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Tome館長

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  • 水着の周辺

    大きな島だ。
    半島かもしれない。

    すぐ近くで一組の家族が遊んでいる。
    ビーチボールを使っているようである。

    なぜか視界が限定されているため
    ここからでは家族の姿を見ることができない。

    にぎやかな笑い声だけが聞こえてくる。


    やがて、少年と少女が目の前に現れる。
    兄と妹だろうか。

    よく似ている。
    双子かもしれない。

    これから水着に着替えるつもりだ。

    ふたりは、互いに裸を見られないよう
    互いに白い肌を茂みに隠そうとしている。

    でも、ふたりの姿はここから丸見えだし、
    ふたりがこちらの視線に気づく気配はない。

    それでも、なんとなく気になるのか
    恥ずかしそうに着替えをしている。


    少年は先に着替え終わり、
    先に視界の外へ出てしまった。

    残った少女は
    なかなか着替えが進まない。

    こちらに背中とお尻を向けて、
    かかとが上がったり下がったりする。

    妙に可愛い。
    絵のような愛らしさ。


    でも、そのうち不安になってくる。

    なぜかと言うと、
    少女が裸でいる時間があまりにも長いから。


    ひょっとして彼女、
    こちらの視線に気づいているのだろうか。
     

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  • 星のヘソ

    2013/07/09

    愉快な話

    君たち、頼むから
    無造作に歩かないでくれ。

    どんな星にも必ずはヘソあり、

    その星のヘソがどこにあるか
    誰にもわからないのだから。


    浅瀬や草むら、
    深海の底、山頂の近く、

    あるいは街路樹の根方とか
    どこにあるかまったくわからない。


    うっかり星のヘソを踏んでしまったら
    さあ大変。

    もうおしまい。
    手遅れだ。

    星は大崩壊。

    原形とどめず割れて崩れ、
    分裂して爆発して消滅する。

    ささいなことで、すべてが失われる。

    冗談じゃない。
    まったく愚かな行為だ。

    だから一歩一歩、慎重に進もう。


    おや? 
    そいつは、まさか星のヘソでは。

    待て、やめろ。
    軽率に動くんじゃない。

    あああああ、危ない!
     

