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2008/10/10
水石の山を望み
海泡石の入り江に佇む
条痕の空に浮く白雲母
黒曜石の鳥が舞う
園石に班晶の花が咲き
大理石の彫像
煙水晶の噴水
輝石と電気石の灯がともる
月長石に照らされ
流紋岩の川に霞石は漂う
蛍石を追う猫目石
柘榴石を啄む孔雀石
等軸晶系の瑠璃の教会
血石に染まる十字石
翡翠の泉
瑪瑙の夢
虫入り琥珀の淡き黄昏
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都(みやこ) 水石(すいせき) 望(のぞ)み
海泡石(かいほうせき) 入(い)り江(え) 佇(たたず)む
条痕(じょうこん) 白雲母(しろうんも) 黒曜石(こくようせき)
舞(ま)う 園石(えんせき) 班晶(はんしょう)
大理石(だいりせき) 彫像(ちょうぞう)
煙水晶(けむりずいしょう) 噴水(ふんすい) 輝石(きせき)
電気石(でんきせき) 灯(ひ) 月長石(げっちょうせき)
照(て)ら 流紋岩(りゅうもんがん) 霞石(かすみいし)
漂(ただよ)う 蛍石(ほたるいし) 猫目石(ねこめいし)
柘榴石(ざくろいし) 啄(ついば)む 孔雀石(くじゃくいし)
等軸晶系(とうじくしょうけい) 瑠璃(るり) 教会(きょうかい)
血石(けっせき) 染(そ)ま 十字石(じゅうじせき)
翡翠(ひすい) 泉(いずみ) 瑪瑙(めのう) 虫入(むしい)り
琥珀(こはく) 淡(あわ)き 黄昏(たそがれ)
2008/10/09
女の子と男の子が向き合って
あやとりをして遊んでいる。
女の子の指に赤い糸
「はい、おばあさんの魔法のホウキ」
赤い糸は女の子から男の子の指へ
「おばあさん、クモの糸に引っかった」
今度は男の子から女の子の指へ
「そんなの、カニのハサミでチョッキンよ」
また女の子から男の子へ
「大変だ。落ちたところは天の川」
ふたたび男の子から女の子へ
「吊り橋かけて渡りましょ」
プツンと音立て、糸が切れ、
複雑に絡まった糸と指。
2008/10/08
ここは
雨女の通り道
傘も持たずに
通しゃせぬ
濡れたくなけりゃ
早くお帰り
途中で会っても
知らんぷり
目を合わせちゃ
いけないよ
めそめそ泣いても
いけないよ
同情なんか
もってのほか
濡れるのは
雨のせい
通り過ぎるのを
静かにお待ち
寂しいだけさ
雨女
一緒に虹を
見たいだけ
2008/10/07
よくできた笑い話である。
それを聞いて笑わぬ者はいない。
愚かな者も賢い者も笑い出す。
子供も老人も一緒に笑う。
男だろうが女だろうが、みんな笑う。
いくら聞いても笑ってしまう。
ついつい思い出して笑ってしまう。
おかしくて仕事なんか手につかない。
産業の発達がストップするほど。
恋人は吹き出し、その気になれない。
出生数がダウンしてしまうほど。
昼も夜も、寝てもさめても大笑い。
笑いすぎて、苦しくて、涙が出る。
そして、みんな笑い死んでしまう。
腹を抱えながら、咳き込みながら・・・・・・
こうして多くの文明が滅んでいった。
よくできた笑い話とともに。
2008/10/06
雨上がりの夜空を眺めてはいけない。
夜の虹が架かっているかもしれないから。
「あら、きれいな虹」
「うそつけ。真夜中だぞ」
「ほら、あそこ」
「どこだよ。見えないぞ」
「どうして見えないのよ」
「おい、変だぞ。おまえ」
「あんなに輝いているのに」
「透けてるよ。向こうが透けて見える」
「手を伸ばせば届きそうなのに」
「おい、聞こえてるのか」
「あっ、届いた」
「おい、どこへ行くんだ。おい」
あなたは戻れなくなってしまうだろう。
もしも夜の虹を見てしまったら。
2008/10/05
夜の見知らぬ街角を曲がると、
遠近法に従いつつ街灯が並んでいる。
ほとんど人通りはない。
地蔵を背負った老婆とすれ違うくらいだ。
笑ってしまいたいほど寂しい夜道。
音もなく霊柩車が車道を滑ってゆく。
靴音が重なり合うように響く。
振り返っても、そこには誰もいない。
垣根の隙間から、小さな足が覗いている。
ぶらぶらと揺れて、赤ん坊の足だろか。
だが、あまり気にしてはいられない。
先を急ごう。
帰れなくなってしまう。
低い塀の上に警官が腰かけていた。
俯いているので、顔がよく見えない。
静かに近づき、そっと立ち止まる。
「あの、すみません」
反応がない。
警官の人形だろうか。
「道を教えていただきたいのですが」
警官は静かに顔をあげる。
まだ若い。
その頬は涙に濡れている。
「地図なら交番にあります」
そうであろう。そうに違いない。
「あいにく、本官は迷子であります」
困った。
本当に困ってしまった。
あの霊柩車を止めて、尋ねるべきだった。
なんという暗く寂しい夜道だろう。
この先はもう、街灯さえないのだ。
2008/10/05
真夜中に目が覚めた。
まったく、ひどい悪夢だった。
下着もふとんも汗でぐっしょり濡れていた。
寝室は完全な暗闇であった。
着替えるために立ち上がると、
頭になにか異様なものが当たった。
こんなに天井が低いはずはない。
手で触れてみると、ぬるぬるしていた。
「なめてやろか食ってやろか!」
