1万8000人の登録クリエイターからお気に入りの作家を検索することができます。
2012/08/12
あちら立てれば、こちら立たず。
出る杭は引抜かれ、沈む船は船員を巻き込む。
世の中、問題だらけ。
地球規模の破滅は近い。
だから、もう放ってはおけない。
長年の極秘研究の成果を試す時が来た。
とうとう生物学兵器が完成したのだ。
いわゆる人工ウイルス。
ウイルスは細胞のない遺伝子のようなもの。
単体では生物とも呼べないが、
他の生物の細胞内で生きることができる。
侵入した寄主細胞内でウイルスは増殖し、
次々と細胞外へ放出される。
寄主細胞を生かすも殺すもウイルス次第である。
細かいことはどうでもよい。
とにかく世界人口を激減させる必要がある。
誰にも相談できないため
その選択基準を独断で決めた。
大胆かつ精密なシステムの上に成立する選択。
分子レベルから説明するのは難しいが、
要するに「善良な人」を残すことにした。
生物学的に善良な人。
社会学的には知らないが・・・・・・
なんにせよ、もう誰にも止められない。
すでに殺人ウイルスは世に放たれた。
なぜなら、すでに私が感染しているから。
そして、どうやら私は
善良な人とは見なされなかったらしい。
2012/08/10
なぜか解剖されている。
腹を解剖バサミで切り開かれ、
そのまま皮を広げられ、
寝台の両端にピンで留められている。
執刀者はマスクをした女。
その切れ長な目に見覚えがある。
「どうして血が溢れないのでしょう?」
迷惑にならぬよう
小声で女に話しかけてみる。
「それはね、血抜きしてあるからよ」
意外と優しい人かもしれない。
腹の中から様々なものが取り出される。
ペンライト、馬蹄磁石、天体望遠鏡、・・・・・・
「これ、何かしら?」
ピンセットでつまんだものを見せつける女。
思わず赤面してしまう。
血が抜かれているのに不思議な事。
「なんでもありません」
「本当になんでもないの?」
「本当になんでもありません」
それがなんなのか
知られているような気がしてならない。
「あら、そうなの」
それを足もとのバケツの中へ投げ捨てる女。
話題を変えなければならない。
「麻酔はしないのですか?」
「あら、もう忘れたの?
あんなに太い注射、お尻にしたでしょ」
たしかに痛みは感じない。
痛みとともに記憶も消されたのだろうか。
「見つけた! こんなに爛れてる!」
眉間にしわを寄せる女。
「そんなにひどいのですか?」
「ひどいなんてもんじゃないわ!
完全に手遅れよ」
患部に解剖バサミの刃を当てると
いかにも汚らわしそうに目をそらし、
それを完全に断ち切ろうとして
女は歯を喰いしばった。
2012/08/09
(・・・おかしい)
占いお婆は思案顔。
(明日が見えない)
水晶玉に明日のイメージが映らないのだ。
水晶玉に未来を映すのは
未来における現在を映す未来の自分。
つまり、未来のお婆が
その過去である現在へ向け
水晶玉へ思念を送り込まなければならない。
当然だろう。
送る者が送り出さなければ
受ける者は受け取れない。
(・・・ということは)
お婆は水晶玉を撫でる。
(明日、おまえを愛でられなくなる、ということ)
その余裕がなくなるのか。
それができなくなるのか。
(・・・わからない)
とにかく、水晶玉の中は空っぽ。
明日に限らず
未来からのメッセージは
ひとかけらも入っていない。
2012/08/08
なにかについて考えなくてはならなくて
でも眠くって
仕方ないので
眠りながら考えることにして
うとうとうとうと
考えながら眠ったんだけど
意外なことに
なかなか良い考えがひらめいて
これは眠ってる場合じゃない
と
あわてて目覚めたのでは
あるけれど
残念なことに
あわて過ぎたからか
ひらめいた考えの記憶は
すっかり失われてしまっていて
さらに
いけないことには
そもそも
なにについて考えていたのか
という大切な記憶すら
まったく思い出せないのだった
2012/08/07
うたかたの
ひとつ
ふたつ
見つかって
よっつ
いつまで
もう
ななつ
やっと
ここのつ
とうと
割れ
2012/08/05
巨大なショッピングセンター。
どんなものでも売っている、と評判だ。
