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  • 愚痴聞き屋

    2012/05/24

    愉快な話

    えー、皆さま。
    大変お騒がせいたします。

    こちらは毎度お馴染み 
    愚痴聞き屋でございます。


    どうにもこうにも 
    やり場のない愚痴はありませんか。


    誰も聞いてくれない愚痴 
    聞くに堪えない愚痴 

    耳にタコの愚痴 
    よく聞き取れない愚痴 

    どんな愚痴でも結構です。


    量の多少、質の高低 
    態度の大小に係わらず 

    しっかりお聞きいたします。


    逃げません。
    耳栓は使いません。

    寝たフリもしません。
    怒って喧嘩することもありません。


    ただただひたすら頭を垂れ 
    じっと耐え忍んで拝聴いたします。


    どこかにどなたか 
    ご迷惑な愚痴はありませんか。

    どんな愚痴でも構いません。

    この宣伝がうるさい 
    という愚痴でも結構です。

    どうぞ遠慮せず 
    お申し付けください。


    わだかまりのある愚痴 
    声に出せない愚痴 

    しょうもない愚痴 
    グチグチうるさい愚痴 

    いかなる愚痴でも 
    格安にて承ります。


    遠慮せず、我慢せず 
    正々堂々と愚痴ってください。

    大声で愚痴れば 
    心身ともにすっきりいたします。

    どうぞ怒鳴って 
    呼び止めてください。


    えー、皆さま。
    大変お騒がせいたします。

    こちらは毎度お馴染み 
    愚痴聞き屋でございます。
     

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    • Tome館長

      2014/12/07 16:56

      「さとる文庫 2号館」もぐらさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2012/06/02 10:06

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 君に夢中

    2012/05/22

    愛しい詩

    君は、人間じゃない。
    だから女でもない。

    ただし、化けることはできる。

    近所のお姉ちゃんにも
    世界的なJazzシンガーにも。


    いつもは角砂糖。
    たまに抱き枕。

    気が向くと

    駅前交差点で
    ティッシュを配ってる。


    他人のフリするのが得意。

    泣くのが不得意。


    そう言えば、

    ストリート・ミュージシャンとか
    目指していたんだっけ?

    それとも声優?


