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2012/06/03
そうなの。
あたし、こう見えてもOLなの。
なのにね、
仕事で失敗ばっかりするから
部署の偉い人から怒られちゃって
デスクのある部屋から追い出されて
こんなふうに
罰というか見せしめとして
会社の廊下に立たされてるの。
黄色い帽子かぶせられて
赤いランドセルしょわされて
こんな青いブルマーまではかされて
それから、ええと
よくわかんない色のタテ笛というか
リコーダーなんか持たされて
いかにも吹いてるような真似とか
させられてるの。
ひどいよね。
ばかにしてるよね。
まるで小学生扱いだよね。
ホント、
小学生なら泣いちゃうよ。
あたし、もう大人だから
泣いたりしないけどさ。
まあ、でもね、
そんなに淋しくはないんだよ。
だってね、あたし
こう見えても
本物の小学生の時から
リコーダー吹くのだけは
得意だもん!
2012/06/02
これより私は
あなたへの恋心を
できるだけ素直に
綴ってみようかと思います。
正直なところ、
私はあなたのことを
あまりよく知らないのです。
よく知らないから
気になるのでしょうか。
いいえ。
知らなくても一向に気にならない人は
たくさんいます。
なのに、なぜか私は
あなたのことが気になるのです。
あなたのこと
そんなに知らないわけじゃないのに
もっと知りたいと思うのです。
こんなふうに
もっと知りたいと思う気持ちが
つまり
恋心なのでしょうね。
あなたは
まるで風のような人だから
吹かれていると
とても心地好いのです。
けれど、
もし私が
あなたと一緒になって
ともに動いてしまったら
どうでしょう?
もう風は
風でなくなって
まるで
動かない空気のように
感じてしまうかもしれませんね。
それどころか、
やがて感じることさえ省略され、
気にもかけなくなることでしょう。
情けない話ですけど、
実際のところ
そんなものなんだろうな
と思います。
しかし、これでは、とても
恋文になりませんね。
恋心 ひた隠さねば 恋ならず
どうも失礼いたしました。
2012/06/01
鎖に繋がれ
目は虚ろ
生き長らふため
櫂を漕ぐ
ガレー船の奴隷さながら
2012/05/31
街を歩いていたら、因縁を付けられた。
目付きの悪い奴で、性格も悪かった。
「なんだ、その曲がった鼻は。ふざけるな」
顔面を殴られた。
私は、そのまま気絶した。
曲がっていた鼻が
おそらく反対側に曲がったはずだ。
そもそも私の鼻が曲がっていたのは
ちょっと前に、やはり性格の悪い奴に
因縁を付けられ、殴られたからなのだった。
目覚めると、椅子に縛り付けられていた。
身動きできなかった。
見知らぬ薄暗い部屋の中央で
私は目付きの悪い奴らに囲まれていた。
「なるほど。こいつはふざけてる」
「でしょう。絶対に許しませんよね」
「こりゃ、殴らずにいられんな」
そして、殴られた。
すごく痛かった。
「いいな、いいな。この情けない表情」
「まったくもう、我慢できんぞ」
さらに殴られた。
蹴られたりもした。
痛かった。
死ぬかと思った。
「いやいや、たまらん。やめられんな」
さらに殴られ蹴られ、
死ぬんだと思いながら私は再び気絶した。
そこそこ真面目にやっているつもりなのだが
なぜか、いつも私は
ふざけていると思われてしまうらしい。
いじめられやすいタイプなのだ。
子どもの頃からずっと。
目覚めると、ベッドに縛り付けられていた。
身動きできなかった。
冷酷な顔付きの奴らが
最悪な目付きで私を見下ろしていた。
「なるほど。こいつはふざけてる」
2012/05/30
おれはひとり、夜道を歩いていた。
最寄駅から帰宅の途中だった。
おれのいくらか前方に、やはりひとり
若い女が歩いていた。
暗くてはっきりとは確認できないが
ハイヒールの靴音がアスファルトに響く。
やがて不意に、女が振り返った。
そこは街灯の光が十分に届かぬ場所で
女の表情を含め、顔は見えない。
おそらく、顔を見られたくないために
そのような場所を女は選んだのであろう。
また、その時、おれは逆に
ちょうど街灯の真下の位置にいた。
やはり、そのようになるタイミングを
あの女は見計らっていたに違いない。
再び女は歩き始めたが、
心なしか、さきほどよりも靴音が大きく
また小刻みになったような気がする。
それに釣られるかのように
おれも少しばかり足を速めたかもしれない。
すると、おれを痴漢と思い込んだのか
女の靴音が明らかに速くなった。
(冗談じゃない)
文句を言ってやりたいような気持ちになり、
おれは前を行く女に追いつこうとした。
それに気づいたのだろう。
ほとんど女は駆け足になった。
(ふざけるな!)
