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2015/11/26
退院したら、町の様子が変わっていた。
なにやら至るところに行列ができている。
短いのもあるし、長いのもある。
短い行列は、それを行列と呼べるかどうかわからないが
ふたりだけで橋の欄干のところに並んでいたりする。
長い行列は前も後ろも端が見えない。
なにかイベントでもあるのだろうか。
並んでいる老人に尋ねてみた。
「これはなんの行列でしょう?」
老人は笑いながら
「天神様の行列じゃ」
どうも意味がわからない。
ある行列の最後尾にいた女子学生にも尋ねてみた。
「どうして並んでいるの?」
「並んでなんかいないわ」
「でも、いかにも列に並んでいるように見えるけど」
「私の進む方向に勝手に列があるだけよ」
彼女は怒ってしまった。
ますますわからない。
とりあえず、この行列の先頭を調べてみることにした。
自宅に帰る方向でもあったからだ。
事故の後遺症なのか、入院が長かったせいか
ところどころ道路や建物の記憶が抜けている。
歪んだ形の立体が空中に浮かんでいるのを見たりすると
その体積を求めなければいけないような気もしてくる。
やがて行列は乱れ、あちこち落ちてる糞をよけたり、
倒れている女をまたいだりするようになった。
そのうちどこにいるのかわからなくなり、
つまり、どうやら迷子になってしまったらしい。
食事をしていないのに空腹は感じない。
なぜか喉も渇かない。
しかし、不安がよぎる。
もうなんでもいいから
どこかの行列に並びたくなってきた。
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2015/11/24
我が国における低反発性青少年の実態調査の結果を報告いたします。
(中略)
たとえ理不尽な内容であったとしても、さして抵抗する様子もなく目上の指示に従う若者が多い、という声を耳にし、また個人的な実感として意識もいたします。
(中略)
過去の文献を調べましたところ、このような傾向は最近になって始まったわけではなく、近年でもなく、時代背景によって多少の差はあるものの、記録に残っている限り昔から指摘されておるようです。
(中略)
社会的環境に対する依存性が高い状況においては、現状の人間関係を損なうわけにもいかず、唯々諾々と目先の部分的なシステムの強化と維持を担う他ありません。
(中略)
このような状況下において、グローバル化は我が国固有の排他システムを根本から覆す選択であり、許容限度を超えた場合、システムの維持、さらにはその存続すら危ぶまれます。
(中略)
なんらかの痛みを伴うのは当然とは言え、修復や改善の見込みもない改革路線を目上の立場から指示するのは、高反発性青少年の少なからぬ増加が懸念されることもあり、いかがなものかと考えます。
(中略)
まことに簡略ではありますが、報告は以上です。
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2015/11/22
花火大会の夜に
浴衣なら
どうしたって
打ち上げてみたくなる。
キャー!
とか
イヤー!
とか
言いながら
高く 高く
ものすごく高いところまで昇って
ダメー!
とか
ダイスキー!
