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Tome館長

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  • つぶやき

    2008/11/04

    変な詩

    こんなとこに夜が隠れている


    涙がコロコロ転がるうぶ毛の大地


    夕暮れの底に沈んでゆく群衆


    きっと僕たちはまちがっている


    蝶のことは蝶にまかせておこう


    眠ってしまったカタツムリ


    見てしまった夢はしかたない


    ただつぶやいてみただけ
     

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    • Tome館長

      2012/07/15 21:27

      ケロログ「しゃべりたいむ」かおりさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2012/07/09 21:01

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 蝶の沖合

    濡れた靴下を脱ぎ捨てて
    波に揺れる夕暮れの海面を

    ひたひたと裸足で歩いていたら

    まるで霧に包まれたように
    無数の蝶の群に囲まれてしまった。


    こんな遥か沖合まで
    あたりまえのような顔をして

    歩いてきたりしてはいけなかったのだ。


    途中で沈むとか溺れるとか
    せめて泳いでみるとか

    そういうことをすべきだったのだ。


    まあ、いまさら遅いけど。


    それにしても
    こんなふうに蝶の群に歓迎されたら

    そんなに悪い気はしない。


    このまま夜になってしまえば
    きっと蝶の群は蛾の群となるだろう。


    やがて水平線から朝日が昇れば
    びっしりと海面に敷き詰められた

    美しく眩い銀色の絨毯になるはずだ。


    そんな優雅な絨毯の上で
    ゆらゆら波に揺られてのんびりと

    いつまでも眠っていられたら
    ちょっと素敵な気がする。
     

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  • 暖炉の前

     
    赤々と燃える暖炉の前、
    男の子と女の子が遊んでいます。


    「シュッシュ、ポッポ、シュッシュー」
    「ああ、やっと汽車が入ってきたわ」

    「プシュー、プシュー」
    「さあ、これから遠くへ旅立つのだわ」

    「お嬢さん。お荷物をお持ちしましょう」
    「あら、素敵な方。どうもありがとう」

    「いいえ、どういたしまして」

    「あなたもひとり旅ですの?」
    「そうかもしれません。そうでないかも」

    「どちらまで?」
    「お嬢さんと同じところまで」

    「あたくしの行く先をご存じなの?」
    「知りません。でも同じなのです」

    「あたくしは終着駅まで行くわ」
    「では、僕も終着駅まで」

    「そこからバスに乗るの」
    「だったら、僕もバスに乗る」

    「残念ながら、ひとり乗りのバスなの」
    「ひとり乗りのバスなんてないよ」

    「世界に一台だけ、そこにあるの」
    「そのバスの運転手、じつは僕なんだ」

    「ああ、そうくるわけね」

    「お嬢さん。そろそろ出発しますよ」
    「すると、この汽車の運転手もあなたね」

    「シュッ、シュッ、シュッシュッシュッシュッ」
    「あたくし、次の駅で降りますわ」

    「ポッポー!」
     

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  • 脱 皮

    深夜、ひとり居間で
    その家の娘が脱皮をしていた。

    蛍光灯に照らされ、
    娘の体は小刻みに震えていた。


    白い背中がめりっと縦に裂け、
    割れ目から新しい皮膚が覗いている。

    娘の脱皮に気づいた父親は
    入口の前で立ち尽くしてしまう。


    娘は裸のまま泣いているようであった。

    折れそうなほど背骨を曲げなければ
    古い皮を脱ぐことはできないのだ。

    親は娘の脱皮を手助けしてはならない。

    それが暗黙の決まりになっていた。


    新しい皮膚は血のように赤く生々しく、
    見るからに痛々しい感じがするのだった。

    娘の自慢の黒髪が汗で濡れ、
    悩ましく揺れていた。


    かすかに軋む音を耳にして
    あわてて娘が振り向く。

    「・・・・・・誰?」


    いつしか父親は柱にしがみつき、
    醜いサナギになっていた。
     

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  • 大 砲

    2008/11/02

    暗い詩

    じつに立派な大砲である。
    太くて長くて黒々と光っている。

    大砲は二つの車輪の上に乗っており、
    牛馬で引いて移動することができる。


    その大きな二つの車輪のどちらにも

    頭と手足が正五角形になるような状態で
    若い女が鎖で縛りつけられている。


    敵国の皇族の姉妹だということだが

    破れた皮衣を着せられているだけで
    その白い両脚はむき出しになっている。


    今は車輪の上の位置に彼女たちの頭があり、

