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Tome館長

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  • 背中のナイフ

    わしの背中にナイフが刺さっている。

    このわしになんの断りもなく、
    いつ、どこで、誰が刺したのやら。

    近頃の、通り魔だかなんだか知らんが
    礼犠というものを知らんのかね。

    まったく迷惑な話だ。
    寝ようとしても、仰向けになれん。

    わしは血も涙もない守銭奴だから
    出血せず、シーツは汚れんのだけどな。


    それにしも、この傷は深いぞ。

    ほら見ろ。
    胸から刃先が出ておる。

    死んだとしても不思議ないぞ。


    なあ、お願いだよ。

    そこの君、このナイフ
    引き抜いてくれんかな。

    おい、なぜだ。
    なぜ逃げようとする。

    そう言えば、まだ君に
    金を貸したままだったかな。

    まさか、君じゃなかろうね。
    わしの背中にナイフを刺したのは。
     

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  • トロッコ

    一台のトロッコに男三人が乗っている。
    そのうちの一人が俺だ。

    目の前の二人は裸で抱き合っている。

    たくましい筋肉。
    日に焼け、汗ばんだ皮膚。

    片方の男と視線が合ってしまう。
    ひどく暑いはずなのに寒気がした。

    「俺に触れるなよ」
    一言注意しておく。

    「もし触れたら?」
    「おまえを刺してやる」

    なぜか手に万年筆を持っていた。
    そして、なぜかキャップが外れない。

    男はニヤリと笑う。
    「いいとも。刺してみな」
     

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  • 仁義なき賭場

    2013/06/25

    変な話

    世間から隔絶された空間において
    仁義なき賭場が始まろうとしている。


    まず、バニーガールが膝をつき、
    板の間に座る若い衆に札が配られる。

    彼らの背後には兄貴風の男たちが立つ。

    ただし、この兄貴風の男たちの顔は
    灰色の暖簾に隠されて見えない。

    いかにも高そうな背広を着ていながら
    その下半身はなぜか裸だ。

    また、片手に縫い針の凶器を持っている。

    すぐ隣に立つ男の股問に突き刺せる姿勢で
    博打をする若い衆を囲んでいる。

    いかさま行為や勝負の行方によっては
    血が流されるであろう事が推測され、

    義兄弟の強い絆を感じさせる。


    「よござんすか。よござんすね」
    と、壺振り師。

    「入ります」
    そして、賽は振られた。

    「丁」「半」「丁」「丁」「半」「丁」「丁」


    はて、最初に配られた札、
    あれはいったいなんだったのだろう?
     

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  • 行くところがない

    2013/06/23

    切ない話

    ホント
    どこへも行くところがない。


    森はとんでもないところだし、

    かと言って、池や沼では
    いくらなんでもあんまりだ。


    海にも山にも飽き飽きで
    バスも電車も乗る気になれない。

    砂漠やジャングル、こりごりで
    隣町さえ蜃気楼。

    よその星は遠くて億劫。

    せいぜい近所の公園でも
    散歩するだけ。


    恋人いないし、
    友だちは仕事と家庭で忙しい。

    遊べない友だちなんか
    もう友だちじゃない。


    退屈のあまり、居眠りすれば
    暗い顔の少年、放火する。

    メラメラ
    メラメラ

    炎に囲まれ、立ちつくす。


    ほらね。

    やっぱり、どこへも
    どこへも

    行くところがない。
     

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  • 読書する少女

    2013/06/22

    愛しい詩

    美しい横顔、
    ゆるやかな姿勢。

    風にそよぐ長い髪。

    額から鼻先へと続く
    知的なライン。

    やさしい眉と
    真摯なまなざし。

    半分しか見えない唇が
    かすかに動く。


    額縁の肖像画さながらに
    窓辺で読書する少女の姿。

    世界から切り離された
    方形の画面。


    今のあなたには
    鳥の鳴き声も聞こえない。

    あなたを射る男の視線さえ
    感じない。

    ましてや私の心など。


    それほど夢中になって
    読んでいる。

    一冊の本を読んでいる。

    推理、冒険、恋愛、
    それとも物理学?


