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2015/11/12
いつの間にかスキー靴とスキーを履いて
真っ白なゲレンデの上に立っている。
さきほどまで資産家の青年と列車に乗っていたはずだが
その高校の同級生でもあったらしき彼の姿はない。
先に滑り降りていったのかもしれない。
だとすれば、いかにも彼らしい。
追いかけるように雪の斜面を滑降し始めたものの
しかし、もう彼のことはすっかり忘れている。
スキーに乗って風と雪を切るのが
こんなに楽しいのは、いったいどういうわけだろう。
ゲレンデは快適の現場だな、などと思う。
「ねえ、一緒に滑らない?」
故郷の幼なじみの女の子の声。
彼女がゴーグルを持ち上げる。
その笑顔がまぶしい。
女の子がスキー場でスキーウェアを着るとなぜか
いつもの二倍ほどきれいに見える。
「もう一緒に滑っているじゃないか」
「えっ、そうだっけ?」
ふたり、スキーの板を並べて滑っている。
ほほえましいシュプールが雪面に残るだろう。
このまま下まで降りてゆくつもり。
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2015/11/11
殺風景なビルの一室。
若い男女二人組の強盗が
バッグを放り投げて目配せする。
女は拳銃を持っている。
手をあげろ、とは言わない。
きっと面倒臭いのだろう。
缶詰の詰まったバッグを抱え
二人組は盗難車に乗り込む。
遠くまで逃げるのだ。
どうせ追って来ないだろうが
用心に越したことはない。
警察はいないとしても
飢えた奴らは多いからな。
銀行が保存食料品の
預かり所になって久しい。
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2015/11/10
人間は同質でもなければ平等でもない。
だから、関係する相手を分類せにゃならぬ。
実際、それぞれ人は、それぞれの経験や心情により
それぞれの基準で相手を区別しているはず。
好きな人がいて嫌いな人がいる。
役立つ人がいて迷惑な人がいる。
老若男女、貧富の差、貢献度。
会社組織には上司がいて部下がいる。
それらは便宜上の役割り分担かもしれないが
むしろ思考停止の平等主義こそ便宜的と言える。
分類基準を波風立てずに統一できないため
とりあえず無難な無策対応をしているだけ。
ゴミの分別もできない無分別な人は
勝手に処分できないだけにゴミより始末に困る。
共同ゴミ置き場のゴミの出し方を見て
そんなことを思った。
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2015/11/09
ふと思い出した。
(そうだ、忘れていた。
夏になったら海へ行くのだった)
趣味のスライドショー動画制作のため
海の風景写真を撮りに行くと
もう冬のうちから決めていたのだ。
これまで川や池の画像で誤魔化していたが
どうにも我慢ならないものがあった。
その動画のやがて原作となるであろう話を
ブログに投稿してから出かけたかったが
ちっとも浮かばないので諦めた。
とにかく海へ行こう。
投稿なんぞ帰ってからだ。
それで県内の地図帳とデジカメ持って
昼になる前に出かけたのだった。
サングラスと帽子とデイパック。
これにニッカポッカとTシャツなら
普段の買い物と同じ格好。
今回はTシャツの代わりに
網目生地の黒いノースリーブで決める。
ただし、実際に決まったかどうかは知らない。
とにかく、蒸し暑いのはきらいだ。
スイカで最寄駅の自動改札を通り抜け、
いくつか電車を乗り換え、約1時間半。
下車駅から歩いて30分ほどの海岸に到着。
九十九里浜の端っこの砂浜。
一般の海水浴客は少なく、むしろサーファーの方が多い。
夏休みに入ったものの平日なので
華やかな水着姿を撮る楽しみは期待できない。
しかし、海を撮るには好都合。
太平洋は20年ぶりだろうか。
実家のある日本海も10年以上見ていない。
波の迫力、さすが海である。
池や川の波が下手な特撮に見える。
ここにも例の津波の被害はあったはずだが
あまり具体的に感じられなかった。
しかし、海岸の浸食により多くの海水浴場が閉鎖になった
というニュースを帰宅してから、たった今見つけた。
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2015/11/08
人混みを縫うように歩き続けていた。
ここがどこらへんなのか判然としない。
交差点で信号灯の色が変わるのを待つ。
横断歩道の向こう側の女と視線が合った。
見知らぬ美しき他人であった。
大切な瞬間が訪れたような気がした。
このまま別れたら必ず後悔する。
しかし、話しかける勇気も自信もない。
悩んだ末、女を尾行することにした。
気づかれてもいい、と思った。
話しかけるきっかけになるだろう。
横断歩道を渡ってから何か思い出したような
そんな素振りで女の背後にまわる。
夕暮れが迫っていた。
女は人通りの少ない路地裏に入って行く。
