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  • 鏡 台

    2012/07/18

    ひどい話

    ひどく古くて
    あやしげな鏡台。

    亡くなったお婆様の形見だそうです。


    「これ、あなたにあげるわ」
    お母様が私にくださいました。

    「なんでも、あべこべに見えるのよ」
    おかしなことをおっしゃいます。


    おそるおそる
    鏡を覗いてみました。

    とても愛らしい
    少女のお顔。

    私は私の顔を
    生まれて初めて見たのです。


    私は
    いわゆる箱入り娘。

    私が生まれた時に
    家中の鏡を

    お父様がみんな
    割ってしまったそうです。

    この鏡台だけを
    なぜか残して。


    右の目をつぶると
    左の目が閉じます。

    本当に
    あべこべに見えるのです。
     

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  • 霧の街

    2012/07/16

    怖い話

    灰色の霧に包まれ、
    街は暗くよどんでいる。

    霧は建物にまとわりつき、
    窓を舐め、壁を濡らす。

    霧は生き物のように
    屋内にも侵入する。

    階段の手すりに絡み、
    いやらしく床を這う。


    霧の街を手探りで進んでいた男が
    崖から落ちた。

    霧の底へ底へ落ちながら
    叫ぶ男の声がする。

    「嘘だ! この街に崖はない」


    死んだはずの男に
    霧の街で出会った女もいた。

    霧の奥へ奥へ逃げながら
    叫ぶ女の声がする。

    「嘘よ! 突き落としたはずなのに」
     

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    • Tome館長

      2013/06/15 11:13

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

    • Tome館長

      2013/06/13 17:09

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 記録の申告

    2012/07/15

    変な話

    学校での泊まり込み合宿の初日、
    さっそく部員全員で徒競走をするという。

    坂道の多いコースを一番で駆け抜け、
    ゴールとなる教室に到着する。

    教卓の上に記録用紙が置いてある。

    記録は自己申告することになっている。
    掛け時計を見ながら必要項目に記入する。

    徒競走は終わった。

    他の選手が記録したものも集め、
    階下にある職員室へ届ける。

    顧問の他にも数人の教師の姿があった。

    なにやら不穏な話をしている。

    「もう持って来たの?」

    差し出された記録用紙の束を見て
    眼鏡の中年女教師が怪訝な表情をする。

    「下駄箱に突っ込んでおきましょうか」

    こちらも反抗的な態度になる。

    「いいわ。もらっておく」

    最初から素直に受け取ればいいのに、
    と言えない自分。

    苛立たしい気持ちのまま職員室を出る。

    あの女が顧問だったのかどうか、
    じつは確信がない。

    いずれにせよ

    我々は陸上部ではないのだから
    大会では他の学校に敵わないだろう。

    そんなことを思う。

    なんの大会か知らないけど。
     

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  • 薬の部屋

    2012/07/14

    怖い話

    部屋に案内され、
    一粒の薬を手渡された。

    殺風景な狭苦しい部屋だった。

    言われるまま椅子に腰かけ、
    言われるまま薬を飲んだ。

    背後でドアが閉められ、
    施錠される音がした。

    ひとり部屋に残された。


    正面の天井近く、
    設置された看視カメラに気づく。

    つい笑顔を作ってしまい、
    すぐに自己嫌悪に陥る。


    やがて、奇妙な音が聞こえてきた。

    「アア、アアア、アアアアア」


    感心してしまった。
    音楽が聞こえる薬だったとは。

    いやいや。
    違う、違う。

    これは自分の声だ。
    なぜか自覚せずに発声している。


    ふと見下ろすと
    そこに誰かの頭があった。

    一脚しかないはずの椅子に
    一緒に腰かけている。

    どことなく横顔に見覚えがあった。

    目が合った。
    とまどいの表情は隠せない。


    「アア、頼むから
     そんな目で、見ないでくれ」

    どちらの声なのか
    どちらも区別できなかった。
     

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    • Tome館長

      2013/06/13 11:30

      「広報まいさか」舞坂うさもさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2013/06/11 12:08