    いやいや。

    あなたなら
    どんな本でもふさわしい。

    たとえその本が
    いかがわしく

    大層淫らな内容であろうとも。
     

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  • 陶器の犬

    大きな会場である。
    新商品の展示会であろうか。

    コンパニオンが笑顔で説明している。
    「食べるだけで水着が透けます」

    彼女が腕に抱えているのは陶器の犬。
    「さらに、この段階で腰が抜けます」

    画面に表示された折れ線グラフ。

    異国の兵器商人が首をかしげる。
    その折れ曲がったネクタイ。

    「まもなく第三会場が爆発します」
    高い天井から場内放送が響く。

    「なお、場内での浮遊は禁止されております」

    激しい爆音。

    千切れた腕に抱えられたまま
    割れた陶器の犬が吠える。
     

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  • 闘技場

    2013/06/20

    ひどい話

    観衆は血を望んでいる。
    だから闘技場の土は黒い。


    闘いの相手は女であった。

    奇妙な仮面をかぷっている。
    そして、ほとんど裸だ。

    殺すのは惜しいと思った。
    だが、殺されるわけにはいかない。


    開始早々、女の剣を奪う。

    乳房をつかんで放り投げる。
    地面に押し倒し、股を裂く。

    弱い。
    あまりにも弱すぎる。

    なぜ観衆は怒らないのだ。


    いやな予感がした。


    女の仮面をはがしてみる。

    やはり、そうであった。
    奴らは知っていたのだ。


    この女が俺の妹だということを。
     

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  • 廃線の駅

    2013/06/19

    怖い話

    ここは山の中。
    とうの昔に廃線となった駅。

    今は草木が茂り、錆びたレールを隠している。

    さきほど汽笛が聞こえたような気がしたが
    おそらく空耳であろう。

    脱線事故やら人身事故が頻発し、
    それら諸事情により使われなくなって久しい。


    もともとは炭鉱のための線路であった。
    草木に埋もれる前に時代に埋もれてしまったわけだ。


    駅のホームから下の線路に降りてみる。
    おそるおそる茂みを掻き分けて歩く。

    すぐにレールを見つけることができた。
    意外に原型を留めている。

    そんなに錆びてもいない。
    まるで、つい最近、列車が通過したような・・・・


    ふと、このレールの上に石ころを載せてみたくなった。

    今、石ころを載せたため、昔、脱線事故が起きた。
    歪んだ時空を運行する四次元鉄道。

    そんな想像をしてみたのだった。


    再び、汽笛の音を聞いたような気がした。
    それは空耳ではなかった。

    奇妙な鳥の鳴き声なのであった。
     

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  • 打ち明け話

    じつはあたし、人形なんです。

    その証拠に、ほら、肘も膝も球体関節。
    顎なんて、生まれたときから外れてるわ。

    背中には扉があって
    おなかには引き出しまであるの。

    頭の中は恥ずかしいもので一杯で
    ときどきこぼれちゃって困っちゃう。

    お洋服はたくさんあるけど
    和服だって少しはあるわ。

    でも、ひとりでは外を歩けなくて

    お付のものに両の足首を持ってもらって
    交互に動かして一歩一歩前に進みます。

    はらわたはないから
    なんにも食べなくていいし、

    なんにも食べないから
    トイレにも行かなくてもいいわけ。

    勉強なんかできなくても
    顔がきれいなら許されるの。

    動かなくても働かなくても
    可愛らしくしていればそれでよいの。

    ねっ?

    人形の生活も
    まんざら悪くないでしょ?
     

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    • Tome館長

      2014/03/27 15:08

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2013/06/17 17:47

      「しゃべりたいむ・・・」かおりさんが朗読してくださいました!

  • 手袋と靴下

    2013/06/16

    切ない話

    二階の窓から手袋を落としてしまった。
    見下ろすと、一階の庇の上に載っていた。

    運がいい。
    まだ諦めるのは早い。

    窓から身を乗り出して、手を伸ばす。
    指先に当たり、手袋は下に落ちてしまった。

    さすがに諦めなければ。


    庇のすぐ下は水面だった。
    洪水なのだ。

    クラゲが浮かんでいるのが見える。

    川の氾濫ではない。
    海が氾濫したのだ。


    庇の上には他にも載っていた。
    ねじれた形の黒い靴下。

    いつ落としたのか心当たりもない。
    それでも拾うつもりで手を伸ばした。

    ところが、黒い靴下は逃げてしまった。
    というか八方に散ってしまった。

    それは黒い靴下ではなかったのだ。
    無数の蟻が靴下の形に群がっていたのだ。

    みんな苦労しているんだな、と思った。


    窓から上体を引き上げ、腰を伸ばす。
    はるか遠い水平線を眺める。

    昔、あれは地平線だったのだ。


    あそこまで裸足で歩いて行けたのに。

    なんでも素手で触れることさえできたのに。
     

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