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  • 脱ぐ女

    朝の通勤電車の中である。
    ただし、それほど混んではいない。


    「失礼して脱がせていただきます」

    礼儀正しく断りを入れてから
    女はコートを脱ぎ始めた。

    乗客らは怪訝な表情で女を見る。

    女はコートを折り畳むと網棚に置き、
    続いて上着も脱ぐのだった。

    優雅な仕種。
    美しくさえあった。

    よく知らないが、なんとか流の
    脱衣の作法に則っているのかもしれない。

    流れるような無駄のない所作である。

    女は上着も網棚に載せた。
    電車が激しく揺れても自然体のまま。

    それから女は下着も脱ぎ始めた。

    隠されていた卑猥な曲線や曲面が
    乗客らに晒されてゆく。

    さらに靴も靴下も脱いでしまい、
    ついに完全な裸の女になってしまった。


    女は片手を腰に当て
    もう片手で吊革につかまる。

    涼しげな表情で車窓の風景を眺める。

    静かな車内。
    音が消えていた。


    やがて電車は駅のホームに停まった。
    ドアが開き、裸の女は下車した。

    ドアが閉まり、電車は再び動き始めた。
    乗客らは夢から覚めたような気がした。

    だが、その夢はまだ続いていた。
    網棚の上に女の忘れ物が残っていたから。
     

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  • 縫い目

    2013/07/07

    変な話

    じつに裁縫の上手な女だ。

    衣類、寝具、バッグ、ぬいぐるみ・・・・
    彼女はどんなものでも縫える。

    いつも糸と針を持ち歩いている。
    これがなかなか役に立つ。

    服のボタンの修理だけではない。
    裂けた革靴の修理さえできる。

    ストッキングの伝線だって平気。
    刺繍の模様でごまかしてしまう。

    それくらい裁縫が上手なのだ。

    ところで、彼女には悩みがある。
    縫い目が気になってしまうのだ。

    あらゆるものに縫い目が見える。

    いわゆる縫製物だけではない。
    人体にも縫い目が見える、と言う。

    縫い目がほころびかけていたりする。
    それは大変危険な状態なのだそうだ。

    彼女は縫い直しを提案する。

    だが、相手は彼女を拒絶する。
    異常者を見るような目で彼女を見る。

    やがて、相手は入院したり死んだする。
    縫い目が破れてしまったために。


    つい最近、僕は彼女に縫ってもらった。
    僕の縫い目が危ない、と言うので。

    かなりほころびかけていたらしい。
    かかとから頭まで、長い縫い目だった。

    しかも、麻酔をしないで。

    「この痛みに耐えなければいけないのよ」
    そう言いながら彼女は縫ってくれた。

    痛くなかった、と言ったら嘘になる。
    少し泣いちゃったくらいだ。

    それで僕の何がどうなったのか
    僕自身にはわからない。

    じつは、彼女の悩みや能力なんか
    僕は信じていない。

    でも、彼女の気が済んだのなら
    それでいいのだ。

    あいかわらず僕は
    彼女が好きなのだから。
     

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  • 人形使い

    2013/07/06

    切ない話

    狭いながらも会場は満員。
    観客はじっと舞台を見つめている。

    舞台では人形使いが人形を操っている。


    「それにしても、きたない人形だな」
    「ふん。おまえの下着ほどじゃないさ」

    「おれの下着、いつ見たんだ?」
    「ふん。見なくてもわかるさ」

    「比べてみるか?」
    「いいとも」

    「いやいや、やっぱりやめた」
    「どうして?」

    「忘れたんだ」
    「なにを?」

    「下着はいてくるのを」


    くだらない会話ではあるが
    すべて人形使いの腹話術である。

    じつは、人形使いは人形。
    そして、人形が人形使いなのであった。


    まあ、よくある話ではある。

    ところが、この人形使いだけでなく、
    観客もみんな人形なのであった。


    まるで反応というものがない。
    拍手も喝采も、野次さえない。

    人形を愛し、人を愛せぬ
    なんとも悲しい人形の人形使い。
     

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  • 二頭立て馬車

    王女を乗せた二頭立て馬車が止まらない。

    「止めて、止めて! 誰か、助けて!」
    いくら叫べど止まらない。

    縦に馬を二頭並べた王家の馬車。
    先頭が若い雌馬、後ろに若い雄馬。

    この雄馬、やむにやまれず発情している。
    目の前の尻に追いつこうと頑張っている。

    だけど、雌馬は発情する気分じゃない。
    迫り来る雄馬を恐れ、必死に逃げている。

    馬のつなぎ方が悪かった。
    しかし、もう遅い。

    止まらない。
    もう誰にも止められない。

    御者はいない。
    とっくに振り落とされた。

    右も左もわからぬ王女が一人きり。

    幼い王女は失神しそう。
    無理もない。

    二頭立て馬車は悩ましく駆け続ける。
    川越え、山越え、異国に入る。

    しかしながら、はたして性欲と恐怖は
    疲労と空腹に勝ち続けられるものだろうか。


    ついに、二頭立て馬車は止まった。


    さて、雌馬と雄馬、どちらが勝って
    どちらが負けたのか。

    よくわからぬ。
    まだ王女は幼くて。
     

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  • 手 話

    バス停で待っていた。
    もちろん、バスを。

    でも途中で、どうでもよくなってしまった。


    私は双子の姉妹に続いて列に並んでいた。
    それがじつにおかしな姉妹なのだった。

    顔も髪型も服装もそっくりなのは、まあいい。
    なにしろ双子なのだから。

    ふたりは顔を見合わせ、黙ったまま
    せわしなく手を振ったり、首をかしげたりする。

    (狂っているのだろうか?)

    しかし、すぐに私は気づいた。
    彼女たちは手話をしていたのだ。

    見事な技術だ、と感心しながら見ていた。

    見続けていても飽きないのだった。
    もっとも話の内容は全然わからないが・・・・


    時々、彼女たちは笑った。
    普通の女の子のように笑った。

    声を出せないわけでもないのだ。
    おそらく耳に障害でもあるのだろう。

    その笑顔を見ていると飽きなかった。
    時間が止まって欲しいくらいだった。

    バスなんか来なければいい、と思った。


    「なに見てんのよ。さっきからずっと」

    その声は完壁な二重唱だった。
    きれいに並んだ四つの瞳と二つの唇。


    私はあわてて手で喉を押さえ、
    首を大きく横に振った。

    突然、声が出なくなってしまったのだ。
     

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  • 日 記

    2013/07/02

    愉快な話

    今日の日記を書く。

    ほらね。
    また昨日に戻ってしまった。


    不思議。
    理解できない。

    今日は昨日と同じ。
    昨日は今日と同じ。

    夜が明けても明日にならない。
    そっくりな一日の繰り返し。

    もう限界。
    誰か助けて! 


    昨日の日記を読み返す。

    ほらね。
    また同じこと書いてある。
     

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  • 公園の絵描き

    2013/07/01

    変な話

    ある公園に絵描きがいる。

    似顔絵を描くのが彼の商売。
    あんまり絵はうまくない。

    でも、なかなか人気がある。

    他人が見ると似てないのに
    描かれた本人は似てる、と言う。

    実物以上に描くのではない。
    むしろ、実物以下の場合が多い.

    それでも客は感心してくれる。

    子どもを大人に描いたり、
    その逆に描いたりもする。

    猫や犬にしか見えない時もある。
    岩ではないかと思う時さえある。

    それでも客は喜んでくれる。
    鏡に映る顔より似てる、と言う。

    本人が言うのだから
    間違いなかろう。


    とにかく、
    そんな絵描きを知っている。

    ただし

    どこの公園にいるのか
    知らないけどね。
     

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  • 生 首

    2013/06/29

    ひどい話

    ある男がある女に惚れた。

    だが、
    女にはすでに恋人がいた。


    「ふん。それがどうした」

    男は女の恋人を殺し、

    血に汚れた手のまま
    力ずくで女を抱いた。

    それがよく見える位置に

    見開かれた眼の
    恋人の生首を置いて。


    「どうだ、悔しかろうが」

    男は幾度も幾度も女を抱いた。

    女は狂ったように泣き、
    男は狂ったように笑った。


    歯噛みもできぬ生首の
    そのまぬけな

    まぬけな顔。
     

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