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2016/07/23
なんとなく目が覚めた。
レースのカーテン越しの窓の外、ぼんやり薄暗い。
夕暮れの気配である。
(寝ながら考え事をして、そのまま眠ってしまったのだな)
そう思った。
(それとも眠ろうとしていて眠ったんだっけ?)
どうもよく思い出せない。
トイレに行き、キッチンで歯を磨き、顔を洗う。
それから畳の部屋に戻る。
万年床の上に座椅子を置き、座って腰まで毛布を掛ける。
そして考え事の続きをする。
なにかしら面白い話をひとつ考えねばならない。
それが日課になっている。
どうも頭がすっきりしない。
(今日は何をしたっけ?)
思い出そうとしてもはっきり思い出せない。
(いや、あれは昨日の話だよな)
窓の外は、相変わらず薄暗い。
(まさか・・・・)
手もとの電波時計を持ち上げて見る。
(やっぱり!)
「午前」の表示。
そう言えば、かすかに雨音がする。
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2016/07/21
ドアチャイムが鳴ったので玄関へ向かう。
普段なら「なんでしょうか?」とまず問うものだが
この時はなぜかそのままドアを開けてしまう。
玄関ドアの前、共用階段の踊り場に
貧相な顔の若い男が立っていた。
彼はこのマンションの同じ住人。
だが、その名前がすぐに思い出せない。
なにやら問題が生じたらしく
管理組合役員である私のところに相談に来たらしい。
組合費の滞納の件であったか
何事かしばらく話し合ってから結論を出す。
「ところで」と彼が言う。
「理事長さんのお住まいはどこですか?」
おかしなことを言う。
私の住まいはここに決まっているではないか。
不審そうに首をかしげていると
「いえね、昨日の夜、4時過ぎに運動公園で・・・・」
「私に会ったのですか?」
そう問いかけたのに彼は返事をしない。
夕暮れが迫っているのか、踊り場は暗い。
彼の表情がわかりにくくなっている。
というか、彼の姿さえ見えにくい。
いや、違う。
その姿の向こう側が透けて見えるのだ。
それどころか、今では玄関ドアの前に
もう誰もいない。
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2016/07/20
クルマに同乗している。
視野いっぱいに道路が映っているので
助手席にでもいるのだろう。
複雑な組み合わせの交差点では
対向車と衝突するのではないかと不安になった。
それにしても運転手とは偉いものだ。
しきりに感心する。
運転手は若き日の親父のようである。
私は玄米おにぎりの話をしていた。
それを持参しているらしい。
やがて、路肩に停車して店に入る。
立ち喰いそば屋のような印象。
親父が言う。
「そのおにぎりを喰わせてくれ」
バッグから取り出してみると
いなりずしと玄米おにぎりが一個ずつ。
喰いかけもあり、それは自分で食べるとして
他はすべて親父に差し出す。
おいしそうに食べてくれる。
店内にいる客の話になり
「まるで野武士のようだな」
確かにそんな顔をしている。
その客に気づかれ斬られてしまうのではないかと
クルマの運転のようにドキドキする。
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2016/07/19
どうも恋愛が苦手だ。
正直なところ、よくわからん。
どこがわからんのかと言うと
その面白さがわからん。
恋愛を面白さで捉えてはいかんのかもしれんが
実際のところ、つまらんことは考えたくない。
やはり気持ちは大事だ。
その気なければ長続きしない。
だから、あんなグチャグチャしたの
女に任せておけばよいのではないかな。
ゴチャゴチャしたのは男が引き受けるとして。
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2016/07/18
咳をしても ひとり
くしゃみをしても ひとり
洟をかんでも ひとり
あくびをしても ひとり
顔を洗っても ひとり
食事をしても ひとり
ゲップをしても ひとり
屁をこいても ひとり
小便しても ひとり
糞しても ひとり
歯をみがいても ひとり
風呂に入っても ひとり
寝ても ひとり
起きても ひとり
笑っても ひとり
泣いても ひとり
怒っても ひとり
つぶやいても ひとり
話し合っても ひとり
触れ合っても ひとり
抱き合っても ひとり
結婚しても ひとり
心中しても ひとり
ひとりでないとしても ひとり
