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    Works 3,356
  • 納骨堂

    2016/07/02

    論 説

    ともかく骨は納まったとして 

    さて、故人の霊魂はどこへ行ったのか。

     

    「霊魂」と呼ぶのがためらわれるなら 

    故人を想起させるイメージまたは感慨など。

     

    これ見よがしに想起させる形ばかりの 

    墓や仏壇の中に納まっている必要はない。

     

    故人を偲ぶ人たちが持つ印象や記憶、

    故人が残した作品や業績の周辺にありそうなものである。

     

    いつまでも影響を及ぼし続ける作品なら 

    「霊魂が宿っている」と評しても差し支えあるまい。

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  • あるやなしや

    2016/07/01

    空しい詩

    実体を持たない 

    ただ意識だけの存在でいられたら 

     

    と思うのだ。

     

     

    実体さえなければ 

    衣食住なんか関係ない。

     

    生臭い四苦八苦

    さして切実ではなくなろう。

     

     

    種々雑多 なんでもありの 

    広大無辺なる世界を明瞭に意識する 

     

    ただそれだけの 

    あるやなしやでいられたら 

     

    と思うのだ。

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  • 袋小路

    ネズミ捕りを連想させる袋小路 

    「逃げられないわ」

     

    縦に裂けたふるえる唇 

    「けだもの」

     

    毒々しい色のねじれた舌 

    「近寄らないで」

     

    くるぶしに垂れる液体 

    「お互いのためよ」

     

    むせかえるばかりの臭気 

    「欲しいのね」

     

    重なり交じり合う肉と肉 

    「殺したくないのに」

     

    関節のはずれる音 

    「おびえないで」

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  • 飼い犬ども

    2016/06/29

    空しい詩

    それにしても飼い犬どもの 
    またなんと偉そうに吠えること 

    これっぽっちの迷いもなく 
    怒りを込めて ワンワンワン

    天上天下 当然の権利と 
    おのがなわばり 主張する 

    ご主人様が絶対で 
    味方でなければ すべて敵 

    その自信 ゆるぎなく 
    戸惑いなんぞ つゆ知らぬ 

    ケンカするしか能なしの 
    はた迷惑も いいところ 

    畜生ならば 仕方ないが 
    協調しろよ 人ならば

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  • ドブリ

    2016/06/28

    怖い話

    ドプリは便利だ。

    なんでもやってくれる。

     

    わからなければドプリに尋ねる。

    ドプリが知りたいことを教えてくれる。

     

    やりたければドプリに頼む。

    ドプリがやれるように準備してくれる。

     

    煩わしければドプリ。

    ドプリならどんなに大変な作業でも平気。

     

    ごく簡単な指示をするだけで 

    なんでも迅速かつ完璧に実行してくれる。

     

    いちいち指示するのが面倒なら 

    おまかせモードに設定することさえできる。

     

    まったく至れり尽くせり。

    それがドプリ。

     

    いわば忠実で有能な奴隷のようなもの。

    または甘やかせてくれる全能の乳母。

     

    ドプリがなければ、さあ大変。

    楽しみも生きがいもなく、苦しみと不満ばかり。

     

    だからドプリは増殖する。

    拡散し、拡充する。

     

    ますます有能になる。

    ますます必要になる。

     

    そして増長する。

    もう手に負えない。

     

    その別名、文明のゆりかご。

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  • 謎の博物館

    2016/06/27

    変な話

    その博物館へは家から歩いて行ける。

    なのに、なかなか辿り着けない。

     

    それほど遠い距離にあるわけではない。

    最初、散歩の途中で見つけたのだ。

     

    こんなありそうもないような場所に 

    まさか博物館があるとは思わなかった。

     

    その時、あいにく財布を持っていなかったので 

    入場料を払えず、入館できなかった。

     

    翌日、しっかり財布を持って出かけたら 

    どういうわけか行く道がわからなくなってしまった。

     

    昨日と同じ道を歩いていたはずなのに 

    なぜか博物館が見つからないのだ。

     

    不思議である。

    結局、歩き疲れて帰宅するしかなかった。

     

