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2008/12/15
近所の池で釣りをしていた。
まったく当たりがなく、
そのまま眠ってしまったらしい。
魚になった夢を見た。
気ままに水中を泳いでいて
うまそうな虫がいたので飲み込んだ。
途端、針が刺さったような鋭い痛み。
そこで目が覚めた。
引いてる。
竿を握り締める。
やっと魚が釣れた。
と思ったら、水死体だった。
どことなく見覚えがある。
そうだ。
こいつは、俺ではないか。
すると、釣っているのは誰だ?
どうも、まだ眠っているらしい。
2008/12/14
廃墟を走っている。
荒涼としたモノクロの迷路。
崩落したアリの巣を連想させる。
働きアリはどんな気持ちで走るのか。
そんなつまらない疑問が浮かぶ。
きっと走るしかないから走るのだろう。
ともかく、廃墟を走っている。
生き残るために競走している。
ある定められた過酷なコースを
速く走り抜け、
早くゴールインすることで
生きるか死ぬか決まってしまう。
途中、競争者を蹴落としてもかまわない。
実際、あちこちから石が飛んでくる。
腹が立ち、あちこちへ石を投げ返す。
石はいたるところに落ちている。
いにしえの建物から崩落したものだ。
やがて、走るどころではなくなる。
殺し合いになる。
珍しくもない。
いつものパターンだ。
ゴールがあることなど忘れてしまう。
つまるところ
競走者がいなくなればいいのだ。
とりあえず、それで問題は解決する。
それが主催者側の望む結果でもある。
あるいは、これは夢かもしれない。
うすうす気づいてはいるのだが・・・・・・
しかし、今すぐに目を覚ましてはいけない。
なぜなら、このまま目を覚ますと
意識が現実へ去った抜け殻の自分が
競走者の手で殺されてしまうから。
なぜか、それはどうしても
避けなければならないことのような気がする。
悪夢のような廃墟を走りながら
手ごろな石が落ちてないか必死に探す。
不思議なことに
あえて探そうとすると
なかなか手ごろな石は見つからないものだ。
2008/12/13
「おとなり、息子さんがいたでしょ?」
「ええ、タカシ君だっけ」
「昨日、ノラ娘に襲われたんですって」
「まあ、怖い」
「お尻を噛まれたらしいの」
「それだけで済んだの?」
「教えてくれないの。恥ずかしいんでしょ」
「最近、多いわね。ノラ娘の被害」
「だって、裸で歩きまわるんですものね」
「うちの子も心配だわ」
「まだケン君は小さいじゃないの」
「ううん。エリコの方よ」
「エリちゃんがノラ娘に?」
「そう」
「まさか」
「本当よ。あれ、生えてきたみたいなの」
「尻尾が? 見たの?」
「見てないけど、下着姿でわかるの」
「まあ、大変」
「だからもう、心配で心配で」
「保健所には連絡したの?」
「まさか」
「手遅れになったら、悲惨よ」
「だって、殺されちゃうかもしれないし」
「それは最悪の場合よ」
「でもね、親としてはどうも」
「いやなら、私が連絡してあげるわよ」
「あら、本当?」
「しかたないじゃない。お互い様よ」
「うれしい。助かるわ」
2008/12/12
体調が悪い。
だるくてしかたない。
歩くことすら困難に感じられる。
ふと、なにか落ちたような音がした。
歩道には枯葉がたくさん落ちている。
よく見ると、小さな歯車が転がっていた。
なかなか精巧な歯車だが、錆びている。
それを拾い、ポケットに押し込んだ。
再び歩く。
ますます調子が悪い。
歩道がねじれて見える。
宙を舞う枯葉。
犬が空を飛んでる。
街路樹が歩いてる。
またまた、なにか落ちた音がした。
なぜか歩道は頭の高さにあった。
見上げると、小さな歯車が転がってる。
やはり精巧な錆びた歯車。
やれやれ、なんなんだ。
これも拾って、ポケットに押し込んだ。
さらに歩こうとしたのだが、もう歩けない。
歩道がカーブを描いて脇腹に刺さっている。
あわててポケットから歯車を取り出した。
二個だけではない。
いくつも出てくる。
それら歯車を錠剤のように飲み込む。
いくらか調子が戻ったように感じられた。
天へ垂直に立つ歩道。
枯葉が滑り落ちる。
空が細い川になって両足の間を流れてる。
またもや、なにか落ちた音がした。
うんざりしながら足もとを見下ろす。
今度は歯車ではなかった。
やや安心する。
やはり錆びてはいるが、精巧なバネだった。
2008/12/11
世界中から集めた美女が千人。
姿かたちが美しいの、表情が豊かなの、
愛嬌があるの、気品があるの、麗しいの、
賢いの、愚かしいの、アートなの、
幼いの、純情なの、生意気なの、
年増なの、艶かしいの、変態なの、
悪女なの、どうにも手がつけられないの、
歌手なの、女優なの、ダンサーなの、
女学生なの、ナースなの、女教師なの、
巫女なの、尼なの、未亡人なの、
酔ってるの、狂ってるの、サイボーグなの、
獣なの、妖精なの、幽霊なの、妖怪なの、
原始人なの、異星人なの、異次元人なの、
