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2012/09/05
うたかたの 淡き恋なら
言の葉の 針でつついて
割れてしまえと
2012/09/04
執行人に綱を引かれ、俺は進み出た。
刑場の観衆は待ちくたびれていた。
眼前には二本の柱が直立している。
見上げると刃先が斜めに垂れている。
むんずと首穴に頭を押し込まれ、
うつ伏せのまま架台に縛られた。
鼻先には編み籠が置かれてある。
処刑の準備は整ったわけだ。
「この者、血も涙もない凶悪犯にして・・・・・・」
俺に関する美辞麗句が語られる。
牧師が十字を切り、執行人が紐を引く。
真下に刃が落ち、俺の首は切り落とされた。
瞬間、観衆が悲鳴と歓声をあげる。
切断された首の断面から俺は覗いてみた。
白髪の頭が編み籠の中に落ちている。
使い捨てたような老人の頭部。
俺は新しい頭を首の穴から突き出してみた。
奇妙な表情の観衆の顔が見えるのだった。
2012/09/03
一般に、男はギャンブル好きである。
そして、ギャンブル好きの男は女好きである。
なぜなら、女そのものがギャンブルだから。
その男は天性のギャンブラーだった。
ジャンケンでもなんでも負け知らず。
苦もなく若くして巨万の富を築いた。
この男、ある女に恋をした。
しかし、あっさり失恋してしまった。
「負けた・・・・・・」
男は自殺してしまった。
おそらく、その女に命を賭けたのだろう。
2012/09/02
あいつは、とんでもない奴だ。
ずっと昔からいたみたいな顔して
不意に目の前に現れる。
あんまりまともな人物とは思えない。
あいつ、そもそも服装がなってない。
今回は、まあ普通の格好みたいだが
下着姿だったり、裸の場合も多い。
まれに恥ずかしがったりもするが
ほとんど無頓着な気がする。
行動だって、どう見ても異常だ。
とんでもないところで排便したり、
傘にぶら下がって空を飛んだり。
勝手に怒って、脈絡もなく
われわれの首を絞めたりもする。
マシンガンを乱射したこともあったな。
まったく迷惑この上ない。
ああ、ビルの屋上から落ちてしまった。
本当に勝手な奴なんだ、あいつは。
でも、あいつは地面に落ちたりしない。
なぜか地面に着く前に消えてしまうのだ。
そう、まるで幽霊みたいな奴なんだ。
「こ、これは、夢だ!」
あいつ、なんか叫んでいたな。
2012/08/31
なんでもないことなんだけど
私は女の子か男の子かよくわからない。
よくわからないまま私は、とりあえず
隣町の女の子だけの学校に通っている。
もうひとり、私の友だちで、やっぱり
女の子か男の子かよくわからない子がいて
その子と私で、どちらか女の子っぽいか
どちらが男の子っぽいかということを
ふたりで競争することになった。
全校生徒の前で私は弁明したのだけれど
なにを話したのか忘れる癖があって
結局つまり、
そういうことになってしまったのだ。
どんな競争をするのか、とっても不安。
すでに内容はしっかり決まっているらしい。
全部で五つのゲームをするのだそうだ。
しかも、今日の放課後、体育館で。
どうしてこうなるのかな。
きっと生徒会とかで決めたんだろうな。
うちの生徒会長が誰なのか知らないけど、
いくらなんでも私でないことだけは確か。
案外、私の競争相手の子かもね。
ああ、いやだな。
いやなことだらけだ。
ゲームは苦手。
わけわかんなくなるんだから。
だって頭、悪いんだもん。
五つもゲームしたら、死んじゃうよ。
面倒くさいから
いっそ死んじゃおうかな。
でも、死ぬのも面倒くさいな。
今日はもう家に帰っちゃって
みんな忘れたことにしようかな。
そうしようかな。
どうしようかな。
ああ、眠い。
ところで、ええと、なんだっけ?
