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Tome館長

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  • 騒がしい

    2012/01/17

    ひどい話

    目を覚ましたら真夜中で、窓の外が騒がしい。

    「殺されるよー!
     誰か助けてよー!」

    そんな老女の叫び声がする。

    またか、と思う。

    どこの家か特定できないが 
    この近所の家では喧嘩が絶えない。

    ときどき物騒な怒声が聞こえる。
    たまに物の壊れる音もする。

    印象としては 
    中年の息子とその老母ではなかろうか。

    (ああ、家庭とはいやなものだ。
     望まぬ同居はいやだ。貧乏はいやだ)

    そんな心の声がする。

    きれい事をいくら言ったって 
    実際にきれいになるわけじゃない。

    (殺されればいいんじゃないの。
     他人に頼るな。近所迷惑なんだよ!)

    そう言いたくもなる。

    実際問題として 
    垂れ流しの優しさなんざ、やってられない。
     

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  • 戻れない

    2012/01/16

    切ない話

    全員が渡り終えると、綱は切られた。
    吊り橋とともに敵の幾人かが奈落の底に落ちてゆく。

    「もう戻れない。我々は前に進むしかないのだ」
    崖に背を向け、長老は厳かに言った。

    だが、長老は一歩も進むことができなかった。

    深いしわが刻まれた顔をゆがめ、口から血を吐き 
    そのまま前のめりに倒れたのだ。

    その背に矢が刺さっていた。


    別天地での最初の仕事が墓掘りとは不吉である。
    だが、深く掘ってやる余裕はなかった。

    新しい長老には私が選ばれた。
    他は若者と子どもばかりである。

    私は皆に言わなければならない。
    できるだけ厳かに聞こえるよう、願いながら。

    「もう戻れない。我々は前に進むしかないのだ」
     

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    • Tome館長

      2014/10/12 09:48

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2012/01/17 23:36

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • 高そうな牛

    2012/01/15

    変な話

    ひとり田舎道を歩いていたら
    向こうから一頭の牛がやってきた。

    大きな牛で、しかも金色に輝いている。

    思わず話しかけてしまった。
    「おまえ、高そうな牛だな」

    「ああ、わしは高いよ」
    なぜか牛が返事をした。

    「やっぱりな。なんせ黄金色だもんな」
    「しかし、あんたはまた随分と安そうな人間だな」

    これには、さすがにムッと来た。
    「ボロは着てても、心は錦だ」

    「あんた、わしを売ってみねえか」
    妙なことを言う牛だ。

    「おれがおまえを誰かに売っていいのか」
    「ああ、かまわんよ。
     どうせ腹減ってるから誰かの世話にならにゃいかん」

    「牛なら、道草でも食えばいいじゃねえか」
    「いやいや。わし、ご飯しか食べられんのよ」

    「・・・・・・なるほど」

    さすが、高そうな牛だけのことはある。
     

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  • やさしいゾウ

    2012/01/14

    ひどい話

    一頭のゾウが歩いていた。

    歩きながら足もとを見下ろしたゾウは 
    アリが地面にいるのに気づいた。

    (アリを踏んだら、かわいそう)
    やさしいゾウは足の下ろす位置を変えることにした。

    すると、そこにカタツムリがいるのに気づいた。
    (カタツムリを踏んだら、かわいそう)

    ゾウはさらに足を下ろす位置を変えた。

    ところが、そこにはネズミがいた。
    (ネズミを踏んだら、かわいそう)

    ゾウは足を下ろす位置をもっと変えなければならなかった。

    そのため、ゾウはからだのバランスを崩し 
    ひっくり返るように倒れてしまった。

    地面にいたアリとカタツムリとネズミを下敷きにして。
     

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    • Tome館長

      2013/02/25 15:10

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2013/01/13 15:55

      「さとる文庫 2号館」もぐらさんが朗読してくださいました!

