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2012/01/07
お昼寝をしていたら
あたりが真っ青になって
お部屋の窓を開けたら
おうちが空を飛んでいたので
あたしはびっくりして
よろめいたり転がったりしなから
なんとか玄関まで歩いて
とびらを開いてみたら
庭に変なおじさんがいて
変なダンスをおどっていたので
あたしはこわくなって
いそいでお部屋にもどって
どうしようもないので
お昼寝の続きをしました。
おしまい。
2012/01/06
クラリオン星の友人が地球にやって来た。
「やあ。久しぶり」
「会いたかったよ。元気そうだね」
クラリオン星は五次元世界の惑星なのだそうだ。
太陽を挟んで地球と点対称の独立した軌道をとっている。
太陽が邪魔して、地球から見ることはできない。
クラリオン星人の外見は、ほとんど地球人と変わらない。
ただ、地球人よりほんのちょっと進化しているらしい。
偉そうな学者たちがそう言うのだから
とりあえず信じてあげてもいいかな、と僕は思っている。
「最近、そっちで流行ってるゲームはなんだい?」
「そうだね、地球侵略モノかな」
「流行ってる食べ物は?」
「地球人の踊り喰い」
「ははは。冗談きついな」
「まあね。ほんのクラリオン・ジョークさ」
彼・・・・と言っても、半霊半物質体で両性具有なんだけど
その彼を観光案内したり、一緒に食事したり寝たりして
僕はできるだけもてなしてやった。
彼がクラリオン星に帰る日が来た。
「また、いつでもおいでよね」
「ありがとう。楽しかったよ」
僕は彼に手を振った。
彼は僕に足を振った。
僕たちは笑った。
なに、ほんのちょっとしたクラリオン・ジョークさ。
2012/01/05
「ごめんください」
「へい。いらっしゃい」
「歯の治療を受けたいのですが」
「こちら、カウンター席にどうぞ」
「あの、もしかして、ここ、寿司屋ですか?」
「まさか。ご冗談を」
「歯医者さんですよね」
「見てわかりませんか?」
「ええ。ちょっと、あんまり」
「とりあえず、なにから握りますか?」
「やっぱり寿司屋さん?」
「いやだな、お客さん。違いますって」
「あっ。どこ握ってるんですか」
「失礼しました。つい癖で」
「歯を見てくださいよ」
「では、アーンして」
「アーン」
「なるほど。これが歯ですか」
「あれふ」
「まさしく歯ですね」
「あにふるんれふあ?」
「なにするって、歯の治療ですよ」
「あんれふあ? ほれあ」
「なんですって、刺身包丁ですけど」
「あああああ」
「活きがいいですね」
「うぐ、うげ、うご」
「はい。お口直しをしてください」
「がらがらがら、ペッ!」
「お客さん。うがいをしてはいけませんね」
「これ、お茶ですけど」
「醤油にしましょうか?」
「いやいや。そういう問題ではなくて」
「お勘定にしますか?」
「そうですね。ぜひ、そうしてください」
「ワサビは付けますか?」
「いりません」
「暖簾に腕押しですね」
「意味わかんないんですけど」
「毎度ありがとうございました」
2012/01/04
普段おとなしい人が怒ると怖い、という。
怒り慣れてないくせに
我慢の限界を超えて無理に怒るものだから
つい羽目をはずしてしまうのだろう。
うちのお父さんが怒った時は
ひとりで黙って家を出て
かなり遠くにある川原まで行って
大きな石ころをいくつも拾ってきて
それを転がしも放り投げもせず
私の部屋の床にそっと並べるように置いて
裏返った声の変なアクセントで私に言ったのだ。
「おまえ、いい加減にしろよ」
うん。確かに怖いものはあった。
2012/01/03
おしまいだった。
突然、なんの前触れもなく
終わってしまった。
「なんだなんだ?」
「いったい、どうなってんの?」
皆の混乱と動揺が伝わってくる。
それはそうであろう。
無理もない。
「この先は?」
「続きがあるはずだ」
ところが、先もなければ続きもないのだった。
完璧におしまいだった。
「冗談じゃない!」
「ふざけるな!」
いくら罵声を浴びようとも
ないものは仕方ない。
「しかし・・・・・・」
「あっ、待っ・・・・・・」
ついに、声まで途切れてしまった。
そういうふうにして世界は
2012/01/02
ひとりでは怖いけど
ふたりなら、そんなに怖くない。
僕たちは互いに手と手をつなぎ、
一緒に森の奥へ奥へと分け入ったのだ。
昼なお暗き魔物の棲み家。
夜こそ深き謎の迷宮。
数々の冒険の末、
僕たちは伝説の光る石を見つけた。
でも、その石はひとつだけ。
それを与えられるのも、ひとりだけ。
光る石はふたつに割れない。
でも僕たちは、もともとふたつ。
いつまでもひとつのままではいられない。
僕たちは目と目を合わせ、
つないだ手と手を離した。
すると僕たちは僕と君とになり、
ふたりはもう敵同士。
剣が舞い、楯が鳴る。
息が切れ、血が流れ、
憎しみ生まれ、愛が消える。
そうして僕は
君を永遠に失ったのだ。
墓は建てぬ。
涙もいらぬ。
光る石は手に入れた。
さあ、呪われた森を出よう。
君がいなくて
ひとりぼっちで怖いけど。
2012/01/01
今は授業中。
君は僕の目の前に座っている。
その愛しき背中。
この席を確保するために僕がどれほど苦労したか
君は知っているだろうか。
(君のすぐ後ろの席に座りたい)
(君のすぐ後ろの席に座りたい)
(君のすぐ後ろの席に座りたい)
必死に繰り返せば、想いは届く。
君のすぐ後ろの席だった女の子のメガネが壊れてしまい、
最前列の席だった僕が席替えを提案したのだ。
まあ、そんなことはどうでもいい。
今はただ、僕の熱き想いを君に送るのみ。
君の美しい黒髪を見つめる僕。
(君のうなじが見たい)
すると、君は髪に手をやり、
その白いうなじをチラリと僕に見せてくれる。
それは偶然かもしれない。
(君の横顔が見たい)
君は消しゴムを床に落としてしまい、それを拾おうとして
麗しき横顔をチラリと僕に見せてくれる。
これも偶然かもしれない。
でも、偶然だってかまわない。
僕の狂おしき想いよ、君に届け。
(君が好きだ)
(僕、君が好きだ)
(僕、君が大好きだ!)
