Tome Bank

main visual

Tome館長

m
r

Tome館長

CREATOR

  • 3

    Fav 1,206
  • 9

    View 6,103,027
  • p

    Works 3,356
  • 穏やかな日

    2012/02/06

    変な話

    えてして穏やかな日に事件は起こる。
    まるで退屈を紛らわすかのように・・・・


    発端は119番通報だった。
    「江戸川にね、変なもんが流れてるんですよ」

    川から引き上げられたそれは、確かに変なものだった。
    死体には違いないが、人間や獣のそれとは違う。

    あえてどうしても言わなければならないとすれば 
    とりあえず「宇宙人の死体」であろう。

    なぜなら死体の首らしき部位に名札が下がっていて 
    それには「宇宙人の死体」と油性ペンで書いてあった。

    その名札は、担当の警察官がふざけて下げたのではなく 
    川から引き上げた時から付いていたのだと言う。

    すると、江戸川の上流で何者かによって遺棄される前に 
    そいつによって下げられたのだろうか。


    その後、その不審死体の司法解剖がなされたのか 
    そして真相が究明されたのか、続報はない。

    死体が消えてしまったという噂もある。

    あまりにも穏やかな日の出来事だったので、あるいは 
    罪のない冗談で済まそうとしているのかもしれない。
     

    Comment (2)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
    • Tome館長

      2014/10/20 10:33

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2012/02/27 10:02

      「さとる文庫」もぐらさんが朗読してくださいました!

  • 熱いうちに撃て!

    2012/02/05

    ひどい話

    あんたは死刑囚。

    目隠しされ、杭に縛られ、
    標的ですよ、と言わんばかり。


    この俺は死刑執行人。

    制服を着て、ライフル銃を持ち、
    撃ちますよ、と言わんばかり。


    あんたに恨みはないが、
    これが俺の仕事だから、勘弁してくれ。

    普通は三人ぐらい執行人がいてよ、
    恨みや罪悪感やら分散させるもんだが、

    財政赤字なんで、俺ひとりが精一杯なんだと。


    情けねえ話だが、あんたもあんただよ。
    まったく、犯罪なんか儲からねえのによ。

    まあ、財政赤字だから犯罪も増えるんだけどな。


    どうも、気が乗らねえな。
    あんたを殺したって、なんにも変わらねえよ。

    あんた、この国の一番偉い人、殺しちゃったけど、
    結局、なんにも変わってないんだもんな。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • ジャングルジム

    2012/02/04

    怖い話

    三丁目の児童公園には子どもがいない。

    この場所で子どもの失踪事件が続いたため

    「ここで遊んではいけません」
    と親や教師が指導するからだ。


    「おれ、ジャングルジムでね、
     ケンジと一緒に遊んでたんだよ」

    近所の子、マモル君が教えてくれた。

    「そしたらね、ケンジの奴、急にいなくなったんだ」

    他の失踪した子どもの場合も同様である。

    ジャングルジムで遊んでいたところを
    最後に目撃されている。

    見ているうちに消えた、という証言さえある。

    「金属パイプの通路をくぐって、そのまま消えた」
    と言うのだ。

    子どもの言うことなので
    もちろん鵜呑みにはできない。

    だが、無視するには事件があまりに異常すぎる。


    私は刑事でもなんでもない一般人だが、
    同じ町内の住人として気になって調べているのだ。


    周囲に誰もいないのを確認しながら
    私は問題のジャングルジムに近づいた。

    なんの変哲もない。
    普通のジャングルジムにしか見えない。


    塗装された金属パイプをつかんで側面を登り、
    ジャングルジムの頂上に立ってみた。

    そんなに高くもない。

    児童公園に隣接して電力会社の変電所が見える。
    見上げると、頭上に高圧電線が通っている。

    気にはなるが、事件に関係あるとは思えない。


    変電所の反対側には、新興宗教の建物がある。
    信者が急増し、教祖が人間ではない、と話題だ。

    怪しいと言えば、じつに怪しい。
    怪しいと言えば、私だって十分に怪しいけれど・・・・・・


    一旦地面に降りて、周囲を見まわす。

    やはり誰もいない。

    別に問題になることはないと思うが、
    近所の人に見られたら困る。

    いい大人がこんなところで、恥ずかしい。


    ジャングルジム最下段の端にある
    正方形ふたつ分の長方形の入り口から中に入ってみる。

    通路は狭いが、小柄な私なら通れないことはない。


    (そうそう。こんな感じだったな)

