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2012/01/27
僕が幼かった頃の
ある大雪の年のこと。
僕が外で遊んでいて
雪玉をつくって
屋根に向かって投げたら
一本の氷柱に当たって
根もとから折れて
それが下で雪かきしていた
お爺ちゃんの頭に刺さりました。
お爺ちゃんがビクンとして
それから枯れ木のように倒れると
一面まっ白だった雪が
まっ赤に染まって
なんだか
紅白の錦鯉みたいで
とってもとっても
きれいでした。
雪国の子どもの
不思議な思い出です。
2012/01/26
第一回太陽ヨットレースは熾烈を極めた。
光が鏡に当たって反射すると、鏡に圧力が加わる。
これを光圧と呼ぶ。
太陽ヨットは、太陽からの光圧を推力源とする宇宙船のこと。
誤解されることが多いが、太陽風で飛ばされるわけではない。
太陽風は、太陽から吹き出す電気を帯びた気体の風だが
推進力として使えるほどエネルギーはないのだ。
近年、極めて軽量かつ極めて広い面積を保持できる薄膜鏡
および極めて高性能な薄膜太陽電池が開発された。
イオンの電荷を利用して加速するイオンエンジンとの併用により
宇宙空間における推進・姿勢制御が実用可能となった。
ただし、重量オーバーとなるのため、人は乗せられない。
プログラムとリモコン制御による無人宇宙船である。
コースに関して、途中経路の選択は自由。
地球の衛星軌道上にある宇宙ステーション近くのスタート地点から
火星の衛星軌道上にある宇宙ステーション近くのゴールまで。
レースは、3隻の太陽ヨットによって競われた。
出場は5隻だったが、うち2隻はスタートさえできず棄権した。
レース中、たとえ先頭に立つことができても
そのまま優位を維持することはできない。
後続のヨットが太陽との間に割り込んで影を落とす作戦を採れば
いくら進路変更を繰り返しても引き離すことは無理なのだ。
また、それが3隻なので、ゲーム理論として駆け引きが難しい。
・・・・というわけで
第一回太陽ヨットレースは熾烈を極めた。
ただし、レース結果は誰も知らない。
こんな太陽ヨットレースを先進国が宇宙でやってる間に
世界最終戦争が地球上で勃発したからである。
2012/01/25
私はピコモラゲを抱えて審査会場に向かった。
準備に三年、制作に丸一年かけた苦心の作である。
トータルの費用も相当なものになった。
革新的な発想、大胆かつ精緻な構造、有益性と娯楽性、
あらゆる観点において歴史的な大傑作。
自惚れても当然であろう。
審査会場は混雑していた。
このコンクールは世界中が注目しており
年々規模が拡大し、応募者数も急激に増えている。
しかし、最終的に注目されるのは私に違いない。
そんなふうに私は希望に燃えたまま作品受付の列に並び
書類と一緒にピコモラゲを提出したのだった。
と、その時、受付担当者が手を滑らせ
ピコモラゲが大理石の床に落ちた。
・・・・割れてしまった。
ピコモラゲが真っ二つに割れてしまった。
「ああ。これは駄目ですね。審査基準を満たしません。
こんなに簡単に破損してしまうようでは」
受付担当者は割れたピコモラゲを床から拾い上げ
それを私の目の前に差し出した。
「残念ですが、受理できません」
私は笑った。
なんで笑えたのか、私にもわからないが
広い審査会場が私の笑い声で溢れんばかりになった。
この笑い声で、他の応募作品も全部
なにもかも世界中が壊れてしまえばいいのに。
私は割れたピコモラゲをぴったり重ね合せ
非常用の緊急作動スイッチを押した。
もしピコモラゲの機能がまだ壊れていないとしたら
