1万8000人の登録クリエイターからお気に入りの作家を検索することができます。
2013/08/10
祝福の鐘の音は
天高く
しめやかに生まれ
大地を包み
華やかに降り注ぐ
時が止まり
迷いは消え
すべてが明らかになる
そこに苦しみはない
そこに悲しみもない
輝ける笑顔と
豊穣の未来と
約束された地へと続く
一本の
白い
白い道
2013/08/09
2013/08/08
寒い夜が明けると、湖はすっかり凍りつき、
その上をどこまでも渡れるようになった。
とても澄んだ水の湖なので
氷になっても底まで透けて見える。
魚は勿論、色々な生き物が標本のように固まっている。
カバやワニ。
ぶざまな姿の河童。
絶滅したはずの恐竜。
UFOらしきものまで見える。
ということは、これは夢かもしれない。
まるでその証拠であるかのように
軽やかに滑る私のスケート靴の刃の跡をなぞりながら
凍った湖面の氷上に
いやらしい亀裂が止めどなく幾本も走る。
(ああ、追いつかれる!)
そういえば、もう季節はすっかり春なのだ。
2013/08/07
真夜中に
うっかり寝ぼけてしまって
合わせ鏡の長い廊下を
どんどん どんどん
歩いて 歩いて
奥の奥の その先の奥まで
行ってしまって
そこで
なんだか疲れてしまって
その場に寝転んで
すっかり眠ってしまって
そのまま
帰れなくなってしまった
みたいな
みたいな
みたいな私
2013/08/06
午前1時、
シンデレラも家に着いた頃。
明日も早いから
すぐに眠らなくちゃ。
でも、眠れない。
だって、
ガラスの靴
置いてくるの
忘れちゃったから。
2013/08/05
ある山に猟師がいた。
弓の名人であった。
狙った獲物は逃さない。
どんなに高く飛ぶ鳥であろうと、
どんなに速く駆ける獣であろうと。
畜生どもには伝わるらしい。
猟師が狙えば鳥は落ちてくる。
猟師が射る前に獣は倒れてしまう。
弓矢などいらないのだった。
ある日、この猟師が山を下り、
町で出会った娘に一目惚れした。
さすが弓の名人。
町一番の長者の箱入り娘を
さっそく身ごもらせてしまった。
娘のからだに触れもせず。
2013/08/03
根も茎も
葉も芽もあれど
花はただ
花として花
虫が寄ろうが
寄るまいが
花ゆえに
咲き
花ゆえに
散る
2013/08/01
寝静まった夜の町をひとり歩いていると
少しずつ不安になってくる。
大人だから幽霊なんぞ怖くない。
野良犬が寄ってきて、死んだ親父の顔で
「おまえ、あっちへ行け!」と怒鳴ったら
それはそれで怖いものがあるだろうが、
そんなことは絶対に起こるはずがない。
そう確信できるのが大人なのだ。
大人の不安は外側になく、内側にある。
考え事をしているうちに
正当であると確信できる理由を見つけてしまい、
道端にあったレンガのかけらを拾い上げ、
見ず知らずの家の窓ガラスに投げつける。
そんな犯罪行為をしないとも限らない、
という自分自身の可能性に対する不安なのだ。
悪いことに私は今、拳銃を握っている。
さっきゴミ置場で見つけてしまったのだ。
見つけても拾わなければいいのに
どうしたわけか拾ってしまったのだ。
拾ってもそのまま捨てればいいのに
まだ捨てられずに握っているのだ。
拳銃の引き金を引きたくて引きたくて
人差し指がウズウズしているのがわかる。
何か狙って撃ちたくて撃ちたくて
心臓がバクバク吠えているのもわかる。
これから何をしてしまうかわからない。
あんなこともこんなこともそんなことも
みんな自分自身の可能性のひとつなのだ。
たった今、
よそよそしく寝静まった夜の町でひとり、
銃声を聞いてみたい気がする。
2013/07/30
ここからでは見えないけれど
この霧の向こう側には
何かがあって
誰かがいて
その証拠のように
ときどき物音が聞え、
まるで呼びかけるような
やさしそうな人の声さえ届く。
その声に返事をすればいいのだけれど
相手の表情が霧で見えなくて
つい返事するのをためらってしまい、
ここには誰もいないと信じさせようとして
かくれんぼしているつもりになって
いつまでもいつになっても
この霧のこちら側で
黙ったまま。
2013/07/29
らせん階段をのぼっている。
ぐるぐる目がまわって
げろげろ吐き気がしてくる。
それでも、いつしか階段は終わる。
そこにある扉を開く。
塔の最上階、光がまぷしい。
ベランダから眺める村の風景。
山と森と川、風車と牧場と教会。
おどおど見下ろせば
ぐらぐらめまいする。
高さより怖いものが見えてくる。
すぐ真下の地面に死体がある。
異様な形につぶれている。
それは私の死体に違いない。
なぜなら今、思い出したから。
ここから私は落ちたのだ。
閉めたぱかりの扉を開ける。
らせん階段は消えている。
そこは広く長い橋の上。
ぺたぺた欄干に近寄り、
ふらふら川面を見下ろす。
それが川面なら、これは川だ。
こんな大きな川は知らない。
なにかが川下へ流れてゆく。
死体だ。
しかも私の死体。
ぶくぶく膨らんだ腹を
ぷかぷか浮かべてる。
この橋から私は身を投げたのだ。
そうだ、そうだ、そうだった。
あわてて棚干から離れる私。
よろよろ足がよろけて
ころころ転びそうになる。
足もとに誰かが倒れていたから。
これも死体だ。
これも私。
私は馬車にひかれたのだ。
そうそう、あれは死ぬほど痛かった。
いけない、いけない。
こんな場所から逃げなければ。
けれど、すでに橋は
ぐにゃぐにゃ曲がりながら
ぐにょぐにょらせんを描き始める。