突然、おそろしい声がした。
「なめてやろか食ってやろか!」
人間の声ではない。妖怪であろう。
「なめてやろか食ってやろか!」
食われたら、死んでしまう。
「な、なめてください」
必死に頼んでみた。
すると、とんでもない笑い声がして
「なめるぞ、なめるぞ、なめまくるぞ」
それから、死ぬほどなめられてしまった。
2008/10/04
あるところに、父のない子がいた。
おとなしくて、じつにやさしい子で
文句も言わず、母の手伝いをするのだった。
「おまえは本当に良い子だね」
母に頭を撫でられるのが、得意であった。
ところがある日、母のない子に非難された。
「おまえなんか、親の良い子でしかない」
それから、良い子でなくなってしまった。
頼まれても、母の手伝いをしなくなった。
どうしたのだろう、と母は心配になった。
だが、母のない子は感心しない。
「そんなの、親の良い子でないだけだ」
それから、悪い子になってしまった。
母を殴ったり蹴ったりするようになった。
あまり痛くなかったが、母は泣いてしまった。
さすがに母のない子は感心した。
「おまえは本当に悪い子だな」
それから、泣く女の背を撫でてやるのだった。
「心配するな。おれが守ってやるから」
2008/10/04
次の患者は幽霊だった。
「先生、どうも具合が悪くて・・・・・・」
若いナースが床に倒れた。
どうやら気絶したらしい。
悲鳴をあげ、みんな逃げ出した。
だが、私は医者だ。
患者を見捨てて逃げるわけにはいかない。
それに、腰が抜けて立てないのだ。
おそるおそる幽霊の手首に触れてみた。
冷たかった。やはり脈はなかった。
はだけた胸に聴診器を当ててみた。
「息を吸って、止めて、はいて・・・・・・」
生臭いにおいがしただけだった。
「いつから具合が悪いのですか?」
「亡くなるちょっと前から・・・・・・」
どうやら自覚しているらしい。
死を宣告しても無駄なようだ。
「どんな具合に悪いのですか?」
「なんとも、死にきれないくらい・・・・・・」
ふざけているのだろうか。
「舌を見せてください」
腐乱していた。見なければよかった。
どうにも手のほどこしようがない。
「お気の毒ですが、もう手遅れです」
「先生・・・・・・」
うらめしそうな顔をするのだった。
2008/10/03
玄関の扉が開いた。
「ようこそ、いらっやいませ。
どうぞこちらへ」
女に案内され、奥へ進む。
長い廊下の左右の壁に絵が飾ってある。
絵はともかく、額縁は立派なものだと思う。
「外套をお預かりします」
女に外套を手渡したところで
廊下に裸で立っている自分に気づく。
裸の上に外套を着ていたのだろうか。
「君、名前は?」
女は振り返り、にっこり笑う。
「召使いのサリー、と申します」
ごく自然な若い女の表情である。
きっとサリーは、裸の男なんか
うんざりするほど見飽きているのだろう。
「主は元気かね?」
「旦那様は、ご病気でございす」
「まだ息はあるのかな?」
「昨日の朝からあるかなしかと存じます」
「脈は?」
「さきほどまでございました」
「すると、今は?」
「わたくしの、この透けるような細く白い指が
旦那様の老いさらばえた醜い手首に今、
わずかなりとも触れておりませんので
なんとも察しようがありません・・・・・・」
「なるほど」
廊下が終わり、階段を上り始める。
召使いサリーのスカートの丈は短い。
ちょっと短すぎるのではないか、とさえ思う。
「で、奥方は?」
「奥様は、荒縄で縛られております」
「誰に?」
「旦那様でないとすれば、わたくしにでしょうね」
「あの丈夫な手錠は?」
「今朝方でしたか、壊れた、と聞いております」
「信じられないな」
「信じてくださらなくても結構でございます」
階段が終わると、さらに廊下が続いていた。
左右の壁にたくさんの鏡が並んでいる。
それぞれ別の表情が見える仕掛けだ。
「確か猫がいたね?」
「さっきまで鳴いていやがりました」
「どんな鳴き声だっけ?」
「まあ、そんな。
とても恥ずかしくて口にできませんわ」
「そういうものかね」
「そういうものでございますとも」
「それはまた、残念だね」
廊下は緩やかにカーブを描き始める。
まるで少しずれた合わせ鏡のようである。
「きれいな娘さんがいたよね?」
「お嬢様は、それはそれは美しい方でございます」
「もう結婚したのかな?」
「いいえ、まだなんですよ」
「好きな人はいるのだろうか?」
「さあ、どうでしょう」
「彼女の名前、なんといったけ?」
「サリーお嬢様、と申します」
「なるほど」
曲がる廊下が曲がりきれなくなる頃、
さりげなく目の前に扉が現れる。
その扉をサリーが開ける。
前に進むと、背後で音を立てて扉が閉まった。
冷たい風が吹いている。
枯れ葉や野鳥が斜め下に落ちるのが見える。
見上げれば、寒々とした冬の空。
ここは屋外なのだった。
外套を預けたまま庭に出てしまったのである。
まったくサリーには困ったものだ。
振り返ると、そこに扉はなかった。
玄関も窓もない。
なにしろ屋敷がなかった。
まったくなんにもないところに
ひとり裸で立っていた。
そして、遥か遠くに見える木の枝に
引っ掛かっているのは外套なのだった。
「まったくもう、サリーときたら。
・・・・・・ヘ、ヘックション!」