なにを考えていたのか、忘れちゃった。
2012/08/30
深夜、彼女を荷台に乗せて
僕は自転車のペダルを漕いでいた。
道沿いに高い塀が延々と続いているのは
そこに大きな霊園があるからだ。
「ここよ。この通りで人が消えるの」
彼女の声は震えていた。
タクシーに乗った乗客が必ず
この霊園通りで消えるというのだ。
ただの噂話に過ぎないが
まったく怖くないこともない。
それで、つい強がりを言ってみたくなる。
「振り向くと、君が消えていたりしてね」
なんの反応もなかった。
いやな予感がした。
振り向くと、しかし、そこに彼女はいた。
「なんで黙ってるのさ」
「だって・・・・・・」
彼女は視線を落とした。
なるほど。
彼女の足が消えかけていた。
2012/08/29
あたし今、近所のスーパーにいるの。
カゴなんか持って買い物してるけど、
それどころじゃないのよ。
野菜売り場、なかなか見つかんなくて。
目の前にあるのは精肉売り場かしら。
牛の頭や豚の頭や鶏の頭が
それぞれ、きれいに並んで売られているわ。
どういう仕掛けなのか
売り場の両端に並んでる豚の頭が
生きてるみたいにニタニタ笑ってる。
ドキリとしてしまうわ。
こんなの、買う人いるのかしら。
「あら、奥さんも買い物?」
その声に振り向いたら
同じ団地に住んでる奥さんなのよ。
名前は、ええと、思い出せないけど、
なんというか、笑顔に見覚えがあるわ。
「ええ、まあ、その、
これでも買い物なんですかね」
まったく、あたしったら
なにをあせっているのかな。
「まあ、おいしそうな豚の頭ね」
そう言われて
自分のカゴの中を見ると、
なぜか豚の頭が一個、丸ごと入っていて
こっちを見上げてニタッと笑っているのよ。
うわっ。
いつの間に・・・・・・
信じられない。
すぐに売り場に返したいけど
触れたくもなくて。
「これ、お譲りしますわ」
笑顔の主婦にカゴごと差し出したの。
「えっ、いいの? 悪いわね」
信じられないことに
彼女は素直に受け取ってくれて
そのまま逃げるように
スーパーの奥へ奥へと消えていったわ。
なんて、おかしな人。
そういえば、今さら気づいたけど、
彼女、あの豚の笑顔にそっくりだったわ。
ああ、もうダメ。
とても買い物なんか続ける気になれない。
そうよ。
食べ物なんかなくても平気よ。
あんな豚の頭とか食べるくらいなら
いっそ飢え死にする方がマシよ。
そうよ、そうよ。
そうしましょう、そうしましょう。
なんて決意して
スーパーを出ようとしたらね、
なぜか出口が見つからないの。
ああ、どうしましょう。
あたし、困ったわ。
あたし、本当に困ったわ。
2012/08/27
晴れたらいいね
彼女を殺そ
ランラララン
晴れたらいいね
彼女を埋めよ
ランラララン
晴れたらいいね
彼女はいない
ランラララン
ランララ
ランラン
ランラララン
2012/08/26
両親は心中した。
その子を残して。
遺書はなかった。
その子が燃やしたから。
ふたりの大人を死に追いやったのだ。
その幼い子が。
かわいらしい子だった。
絶望させるくらいに。
両親は奴隷でしかなかった。
あわれなことに。
「パパもママも、きらい」
ちょっとすねてみただけなのに。
2012/08/24
僕は、砂浜の海岸線すれすれに穴を掘り、
まぬけな魚が落ちてくるのを待っていた。
そこへ幼なじみの歯医者がやってきた。
「どれどれ、口を大きく開けてごらん」
彼は根っからの歯医者である。
歯医者でない彼を僕は知らない。
僕は、素直に口を開けてやり、
彼に歯をよく見せてやる。
「よしよし。ここだ、ここ」
彼は、耳のすぐ下に手をかけると、
不気味な音を立て、僕のアゴをはずした。
それを砂浜に掘られた穴に投げ捨てるや、
手提げカバンから鋼鉄のアゴを素早く取り出す。
生身のアゴがはずれた部分に鋼鉄のそれを合わせ、
耳の下あたりにボルトを差し込む。
さらにスパナを使ってナットを締める。
「うんうん。ピッタリだ」
なにがピッタリなのか
僕にはよくわからない。
そんなことをされているうちに
いつの間にか足もとに潮が満ちてきていた。
まぬけな魚が一匹、砂浜の穴に落ちていて
捨てられた僕のアゴを枕に眠っている。