    豊かで長い髪が垂れ下がっているために
    彼女たちの顔を見ることはできない。

    だが、弾丸が発射されると

    その反動で大砲が後退し、
    いくらか車輪が回転するため

    彼女たちの美しい顔を見ることができる。


    そうやって顔を見ることはできるが

    いくら続けて弾丸が発射されても
    彼女たちの悲鳴を聞くことはできない。


    それが彼女たちに残された唯一の抵抗、
    あるいは誇りであるらしい。
     

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  • 台所の鬼

    2008/11/01

    変な詩

    とある家庭の台所の風景である。


    異国の人形を大きくしたような少女が
    手前の調理台の上に仰向けに寝かされ、

    サラダ油か桃の缶詰の汁かわからないが
    びしょ濡れで天井を見上げて泣いている。


    その奥にはステンレスの流し台があり、
    まだ洗ってない食器が山盛りになっている。

    さらに奥にある明り取りの窓からは
    恐ろしい顔の鬼が台所の中を覗いている。


    調理台の真下の汚れた床の上には

    料理の道具ではないような気がするが
    殴られたら死にそうな金棒が転がっている。


    ハエが一匹、少女の上を飛んでいるが

    あまりたくさんのハエが飛んでいないのは
    おそらく鬼の顔が怖いからだろう。
     

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  • 空の手ざわり

    視界の下半分に大空が広がり、
    私は雲ひとつない青い空を歩いている。

    視界の上半分を大地が覆い、
    私の頭上、逆さまになって浮いている。


    遠い山があり、近くには家もある。

    近くといっても、とても高い。
    いくら飛び跳ねても手は届かない。

    あんなに高くて、しかも逆さま。
    もう家には帰れそうにない。

    山羊も川の水も落ちてはこない。
    つまらない期待などしない方がいい。


    立ち止まって、私はひざまずく。

    そっと両手を足もとに伸ばしてみる。

    いかにも空の手ざわりがする。
     

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  • 倉庫の床

    縛られ、倉庫の床に転がされている。

    コンクリートの床の冷たさとかたさは 
    ああ、拉致されているんだなあ 
    という感慨で私の胸を一杯にさせる。

    肩から足首まで焼き豚のように縛られ 
    さらに両手に手錠までかけられていながら 
    猿ぐつわを口にはめられていないのは 

    ここが、大声で救いを求めたとしても 
    救助される見込みのない僻地であることを 
    露骨に暗示している、ように思われる。

    見張りはいない。私ひとりきりだ。

    見上げると、倉庫の高い天井に
    一匹のコウモリがぶら下がっている。

    まさかあれが見張りとは思えない。

    ときおり遠い汽笛のような音がするのは
    窓の隙間から風が入るためだろう。

    曇りガラスなので屋外の景色は見えない。

    なんとかすれば立ち上がれそうだが 
    なんとなく立ち上がる意欲が湧かない。

    縛られ、倉庫の床に転がされているのも 
    そんなに悪くない、ような気がする。
     

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    • Tome館長

      2014/09/05 10:06

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2011/05/06 12:17

      ケロログ「しゃべりたいむ」かおりサンが朗読してくださいました!

  • 姿 見

    2008/10/30

    暗い詩

    嫁入り道具の箪笥に貼りついた姿見が
     ある朝、めりめりと音を立てて剥がれ、

       戦場で消息が途絶えたはずの夫が現われる。


    割れた硝子の破片が女の手首に突き刺さり、
     手首から床に垂れ落ちる血を女は見詰める。

       それを夫も表情のないまま見詰めている。


    ねじ切れそうなくらいに首をねじ曲げ、
     女は項垂れたまま窓から曇り空を見上げる。

       醜くなるほんの手前まで歪んだ美しい顔。


    やがて女の悲鳴が陰々と響き始める。
     

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  • 水面の神話

    まず最初に、水面があった。
    それは厚さのない鏡であった。

    水面には表裏の区別はなく、
    そこに姿を映す者はいなかった。

    音も光もなんにも存在しないので
    やがて水面はいたたまれなくなった。

    わだかまりが生まれ、
    悶え、歪み、乱れ、

    ついに水面に波紋が広がった。


    限界を超えた水面は千切れ、
    あるいは泡、あるいは雫となった。

    表裏の区別がないため
    泡と雫の区別もなかった。

    それらは光となり、
    また闇となった。


    やがて光は星屑となり、
    闇は神話となったのである。
     

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