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2016/07/17
重い 重い
頭が重い
眠ればいいのに
考える
重い 重い
義理が重い
やりたくないのに
せにゃならん
重い 重い
愛が重い
ほっときゃいいのに
気にかかる
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2016/07/16
もしも死にたくなったなら
もう死んでしまったことにしてしまいましょう。
そして、もしもまだ生きているとしたら
何をしたいだろうか、と想像してみましょう。
あんなことやこんなこと
いろんなことが浮かぶのではないでしょうか。
でも、それらをすることはできません。
だって、もうあなたは死んでいるのですから。
せめて死ぬ前にやっておけばよかったのに。
死ぬつもりなら、ほとんどなんでもできたのに。
なんにもやろうとしないでいたから
なんにもしないうちに死んでしまったのですよね。
そこで、もしも生き返りたくなったなら
もう生き返ってしまったことにしてしまいましょう。
そして、せっかく生き返ったのだから
できるだけ楽しく生きてみましょう。
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2016/07/15
彼女は泣くのが上手だった。
泣くべき時には
泣くべきように上手に泣いた。
そして、泣いてはいけない時には
決して泣かないのだった。
そんな彼女にしてみれば
親や兄弟を操るのは造作もないこと。
泣き方ひとつでどうとでもなる。
ボーイフレンドの扱いなんか
お手玉より簡単。
「そんなの泣き真似じゃないか」
と非難されそうだが
泣くフリして本当に泣いていたりするから
油断がならない。
ただし彼女、ここしばらく泣いていない。
今は泣くべき状況でないから。
だけど、つい彼女の泣き声を聞きたい
泣き顔を見たい、という気持ちになってしまう。
それで、やや強引ながら泣かそうとすると
彼女、ちょっと困った顔になる。
それから、ほんのちょっとだけだけど
今にも泣きそうな顔をしてくれる。
うん。いい顔。
ホント、泣かせるなぁ。
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2016/07/14
はき集められた
枯れ葉の小山に火をつける
ほらね たき火が燃える
赤々と
枯れ葉と一緒に燃えるもの
パチパチ パチパチ
写真が燃える
メラメラ メラメラ
手紙が燃える
ボウボウ ボウボウ
日記が燃える
みんな みんな
灰と煙になっちゃって
思い出と一緒に
燃え尽きる
それから
くすぶる小山を崩すのさ
ほらね 焼イモ焼けた
ホクホクの
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2016/07/13
看護婦がいるから病院に違いない。
診療室と言うより手術室のように見える。
なぜか一匹の白い蝶がヒラヒラと
空色の部屋の中を飛んでいる。
その部屋の中央に上半身裸の男が立ち
いかにも粗野な性格を顔と体全体で表現している。
しきりに両腕を曲げて力こぶを作るのは
おそらく鍛え上げた筋肉を自慢したいからであろう。
男の目の前には一台の白いベッドが置かれ
その上には思春期に入ったばかりの少女が横たわっている。
彼女は目を閉じているが眠ってはいない。
その証拠のように肩が震えている。
男はベルトを外し、ズボンを脱ぐ。
毒々しい緑色のビキニの下着姿になる。
毛深い。
思わず目を背けたくなるほどに。
男はベッドから上掛けを乱暴に剥ぎ取る。
「キャッ」と悲鳴をあげる少女。
顔を両手で隠して胎児のように丸くなる。
彼女は兎の絵柄のパジャマを着ている。
それがなぜか膝までずり下がっていたので
紺色のブルマーの着用を男に知られることになる。
天井の隅に設置された監視カメラが動く。
離れた別室で少女の実の父親が監視している。
しかし、彼には手が出せない。
それが暗黙の了解のようになっている。
ビキニ男と娘がなし遂げようとする作業を
歯噛みしながらモニターで監視するしかないのだ。
痛ましいことに、いまさらながら
少女は眠ったふりを続けようとしている。
ビキニ男は爬虫類のように腰をひねる。
薄目にせよ、少女に見てもらいたいのだろう。
それはともかく、この空色の部屋に
場違いな白い蝶が飛んでいる。
ヒラヒラヒラヒラ
いつまでも白痴のように飛んでいる。
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