きっと私の人格が壊れてしまったのだろう。
それは決して押してはならないスイッチのはずなのだから。
2012/01/24
産院で息子が生まれた、
と喜んでいたら、歴史介入者が現れた。
「この子は将来において、恐るべき犯罪者になります。
大人になる前に粛清せねばなりません」
政府発行の身分証明書を提示しながら説明するのだった。
タイムトンネルを通って未来から来たのだ、
と歴史介入者は言う。
時間移動のための大型設備が完成した、
という最新ニュースは、俺も聞いて知っていた。
その結果が、これか。
あまりのことに信じられず、呆然としていると、
「待つのだ。その子を殺してはならない」
新たな歴史介入者が現れた。
「その子が大人になって殺した青年の一人が、未来において
とんでもなく極悪非道な犯罪者になってしまったのだ」
さらに俺が呆然としていると、
「いやいや。待て待て。やっぱり殺すべきだったのだ」
さらに新しい歴史介入者が現れた。
「最新の未来においては、あまりにも平和が続いたために
人口爆発が起こり、絶望的な惨状を呈しておるのだ」
呆れ果てた俺の目の前で
それぞれ歴史の異なる三人の歴史介入者が口論を始める。
そのうち取っ組み合いの喧嘩をやり出した。
さすがに腹が立ってきた。
俺は護身用の銃を引き抜くと、
彼らに向け、怒りを込めて全弾撃ちまくった。
「ふん。現在における正当防衛さ」
どうせ未来がなんとかしてくれるだろうよ。
2012/01/23
雑木林を抜けると、ちょっとした広場があった。
近所の子どもたちの遊び場だった。
寺の裏山なので、墓場から続く小道もあった。
この広場の端に小さな家を建てた。
丸太や枯れ枝で組んだ掘っ立て小屋だった。
ささやかながらも、秘密基地なのだった。
あれは梅雨の時期だったろうか。
突然、にわか雨が降り出したのだ。
あわてて秘密基地の中に駆け込む。
「えらいわ。ぜんぜん雨がもらない」
すぐ耳もとで声がした。
同じ小学校に通う女の子だった。
「うん。屋根に葉っぱ、いっぱい重ねたからね」
ちょっと自慢だった。
屋根や地面を叩く雨音が、僕への拍手のようだった。
その時だった。
「ほら、見て。あれ」
「なに?」
それは、ヘビだった。
太くて黒い大蛇が這っていた。
大粒の雨に濡れた皮が、ぬらぬら光っていた。
すぐ目の前の地面をゆっくりと横切ってゆく。
こっちなんか見向きもしない。
「立派ね。すごいわ」
彼女は興奮していた。
小さく拍手さえしていた。
僕は怯えていた。
だから、なんにも言えなかった。
その黒い尻尾が草かげに隠れてしまうまで。
2012/01/22
カリエは、小さな魔女。
王立魔法学校初等科の劣等生です。
魔法の定期試験では失敗ばかり。
試験官による口頭での出題。
「このトカゲをヘビに変身させなさい」
しっかりヘビの変身呪文を唱えたはずなのに
なぜか恐ろしい姿のドラゴンが現れます。
もう試験会場は大混乱。
「あ〜あ。どうしてあたしって、失敗ばかりするんだろ」
カリエはぼやきます。
「でも、カリエってすごいよ。
私なんか、ドラゴンなんて絶対に出せないもん」
友だちで優等生のメンマが慰めます。
「あんなの出したって、なんの役にも立たない」
「そりゃまあ、そうだけど・・・・・・」
「明日の追試、とっても心配」
「あのね。きっと呪文、深く唱えすぎなのよ。
適当に力を抜いてやれば、カリエなら大丈夫だって」
「そうかな」
「そうだよ。だから、頑張らないで、気楽にね」
「うん。なんとか、やってみるけど・・・・・・」
メンマと別れて、ひとりぼっちの帰り道、
カリエは夕焼け空を見上げます。
(明日こそ、うまくできますように!)