おれは腹が立ち、
むきになって走り始めた。
女も走る。
よくもまあ、ハイヒールなんか履いて
そんなに速く走れるものだ。
呆れつつも感心はするが
健全な男の足に敵うはずはない。
おれは獲物を狙う獣の気分になり、
とうとう女のすぐ背後にまで迫った。
走りながら片手を伸ばし、
女の白いブラウスの襟をつかむ。
そして、そのまま引き下ろした。
ブラウスの生地が破れ、
絹を引き裂く女の悲鳴があがった。
おれは、その声に聞き覚えがあった。
それは、たとえ死んでも
決して聞いてはならない声だった。
2012/05/29
下校途中の小学生の女の子だった。
あんまり可愛らしかったので
俺は衝動的に誘拐してしまった。
通りすがりに、むんずと小脇に抱え上げ、
そのまま自宅まで駆け足で持ち帰ってしまったのだ。
しかし、さすがに誘拐はマズかろう。
仕方ないので、俺は言い訳として
彼女の家庭教師をしてやることにした。
「ところで、君の名前は?」
「あたし、ぱんちゃん」
「えーと、何年生?」
「小六だよ」
「得意な科目は?」
「国語!」
「苦手な科目は?」
「うーん。算数かな」
そういうわけなので
算数を教えてやることにした。
分数の足し算くらいなら教えてやれるはず。
「使ってる教科書、見せて」
「うん。いいよ」
ぱんちゃんは、赤いランドセルから
算数の教科書を出してくれた。
「ここの問題、わかんないの」
「どれどれ」
日本の国旗「日の丸」は、旗のたてと横の比が、2:3。
同じく、円の直径と旗のたての比が、3:5です。
では、横の長さが1mの旗を作る場合、
旗の中心に半径何㎝の円をかけばよいでしょうか?
「えーと、ぱんちゃん」
「なーに、センセー」
「先生、ちょっと片づけなきゃならない仕事あるから、
それまで、そこの本棚にあるマンガ、読んでていいよ」
彼女、ちょっと軽蔑するような目付きになったが、
マンガの量に驚いて、すぐに本棚に跳びついた。
やはり、まだまだ子どもである。
俺は、なんとか算数の問題を解くことに成功した。
「さて、仕事が片付いたぞ」
「ねえ、センセー」
「なんだ?」
「エッチなマンガ、ばっかりだね」
やれやれ。
「あのね、ぱんちゃん」
「なーに、センセー?」
「答えと同じ長さのもの、見たくない?」
「見栄はるな!」
まったく、近頃の小学生ときたら。
2012/05/28
君も噂ぐらい聞いたことあるだろ?
今世間をお騒がせ中の少女窃盗団について。
彼女ら、かわいい顔してやるこたぁ凄い。
なんでも盗む。
なんでも手に入れる。
お金も貴金属も宝石も極秘情報も
美少年の童貞だって奪っちまう。
警察やガードマンは子ども扱い。
学校の教師なんざ赤んぼ扱い。
中年オヤジの下半身逆撫でにして
若いもんの空っぽ頭、引っ掻きまわす。
いやいや。
君に無関係な話じゃないよ。
これが届いたんだ。
少女窃盗団からの予告状。
心当たりあるかい?