    遠い昔、子どもの頃の懐かしい感覚がよみがえる。


    目を閉じる。
    忘れていた記憶。

    田舎の小学校のグラウンドにもジャングルジムがあった。
    立体の迷路で、確かにジャングルの中みたいだった。

    (ジャングルジムとは、うまい命名だな)

    いまさらながら感心する。


    目を開くと、あたりは薄暗かった。

    なぜか鬱蒼と茂った木々に囲まれている。
    私の手は、金属パイプではなく、木の枝をつかんでいた。

    暑い。とんでもなく蒸し暑かった。
    そして、奇妙な鳥の鳴き声が聞こえるのだった。

    (ここは、まさか・・・・・・)


    その時、私は信じられないものを見た。

    頭上から垂れ下がる大蛇と
    まともに目が合ってしまったのだ。


    「おじさん、助けてー!」

    ケンジ君の声がした。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 渚の蛹

    私たちが臨海学校で滞在していた某県の海岸に 
    某国の原子力潜水艦が唐突に座礁した。


    海水アレルギー体質なので 
    私は海に入ることができない。

    それでも皆と一緒に夏休みを過ごしたくて 
    この臨海学校に参加した。

    だから、私は海岸沿いにあるプールで泳いでいた。
    というか、プールサイドで日光浴をしていた。

    生意気にもサングラスなんかして 
    デッキチェアーで脚組んで。

    かたわらにジュースのグラスはなかったけど 
    いっぱしのレディーのつもりだった。

    残念ながら、地味なスクール水着なんだけどね。


    それで、座礁した原子力潜水艦の話なんだけど 
    あれ、なかなか大胆なポーズだったよ。

    そうとう勢いよく突っ込んだんだろうね。
    グッと艦首が海面から突き出していた。

    私、巨大で真っ黒な蛹(さなぎ)を連想しちゃった。

    あれの背中と言うのかなんと言うのか 
    ピリピリ割れて、巨大な黒いアゲハチョウが出てくる。

    ゆっくりと優雅に黒く美しい翅を広げ 
    やがて、潮風に乗って羽ばたき、大空を低く舞う。

    放射能たっぷりの鱗粉が雪のように町に降ってくる。

    某国のアジテーション用の宣伝ビラなんかも 
    いくらか混ざってるかもしれない。

    その光景は、きっと死ぬほど綺麗に違いない。


    そんなことを夢見ているうちに 
    西日は傾き、集合の時間になってしまった。

    ふん、なにさ。
    いつか私だって蝶になってやるんだから。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 小春日和のインディアンと天国の門

    2012/02/02

    愉快な話

    「小春日和」とは、晩秋から初冬にかけて
    移動性高気圧に覆われた時などの温暖な天候のこと。

    「小春」とは陰暦10月。

    現在の太陽暦では11月頃に相当し、
    この頃の陽気が春に似ているため。


    英語なら、“indian summer”が近い。
    「インド人の夏」ではなく、「インディアンの夏」。

    語源は諸説あり、次の説が一番おもしろい。


    アメリカ開拓時代、インディアンは
    夏に植民者を襲撃することが多かった。

    寒くなると、その頻度が少なくなるので
    まあ比較的、穏やかに過ごせる。

    ところが暖かい日が続いてしまうと
    また襲撃される心配をしなければならない。

    植民者たちは、いまいましさを込め、
    それを“indian summer”と呼んだ。

    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

    「インディアン、嘘吐かない」
    その老人は言う。

    「白人、嘘吐く」

    私も言う。
    「日本人、嘘吐いたり吐かなかったり」

    すると、老人は怒る。
    「それ、一番タチ悪い」

    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

    さて、ここでクイズです!