仙女なの、天女なの、女神なの、
もうなにがなんだかわからないの・・・・・・
ありとあらゆる美女を集めた。
それが私の夢のハーレム。
当然、このハーレムの主は私だが、
私は怖くては入れない。
2008/12/10
「地下室への入口よ」
廊下廊下廊下廊下廊下
階段
階段
階段
階段
階段
階段
階段
「暗いから、気をつけて」 踊り場
階段
階段
階段
階段
血 階段
血 階段
死 体 階段
床床床血血血血床床床
「きゃあああああ!」
2008/12/09
カラスの鳴き声で眠りから覚めた。
かなり近くでカラスは鳴いている。
いつも私は頭を窓に向けて寝るのだが
カラスは外のベランダにいるらしい。
スズメやハトならともかく
なぜカラスがこんな近くにいるのか。
寝たまま考えるのだが、よくわからない。
眠りから覚めても目は閉じたままだった。
仰向けに寝ているのだが
まるで起きる意欲が湧かないのだった。
すでに夜は明けているはずだが
それでも網膜に薄暗く感じられるのは
カーテンが窓を覆っているからだろう。
さきほどまで夢を見ていたはずだが
その内容はどうしても思い出せない。
そういえば、昨日なにをしたのか
それさえ思い出せないのだった。
ふと、異臭がするのに気づいた。
肉が腐っているような臭いだった。
ベランダに猫の死体でもあるのだろうか。
だから、ベランダにカラスがいるのか。
寝たままでは確信など持てなかった。
そろそろ起きなければいけない。
社会人として許されないことであり、
体にとっても寝すぎるのは好ましくない。
どうすれば起きることができるのか
仰向けに寝たままで私は考えてみた。
まず寝返りを打って、うつ伏せになり、
膝を突き、尻を持ち上げた姿勢になれば
もう素直に起きた方が楽になるはずだ。
けれども、理屈はそうなのであろうが
最初の寝返りさえ、私は打てないのだった。
あいかわらず目も開けることができない。
カラスの鳴き声さえ気にしなければ
あたりは信じられないくらい静かだった。
家人の足音も、扉が開閉する音も
近所の奥さんの笑い声も聞こえなかった。
私自身の息や鼓動の音さえ聞こえなかった。
カラスは一羽ではないような気がした。
二羽か三羽か四羽か五羽か六羽か
あるいは、もっといるかもしれなかった。
その生きた心地のしない不吉な声が
寝たままで動けないわたしの体を覆っていた。
耳を塞ぎたくても、指さえ動かせなかった。
あの肉の腐ったような臭いが
ますます強く感じられてくるのだった。
2008/12/08
寺の小僧が指を立て、大声で叫んだ。
「鬼ごっこするもの、この指とまれ!」
すぐにいろんなのが集まってきた。
妙に鼻が高いの。
手に水掻きがあるの。
角を生やした鬼の子までやってきた。
とりあえず、この鬼の子が鬼になった。
「鬼さんこちら、手の鳴るほうへ」
オカッパの女の子が囃し立てた。
すぐに鬼の子は女の子を捕まえた。
「鬼さん、遊びよ。食べないで」
でも鬼の子は、やっぱり鬼の子。
真っ赤な顔して食べちゃった。
2008/12/07
女房もらうんなら掃除好きに限るな。
ホコリ溜めねえで金を貯めるってもんだ。
うちのなんかもう掃除好きで大変だぜ。
よそでホコリ見つけると懐かしくなるよ。
しかも耳掃除ときたらもう天下一品だね。
まず、あいつの膝枕に頭のっけるだろ。
あの耳かき棒がぐいっと突っ込まれるね。
耳の穴の奥をぐりぐり掻きまわされてな。
脳ミソをくすぐられてるような心地よさよ。
もう口の端からよだれが垂れちまうよ。
おれの親父なんか小便まで垂らしやがった。
それにまた、耳クソの出ること出ること。
どこからこんなに出るのか信じられねえぜ。
終わると、頭が軽くなって浮いちゃうよ。
そりゃ冗談だけどさ、そんな感じだよ。
どうだ、おまえ。うらやましいだろうが。
それでな、おれにいい考えがあるんだ。
あいつに耳掃除屋をやらせるわけよ。
つまり、客の耳の穴を掃除する商売さ。
いや、本当だって。絶対に儲かるって。
あの耳掃除を途中でやめられてみな。
こりゃもう確実に身もだえもんだよ。
大枚はたいても続けて欲しくなるって。
なんなら、おまえが最初の客になりなよ。
どうだ。なんとも耳寄りな話じゃねえか。
2008/12/06
夕暮れが迫っていた。
急がねば。
村はずれに首切り地蔵が祭ってある。
罪もなく打ち首にされた村人の慰霊だ。
道の真ん中、地蔵の首が落ちていた。
気味悪いが拾い上げ、戻そうとした。
だが、首切り地蔵の首はちゃんとついてる。
慈愛の表情。
あわてて首を投げ捨てた。
ますます暗くなってきた。
急がねば。
まもなく足引き池の横を通ることになる。
池に近づくと、足を河童が引き込むという。
その澱んだ水面から腕が二本突き出ていた。
顔も出ていた。
だが、河童ではなかった。
それは村の子だった。
見覚えがある。
そのまま引き込まれるように池に沈んだ。
すっかり日も沈んだ。
とにかく急がねば。
ぼんやり遠く、身投げ橋が見えてきた。