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2015/10/21
それが有名かどうかは知らないが
高名なるプロ棋士が考案した詰将棋である。
さして難しくもないが
よくできていると思う。
ピタゴラスの定理の証明にアインシュタインが使ったとされる
直角三角形の直角から対辺に垂直に下ろしただけの補助線。
これも素朴で美しいと思う。
こういう素朴なものばかりで世界ができていたら
と思う。
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2015/10/20
おれはスパイだ。
当然ながら任務は極秘である。
昔はスパイ道具なるものを山ほど持ち歩いていたが
今は改造した携帯端末ひとつあれば十分。
盗聴、盗撮、傍受、解析、連絡、なんでもござれ。
身軽なものだ。
鍵の開け方、爆弾の作り方、スマートな殺し方なんかも
上手に検索すれば最新の方法を知ることができる。
もっとも近頃は、わざわざ出かけるまでもない。
自宅でPC操作するだけでほとんど片付いてしまう。
世界中に散らばるスパイウェアからの
自動発信情報を定期的に管理するだけだ。
ただし、このスパイウェアの管理が難しい。
要するに、人間スパイの管理と同じ。
自分で手配した奴だけならともかく
外部から送り込まれるスパイウェアも管理せばならない。
そもそもスパイウェアを完全に遮断するのは難しい。
また、単純に遮断するだけでは有用な情報は得られない。
なので、それらしいガセネタを流したり
あるいは巧妙に改造して逆に利用したりもする。
ところが、それだけでは済まない。
相手に送り込んだはずのこちらのスパイウェアが
同じく二重スパイウェアに改造された可能性なきにしもあらず。
つまり、話がややこしい。
おかげで、なんともやり切れない気分になってしまって
たまにはスパイもこんな告白をしてしまう、というわけだ。
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2015/10/19
学校へ行きたくありません。
同級生にいじめられるから。
友だちなんかひとりもいません。
みんな、私を軽蔑するのです。
血が汚れている、と言うのです。
私の血が不純だ、と。
泣いたって誰も同情してくれません。
涙も汚れているはずだ、なんて言われます。
くやしくて仕方ありません。
この前なんか、ひどいんです。
担任の先生にいたずらされそうになりました。
私、頭にきたので、噛みついてやりました。
でも、その血のまずいこと!
トマトジュースがおいしく感じられるくらいです。
そうです。
みんなの血こそ汚れているのです。
とてもまずくて飲めません。
変な病気になる可能性だってあります。
父はそれが原因で死んだんです。
普通の人間だった浮気な母。
かわいそうな吸血鬼だった美食家の父。
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2015/10/18
小学校に入学試験はなかった。
中学校にもなかった。
その日、高校の入学試験を終えて
まっすぐ帰宅したくない気分だった。
それで、同じ受験生の女の子を尾行したのだった。
よからぬ事をあれこれ考えながら
見知らぬ思春期の少女の後姿を眺め続けた。
なんとか高校生になれた。
ある日、定期試験を終えて、その解放感から
卒業した中学校の無人校舎に不法侵入した。
不用心にも、窓は施錠されていなかった。
懐かしい校舎を見たかっただけなので
欲しいものはあったが盗みはしなかった。
ただし、保健室で変態じみた行為はした。
それから何事もなく帰宅したのだが
しばらくすると駐在所のお巡りさんが現れた。
中学校への不法侵入を目撃した者があり
顔に見覚えがあったのか通報されたらしい。
ひどく脅おどされたが、ひたすら謝り続け
なんとか家族には内緒にしてもらった。
ただし、中学校の職員室では話題になったらしい。
その後、都会の大学の入学試験を終えて
逃げるように田舎を出た。
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2015/10/17
静かな砂丘に月のぼり
娘のように老婆は眠る
藍色の夜空に紫の雲ながれ
やや欠けた月は髑髏のよう
置き去りにされた古き戦車の
車輪に結ばれし老婆の髪
あてなき旅の途中か
貧しき群衆が視界を横切る
先頭に立つ老僧の法衣は破れ
その眼は人形のように動かない
埋もれた壁画のように足音も立てず
足跡も残さず去ってゆく
それっきり
もはや誰も訪れはしない
この静かな砂丘
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2015/10/16
四面体における各面の内接円は
対頂点を光源とする内接球の影とは限らない。
なぜなら球の影のほとんどは
楕円になるから。
さらに物理的に
光源は幅のない点ではあり得ず
また必ずしも
光が直進するとは限らない。
(そういう具合に僕たちは
しばしば君たちを誤解してしまうのさ)
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2015/10/15
召されるべき子らは
すみやかに召されるべきであろう。
もし召されぬまま大人になれば
やがてかれらの子孫が生まれてしまう。
それらのうちの多くは
やはり召されるべき者に違いない。
召されるべき子らが召されぬため
召されるべき者が増えてしまう。
召されるべきにあらざる者まで
召されるべき者とみなされてしまう。
なんのために生まれ
なんのために生きんとするか
それすらも
わからなくなってしまわぬよう
あえて今
召されるべき子らを召させたい。
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2015/10/13
スナップ写真の撮影において
シャッターチャンスを逃すことは多いけれど
考えてみると
逃したチャンスはそれだけではないはずだ。
気づくチャンス、知るチャンス、考えるチャンス、
改めるチャンス、始めるチャンス、作るチャンス、
・・・・いくらでもある。
ある小さなチャンスを生かすために
より大きなチャンスを殺していないとも限らない。
習慣という名の目隠しをしていないか。
マニュアルという名の耳栓をしていないか。
わずかなメリットを守り続けるのはリスクでもあり、
どうせリスクを伴うなら豊かなメリットを期待したい。
ことに創作においては
偶然性を取り込めるかどうかは大問題だ。
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2015/10/12
画家のアトリエ、汚れたままのパレット。
さびしそうに放り出された絵の具と絵筆。
未完成な肖像画、その背景は暗い海と空。
水平線はゆがんでぼやけている。
雲もないのに星は見えない。
月日はとうに画布からこぼれ落ちたらしい。
背景と人物が微妙に重なる。
黄金分率だけでは割り切れない気配。
着衣なのか裸婦なのか
そもそも男なのか女なのか
そんなのはどちらでもよい
と言わんばかりのパレットナイフ。
その人物のポーズやまなざしや
髪や唇、輪郭線に
どんな意味があると言うのか。
謎は残るものの、ただ沈黙だけが
この場にふさわしい気がする。
それにしても、いったい
画家はどこへ消えてしまったのだろう。
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2015/10/11
雪の斜面に男がひとり立っている。
黒い帽子、黒いサングラス、黒い防寒服のいでたちで
その両手には紅白の旗が握られている。
男から見て右手側より女子スキー選手たちが現れて
ストックを突きながら左手側へと滑ってゆく。
彼女たちが男の前を通り過ぎる時、男は
紅白どちらかの旗を振りながら進行方向を示す。
だが、男の旗を振る動作にはあいまいな点があり、
極端な場合、右手側へUターンする女子選手までいる。
そのような女子選手は疲れた表情をしており、
また、いかにも疲れたようにのろのろ滑っている。
どうやら男は旗を振る仕事を楽しんでいるようで
その証拠のように唇の両端がヒゲと一緒に上がっている。
観客の姿はまばらで、歓声も滅多に聞こえない。
主催者側の見解が発表されることはなさそうだが
どうやらスキー大会は失敗のようである。
いまさら説明するのもなんであるが、空は曇っており、
モノクロの針葉樹林の陰影が男の背景に立ちこめている。
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