来ないけど。
     

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    • Tome館長

      2014/04/16 16:44

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2014/03/10 23:02

      「ゆっくり生きる」はるさんが動画にしてくださいました!

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