どうしても強く願わずにいられません。
けれども、その瞬間、
このまま続くはずの明日でなくて
まったく新しい明日をひとつ作ってしまったことに
カリエは気づきもしないのでした。
2012/01/21
一個のタイヤだけで一軒の家くらいもあるような
大きな大きな大型トラックには、夢がありました。
(ああ。小さなオートバイの姿になって
好きなところを自由奔放に走りまわりたいな)
大型トラックはあんまり図体が大き過ぎたので
石灰岩の採掘場から外に出ることができなかったのです。
ある日、一台のオートバイに乗って
乗り物の神様が大型トラックのところにやってきました。
「大型トラックよ。おまえの夢を叶えてやろう」
大型トラックは大喜び。
「本当ですか? ぼく、オートバイになれるんですか?」
「なに、簡単さ。魂を入れ替えるだけよ。
ちょっとしたタイヤの交換のようなものさ」
乗り物の神様はオートバイのアクセルをふかしました。
「こいつ、大型トラックになりたいんだとよ。
おまえはこいつになり、こいつはおまえになる」
「そいつは素敵ですね!」
商談成立です。
乗り物の神様はオートバイに乗ったまま
大型トラックの車体に触れました。
「さあ。おれの体の中を通って反対側に移れ!」
乗り物の神様の中を高圧電流のようなものが流れました。
さて、それからどうなったのかというと・・・・
オートバイは新しい体に慣れなくて、走り出した途端
乗り物の神様を乗せたまま転んでしまいました。
大型トラックも新しい体に慣れなくて
急に猛スピードで走り出してしまいました。
そして、その一軒の家くらいもある大きなタイヤで
転んだオートバイと乗り物の神様を轢いてしまいました。
さらに大型トラックは、ブレーキ操作がわからなくて
そのまま滅茶苦茶に石灰岩採掘場を走り続け
とうとう採掘口の巨大な穴の崖から落ちてしまいました。
・・・・やれやれ。
こういうこともあるから
乗り物には十分に気をつけないといけませんね。
2012/01/20
わたしのおうちは、お菓子の家。
「おなかすいちゃった!」
板チョコの玄関ドアを食い破って
バームクーヘンの居間に入ると、
クッキーのパパと
ショートケーキのママ。
「わあ、おいしそう!」
わたしが両親のスネをかじり始めると、
金平糖の犬を咥えたまま
カリントウの弟が帰ってきて
どっちがいっぱい食べるか
競争になりました。
さすがに、もうおなかいっぱい。
寝る前にいくら歯を磨いても
口の中が甘ったるくて
なかなか眠れないのでした。
ゲップ!
おしまいの
ごちそうさま。
2012/01/19
妻がとんでもない奇病を患った。
夕飯の食卓で妻が文句を言う。
「あなた。もっとおいしそうに食べてよ」
おれのシメジの佃煮の食べ方に問題があるらしい。
キノコの五目炊き込みご飯、ナメコの味噌汁、
エリンギのメンマ、マッシュルームの卵炒め、
シイタケのオイスター煮、マイタケの照り焼き、・・・・
我が家の食卓は、キノコ料理に完全に占領されていた。
妻の体からキノコが生え始めたのは
あれはたしか、結婚三年目の秋のことだった。
妻は最初、ただの吹き出物かと思ったそうだ。
爪で簡単に削れるが、削っても洗っても
かさぶたのようなものが次から次へと出てくる。
皮膚病を心配して病院で診てもらったところ
皮膚の下までキノコの菌床になっているという診断だった。
若い担当医は笑顔で説明したという。
「ごく普通のキノコの菌ですね。
たから、食べられますよ」
さすがに最初は食べる気になれなかった。
けれども、妻の下腹部から松茸らしきものが生えた時
なんだかもったいない気がして、つい育てて試食してしまった。
それがじつにおいしかったのである。
最高級品の馥郁たる香りがした。
それからなのだ。
完全なキノコの菌床になる決意を妻がしたのは。
夫婦の寝室は妻専用のキノコ栽培室となり
大型の加湿器が置かれるようになった。
妻はまったく外出しなくなり、エアコンつけっぱなし。
一年中ほとんど裸で過ごすようになった。
あの美しかった妻の面影は、もうどこにもない。
というか、もう人間とすら思えない。
図鑑で見たベニテングタケそっくりに見えてきた。
その毒々しくも鮮やかな色彩。
見ていると、なんだか頭がクラクラしてくる。
全身が燃えるように熱くなり、汗が垂れ始めた。
胸が締めつけられる。
こ、呼吸が苦しい。
おれの苦しむ姿を見ながら
目の前の巨大なベニテングタケが小首をかしげた。
「あら? 毒抜きが足らなかったのかしら」
2012/01/18
彼女は 駆け抜ける
さわやかな 一陣の風
小さくて渋いヘルメットの端から
脱色した長い縮れ髪を垂らして
スクーターを乗りまわす少女がいる。
その凛々しい姿を目撃して
スクーターになりたがる大馬鹿野郎も多い。
しかしながら君たち、考えが甘い。
彼女はただの少女ではない。
どういうことかというと、
さぞ柔らかいであろう彼女のお尻は
その下のシートとつながっていて
彼女とスクーターは一体なのである。
つまり、彼女の半分はスクーター。
いわゆる「スクーター少女」なのである。
チョコもケーキもサラダも食べない。
ガソリンをリッターで飲むだけ。
でも、アルコールでちゃんとうがいはする。
「だって女の子なんだもん」
ああ、そうかいそうかい。
一度はねられてみたいもんだね。