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  • 免罪の鏡

    2013/08/30

    ひどい話

    その鏡を見ると罪が許される、と言う。
    これまでのすべての罪が許される、と。

    そんな免罪の鏡を手に入れた。

    でも、自分で見るのは怖い。
    まず死刑囚に見せることにした。

    選ばれたのは極悪非道の人非人。

    暴行、詐欺、強盗、誘拐、殺人、テロ、
    悪いことならなんでもやってる。

    しかも、まるで反省の色がない。

    こんな男を誰が許せよう。
    たとえ神様であろうと許せまい。

    さっそく免罪の鏡を見せてみた。

    すると男は突然、狂っだように叫び、
    看守を殴り倒し、私に跳びかかってきた。

    あえなく私は床に倒された。
    男は、もの凄い力で私の首を絞める。

    わけがわからない。
    ただただ苦しいだけだ。

    死刑囚は右手で私の首を絞めながら
    左手で私に鏡を見せるのだった。

    そこには偽らざる私自身が映っていた。
    その罪業のあまりに深きこと。


    (彼の罪を許そう)

    私は、薄れゆく意識の中で
    そう思った。
     

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  • 古い鉱山

    2013/08/28

    暗い詩

    古い鉱山を掘っている。


    廃坑の噂もあるが、とんでもない。

    そこそこ貴重品が出てくるのだから
    まだまだ見捨てるのは惜しい。


    幽霊の先祖らしき化石だとか
    先史時代のタイムカプセルだとか
    ダイヤモンドより硬い豆腐の角だとか

    とにかく
    なんでもありだ。


    もう落盤なんか関係ない。

    出口が塞がろうが
    坑道が崩れようが

    そんなことはどうでもいい。


    気晴らしに有毒ガスを吸い込み
    岩盤を削り、発破をかけ

    どこまでも、どこまでも
    掘り進むのみだ。
     

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  • かもしれない

    2013/08/27

    暗い詩

     あなたであったかもしれない私 

    拉致監禁暴行致死死体遺棄事件の 
    被害者であったかもしれない私 


     あなたであったかもしれない私 

    拉致監禁暴行致死死体遺棄事件の 
    加害者であったかもしれない私 


     私であるかもしれないあなた 

    拉致監禁暴行致死死体遺棄事件の 
    記事を読んでいるかもしれないあなた
     

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  • 赤いハイヒール

    故郷の山道をひとり歩いていた。

    お盆休みで実家に帰省中、
    なんとなく山に登りたくなったのだ。


    念仏のようなセミの声、
    汗と木漏れ日と草いきれ。

    少年の頃の遠い記憶が重なる。


    甘酸っぱい香りがした。

    急な坂道の真ん中、
    目の前に若い女が倒れていた。

    白い夏服、小麦色の肌、
    そして赤いハイヒール。


    「なんでもないの」

    死体ではなかった。
    僕の足音に気づいたのだろう。

    「歩き疲れたから休んでいるだけ」

    あどけない声だった。

    かすかに薄目を開けたが
    そのまま力尽きて閉じてしまった。

    なんとも美しく、また
    なんとも不思議な寝顔だった。


    僕はひざまずき、
    そっと彼女のハイヒールに触れてみた。

    「山道を歩くなら、裸足がいいよ」
     

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  • さすらい

    2013/08/22

    空しい詩

    昨日の夢は忘れ 
    明日の道は見えない。


    「風よ 風
     教えておくれ」


    ただ 今日の風に吹かれ 

    落葉さながら 
    さすらうばかりなり。
     

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    • Tome館長

      2014/11/15 10:11

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2013/08/24 14:06

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • 森のボート

    2013/08/20

    怖い話

    短大を卒業したばかりの仲良し三人娘。

    列車に乗り、バスに揺られ、旅館に泊まり、
    そこから歩いて山奥までやってきた。

    「やっぱり空気がうまいね」
    「さっきの清水もおいしいしかった」
    「もう最高!」

    元気いっぱいである。

    「でも、なんか出てきそうね」