とか
無邪気な大声を
夏の夜空に
響かせるのだ。
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2015/11/21
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2015/11/20
悪い子は邪魔だな。
迷惑だし、役に立たんから、いらん。
そんな悪い子は、学校の校舎になってもらおう。
うん、それしかあるまいて。
こっそり連絡しておくとな、ある指定された日に
政府の役人か、政府の委託会社の怖そうな社員がな
黒くて丈夫な装甲車に乗ってやって来てくれて
悪い子を捕まえて連れ去ってくれるんだ。
そのまま公にされてない秘密の工場に運ばれて
服を脱がされ裸にされて
妙な液体入り水槽の中に投げ込まれる。
その妙な液体に丸一日も浸かっておれば
そのうち骨が柔らかくなる。
適当な頃に水槽から網みたいなのですくい上げられて
容器に入れられ、ベルトコンベアで運ばれて
ゴーン、ゴーン、と物凄い音のする大型機械の中で
引き延ばされたり、平らにされたり、切られたり削られたり
とにかく、あれこれ無慈悲な自動制御の加工を受ける。
そうすると、板になったり角材になったりしてな
十分に乾燥させれば、立派に建築資材として使えるようになる。
それらを改築や新築をする学校の校舎に用いるわけだ。
木目みたいに悪い子の顔の表情が残る場合もあって
そういう素材は校舎の目立つところに使うことになっておる。
踏まれたり蹴られたり、汚されたり傷つけられたりする度に
小さく悲鳴をあげる板もまれにあるそうだから
生徒たちへの悪い子になる抑止効果はバッチリだ。
さて、そろそろ連絡しようかな。
しかし、まあ、わざわざ連絡せんでも
他の誰かが困って、先に連絡しとるかもしれんがの。
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2015/11/18
セミが鳴く
セミが鳴く
夏でもないのに
セミが鳴く
ミン ミン ミン ミン
ミミン ミン
朝から晩まで
ミン ミン ミン ミン
鳴く 鳴く 鳴く 鳴く
ミン ミン ミン ミン
鳴く 鳴く セミが
セミが鳴く
耳の奥に
頭の中に
ミン ミン ミン ミン
ミミン ミン
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2015/11/17
不思議な現象があるものだ。
僕が「好き」と言うと
君には「きらい」と聞こえるらしい。
調べてみたら、なるほど
そういう聞き違いやすい発音があるのだそうだ。
たとえば、「トッタノカヨ」が「デーアイアイ」に
ある割合で聞こえるという。
または、犬の鳴き声「ワンワン」が
外国では「バウワウ」になったり。
しかし、「好き」と「きらい」はないだろう。
音数だって明らかに違う。
試しに「きらい」と僕が言ってみたら
そのまま「きらい」に聞こえると君は言う。
なんだそれは。
きらわれているだけか。
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2015/11/15
これが夢なのか実体験なのか、不明。
ただ、私のもっとも古い記憶のようなのだ。
まだ赤ん坊の私が這いながら
積み上げられた俵の小山を登っている。
実家の前から続く細い坂道を下って
大きな道にぶつかる丁字路のところ。
前方から黒い小さなバスが現れ
こちらに向かってだんだん大きくなる。
やがてバスは俵のすぐ脇をかすめ
そのまま走り過ぎてゆく。
それだけ。
赤ん坊の私は泣きもしない。
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2015/11/14
お盆になる。
帰省せにゃならぬ。
先祖の墓がある。
墓参りせにゃならぬ。
横断歩道があるから
そこを渡らねばならぬ、みたいに。
たとえ車道にクルマの影も形も見えずとも
横断歩道と信号機あらば
世間の目が気になって
信号を無視してまで渡りにくい。
世間の目なんぞ気にせにゃ良さそなもんだが
この閉ざされた島国では気にせぬわけにもいかぬ。
たとえ良い子のお遊戯とわかっていても
おのが善良で誠実であることを示し続けねばならぬ。
世間の態度とかムードとか付き合いとか
あとあと響いてきて居たたまれなくなる
と、直感してしまうからだ。
だから、言いたい。
「これ見よがしな信号機や墓は建てるな」と。
しかし、それすら咎とがめられるのだ。
おのが善良さと誠実さとを世間に示したいがため。
外国との戦争、もし再び起こらば
やはりまた同様な結果になるのではなかろうか。
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2015/11/13
けもの道に迷ったあげく
青年はけものになってしまった。
爪を立て、牙をむき、血に飢えた眼。
笑顔を忘れ、優しさは微塵もない。
青年には恋人がいたが
彼女が手紙を出しても返信はない。
消息の途絶えた青年を探して
やがて彼女もけもの道に分け入った。
しかし、彼女はけものにならなかった。
けものに食べられてしまったから。
その食べたけものが
あるいは青年だったかもしれない。
一枚の白い便箋が落ちて
死んだ魚のように谷川を流れてゆく。
すでにインクの文字は消えかけている。
けものになってしまったら、どうせ
もう人の言葉は読めないはずではあるけれど。
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