不意に君が振り向く。
(あんたなんかきらい)
(あたし、あんたなんかきらい)
(あたし、あんたなんか大っきらい!)
なるほど。
しっかり届くもんだ。
2011/12/30
長い長いコールドスリープから目覚めると
人類は絶滅していた。
「あなたが現存する最後の人間です」
自動制御の介護ロボットが親切に教えてくれた。
空気は悪くない。
出された食事にも不満はない。
「どうして絶滅したんだ?」
「種の寿命だそうです」
老衰のようなものか。
「おれは不治の病だったはずだが」
「凍ったまま眠っているうちに自然治癒してしまいました」
なるほど。
そういうこともあるかもしれない。
「この建物の外に出たいのだが」
「出ると死にます」
「外を見るだけでもいいのだが」
「見ると死にたくなります」
なるほど。
すべて予測可能というわけか。
「でも見たいな」
「それでは」
ロボットが指示を出したのだろう。
窓に相当する壁の大型スクリーンが開いた。
なるほど。
ロボットは正しい。
おれは死にたくなった。
2011/12/30
おれは質屋に入った。
どうしても現金が必要だったからだ。
「おや、先生。いらっしゃい」
質屋の主とは顔なじみだった。
「じつは、相談なんだが」
おれは主の目をまともに見ることができなかった。
「なにか売りたいのだが、なにも売るものがないのだ」
母親は、少し前に売ってしまった。
すでに父親は、売る前に亡くなっている。
妹はいるが、これは売るわけにはいかない。
その妹の薬代のために金がいるのだから。
「それは困りましたね」
「なんとかならないかな」
主はおれの顔をまじまじと見る。
「先生は、たしか絵が描けましたよね」
「ああ。そこそこ描けるが、絵が売れるのか?」
「いいえ。近頃、なかなか絵は売れません」
「そうだろうな」
「絵に買い手はつきませんが、絵を描く才能なら」
「なに? 才能が売れるのか?」
「売れます」
「いくらくらいになる?」
「ちょっと先生、これに描いてみてください」
チラシを裏返して、ボールペンと一緒に渡された。
その白紙にさらさらと、主の似顔絵を描く。
久しぶりだったが、なかなか上手に描けた気がする。
「これはまた、うまいもんですね」
「いくらになる?」
主は電卓のキーを叩いた。
「こんなところですね」
なかなかの金額だった。
迷うことはない。
「よし。売った!」
それで商談成立。
現金を手に入れると、おれはそのまま薬局へ向かった。
「お兄ちゃん。ありがとう」
薬を飲みながら妹が礼を言う。
だが、おれはあまり嬉しくなかった。
妹の様子がおかしいのだ。
いつもと違う。
なぜだろう。
妹の顔が、あまりかわいらしく見えなかった。
しばらくして、おれはやっと気づいた。
やれやれ。
絵を描く才能を失うとは、こういうことか。
2011/12/29
ガラスの宮殿のお姫様から使者がやってまいりました。
「レンガの宮殿の王子様へ申し上げます。
今宵、ガラスの宮殿で行われます舞踏会に
ぜひともお越しくださいませ」
レンガの宮殿の王子様は使者に言われました。
「それはそれは、大変に名誉なお話でございます。
と、お姫様には伝えていただこう。
ただし、ガラスの宮殿は大変に美しいが
また大変に壊れやすいとも聞いている。
残念ながらそちらへ参るわけにはいかないので
よろしく伝えておいてくれ」
ガラスの宮殿の使者は困ってしまいました。
「今のお話、そのままお伝えするわけには・・・・・・」
レンガの宮殿の王子様はおっしゃいました。
「ありのままのことをそのまま伝えて壊れるような宮殿なら
いっそ一度壊れてしまえば良いのではないかな」
ガラスの宮殿の使者はすごすごと引き下がりました、
とさ。
ガラガラ、ガッシャーン!
はい、おしまい。