うるさいほどにハイヒールの靴音が響く。
ふと、反射音で周囲の位置を探るという
コウモリの習性を思い出す。
たとえそうだとしても、靴音をよける術すべはない。
だんだん辺りが暗くなる。
街灯ひとつなく、窓明かりすらない。
ハイヒールの靴音だけが頼り。
しかし、それが靴音などではなく
獣けものが噛み合わせる牙きばの音に聞こえ始める。
ひどく生臭い、いやなにおいがした。
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2015/11/07
突然の夕立ちで町が流されたみたいになった。
ダンス発表会なるもの見物のため、傘さして家を出たが
道路が川みたいになり、途中で断念。
全身びしょ濡れになって帰宅した。
すぐに裸になってシャワーを浴びる。
キッチンペーパーで拭いたり、丸めて中に入れたりして
溺れた靴の脱水を試みる。
財布など、デイパックの中身も濡れてしまったので
部屋のあちらこちらに広げて置いて干す。
翌日、なんとか乾いたようなので片づけ始めたが
なぜかデジカメの予備バッテリーがケースごと見つからない。
変なところに置いたはずはないのだが
心当たりをいくら捜しても見つからない。
やれやれ。
デジカメ越しでなければ舞台が見えなかったり
ほんのちょっと前にしたことの印象が残らなかったり
そろそろ予備の寿命も消えそうだ。
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2015/11/06
学校の怪談にまつわる話なんだけど
僕が通う学校にも七不思議があるんだ。
真夜中になると、グラウンドの真ん中に
戦前の旧校舎が建っているのが見える。
とか
昔のブルマー姿の女子生徒の腰から下だけが
渡り廊下を歩いていた。
とか
目を閉じて段数を数えながら一人で上がると
十二段の階段が十三段になっている。
とか
トイレの中で、ノックされて「入ってます」と言うと
「おれの胃袋の中だ」と返事された。
とか
音楽室のバッハの肖像画のカツラがはずれていた。
とか
理科室の骨格標本が肩をもんでいた。
とか
そういう変な話が六つもあるんだけど
七つ目がないのに、なぜか七不思議なんだ。
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2015/11/05
とても人間とは思えない奴がやって来て
変なことを言う。
「しりとりをしよう」
「は?」
わけがわからない。
「は、じゃない。
しよう、だから、最後は、う、だ。 う」
「う・・・・浮かばない」
「命までは取らんから安心しな」
「な・・・・何者ですか?」
「考えろ、自分で。 何者だと思う?」
「う・・・・浮かばない」
「いかんな。 同じセリフは許されておらんのだがのう」
「う・・・・浮かばないけど、ひょっとして妖怪?」
「いかにも。 妖怪しりとり、じゃ」
「じゃ・・・・じゃあ、最後が、ん、で終わってはいけないの?」
「飲み込めてきたか。 その通り。
ただし、ん、で終わっても、セリフを続ければ救われるがな」
「なるほど」
「どれ、これより本番に入る」
「る・・・・ルビー」
「ビールでも飲みたいものだ」
「だけど、もし負けたら、どうなるんです?」
「すまぬが、尻をいただく」
「えっ?」
「えっ、ではない。 く、だ。
おれの勝ちだから、おまえの尻をもらう」
「う・・・・うっそー!」
しかし、うそではなかった。
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2015/11/04
土煙の舞う荒野
血の色に染まる夕陽
不毛の大地を這う
ふたつの長い影
ふたりのガンマンは
どちらも名うてのうそつきだった。
どちらがよりうそつきかを競い
これから決闘が始まろうとしていた。
負けた者は死あるのみ。
「おれはうそをついたことがないぞ」
「うそ? なんだそれ?」
判定は相打ち、勝負なし。
攻守を変えて、再試合。
「おまえは本当に正直者だな」
「いやあ、おまえほどじゃないさ」
これも相打ち、勝負なし。
攻守を戻して、決闘は続く。
荒野に沈む夕陽
闇に消える不毛の大地
もともと決闘など
なかったかのように
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2015/11/03
近頃、ジェット機の音なのか
ミサイルが飛来するような音がやたらするな
と思っていたら
本当にそれらしき爆発音がした。
あわてて窓を開ける。
かなり遠いが、黒煙が上がっている。
(戦争か?!)
そんな話は聞いてないぞ。
テレビないので、パソコンを立ち上げる。
まだニュースにはなっていないようだ。
(地震速報だって、ちょっと遅れるものな)
不意に画面が真っ黒になった。
停電なのか、スタンドの灯りもつかない。
(まさか・・・・)
再び遠くから飛来音が聞こえ始める。
だんだん近く、だんだん大きくなってゆく。
そして・・・・
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