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2009/01/11
犬のたまごを買ってきた。
一晩抱いて暖めたら、生まれた。
かわいらしい小犬だった。
水を飲ませたら、大きくなった。
顔をベロベロなめられた。
朝から晩まで一緒に遊んだ。
なのに翌朝、犬は死んでいた。
床は水びたしだった。
説明書どおり。悲しかった。
誰か、なぐさめてくれないかな。
たまご屋へ、また行かなくちゃ。
なにを買うか、もう決まってる。
そう、おねえさんのたまご。
2009/01/11
緑豊かな森の風景を想い描く。
森閑とした空気。
揺れる木漏れ日。
蛇のような細い道はけもの道。
ひとりで私が森の中を歩いている。
それだけ。
なんということもない。
あるいは幼い頃の記憶かもしれない。
ところで、
誰かが幼い私を見ている。
そんな記憶はまるでないが、
幼い私を見る者が仮にいたとする。
そいつは木立に隠れて見つめている。
身動きせず、
じっと黙って覗いている。
その視線に幼い私は気づきもしない。
繰り返すが、
そんな記憶は全然ない。
しかし、
それにしてもである。
そいつはいったい何者なのだろう。
2009/01/10
さあ、過去に戻ったよ。
そろそろ着くからね。
もうかなり移動したよ。
意外だったかな。
ほら、どんどん過去に移動しているね。
驚いたかい?
でも、すでに移動しているんだよ。
信じられないのかい。
本当さ。嘘じゃない。
誰でも自由に時間を移動することができる。
大丈夫だよ。
君も一緒に移動するんだ。
さあ、過去へ時間を移動してみよう。
ここから上へ上へと、さかのぼってごらん。
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2009/01/09
さびしい辺境の惑星にひとり暮らし。
夜空に撒き散らされた星くず模様が
まるで部屋の壁紙のように見えるのは
孤独のために感覚が歪んでいるからだ。
にぎやかな鳥のさえずりさえ聞こえる。
きっと幻聴だろう。
この星に生き物はいないのだから。
突然、玄関のチャイムが鳴る。
勿論、ドアを開けたりはしない。
「はい、なんでしょう?」
「星くず新聞ですが」
「新聞はとりません」
「今なら、ビール券を差し上げてますが」
「新聞は読まないと決めているので」
「そうですか。失礼しました」
やれやれ。
あっさり引き下がってくれた。
いつもこれくらいなら
深刻に悩む必要もなくて、助かる。
みだりにドアを開けてしまって
もし新聞の勧誘員の姿が見えたりしたら
きっと断るのが大変だったはずだ。
2009/01/08
美しい顔を歪め、派出所に女が駆け込む。
「た、助けてください」
真夜中の派出所には、若い警官がひとり。
「どうなされました?」
「お、追われているんです」
歩道に出て、警官はあたりを見まわす。
「誰に?」
人気のない寂しい通り。
「鏡に、追われているんです」
「ははあ、鏡ですか」
「そうです。鏡です」
ため息をつき、警官は胸のボタンをはずす。
「その鏡というのは」
たくましい胸に埋められたもの。
「こんな鏡ですか?」
警官の胸に映る、女の歪んだ顔。
2009/01/07
とりあえず拾ってきちゃった。
「ほら、なんか喋ってごらん」
「おねえさん、きれいだね」
へえ、よくしつけられてるじゃない。
「おまえ、捨てられたの? 飼い主は?」
「・・・・死んじゃった」
いいねいいね。泣かせるね。
「おまえ、おなかすいてる?」
「うん」
「これ、食べる?」
「いらない」
「どうして?」
「だって、へんなにおいがするんだもん」
もちろん、すぐに捨てたわよ。
2009/01/06
どこにも敵はいないのだった。
のどかな小さな村があるばかり。
そよ風とうららかな日差しがふさわしかった。
それでも、なぜか軍隊があるのだった。
百人の兵士と十台の戦車を有する
なかなかたいした軍隊であった。
ところが、敵がいないのだった。
どうにも格好がつかないのだった。
「敵を探せ!」
隊長の命令は絶対だった。
百人の兵士たちは必死に敵を探した。
「納屋の奥にムカデが一匹いました」
「やっつけろ!」
さっそく十台の戦車が出動した。
ムカデはともかく、納屋は完全につぶれた。
「ムカデの基地を壊滅しました」
「ご苦労であった」
村人たちは迷惑でしかたないのだった。
敵は、むしろ軍隊なのだった。
2009/01/05
彼女、死んだ真似がとてもうまい。
白目むいて、公園で倒れていたりする。
わざと服装を乱して、下着とか見せて。
または、街路樹の枝で首を吊るとか。
遺書まで用意して、足下に置いたりする。
真に迫っていて、誰でも騙されてしまう。
慌てる人々の反応をこっそり楽しむのだ。
それが彼女の趣味。迷惑この上ない。
町内では知らない人がいないほど有名。
まだ若いけど、彼女は主婦をやってる。
さすがに彼女の家族はもう慣れっこだ。
最近、家で死んだ真似をしなくなった。
「あっ、ママがまた死んでる」
反応が冷たいからだ。
死に甲斐がない。
本当に死んでやろうか、と思ったりする。
だけど、それだけはできないな、と思う。
「あっ、失敗して本当に死んじゃった」
そして、死ぬほど笑われるのだ。
2009/01/04
霊柩車が黒猫を轢くと
車中の仏が生き返る。
水中に潜って呼吸を止めていると
あまり長生きできない。
貧乏人に情けをかけると
借金を申し込まれる。
朝、クモを見て殺さないと
夜、クモの巣が張られている。
同一人物が出会ったら
先に目をそらした方が消える。
ひどいことをした仕返しに殺されそうになったら
そこで殺せば正当防衛が成立する。
右頬を叩かれたら
左頬も叩かれないと顔がゆがむ。
もの凄い勢いで男女が正面衝突すると
互いの意識が入れ替わる。
生前に親の首を絞めると
親の死に目に会える。
夢から目覚める夢を見ると
永遠に夢から目覚める夢を見続ける。
2009/01/04
特殊光学ガラスが開発されました。
光の透過速度が極端に遅い特殊ガラスです。
入った光がなかなか出てこないのです。
これは画期的な発明です。
ガラスの前に立ち、急いで裏側にまわると
誰もいないはずの向こう側に人の姿が見えます。
こちら側にまわり込む前にいた自分の姿です。
よりガラスが厚ければ
向こう側に立つ場面から見ることも可能でしょう。
鏡に加工すれば、一枚でも時間差で
自分の後頭部を見ることができます。
両目を閉じた自分の顔も見ることができます。
原理からすると、将来的には
より透過速度の遅いものが作られるそうです。
光の透過に半日かかる窓ガラスが開発できれば
家の中から見える外の景色が昼夜逆転します。
想像するだけでも楽しいですね。
さらに開発は進められており、
より広範な応用が期待されています。
過ぎ去った歴史的場面を
窓ガラス越しに見ることも
あながち夢ではないかもしれません。