今宵のターゲットは君のハート。
ふん。
名誉なことだね。
とりあえず守ってやるよ。
仕事だからね。
さっぱり自信ないけどさ。
2012/05/27
庭には白い犬と黒い犬がいた。
白い犬小屋と黒い犬小屋もあるのだった。
なぜか白い犬は良い犬で
黒い犬は悪い犬ということであった。
それはともかく、ここは山荘である。
共同下宿としか思えないのだが
山荘であると主張されたら
宿泊者たるもの、認めざるを得ない。
左右ふたつの部屋に分かれている。
右の部屋は自分の。
左の部屋は若い女の。
中央にある共同炊事場で自炊しながら
互いに他人として泊まっている。
ある日、ひとりの若い男がやって来た。
左の部屋の女の知り合いらしい。
にぎやかな話し声が聞こえてくる。
「君、いくつだったっけ?」
「十九才でーす」
そういえば、彼女が痴漢に襲われて
警察官と話していたのを聞いたことがある。
「あなたの年齢は?」
「二十二才です」
つまり彼女は、相手が違うと
態度も年齢も異なるというわけだ。
「おい。あんた」
共同炊事場の流しで食器を洗っていたら、
その若い男が因縁をつけてきた。
「あんたがそんな派手なパジャマ着てるから
おれが地味に見えてしまうじゃないか」
なるほど、自分は派手なパジャマを着ている。
かたや、相手は地味なパジャマだ。
しかし、それがなんだというのだ。
開いた窓から夏の積乱雲が見える。
むくむく腹が立ってくる。
そいつの襟首をつかんで睨みつけた。
「ふざけるな!」
おどしつけたつもりなのだが
普段おどし慣れてないため
情けないくらい声が裏返っている。
それでも、相手は気が弱いのか
そこそこ怖気づいたようだ。
その時、女が駆け足で炊事場に現れた。
裸エプロン姿の彼女は
気づかないのか無視しているのか、
白い素肌の背中をこちらに向けたまま
黙って共同冷蔵庫の扉を開ける。
丸ごと入っている豚の頭部が
彼女の腋の下の隙間から見えた。
その見開かれた両目。
なにも起こらない
静かな午後のひと時。
白い犬も黒い犬も
眠っているのか
ちっとも吠えないのだった。
2012/05/26
「おまえは事件当日、その時刻にどこにいた?」
「首相官邸にいました」
「ふざけるな!」
「いいえ。ふざけてなんかいませんよ」
「まあいい。で、なにをしていたんだ?」
「総理大臣を暗殺してました」
「嘘を吐くな!」
「いいえ。本当ですよ」
「まあいい。で、証拠はあるのか?」
「刺したナイフに俺の指紋が残ってるはずです」
「ふん。そんなものは証拠にならん」
「どうしてですか?」
「おまえの指紋がついたナイフに過ぎない」
「しかし・・・・・・」
「手袋をした別人が刺したんだろうよ」
「そんな馬鹿な」
「残念だったな。じつは目撃者がいるんだ」
「まさか!」
「盗まれた被害者自身だ」
「う、嘘だ!」
「ところが本当だ。アリバイは崩れたな」
「・・・・・・」
「たしか、彼女とは同級生だったな」
「・・・・・・そうです」
「しかも、幼なじみだ」
「・・・・・・ええ」
「認めるんだな。下着泥棒を」
「・・・・・・はい。すみません」
「よし」
「ああ。彼女にだけは知られたくなかった」
2012/05/25
女医に首を切られた。
うかつだった。
白衣の襟に血の模様が鮮やかに染まった。
きれいだった。
窓ガラスは粉々に割れ、
診療室は妙に明るいのだった。
「なかなかなものね。
品評会に出せるかも」
彼女は大きな目を細め、
楽しそうに微笑む。
それから
血のような口紅の唇が
血の気のない唇に触れる。
「なんてひどいことを。
あなたを信じていたのに・・・・・・」
僕の声にも血の気がない。
柔らかな手のひらの上は
なんだか不安定で
僕は不安で一杯だった。
女医の気持ちはどうなんだろう。
その表情からは読み取れない。
僕は彼女の胸に聴診器を当ててみたかった。
「安心なさい。
まもなく戦争が始まるわ」
女医は僕の首を手のひらに載せたまま立ち上がり、
踊りながら軍歌を口ずさむのだった。
メリーゴーランドの木馬のように
僕の目がクルクル回る。
そのため、診療室の割れた窓から
勇ましい駆逐艦の軍旗のはためきが
チラチラ、チラチラ
見え隠れするのだった。