    なんにせよ、

    君は反面三角で
    僕は倒立円錐さ。


    たまには一緒にメシ喰おう。
     

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  • 互いを疑え

    2012/05/21

    変な話

    あなたにお願いしたいことがある。
    協力して欲しいのだ。

    安心なさい。
    難しい注文ではないのだから。


    まず、手相を見るように
    自分の片手を眺めていただきたい。

    それは手である。
    疑うまでもない。

    しかしながら
    あなたに問いたい。

    その手は常に手であるか、と。

    からかっているわけではない。
    実際、疑う余地があるのだ。

    その手をクルマのワイパーのように
    左右に大きく振ってみていただきたい。

    しかも、目で追えないくらい速く。

    すると、手の形は消え、
    扇状のぼんやりしたものが現れるはず。

    動く手の残像である。

    さて、残像のそれは
    はたして手と言えるのだろうか。


    ある位置において
    あったりなかったりするもの。

    ある位置において
    存在と不在を繰り返すもの。

    動きを止めれば
    そこに確かに手はある。

    しかし、再び動き始めた手は
    そこだけでなく、ここにもある。

    いや、そうではない。
    そこにもここにもない。

    なんだ、それは。
    そんなものが手と言えるのか。

    まるで幽霊のようではないか。


    あなたに対して移動し続ける対象を
    あなたが追尾しようとしない場合、

    たとえ、その動きが高速でないとしても

    それがあなたと同じようにそこに存在すると
    あなたには言えるのだろうか。


    ・・・・・・以上である。

    あなたが存在するかどうかは不明だが
    ともかく、あなたの協力に感謝する。
     

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  • 翼のある少年

    2012/05/20

    切ない話

    少年はいつも車椅子に乗っていた。
    彼には両足がなかったのだ。

    「生まれた時からなかったんだ」
    少年は僕に話してくれた。

    「でも、かわりに翼がある」

    それらしきものは見えなかった。

    「そう。見えない翼なんだ」
    少年の瞳はきらきら輝いていた。

    (ないのは、足だけではないかも)
    僕は、そう思ったものだ。


    この少年と別れて、もう随分立つ。

    ところが今日、僕宛に手紙が届いた。
    あの足のない少年からだった。

    もっとも、僕と同じくらい
    今では彼も大人になっているはずだが。

    その手紙の中で彼は書いている。
    「君にも翼が見えたよね」

    あっ、と僕は驚いた。


      僕は空を見上げている。

      背に翼のある男が僕に手を振る。
      なんだか、とても懐かしい。

      空を飛ぶ男に僕は呼びかける。
      「やあ、元気そうだね!」


    そんな場面を思い出したのだ。

    ほんの最近、僕が見た夢。
    すっかり忘れていた。

    そういえば、男には足がなかったかもしれない。

    (あの男は、あの少年だったんだ!)
    僕は嬉しくなって跳びはねる。

    でも、ほんのちょっとしか浮けない。

    (でも、君は本当に空を飛べるんだね)
    すごい、と僕は思った。

    たとえ、それが僕たちの
    心の中にしかない空だとしても。
     

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  • つまんない話

    2012/05/19

    変な話

    じつにつまんない話なんだ。

    まったくもう、つまんなくてつまんなくて
    反吐が出るくらい。

    それくらいつまんない話なんだ。


    内容なんて、まるでないよ。

    こんなの、聞くだけ時間の無駄だね。

    もし聞いちゃったら、
    きっと聞いたのを後悔して、落ち込んじゃうよ。

    それくらいつまんない話なんだ。

    本当だって。


    で、どんなにつまんない話かというと、
    もうどうにもこうにも救いようがないくらいだね。

    いっそ自殺したくなるくらい。

    つまり、死にたくなるくらいつまんないんだ。

    わかるだろ、
    どんなにつまんないか。

    もううんざりするよ。


    そういうわけだから、話すまでもないよね。

    だからもう、つまんない話はやめる。


    いやいや、本当に。

    わざわざ聞くまでもないって。


    だって、本当につまんない話なんだから。
     

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  • 図書館の少年

    2012/05/18

    変な話

    その少年は本を読むのが好きだった。
    だから、図書館にいるのも好きなのだった。

    ある日、少年は家の近所の私立図書館に入った。
    そこで彼は、奇妙な本を見つけた。

    書名は「図書館の少年」。
    児童向けの小説らしい。

    少年は立ったまま読み始めた。


    読書好きな少年が主人公。

    ある日、彼は近所の私立図書館に入る。
    そこで「図書館の少年」という名の本を見つける。

    そして、立ったまま読み始める。

    (あは。こいつ、僕と同じことしてら)
    少年は笑う。


    読書好きな少年が主人公。
    ある日、彼は近所の私立図書館に入る。

    そこで「図書館の少年」という名の本を見つける。
    そして、立ったまま読み始める。

    (なんだ。これ、冗談かな)
    少年は驚く。


