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2008/10/21
たとえば
鍵があって
扉がある。
または
弓矢があって
的がある。
でも
合わなかったり
はずれたり。
2008/10/21
異臭漂う危険な丘の上では
ドラム缶から黄色い液が流れ
錆びたボルト草にナットの花が咲く
六本足のネズミが笑っている横では
病気持ちの浮浪者が眠っている
潰れた車体から白い足をはみ出して
いかれた歌を口ずさんでいるのは
家を出たばかりの家出少女
なんだか あたし
猫に蹴られて 死にたいな
とっても あたし
猫に蹴られて 死にたいな
2008/10/20
ガラス瓶に占領された部屋の中で
男はガラス瓶を眺めて暮らしている。
ガラス瓶の中には
様々な美女が入っている。
好みの美女を街角で見つけると
男は卑怯な手段で部屋に連れ込み、
眠らせて無理やりガラス瓶に詰め込むのだ。
囚われの美女たちにプライバシーはない。
充血した男の眼から逃れることはできない。
ときどきガラス瓶の首をつまんで振ったり、
気が向けば逆さにしたり、
空中に放り投げたりもする。
美女たちが泣くと
男はガラス瓶に耳を押し当てる。
溜まった涙で溺れそうな幼女もいる。
死んだふりしてる少女もいる。
諦めて笑ってる女もいる。
彼女たちがいつまでも若々しく見えるのは
おそらくガラス瓶の口にしっかりと
コルク栓がはまっているからだろう。
2008/10/19
昔、この沼に一匹の亀がいた。
沼から出たことのない臆病な亀は
頭さえ滅多に甲羅から出さなかった。
蛇が首に巻きついたことがあって以来
首を伸ばすことができなくなったのだ。
ほとんど動かないため
亀の甲羅に苔が生えてきた。
茸が生え、
やがて草まで生えてきた。
緑に覆われ、
甲羅の下から根が伸び、
ついには水面に浮かぶようになった。
そして、そのまま
風に吹かれて漂うのだった。
ここが亀沼と呼ばれ、
浮き島があるのは
つまり
そういうわけなのだ。
2008/10/19
夢中になって交尾をしていたら
彼女に頭を切り落とされてしまった。
うっかりしていた。
彼女の両腕は鎌になっていたのだ。
彼女は落ちた頭を拾い上げ、
わざと僕に見せつけるように
眉間にシワを寄せて食べ始める。
途端に僕は悲しくなる。
もっとうまそうに食べてくれても
いいじゃないか。
僕の頭が泣いている。
だから彼女が喜んでいる。
それでも僕は、交尾をやめないのだ。
やめられない、と言うべきか。
2008/10/18
なにしてるの?
なんにも 風に吹かれているだけ
それだけ?
うん それだけ
どんな感じ?
なかなかいい感じだよ
ふうん
君 どこから来たの?
あっちから
どこへいくの?
こっちかな
ねえ
なあに?
君ってさ
うん
まるで風みたいだよ
ふうん
2008/10/18
いつの間にか僕は牛になっている。
好かれている僕がなにもしないから
彼女を泣かせてしまったという理由で
クラスの女の子たちが僕を取り囲み
縫い針を手にして僕の体を刺している。
チクチクするような痒みを感じるけれど
それらしい痛みはほとんど感じない。
他人の痛みどころか自分の痛みさえ
もう僕は感じなくなっているのだ。
取り囲む有刺鉄線の柵の杭の一本が
僕が本当に好きな女の子だったから。
どのように開放されたか記憶にないが
おそらく囲いを破って逃げたのだろう。
以上、情けない囲い牛だった僕の話。
2008/10/18
貴婦人が鏡の回廊を渡っておられました。
鏡の回廊の左右の壁には珍しい鏡が
いくつもいくつも飾ってありました。
ある鏡には、上品なドレス姿の貴婦人が
その麗しき横顔とともに映りました。
別の鏡には、夢見る表情の貴婦人が
裸で歩いておられる姿が映りました。
また別の鏡には、床に跪いた貴婦人が
背徳の儀式に耽る姿が映るのでした。
じつに色々な鏡があるのでした。
美しい少女が映る鏡もありました。
醜い老婆が映る鏡もありました。
まったくなにも映らない鏡もありました。
わずかに傾いた合わせ鏡のように
どこまでも鏡の回廊は続いているのでした。
2008/10/17
海よりも深い夜にあなたの寝室に忍び込み
トカゲのようにあなたのベッドに近づいて
あなたの無邪気な寝顔を見下ろしながら
さてどうしてやろうかやるまいか
このにくたらしい鼻の頭を削ってやろうか
このいじらしい耳たぶを切ってやろうか
あれやこれやと随分悩んだ末に
毛布からはみ出ていたあなたの尻尾を
いけないことだとは思いながらも
ハサミで切り落として持ち去ったのは
じつはわたくし怪盗ネチネです。
2008/10/16
ようこそ 船酔いお嬢さん
錨を上げたら 水兵さん
両手もあげてもらおうか
そうとも そうよ ご覧の通り
恐れ多くも 俺たちゃ海賊
片目は義眼 片足ゃ義足
五つの大陸 六人の女
七つの海に 八つの災い
殴って泣かせ 奪って殺す
海に捨てりゃ 鮫の野郎が喜ぶぜ
髑髏の旗は 血に飢えて
よだれ垂らして舌なめずり
俺たちの羅針盤に 天国はねえ
面舵いっぱい 進路は地獄よ!