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • いざ逝かん

    2012/07/13

    暗い詩

    荷物なく
     ひとりっきりで

       いざ逝かん

         あるやなしやの
          薄明の地へ


    そこに痛みなく
     苦しみもなく

       悩み 消え
        迷い 解け

          安らかなる地平
           ただ広がるばかり


    いざ逝かん

      恐れることなかりせば

        心 静かに
         願い かすかに
     

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  • いじめ問題

    2012/07/12

    ひどい話

    【いじめの一般的な定義】

    立場の強者が立場の弱者を一方的に痛めつけること。



    【いじめの主な手段】

    意識的な無視 不快な悪口 あからさまな嫌悪 
    過剰な非難 理不尽な命令 不当な暴力 
    仲間はずれ 邪魔者扱い いやがらせ



    【いじめる側の主な理由】

    いじめているつもりはない。
    いじめなければならない。
    いじめてもかまわない。
    いじめるべきである。
    いじめてしまう。
    いじめたい。



    【いじめられる側の主な原因】

    社交性に乏しい。
    嫌われやすい。
    立場が弱い。
    怖くない。



    【いじめられる側の主な対策】

    いじめに慣れる。
    援助を求める。
    立場を強化。
    報復する。
    逃げる。
    自殺。
     

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  • くだらない夢

    2012/07/11

    愉快な話

    さすがに情けなくなってくる。
    毎日、くだらない夢ばかり見るのだ。

    本当にどうしようもない夢。
    話す気にもなれない、つまらない夢。

    恥ずかしくなるほどくだらなくて 
    救いようもない最低の夢の繰り返しなのだ。


    しかし、夢の事なんかどうでもいい。
    現実さえ楽しければ、それでいいのだ。

    実際、なかなかうまくやっていると思う。

    豊かな生活、両手に花。
    思い通りの輝かしい人生。

    そうなのだ。
    なにをやっても成功してしまうのだ。

    事がうまく運び過ぎる気さえする。

    まるで、なんというか 
    そう、まるで夢みたいなのだ。

    本当に夢ではないかと心配になるくらいだ。
    まさか、そんな事はないだろうけどさ。

    そうだよ。
    これが夢であるはずがない。

    なにしろ、こんなにうまくいってるのだから。
    まるで夢みたいにうまくいってるのだから。


    ん? 
    ああ、誰だ? 

    やめろ。
    やめてくれ。

    お願いだから 
    このまま、ほっといてくれ!
     

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  • ひとりぼっちの渚

    波に乗る猿ではない。

    虎に従う狐でもない。



    ひとりぼっちの渚で

    誰も聴いてくれない
    下手なギターを爪弾いたり

    誰も眺めてくれない
    砂の城をこしらえたり

    誰も読んでくれない
    手紙入りボトルを流したり


    そんな事をするだけの
    なんだかよくわからない

    変な

    こいつ。
     

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  • 星の雫

    2012/07/09

    楽しい詩

    星の雫の 降る夜は
     狐の尻尾の 白い先


    葉っぱ載せるや
     クルリとまわり

    化けて見せましょ 村娘
     それとも年増の 艶姿


    眉ツバものの ためしとて
     天を仰ぎて 候わん
     

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    • Tome館長

      2013/06/09 18:18

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2012/07/09 18:08

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • 古代の謎

    2012/07/07

    変な話

    大きな海の真ん中に
    小さな無人島があった。

    津波によって島が洗われた翌年、
    遠い国の船がここを訪れた。

    そして
    古代遺跡が発見された。


    「これは凄い!
     なんという高度な文明だろう」

    高名なる考古学者が感嘆した。

    ある特殊な分野においては
    現代より進歩していた形跡があるという。


    出土した石碑には
    古代文字が刻まれてあった。

    それは次のように読めた。

    「わが謎を解く者、全能なり。
     ゆえに、あえて謎を示すまでもない」
     

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