    読書好きな少年が主人公。
    ある日、彼は近所の私立図書館に入る。

    そこで「図書館の少年」という名の本を見つける。
    そして、立ったまま読み始める。

    (もう。ふざけるなよ)
    少年は怒る。


    読書好きな少年が主人公。
    ある日、彼は近所の私立図書館に入る。

    そこで「図書館の少年」という名の本を見つける。
    そして、立ったまま読み始める。

    (おいおい。まさか・・・・・・)
    少年は心配になる。


    読書好きな少年が主人公。
    ある日、彼は近所の私立図書館に入る。

    そこで「図書館の少年」という名の本を見つける。
    そして、立ったまま読み始める。

    (・・・・・・)
    少年は・・・・・・


    いつまでもいつまでも
    本の中の少年は本を読み続ける。

    少年の家の近所の私立図書館で。
     

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  • 散りゆかば

    2012/05/16

    愛しい詩

    散りゆかば

      朱色
       絶えて

         葉は緑


      やがて実りて

        豊穣となす
     

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  • 散る花

    2012/05/15

    愛しい詩

    散る花の
     名は知らねど

        はらはらと


      香り
       残せし

         今更の恋
     

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    • Tome館長

      2013/04/21 23:27

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2012/05/16 19:50

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • 鍋の女

    2012/05/14

    怖い話

    捕えた女を鍋で煮ている。


    「お嬢さん。湯加減はいかがですか?」
    「ええと、ちょっと熱いわね」

    「熱いくらいが、ちょうど良いのですよ」
    「あら、そうなの?」

    「そうなんです」


    近くで太鼓の音がする。


    「お祭りでもあるのかしら」
    「そうですよ。あなたを歓迎しているのです」

    「まあ。それは光栄ね」
    「期待してください」


    なんとも言えない香りがする。


    「どうして、野菜や果物が一緒に入ってるの?」
    「野菜は健康に良いのですよ」

    「果物は?」
    「美容によろしい」

    「肌がきれいになるかしら」
    「もちろんです」


    こっそり鍋に塩を入れる。


    「あなたも一緒に入ったら?」
    「と、とんでもありません!」

    「あら。恥ずかしいの?」
    「そ、そういうわけではありませんが・・・・・・」

    「おかしな人ね」
    「すみません」


    木の枝を火に投げ込む。


    「なんだか、めまいがするんだけど・・・・・・」
    「もうすぐですよ」


    熱帯の月が笑いかける。
     

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  • 異形の影

    2012/05/13

    怖い話

    眩暈と吐き気のする深夜の国道。

    ドブのように黒いコーヒーを飲みながら
    俺は会社の営業用車を運転していた。


    死にそうなほど瞼が重い。

    非常識な超過勤務。
    痛みと疲労と睡眠不足。


    一瞬の空白。
    そして、衝撃があった。

    俺は、あわててブレーキを踏む。


    通り過ぎたはずの後方のアスファルトの上に
    なにか黒っぽい物体が見える。

    ドアを開け、車道に降り立つ。

    動けずに立ちすくんでいると、
    その黒い物体がムクムクと起き上がった。


    それは人影のようにも見える。
    が、人にしては、あまりにも形が崩れていた。

    這い上がり、立ち上がり、そして
    その黒い影が、こっちへ向かって来る。


    俺は、全身に悪寒を感じた。

    それは純粋な恐怖だった。


    この世のものとは思えぬ異形。
    得体の知れぬ怪物。

    それが近づいてくる。

    さらに近づく。


    (危険だ!)

    俺は運転席に戻る。
    しっかりドアを閉める余裕もない。

    ペダルを踏む。
    動かない。

    エンジンが止まっている。
    心臓まで止まりそうだった。


    なんとか発進させる。
    後方確認。

    (うわっ!)

    危なかった。
    すぐ背後に迫っていた。

    アクセルを踏む。

    やがて視界から見えなくなった。


    (なんなんだ、あれは?)

    まだ心臓がドキドキしている。


    赤信号の交差点で止まる。
    バックミラーを覗く。

    (・・・・・・まさか!)

    追われていた。
    異形の影が小さく見える。

    そして、それが徐々に大きくなる。


    信号を無視して発進。


    追ってくる。

    まだ追ってくる。
    どこまでも追ってくる。

    いくつもの交差点を突き切る。


    気づいた時には
    視界いっぱいに大型トラックが迫っていた。

    すべての動きが緩慢に見える。
    もう逃れられない。

    死を覚悟した。


    その刹那、俺は見た。

    迫りくる大型トラックの運転席にいるのも
    やはり異形の影なのだった。
     

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