    あなたは死にました。

    目の前に二つの門があります。
    ひとつが天国の門、もうひとつが地獄の門。

    ただし、あなたには見分けられません。

    門の前には三人の門番。
    それぞれ、正直者、嘘吐き、いい加減な門番。

    ただし、あなたには見分けられません。

    門番は、誰が誰で、どちらがどの門か知ってます。
    門番は、「はい」「いいえ」以外では答えてくれません。

    「はい」「いいえ」と明確に返事できない質問には、
    正直者と嘘吐きは沈黙します。

    いい加減な門番は、どんな質問にも
    いい加減に「はい」「いいえ」で答えます。

    あなたは、門番たちに二回だけ質問できます。
    ただし、質問は個別にしかできません。


    さてさて、どのような質問をどのようにすれば、
    あなたは無事に天国へ辿り着くことができるでしょう?

    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

    【ヒント1】

    以下、独力で解答したい方は読まないでください。


    門番が正直者と嘘吐きの二人だけの場合なら、
    一方の門を示し、

    「相方の門番に『こちらが天国の門か?』と尋ねたら、
     相方は『はい』と答えるか?」

    と一方の門番に質問します。

    その返事は、嘘を正直に言うか、正直に嘘を吐くか、
    いずれにしても必ず嘘になるので、

    「はい」なら、示した反対が天国の門、
    「いいえ」なら、示した方こそ天国の門になります。

    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

    【ヒント2】


    以下、独力で解答したい方は読まないでください。


    いい加減な門番の返事を
    正直者または嘘吐きに問うと、

    「はい」「いいえ」の答えでは
    正直にも嘘にもならないため、

    明確な返事ができません。

    なので、沈黙するしかありません。


    この沈黙のあるなしによって、
    いい加減な門番が絞り込まれます。

    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

    【答え】

    こちら
     

    Comment

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • あせらないで

    「ねえ、おまえ」
    私のことである。

    「これ、欲しいの?」
    私は首を縦に振る。

    「ダメよ。おあずけ」
    私は激しく首を横に振る。

    「そんなに欲しいの?」
    私は激しく首を縦に振る。

    「どうしようかな」
    私は身悶える。

    「それじゃ、ちょっとだけよ」
    私は息を荒げる。

    「あせらないで」
    私はヨダレを垂らす。

    「しょうがないわね」
    私は転げまわる。

    「はい。どうぞ」
    私は踊りかかる。

    「ああ。ダメよ」
    私は腰を振る。

    「まあ。すごい」
    私はもっと激しく腰を振る。

    「ちょっと待って」
    私はようやく気づく。

    「これをつけなくちゃ」
    私はそれをつける。

    「さあ。続けて」
    私はそれを続ける。

    「ああ。上手よ」
    私は悩ましく踊る。

    「とても似合ってるわ」
    お気に入りの腰ミノつけて。

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 魔女裁判

    2012/01/31

    ひどい話

    魔女であると容疑をかけられた人間は
    審問官の前に引き出されることから始まる。


    まず告発文の朗読。

