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Tome館長

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    Works 3,356
  • いにしえの音

    2011/06/25

    切ない話

    いにしえの廃墟から出てきたものは
    金属の板が大きさの順番に並べられていた。

    棒切れで叩くといろいろな音がするので
    音で意味を伝える道具に違いないと思った。

    少なくとも、食べ物でないことだけは確かだ。


    「腹へった」

    弟の口癖だった。

    「ここに保存食はないぞ」
    「そうだね」

    金属の板を叩いても
    秘密の扉が開くはずもなかった。

    「あっ、おもしろい。
     今の音、どうやったの?」

    「ええと、こうだったかな」
    「あっ、それそれ。ちょっと貸して」

    棒切れを弟に渡す。

    「あはっ。おもしろい」

    しばらく弟は叩き続けた。


    「おい。そろそろ行くぞ」
    「うん。そうだね」

    ちょっと残念そうな弟の声。

    でも仕方ない。
    日暮れ前に食べ物を見つけなければ。


    いにしえの廃墟を出ても
    どこまでもどこまでも廃墟は続いている。
     

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  • はりつけ

    2011/06/22

    ひどい話

    彼女は磔にされた。

    十字架の上に釘で手足をとめられ、
    裸のまま商店街を運ばれてゆくのだった。


    (せめて腰布くらい巻いてほしいな)