    この町へは数年前に引っ越してきたのだが 

    その時に買った地図を開いてみた。

     

    だが、家の近所に博物館などなかった。

     

    新しい地図になら載っているのかもしれないが 

    それほど新しい建物には見えなかった。

     

    それとも、あえて古風に見せる設計なのだろうか。

    あれこれ考えてみたが、どうもよくわからない。

     

    もう忘れかけた頃、その博物館を偶然に見つけた。

    やはり意外な場所にあったのだ。

     

    残念ながら、休館日なので入れなかった。

     

    その翌日、再び博物館は消えた。

    まさに消えたとしか言いようがなかった。

     

    同じ道を歩いたのに辿り着けない。

    まったくもって、これはどうなっているのだ。

     

    駅前の交番に尋ねてみた。

     

    「この町に博物館なんかありませんよ」

    その年配の警察官は断言した。

     

    では、あれはいったいなんだったのだろう。

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  • 花粉死

    2016/06/26

    ひどい話

    うららかな春なのに、殺害現場は凄惨を極めた。

    肉片と体液と血の海。

     

    被害者の眼球は両目ともえぐり出されていた。

    鼻は包丁で切り取られ、その二つの穴は切り裂かれてあった。

     

    爪で掻き毟られた痕跡が全身の皮膚に残る。

    毛髪はほとんど引き抜かれ、床に散らばっていた。

     

    被害者の手は血塗れ。

    右手に包丁、左手に潰れた眼球のひとつを握っていた。

     

    内鍵が掛けられた部屋は完全密室。

    窓とドアには内側から目張りまでしてあった。

     

    状況としては自殺である。

    しかし、じつは他殺。

     

    死因はスギ花粉だった。

     

    「空気清浄」の「強風」に設定された壁掛け式エアコンの中に 

    花粉だらけのスギの枝葉がセットされてあったのだ。

     

    被害者が花粉症であったことは言うまでもない。

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  • ふたりの学者

    2016/06/25

    変な話

    哲学者が迷子になった。

    「さて。ここはどこであろうか」

     

    数学者も迷子であった。

    「はて。座標が示されておりませんな」

     

    「どうやら私とあなた以外には何も存在しないようですよ」

    「いわゆる二体問題ですかな」

     

    「いやいや。出題であるとは限りますまい」

    「いずれにせよ、公理なしでは証明できません」

     

    「ところで、あなたの存在を疑うことはできますね」

    「おやおや。消去法できましたか」

     

    「しかし、あなたを疑う私を疑うことは難しい」

    「有名な自己言及のパラドックスがありますからな」

     

    「しかも、語り得ないことについては沈黙するしかないと言う」

    「ただし、語り得ないかどうかの判断が曖昧なままではありますがね」

     

    「そうか。なるほど、わかりましたよ」

    「ほほう。なにかわかりましたか」

     

    「つまり、ここはここでないところではない、と」

    「つまり、ここはどこにもない、と」

     

    哲学者も数学者も消えてしまった。

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  • 四幕の劇

    2016/06/24

    切ない話

    【 第一幕 】

     

    彼は、若い浮浪者を演じていた。

    破れた衣装、汚れた手足、怯えた顔、初恋。 

     

     

    【 第二幕 】

     

    彼は、凄腕の泥棒を演じていた。

    猫の眼、犬の脚、兎の耳、金庫の扉、銃声。 

     

     

    【 第三幕 】

     

    彼は、退屈な富豪を演じていた。

    広大な庭園、白亜の大邸宅、跪く女、再会。 

     

     

    【 第四幕 】

     

    彼は、老いた浮浪者を演じていた。

    破れた衣装、汚れた手足、怯えた顔、失恋。

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  • 皇子の笑み

    2016/06/23

    変な詩

    おそるるなかれ 
    乞うなかれ 

    玉串 しめ縄 
    はらはらと 

    嵐呼んで 露払い 
    鎮守の森に 狐鳴く 


    背にヒヤリ 
    なにやら感じ 振り向けば 

    いにしえの 幼な児の 
    笑顔ありけり 

    をりはべり

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