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2016/07/02
ともかく骨は納まったとして
さて、故人の霊魂はどこへ行ったのか。
「霊魂」と呼ぶのがためらわれるなら
故人を想起させるイメージまたは感慨など。
これ見よがしに想起させる形ばかりの
墓や仏壇の中に納まっている必要はない。
故人を偲ぶ人たちが持つ印象や記憶、
故人が残した作品や業績の周辺にありそうなものである。
いつまでも影響を及ぼし続ける作品なら
「霊魂が宿っている」と評しても差し支えあるまい。
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2016/07/01
実体を持たない
ただ意識だけの存在でいられたら
と思うのだ。
実体さえなければ
衣食住なんか関係ない。
生臭い四苦八苦も
さして切実ではなくなろう。
種々雑多 なんでもありの
広大無辺なる世界を明瞭に意識する
ただそれだけの
あるやなしやでいられたら
と思うのだ。
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2016/06/30
ネズミ捕りを連想させる袋小路
「逃げられないわ」
縦に裂けたふるえる唇
「けだもの」
毒々しい色のねじれた舌
「近寄らないで」
くるぶしに垂れる液体
「お互いのためよ」
むせかえるばかりの臭気
「欲しいのね」
重なり交じり合う肉と肉
「殺したくないのに」
関節のはずれる音
「おびえないで」
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2016/06/29
それにしても飼い犬どもの
またなんと偉そうに吠えること
これっぽっちの迷いもなく
怒りを込めて ワンワンワン
天上天下 当然の権利と
おのがなわばり 主張する
ご主人様が絶対で
味方でなければ すべて敵
その自信 ゆるぎなく
戸惑いなんぞ つゆ知らぬ
ケンカするしか能なしの
はた迷惑も いいところ
畜生ならば 仕方ないが
協調しろよ 人ならば
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2016/06/28
ドプリは便利だ。
なんでもやってくれる。
わからなければドプリに尋ねる。
ドプリが知りたいことを教えてくれる。
やりたければドプリに頼む。
ドプリがやれるように準備してくれる。
煩わしければドプリ。
ドプリならどんなに大変な作業でも平気。
ごく簡単な指示をするだけで
なんでも迅速かつ完璧に実行してくれる。
いちいち指示するのが面倒なら
おまかせモードに設定することさえできる。
まったく至れり尽くせり。
それがドプリ。
いわば忠実で有能な奴隷のようなもの。
または甘やかせてくれる全能の乳母。
ドプリがなければ、さあ大変。
楽しみも生きがいもなく、苦しみと不満ばかり。
だからドプリは増殖する。
拡散し、拡充する。
ますます有能になる。
ますます必要になる。
そして増長する。
もう手に負えない。
その別名、文明のゆりかご。
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2016/06/27
その博物館へは家から歩いて行ける。
なのに、なかなか辿り着けない。
それほど遠い距離にあるわけではない。
最初、散歩の途中で見つけたのだ。
こんなありそうもないような場所に
まさか博物館があるとは思わなかった。
その時、あいにく財布を持っていなかったので
入場料を払えず、入館できなかった。
翌日、しっかり財布を持って出かけたら
どういうわけか行く道がわからなくなってしまった。
昨日と同じ道を歩いていたはずなのに
なぜか博物館が見つからないのだ。
不思議である。
結局、歩き疲れて帰宅するしかなかった。
この町へは数年前に引っ越してきたのだが
その時に買った地図を開いてみた。
だが、家の近所に博物館などなかった。
新しい地図になら載っているのかもしれないが
それほど新しい建物には見えなかった。
それとも、あえて古風に見せる設計なのだろうか。
あれこれ考えてみたが、どうもよくわからない。
もう忘れかけた頃、その博物館を偶然に見つけた。
やはり意外な場所にあったのだ。
残念ながら、休館日なので入れなかった。
その翌日、再び博物館は消えた。
まさに消えたとしか言いようがなかった。
同じ道を歩いたのに辿り着けない。
まったくもって、これはどうなっているのだ。
駅前の交番に尋ねてみた。
「この町に博物館なんかありませんよ」
その年配の警察官は断言した。
では、あれはいったいなんだったのだろう。
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2016/06/26
うららかな春なのに、殺害現場は凄惨を極めた。
肉片と体液と血の海。
被害者の眼球は両目ともえぐり出されていた。
鼻は包丁で切り取られ、その二つの穴は切り裂かれてあった。
爪で掻き毟られた痕跡が全身の皮膚に残る。
毛髪はほとんど引き抜かれ、床に散らばっていた。
被害者の手は血塗れ。
右手に包丁、左手に潰れた眼球のひとつを握っていた。
内鍵が掛けられた部屋は完全密室。
窓とドアには内側から目張りまでしてあった。
状況としては自殺である。
しかし、じつは他殺。
死因はスギ花粉だった。
「空気清浄」の「強風」に設定された壁掛け式エアコンの中に
花粉だらけのスギの枝葉がセットされてあったのだ。
被害者が花粉症であったことは言うまでもない。
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2016/06/25
哲学者が迷子になった。
「さて。ここはどこであろうか」
数学者も迷子であった。
「はて。座標が示されておりませんな」
「どうやら私とあなた以外には何も存在しないようですよ」
「いわゆる二体問題ですかな」
「いやいや。出題であるとは限りますまい」
「ところで、あなたの存在を疑うことはできますね」
「おやおや。消去法できましたか」
「しかし、あなたを疑う私を疑うことは難しい」
「有名な自己言及のパラドックスがありますからな」
「しかも、語り得ないことについては沈黙するしかないと言う」
「ただし、語り得ないかどうかの判断が曖昧なままではありますがね」
「そうか。なるほど、わかりましたよ」
「ほほう。なにかわかりましたか」
「つまり、ここはここでないところではない、と」
「つまり、ここはどこにもない、と」
哲学者も数学者も消えてしまった。
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2016/06/24
【 第一幕 】
彼は、若い浮浪者を演じていた。
破れた衣装、汚れた手足、怯えた顔、初恋。
【 第二幕 】
彼は、凄腕の泥棒を演じていた。
猫の眼、犬の脚、兎の耳、金庫の扉、銃声。
【 第三幕 】
彼は、退屈な富豪を演じていた。
広大な庭園、白亜の大邸宅、跪く女、再会。
【 第四幕 】
彼は、老いた浮浪者を演じていた。
破れた衣装、汚れた手足、怯えた顔、失恋。
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2016/06/23
おそるるなかれ
乞うなかれ
玉串 しめ縄
はらはらと
嵐呼んで 露払い
鎮守の森に 狐鳴く
背にヒヤリ
なにやら感じ 振り向けば
いにしえの 幼な児の
笑顔ありけり
をりはべり
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