食品コーナーなんか
見てまわるだけで満腹になる。
おそらく疑似加工食品だろうが
人魚の刺身や河童の干物まで並んでいる。
玩具コーナーの戦争ゲーム盤の隣には
さりげなく核兵器手作りキットが置いてある。
悪質な冗談としか思えない。
季節商品の納涼グッズ・コーナでは
風鈴のように幽霊が吊り下がっている。
その、うらめしそうな顔、顔、顔。
しかし、そんなものはどうでもいい。
あれは、どこに売っているのだろう。
ここへ来たのは、あれを買うためなのだ。
「商品を探しているのですが・・・・・・」
制服姿の従業員に尋ねてみた。
「はい。何をお探しでしょう」
なんて素敵な商業スマイル。
「あ、愛は、どこにありますか」
赤面するのが自分でわかった。
「愛ですか?」
「そうです。愛が欲しいのです」
もう恥ずかしがってる場合じゃない。
「本日の目玉商品のやつですね」
「そうです。それです。それに違いありません」
涙で視界がにじんだ。
やはり愛は売っていたのだ。
しかし、従業員は申し訳なさそうな顔をする。
「すみません。
愛は、午前中に売り切れてしまいました」
2012/08/04
妹は父の子を産んだ。
女の子だった。
でも、母に食べられてしまった。
私の妻も一緒に食べられた。
この妻は、私の姉でもあった。
私が父を殺すと、母は自殺した。
この母は、私の祖母でもあった。
妹は頭がおかしい。
だから、私の子も産んだ。
生まれた息子は狂っていた。
少なくとも、私より狂っていた。
私は息子に殺されるかもしれない。
なんとなく、そんな気がする。
私には息子を殺す資格がない。
なぜか、そう思う。
私が殺されたら、妹はどうするだろう。
泣いてくれるだろうか。
息子を食べてくれるだろうか。
それとも、息子の子を産むのだろうか。
ログインするとコメントを投稿できます。
2012/08/03
「どうしたんだい?」
友だちが心配してくれる。
「なんでもない」
「顔色が悪いよ」
君、余裕があるんだね。
「・・・・・・あのね」
「うん」
「片想いの彼女がね」
「うん」
君に説明してどうなる。
「妊娠しちゃった」
どうもなりはしない。
「・・・・・・そうか」
君、戸惑うんだね。
「父親はわからないって」
「・・・・・・ふうん」
君、ホッとしたね。
2012/07/31
「あっ、落としましたよ!」
老人を呼び止めた。
歩道に落ちたものを拾ってやる。
それは眉であった。
真っ白な眉。
「これはこれは。すまんすまん」
老人に白い眉を手渡す。
なるほど。
老人の顔には片方の眉がない。
「ありがとうな。助かったよ」
「いいえ。どういたしまして」
先を急いでいたら、老人に呼び止められた。
「もしもし。これは違うぞ」
片眉の老人が追かけてきた。
「これは左の眉ではないか」
老人の手のひらの上のそれを見る。
言われてみると、確かに左眉だ。
老人の顔を見る。
「落としたのは右の眉だ」
片眉の老人は断言するのだった。
なるほど。
老人の顔には右側の眉がなかった。
その反対側の眉を見る。
なんとも異様な眉であった。
なぜなのか、その理由がわかった。
「この左側の眉は、右眉ですね」
そう言われて、老人は驚いたらしい。
異様な眉が異様に下がったから。
おそらく、吊り上げたつもりなのだろう。
上下も逆さまだったから。
2012/07/30
昔、あるところに、ある人物がいた。
いつの時代で、どこの国の人物か、不明。
そいつの素性もよくわかっていない。
性別も職業も当時の年齢も、さっぱりである。
さて、それはともかく
そいつは、ある目的のために行動したという。
その目的は不明である。
行動の内容も、伝わってはいない。
それに関する記録が残っていないのである。
極秘に行われる必要があったのだろう。
そうでなければ
なにかしらかの痕跡が残ってしかるべきである。
ただし、これはあくまでも推測にすぎない。
その行動に、どのような意味があったのか。
その行動により、いかなる結果がもたらされたのか。
残念ながら、知る者はいない。
闇に葬られたのか。
皆、忘れただけなのか。
それすら判然としない。
つまり、そういうわけで
わけのわからない話なのである。
しかしながら
まあ、よくある話ではある。