    年頃の彼女はそんなことを思うのだが
    それを口にするのはためらわれた。

    なにしろ、彼女は罪人なのだから。


    途中、アーケードの通路の幅が狭いために
    十字架の端が店先の看板に当たってしまう。

    「おい、気をつけてくれよ!」

    八百屋の親父に怒鳴られたりする。

    そのたびに彼女は謝らなければならなかった。

    「すみません。どうもすみません」
    「ふん、いい気なもんだね」

    憎まれ口をたたかれたりする。


    商店街を通り抜け、駅前通りの横断歩道を渡り、
    駅前広場の噴水の池のほとりまで運ばれ、
    そこに十字架は下ろされた。

    「さて、どうやって立てるね」
    「さてさて、どうしたもんかね」
    「どうやら適当な穴もなさそうだな」

    地面に置かれた十字架を見下ろしながら
    それを運んできた男たちが相談を始めた。
     
    「あの、いかがでしょう。
     そこの噴水の像に縛ってみては」

    おそるおそる彼女は提案する。

    「ああ、あれか」
    「ああ、あれね」
    「なるほど。うん、あれでいいな」

    快く同意が得られ、彼女はホッとする。


    ふたたび十字架は男たちによって持ち上げられ、
    放尿し続ける子どもの像を杭がわりとして
    噴水の池の中央に高く立てられた。

    「ちょっと傾いてるかな」
    「いいよ。これぐらいなら」
    「うん。なかなか立派なもんだ」

    男たちは仕事に満足し、
    さっさと引きあげてしまう。


    こうして十字架が立てられた結果、
    釘でとめられただけの手足にもろに体重がかかる。

    そのあまりの痛みのために
    彼女は気が遠くなるのだった。

    もしも悪い夢を見ているのだとしたら
    この痛みの意味をどう説明すればいいのだろう。

    彼女には説明できないのだった。

     
    どれくらいの時が過ぎたろう。

    ふと目を開くと、
    学校帰りの小学生たちが彼女を見上げていた。


    「悪いことをした女なんだって」
    「やっぱりね」

    「きっといやらしいことをしたんだ」
    「どんなこと?」

    「さあ、知らないけど」
    「校長先生の頭を舐めるとか」

    「うわあ。それ、すっごくいやらしい!」


    子どもは勝手なことばかり言う。

    彼女は泣きたくなってきた。

    ひとつも悪いことなんかしてないのに。

    いやらしいことだって
    なんにもしてないのに。


    実際、彼女はなにもしていないのだった。
    ところが、それが彼女の罪だと言うのだ。

    十字架上の彼女はただ泣くことしかできず、
    なんとも情けない噴水なのだった。


    やがて、日が暮れた。

    会社帰りのサラリーマンが十字架を見上げる。

    「もったいないなあ」

    わざと彼女の耳に届くように嘆く。

    でも、彼女には聞こえていないようだ。


    十字架が浮かび上がる夜空には
    月も星も、それこそなんにも見えないのだった。
     

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  • 酔えないの

    2011/06/21

    愉快な話

    人、酒を飲む。
    酒、酒を飲む。
    酒、人を飲む。


    しかし、彼女に限っては
    まず酒に飲まれることはあるまい。

    彼女は酔えない体質なのだ。


    「誰か、なんでもいいから、あたしを酔わせて!」

    すると神が、彼女の前に姿を現した。

    「酒で駄目なら、恋ではどうじゃ?」
    「どうじゃ、って?」

    「こうじゃ」

    絶世の美男子、美女、美少年、美少女、美幼児、
    さらには美しい人形まで、ぞろぞろ床から生えてきた。

    困惑気味な彼女の体に馴れ馴れしくまとわりつく。


    「どうじゃ?」
    「まあまあだけど、どれも長持ちしそうにないわね」

    「ええい、それならば」
    「ちょっと待って」

    彼女は醒めた目で神を見返した。

    「あたし、神にも酔えないの」
     

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  • ピアノの言い訳

    2011/06/20

    愛しい詩

    わたしがピアノを弾いていると
    あなたが必ずいやらしいことをするので

    わたしはとても困ってしまいます。


    ですから、あなたがピアノを弾いていると
    わたしもついあなたにいやらしいことをしてしまい、

    それについては申しわけないと思っています。


    でも、わたしがピアノを弾いていないと
    あなたはわたしになんにもしてくれません。

    ですから、あなたがピアノを弾いていないと
    わたしもあなたになんにもしないのです。


    どうして、わたしたちはピアノを弾いていないと
    なんにもできなくなってしまったのでしょう。
     

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  • 眠れない子守唄

    2011/06/18

    暗い詩

    とても意地悪な継母が

    とても大きな鎌を研ぎながら

    とても落ち着かない僕の枕元で

    とても奇妙な子守唄を

    とても嬉しそうに 歌っています。



    とても眠れそうにありません。
     

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    • Tome館長

      2012/11/28 23:33

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2011/06/18 09:39

      ケロログ「しゃべりたいむ」かおりサンが朗読してくださいました!

  • 山の細道

    2011/06/16

    愉快な話

    夕焼け空に
    カラス鳴く。

    山の細道、
    鬼が出る。

    金棒くらって
    飛び出る目玉。

    ころころ転がり、

    ウサギの巣の
    穴の中。

    ウサギが顔出し、
    問いました。

    金の目玉と銀の目玉、

    あなたの目玉は
    さて、どちら?
     

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  • 高みの見物

    2011/06/15

    変な詩

    高みの見物しておられる方々を 
    こうして低みから見物しておりますと 

    どんなに偉そうなこと 
    いくら申しておりましても 

    地に足ついていらっしゃらないの 
    よくわかります。
     

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  • 狐の嫁入り雨

    光のどけき春の日に

      雨が降ります
       雨が降る


    涙の雨ではあるまいか

      いえいえ あれは
       狐の嫁入り


    人に見せてはなりませぬ

      見せてはならぬ
       花嫁御陵


          ほれ 虹が
     

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    • Tome館長

      2013/05/31 16:15

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

    • Tome館長

      2012/11/26 22:40

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • タカシくん

    あのね、タカシくん」
    「なーに? 先生」

    「タカシくん、この問題とける?」
    「えーと、ちょっと待って」

    「待つわよ、タカシくん」
    「うーん。難しいな」

    「がんばってね、タカシくん」

    「もしかして、反転するのかな」
    「タカシくん、いけないわ」

    「だって、ここが交点だもん」
    「でもね、タカシくん。そこは」

    「わかった! 角をニ等分するんだ」
    「タカシくん、すごいわ」

    「それから、この分母を求めて」
    「そうよ。そこよ、タカシくん」

    「エックスに代入すればいいんだ」
    「すてき。すてきよ、タカシくん」

    「どう? 先生」
    「すごい、すごいわ。タカシくん」

    「先生」
    「タカシくん」

    「先生!」

    「あら、どうしたの? タカシくん」
    「先生こそ、どうしたの?」

    「なんでもなくてよ、タカシくん」

    「先生、いつも僕の名を呼ぶんだね」
    「いけないかしら、タカシくん」

    「ううん。僕、うれしいけど」
    「先生もよ、タカシくん」
     

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  • 聴かないで

    2011/06/07

    愛しい詩

    お願い。
    聴かないで。

    私の声を聴かないで。

    ああ、やめて。
    そんなに耳をそばだてないで。

    とっても恥ずかしいの。
    とってもとっても、恥ずかしいの。

    でも・・・・・・


    私、本当は聴いてもらいたい。

    私の声、恥ずかしいけど、
    あなたに聴いてもらいたい。

    でも、聴かれたくない。
    なのに、こんなに聴かせたい。

    声って、いったいなんなの?


    ああ、ダメだったら。
    そんなに真剣に聴かないで。

    なんにも言えなくなっちゃう。
    なんにも・・・・・・


    でも、違うの。
    なにか違う。

    そうよ。

    私が伝えたいのは
    声なんかじゃない。

    聴こえない声。
    声にならない声。


    ねえ、あなた。
    やっぱり聴いて。

    お願いだから、聴いて。
    私の心の声を、聴いて。
     

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    • Tome館長

      2011/06/07 12:12

      声優ごっこができるサイトこえ部の「お題」として考案しました。

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