  • 遊びの極意

    2012/01/13

    愉快な話

    老犬が猫のところにやって来た。

    「わしに遊びの極意を教えてくれんかの」


    猫は日向ぼっこをしていた。

    「さてね。これでなかなか
     遊びというのは奥が深くてね」


    老犬は猫の隣に座った。

    「わしは番犬を長年やっておってな、
     つくづくいやんなっちまった」


    猫はあくびをする。

    「まあ、わからんでもないがね」


    老犬はため息をつく。

    「ご主人を遊ばせるのが、わしの仕事だったとはの」


    猫は目を閉じる。

    「遊びたかったら、まず夢を見なくちゃ」


    老犬も目を閉じる。

    「わしが見るのは、いつも番犬の夢じゃよ」


    猫は眠ってしまった。

    老犬は眠れなかった。


    それで仕方なく
    眠る猫の隣で番をするのだった。

    「やれやれ」
     

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  • 踊れや踊れ

    2012/01/12

    愉快な話

    おれは踊りに夢中になっていた。

    こんなに盆踊りが楽しいものとは知らなかった。
    笛や太鼓の音に合わせ、体が軽々と動く。

    (これなら毎年踊るんだったな)
    今さら後悔しきり。

    なぜか今年、踊る人数がやたらと多い。

    毎年、青年団とか少数の踊る阿呆が櫓の周りをまわり 
    その周りを大勢の見る阿呆が囲むのだ。

    どっちも阿呆だからと、おれは大抵、家で留守番だった。

    だが、今年の盆踊りは見物人がいない。
    みんな踊ってる。

    (どういう風の吹きまわしだ?)
    やがて、おれは奇妙なことに気づいた。

    (あいつは、又四郎んとこの倅じゃねえか)
    バイク事故で死んだはずの若者が元気に踊っている。

    (あれは、安左衛門さんとこの爺さんだ)
    近所の、老衰で死んだはずの老人が達者に踊っている。

    知らない顔がほとんどだが 
    おれが知ってる顔で死んでない踊り手はいない。

    いや。ひとり見つけた。
    「おい。磯七」

    おれはそいつを屋号で呼んだ。
    本名は思い出せない。

    「おお。伊佐次郎か」
    そいつもおれを屋号で呼び返した。


    おれは踊りながら尋ねる。
    「ここで生きてんのは、おれとおめえだけか?」

    「いや。おめえも死んでるぞ」
    磯七は踊りながら教えてくれる。

    「おりゃ、おめえの葬式に出たんだからな」

    (ああ、そう言えば・・・・)
    なんか、そんな気がしてきた。

    磯七は平気で踊り続ける。
    「よく覚えてねえが、多分おれも死んだんだろうよ」

    そうかもしれない。
    それなら全部の理屈が合う。

    きっと磯七はおれが死んだ後に亡くなったのだろう。
    だから、踊る阿呆になってしまったんだ。

    いや。踊る亡霊か。

    ふん。
    もう、どうでもいいや。

    「ホレ、踊れや踊れ!」
    おれは大声で合いの手を入れた。
     

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    • Tome館長

      2013/02/23 23:07

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2012/01/25 15:28

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • 遥かなる空

    2012/01/11

    切ない話

    私は囚人。
    今、独房の中にいる。

    昔から囚人で、これからも囚人だろう。

    どんな罪を犯したのか
    もう忘れてしまった。


    独房は殺風景な部屋。

    寝台があり、
    便器があるばかり。

    唯一の扉には監視窓と受け渡し口がある。

    定期的に監視され、
    飲食物を手渡される。


    扉の向かい側の壁には
    鉄格子の嵌った小さな窓がある。

    そこから切り分けられた小さな空が見える。


    あの空を飛ぶことはもうできそうもない。

    けれども、目を閉じて見える空なら
    飛ぶことができる。

    飛行機を操縦するか、鳥になればいい。

    どんなに高く飛んでも平気だ。
    滑空も急旋回も自由自在。


    たとえ旅客機に乗って空を飛んでいても

    座席で眠っていたら
    飛んでないのと同じ。

    たとえ独房に囚われ、
    寝台の上で目を閉じていても

    鳥になって空を飛ぶ気分になれたら
    飛んでるのと同じ。


    ああ。
    そうなのだけれど・・・・・・

    あまりにも遠く、
    遥かなる空。
     

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  • 目覚めの季節

    2012/01/10

    変な話

    春になって気候も暖かくなった。

    すると、冬眠から覚めたばかりの蛇が
    彼女の腹からウジャウジャ這い出てきた。

    「うわーっ! 凄いね、これ。何匹いるの?」

    そんな無邪気な質問に答える余裕などない。

    爬虫類ぎらいの俺は
    テーブルの上にあわてて避難した。

    「おい。なんとかしてくれよ」
    「んなこと言ったって、出てきちゃうんだもん」

    ところが、冬眠明けは蛇だけではなかった。

    彼女の腹のどこに潜んでいたのだろう?
    クマまで出てきた。

    クマは寝ぼけて
    俺ごとテーブルを引っくり返した。

    朝食の皿やカップやスプーンと一緒に
    俺の体は蛇だらけの床にぶちまけられてしまった。

    その打撲の痛みを感じている余裕はない。

    さらに彼女の腹から
    もっと大きなものが出ようとしているのが見えた。

    まだ出てくる途中ではあるが
    想像するに

    あれはきっと
    恐竜の足ではないかと思う。
     

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    • Tome館長

      2013/04/10 15:51

      「広報まいさか」舞坂うさもさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2013/02/21 18:33

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 流れ星

    2012/01/09

    変な話

    ぼんやり夜空を見上げていたら  
    天の川が流れていることに気づいた。

    本物の川の水のように  
    星が天の川を流れているのが見えるのだ。

    「大変! 銀河系が狂っちゃった」


    天の川は銀河系内の星の集団。

    北斗七星やオリオン座など  
    銀河系外の星は所定の位置から動いていない。

    ということは、銀河系だけ勝手に動いてることになる。
    しかも、物理学的に非常識なスピードで。

    「・・・・信じられない」

    とんでもないことが宇宙で起こっている。
    寒さのせいもあるが、体が震えてきた。

    「あっ!」
    天の川が決壊した。

    天空から降り注ぐ 
    光り輝く滝のような流れ星。
     

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  • お使いの帰り

    お使いの帰りに寄り道して
    すっかり遅くなってしまった。


    母さんから頼まれたお使いは

    隣の村の本家の家まで行って
    約束のものを預かって戻ること。

    その約束のものは風呂敷に包まれてるから
    決して中を覗いてはいけないよ、とのこと。

    そんなこと言われたら絶対に
    中を覗かないと気が済まなくなることくらい

    どうして大人はわかんないのかな。


    あたいは村の境の橋の上で風呂敷包みを開け、
    その中身を見てしまった。

    それで死ぬほど驚いて橋から転げ落ちて
    そのまま川に流されて

    ちょっとばかり気を失ったけど、
    すぐに目がさめて土手に這い上がった。

    けれども、風呂敷の中身は川に流されてしまって

    ああ、あんなものは流された方がいいんだ。
    誰も見てはなんねえもんだ、と思って

    あたいはその辺の畑のナスとかキュウリとか千切って
    濡れた風呂敷に包んで誤魔化すことにしたんだ。


    だけど、こんなに帰りの時刻が遅くなって
    両手で持ってる風呂敷包みも重たくって

    あたい、なんだかもう家に帰りたくない。
     

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