    内容は、たとえば胎児を殺して食ったとか、
    魔法の秘薬を作ったとか、呪いをかけて災いを招いたとか。

    容疑者は、私は魔女ではありません、陰謀だ、
    などと絶叫するが、なにを言っても無駄である。

    悪魔はお前たちの方だ、などと毒づく者もいる。

    しかし、それは教会にはむかう悪魔の言葉であると判断され、
    そのまま拷問台に送られるのだった。


    審問によって自白しなければ、次は拷問。

    被告は裸にされ、きつく縛られて宙釣りにされた。
    その際、苦痛を高めるために、足には錘をぶら下げられる。

    そして、体中くまなく点検され、証拠探しが行われる。

    証拠とは、悪魔のマークと呼ばれる刻印。

    悪魔との性交時につけられ、
    悪魔に対する忠誠心をあらわすものとされる。

    あざ、いぼ、ホクロなどが悪魔との接触による痕跡とされ、
    魔女と断定する有力な決め手とされた。

    それでも発見されない場合、
    咽に棒を突っ込んで胃の中のものをすべて吐かせる。

    さらに大量の水を飲ませたうえ浣腸までして排便させ、
    大便と吐瀉物を探索するのだった。


    魔女を泳がすこともよく行われた。
    被告の頭や手足を縛り池に放り込むのである。

    魔女は水よりも軽い超自然的な存在と考えられ、
    被告が浮けば有罪で魔女だと見なされた。

    沈んで溺死すれば無罪ということになる。
    いずれにせよ、被告は生き延びることはできないのだった。


    自白を強要するための拷問には様々なものがあった。


    鉄製の長靴が履かされ、
    靴と足のわずかな隙間にくさびが打ち込まれる。

    第一撃で鮮血が噴出し、あまりの痛みに受刑者は絶叫する。
    第三撃目で膝の骨は砕かれて骨の髄が飛び散ったという。


    魔女の椅子という拷問もあった。

    尻を乗せる部分に穴の開いた鉄製の椅子に座らされ、
    その下からロウソクであぶられる。

    陰毛や肛門、尻の肉が焼けただれて恐ろしい苦痛を伴い、
    排便も満足にできぬような哀れな体と成り果てる。


    水責め、指つぶし、目つぶし、舌抜き、・・・・・・
    その他、ありとあらゆる恐ろしい拷問が行われた。

    ほとんどの人間は、一時的に苦痛を逃れたいがため、
    ありもしないことを自白した。


    自白すれば、受刑者は魔女ということになり、
    生きたまま火刑に処せられることになるのだった。


    (「不思議館〜中世の血塗られた史実〜魔女狩りの時代
     より、要約引用)

    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


    「あの女は魔女よ!」

    恋敵の女に密告されてしまった。


    私は審問官の前に引き出された。

    「おまえは自分が魔女であることを認めるか」
    教会の司祭でもある審問官が問う。

    「そうよ。私は魔女よ」
    私は、あっさり認めてやった。

    「そして、あなたも魔女よ」

    審問官はうろたえる。
    「たわけたことを。私は男だぞ」

    「あら。魔女なら、男にだって化けられるはずよ」


    裸にされた審問官の尻には黒い尻尾が生えていた。


    やがて、私を密告した恋敵の女と一緒に
    審問官は火刑に処された。


    「ふん。本物の魔女を見くびらないことね」

    私は審問官の席から
    愚かな人間どもに宣告した。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 余計なお世話

    2012/01/30

    ひどい話

    市立図書館から借りた推理小説を読んでいたら、
    その本の途中にボールペンで書き込みがあった。

    ある登場人物の名前を四角く囲み、下手糞な字で

    [こいつが犯人]