    「あっ、空飛ぷ円盤だ!」
    「あはは、まさか」

    にぎやかに山道を上ってゆく。
    一本道は大きな森を左右に分けていた。

    「ちょっと待ってよ」
    ひとりが山道をはずれ、森に入ってゆく。

    「あっ、またオシッコだな」
    「あたしもする」
    「しょうがないな。それじゃ私も」

    で、三人とも森の茂みに分け入った。

    そこで偶然、それを見つけたのだ。
    青く塗装された小型ボート。

    船底を上にしてひっくり返っていた。

    「うわあ、不思議」

    「どうしてこんなところにあるの?」
    「きっと誰かが捨てたんだよ」

    「誰が?」
    「私にわかるはずないじゃん」

    廃品とは思えなかった。

    どこも傷んでないように見える。
    木漏れ日を反射して、まるで新品のよう。

    「わあ、揺れる」
    ひとりがボートの竜骨の上に乗った。

    「あっ、向こうになんか見えるよ」
    それは鏡のように光る水面なのだった。

    こうして偶然に池が見つかった。
    森の中にしてはちょっとした池である。

    コンパスで線を引いたように丸い。

    水は澄んでいるが、水草が茂っているため
    ほとんど池の底は見えない。

    深いところはかなり深そうだ。

    「うわあ、すてき!」
    「伝説の池みたい」
    「なかなか神秘的じゃないの」

    三人娘は大喜び。
    「あのボート、浮かべてみようよ」

    誰も反対しない。

    距離はあったが、三人は苦労して
    なんとかボートを池まで運んでしまう。

    きっと森の空気がそうさせたのだろう。
    さっそく池にボートを浮かべてみる。

    大丈夫みたいだ。
    水漏れの心配はなさそうである。

    ただし、一人しか乗れそうもない。

    「私が乗ってみる」
    最初にボートを発見した娘だ。

    オールがないので、適当な木の枝を
    竿代わりにしてボートに乗り込んだ。

    「ちょっと怖いな」
    「気をつけてね」
    「無理しないでよ」

    どうやら沈没する気配はない。

    竿の端を岸のひとりに握ってもらい、
    そのまま少しだけ岸から離れてみた。

    「やったあ!」
    「よし、次は私よ、私」

    次に乗った娘は、竿で池の底を押し、
    もっと岸から離れてみせた。

    「へへへ、楽しいなあ」
    「早く早く。次はあたしが乗るんだから」

    最後は池を最初に発見した娘。
    思い切って池の真ん中まで進んでいった。

    「あつ」
    油断して、竿を手放してしまった。

    「なにしてるの。早く拾うのよ」
    岸に残るふたりが騒ぐ。

    ボートの娘があわてて竿に手を伸ばした。

    ところが、竿は水中に沈んでしまい、
    水草に隠れたまま浮かんでこない。

    突然、池の真ん中でボートがまわり始めた。
    ボートの上で一緒に娘もまわる。

    池の水は渦巻いて、水面の中央が凹み、
    見る見る巨大なすり鉢の形になった。

    「助けて!」

    娘を乗せたボートは、渦に巻き込まれ、

    娘の悲鳴と一緒に、あっという間に
    すり鉢の底に沈んでしまった。

    そのまま池の水は急速に減っていった。
    渦巻の底はそのまま池の底になった。

    まるで隕石が落ちたクレーターみたい。
    その真ん中に穴があいていた。

    池の水は全部、娘とボートもろとも
    この穴から流れ落ちてしまったらしい。

    それっきりである。

    置き去りにされたふたりの娘は
    ほとんど反狂乱になって麓に辿り着き、
    地元の駐在を連れて森に戻ってきた。

    けれども、あの池は見つからなかった。
    いくら探しても、ありふれた森でしかない。

    ただし、ボートが置いてあった跡だけは
    地面の上にしっかりと残っていた。

    でも、それだけ。
    どうしようもない。

    あの消えた娘は
    今でも行方不明のままである。
     

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  • 流 木

    2013/08/18

    空しい詩

    流木がある。

    流木には色があり
    形がある。


    現在があり
    過去があり

    おそらく未来はない。


    その朽ち果てた姿を嘆く者もいれば
    完結した生涯の美しさを愛でる者もいる。


    流木を集めて
    浜で焚火をすれば

    どんな形の炎が踊り
    どんな色の煙が昇るのか


    黙ってすわって

    じっと見つめていたい
    気もする。
     

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    • Tome館長

      2014/05/07 13:50

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2013/08/18 20:40

      「さとる文庫 2号館」もぐらさんが朗読してくださいました!

