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2013/07/26
どこか誰も知らないところに
理想の鏡があるという。
理想の鏡はふたつあり、
「異性の鏡」と「同性の鏡」があるという。
「異性の鏡」の前に立てば、異性の姿が映る。
あなた自身のはずなのに、なぜか異性の姿。
しかも、あなたにとって理想の異性。
あなたは鏡に映る異性に恋をする。
なぜなら、まさしく理想の異性なのだから。
あなたが微笑めば、鏡の中の異性も微笑む。
あなたが服を脱げば、鏡の異性も服を脱ぐ。
あなたがすることは
鏡の異性も真似をする。
この鏡の前で死ぬ者は
とても幸福な人に違いない。
「同性の鏡」の場合、同性の姿が映る。
やはり、あなたにとって理想の同性。
しかし、この鏡は見ない方がいい。
この鏡の前で死ぬ者は
とても不幸な人に違いない。
2013/07/25
けだるくて
何もする気になれない。
起きたくない。
外に出たくない。
本も読みたくない。
夢だって見たくない。
そう言えば
食欲もないな。
最後に食べたのは
どれくらい前だっけ?
去年の夏から
まったく食べてない気がする。
すると、常識的に考えて
生きていられるはずがない。
それはまあ
そうなのだが
それを確かめるのも
なんだかとっても
億劫だ。
2013/07/23
おれは歩き続けていた。
やっと自動販売機が見つかった。
そのすぐ横に若い男がひとり立っていた。
黒いサングラスをかけ、その口もとに
不愉快な薄笑いを浮かべている。
おれは自販機にコインを入れるのをやめ、
おもむろに男を殴り倒してやった。
そいつは地面にひっくり返ったまま
おれを見上げ、まだ薄笑いを続けている。
気持ち悪い奴だ。
こんな野郎にかまっていられない。
おれは再び歩き始めた。
やっと新しい自販機が見つかった。
そのすぐ横には、黒いサングラスをかけ、
不愉快な薄笑いを口もとに浮かべ、
若い男がふたり立っていた。
2013/07/21
これは、私の友人の話。
その友人が暗い部屋にひとりでいる。
すると、音もなく女が部屋に侵入してくる。
普通の女ではない。
扉は閉まったままなのだ。
友人は、この女を闇女と呼んでいた。
闇に潜んでいると考えたのだ。
闇女は長椅子に横たわる友人を見下ろす。
暗くて見えないはずなのに
見下ろされているのがわかるそうだ。
やがて闇女は友人の上に覆いかぶさる。
闇女は裸だ。
友人も裸にされてしまう。
友人は信じられないような経験をする。
汗とよだれを垂れ流し
牛のようにうめき続ける。
本当に死にそうだった、と友人。
いつか闇女に殺されてしまうだろう、とも。
それは友人の孤独な妄想だと思っていた。
ところが発見された時
友人は長椅子の上で死んでいた。
部屋は内鍵が掛けてあり、密室なのだった。
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2013/07/19
山の上に古びた社があった。
長くて急な石段があるため
訪れる者は減多にいないのだった。
それは、ある朝のこと。
猫が石段を上っていった。
少女も石段を上っていった。
浮浪者も石段を上っていった。
坊主も石段を上っていった。
やがて、その日のタ方。
ヒゲを抜かれた猫が石段を下りてきた。
服を破られた少女も石段を下りてきた。
血まみれの浮浪者も石段を下りてきた。
それで終わり。
もう誰も石段を下りてこないのだった。
2013/07/18
ミズタマリ ハ キライ
イジワル バカリ スル コドモ ミタイ デ
オイテキボリ ニ サレタ コドモ ミタイ デ
イツマデモ ナキヤマナイ コドモ ミタイ デ
2013/07/17
手の届かぬ世界がある
ということ
それは
哀しみばかりでなく
時には
救いにもなる
ということ
子どもみたいに
思いっきり
両手を空へ
伸ばしてみる
2013/07/16
「もみじ」という名の喫茶店があった。
店内の壁に額縁が飾ってあった。
ありふれた水彩の風景画だった。
その絵は毎週土曜日になると変わった。
近所の貧乏画家が差し替えるのだ。
一枚で一週間、コーヒーが飲める。
それが店主と画家との約束なのであった。
「そのうち、もっと価値が出るよ」
コーヒーを飲みながら画家は笑った。
ある土曜日、画家は来なかった。
「とうとう絵が売れたのかな」
なじみの客がそう呟いた。
店主はちょっと首をかしげた。
日曜日は喫茶店の定休日だった。
「あいつ、死んだんだって」
月曜日、なじみの客が店主に伝えた。
「交通事故で、土曜日に」
店主は壁の額縁を見上げた。
それは先週の絵と違っていた。
まっ赤なもみじの絵だった。
2013/07/14
画家の前にモデルが立っている。
いわゆる美女である。
そして、全裸だ。
なにやら悩ましげなポーズをとっている
うらやましい状況だが
画家は裸婦を描きたいわけではない。
着衣のモデルでは
ふたりの関係を妻に疑われるからだ。
じつは彼女、画家の恋人でもある。
というか、恋人だからモデルなのだ。
そういうわけなので
妻が帰宅すると急いで脱がせたりする。
さて、それはともかく
画家というのは不思議な職業である。
モデルからどんな魅力を引き出せるか。
それをいかにキャンバスに定着するか。
そんなどうでもいい問題で悩んでいる。
これで喰っていけるのだから
なかなか大したものだ。
さて、そうこうするうちに
とうとう絵が完成した。
モデルに見せる。
彼女、首をかしげる。
なかなか魅力的なポーズ。
「この絵の私、どうして服を着ているの?」
2013/07/12
殺人事件が発生した。
殺されたのは憶病な富豪。
現場は完全な密室であった。
窓はなく、地下深く、
幾重もの金属とセラッミックスの扉。
すべて内鍵が掛けられてあった。
壁は厚く、隙間もなかった。
通気口すらない。
自殺でも事故でもなかった。
死因は酸素欠乏。
あまりにも完全な密室だったのだ。
酸素供給システムもない。
ひたすら丈夫なだけ。
殺意のあった核シェルター。
ただし、誰も捜査に来ないけど。