    世の中には親切な人がいるものだ。
    ぜひとも、厚くお礼を申さねばなるまい。


    というわけで、これを書き込んだ奴が誰なのか、
    犯人捜しをすることにしたのだ。


    まず、人物分析。

    どう考えても、いやな奴であることは確信できる。
    こいつと共同生活だけはしたくない。

    マナーは守らず、自分勝手で、近所迷惑な嫌われ者。
    自転車泥棒や万引きくらい、平気でやりそうだ。

    この推理小説を読み終えたくらいだから
    それほど知能が低いわけではあるまい。

    しかし、この字の下手糞さ加減からすると、
    先天的にだらしない感じはする。


    詳細な筆跡鑑定もしてみる。

    筆圧やペンの流れからのタイプ分類。
    どうやら犯人は左利きで、男性である可能性が高い。

    その他、この推理小説の内容、作家の傾向なども考慮。

    年齢や家族構成、学校または職業の範囲など、
    とりあえずの大まかな仮説的人物像を割り出す。


    友人の知り合いの自称ハッカー君を崇め奉り、
    市立図書館の登録データ、貸し出し情報を不正入手。

    近所の小学生をそそのかし、少年探偵団を結成。
    容疑者たちの張り込み、聞き取り調査。


    その他、なんだかんだ半年近くも手間取ったが、
    ほぼ犯人を特定することに成功した。


    ただし、限りなく黒に近い容疑者がふたり。

    どちらが犯人であっても不思議ない。
    どちらが犯人だとしても納得できてしまう。


    悩んだ末、ふたりの容疑者のどちらにも
    匿名の手紙を送ることにした。

    宛先の本人の名前をパソコンとプリンターで印刷し、
    その活字をボールペンで四角く囲み、下手糞な字で

    [おまえが犯人]

    これだけ。


    それにしても、まさか
    あんな結果になるとは思いもしなかった。


    ひとりの容疑者は
    ある強盗傷害事件の真犯人として自首。

    もうひとりの容疑者は
    なんと自殺してしまったのだ。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 待ちくたびれて

    2012/01/29

    切ない話

    いつまで待っても
    あの人は来ないのだった。

    行く行く、と言ってたくせに
    まったく来る気配がないのだった。


    ただ待っていても仕方がない。
    世間で流行のゲームをやってみた。

    ある目的を達成すれば勝ち。
    できなければ負け。

    なかなか面白かった。

    だが、もともと大した目的ではなく、
    勝っても負けても深い意味はないのだった。

    やがて目も頭も腕も腰も痛くなり、
    疲労と空しさを感じ始めた。

    とうとうゲームはやめてしまった。


    あの人はまだ来ない。


    ふと気まぐれに
    ペットを飼ってみた。

    小さくて、なかなか可愛らしい。

    あの人のことを忘れてしまうくらい
    しばらく夢中になった。

    けれど、やがて大きくなり、
    なんだか可愛らしくなくなってきた。

    餌もやらずに放っておいたら
    そのうち行方不明になってしまった。

    そんなもんか、と思った。


    あの人はまだ姿を現さない。


    港に客船が入る。

    駅に列車が到着する。
    バス停にバスが止まる。

    自動車が家の前に停車する。

    あの人が乗っているかもしれない。
    乗っていないかもしれない。

    どちらにしても、あの人は
    もう降りてくることはないような気がする。


    もう待つのはやめようか。
    そんな気持ちにもなってくる。

    あるいは、あの人は私のことなんか
    もうとっくに忘れているのかもしれない。


    とにかく私、すっかり
    待ちくたびれてしまった。
     

    Comment (2)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
    • Tome館長

      2013/03/01 23:43

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2012/02/10 18:10

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • 辿り着けない場所

    2012/01/28

    切ない話

    その輝ける場所は 
    同じ志を持つ者にとって栄光である。

    その聖なる場所は 
    同じ夢を抱く者にとって希望である。


    「また負けたよ」
    「そうか。おまえもか」

    「どうしても勝てねえ」
    「まったく、強い奴が多すぎるよな」

    「くそっ。もう諦めようかな、おれ」
    「おまえ、この前もおんなじこと言ってたぞ」

    「子どもの頃、天才とか博士とか言われてたのによ」
    「おれだって、田舎じゃ神様扱いされてたぜ」

    「そんなのばっかりだもんな、ここは」
    「ホント、凡人もいいところだ」

    「いまさら帰れねえしな」
    「ああ。恥ずかしいよな。馬鹿みたいだし」

    「・・・・おれ、死ぬ気になって頑張ったんだけどな」
    「ふん。本当に死んだ奴だっていたぞ」

    「ああ、知ってる。いたな」
    「ひどい負け方したから、絶望したんだろ」

    「かもな。・・・・死んだ方が楽かもな」
    「へっ。・・・・くそっ!」


    その場所に辿り着くためには 
    累々たる屍を踏み越ねばならない。

    また、奇跡的に辿り着けたとしても 
    そこにいられるのは、わずか一瞬である。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
RSS
k
k