  • メイドのくせに女王様

    2013/08/16

    愉快な話

    ご主人様の命令で
     あなたに汚い言葉を使います。


    ひざまずいて
     私の靴をお舐め !

        このブタ野郎 !!
     

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  • 約束の地

    2013/08/14

    変な話

    溝員電車を降りてから満員バスに乗った。

    途中、改札口やバス停があったはずだが
    なぜか記憶に残っていない。

    どちらの乗り物でも薄着の美女たちに挟まれて
    得した気分になった事だけは憶えている。

    気がつくとバスは満員でなくなっていた。

    「次は『七曲がり入口』です」

    その車内アナウンスがあった時はすでに
    バスの乗客は私ひとりだけになっていた。

    こんなはずはない、と思った。
    こんな時間に、こんなに空くはずがない。

    違う路線バスに乗ってしまったのではないか。

    空席しかないのに立っていたのだが
    揺れる床を歩いて、運転手の横へ移動した。

    「あの、すみません」
    「はい、なんですか?」

    「このバスはどこ行きですか?」
    「『辻』行きです」

    やはり違う路線であった。
    大変な失敗だ。降りなければならない。

    「次のバス停までどのくらいですか?」
    「早ければ日が暮れる前に着くかな」

    とんでもない話だ。

    「途中ですけど降ろしてもらえませんか?」

    運転手の眉間にしわが寄った。
    「降ろせるけど、戻りのバス停もないよ」

    なるほど、それも困る。

    次の『七曲がり入口』で降車して
    戻りのバス停でバスを待つしかないらしい。

    揺れる床に呆然と立ちつくす。

    すると、不意にバスは停車してドアが開き、
    録音再生の車内アナウンスが流れた。

    「『辻』です。終点です」
    開いた口を閉めようがなかった。

    (終点だって?
     『七曲がり入口』は?)

    まるでわけがわからない。
    もう運転手の姿は消えていた。

    乗客よりも先に降りてしまったらしい。

    昇降口から暗い地面に降り立つ。
    もうすっかり日は暮れていた。

    早く戻らなければ大変なことになる。

    あの運転手ではない運転手を見つけた。
    制服と帽子があの運転手と同じなのだ。

    「戻りのバスは、いつ出ますか?」
    「今日はもうないよ。おしまいだよ」

    ほとんど街灯がないという理由だけでなく
    目の前が真っ暗になった。

    バス停前の暗くさびしい広場の中央で
    私はコマのようにクルクルとまわる。

    「よう、遅かったな」

    それは意外な声、意外な顔だった。
    今日、待ち合わせていたうちの一人。

    「みんな、待ってだぞ」
    同じく待ち合わせていた人たちの顔があった。

    信じられなかった。

    あのバスの運転手か私かどちらか
    狂ってしまったとしか思えなかった。

    私は尋ねずにいられなかった。
    「ここはいったい、どこなんだ?」

    すると、知人たちはみんな妙な顔をした。
    親しかった一人が教えてくれた。

    「ここは・・・・」

    約束していた地名と同じであった。

    ただし、その地名はなぜか
    聞くとすぐに忘れてしまうのだった。
     

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  • ふたりの侍

    2013/08/11

    ひどい話

    ふたりの侍が街道で出会った。

    「お主。できるな」
    「できる。貴様こそ」

    ともに刀を抜いた。 

    「斬らねばならぬ」
    「斬れるものならば」

    じりじり詰まる間合い。

    「毛ほどの隙もない」
    「まさに修行の賜物」

    同時に抜身を鞘におさめた。

    「お互い、命拾いでござるな」
    「うむ。再び会うまでわあああ」

    「わあああああ」

    不意に暴れ馬があらわれ、
    どちらの侍も蹴られて絶命した。
     

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