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2012/09/15
ここは呪われた古城。
忌まわしき運命の吹きだまり。
床も壁も天井も
すべて血塗られている。
あなたは寝室で吸血鬼に襲われ、
階段から幽霊に突き落とされ、
地下牢でミイラにされる。
殺されないためには殺すこと。
殺すためには生き返らせないこと。
いくら手を洗っても
血糊は消えない。
どんなに耳を塞いでも
悲鳴は続く。
不吉な鳥が屋根に巣を作り、
不吉な数の卵を産む。
庭の草木は、生きたまま枯れている。
崩れた塀の下敷きの黒猫の
救いようのない笑顔だけが残る。
不運なる紳士淑女のみなさん。
呪われた古城にようこそ。
2012/09/14
あんたなんか あんたなんか
見たくない 聞きたくない
考えたくない もう知らない
やめてよ あっちへ行って
まったく どういうつもり
それ以上 近寄らないで
いいかげんにしてよ もう
昔は そんなじゃなかった
どうして 変わっちゃったの
だから 抱きつかないでよ
触れるのも いやなんだから
そんな口 近づけないで
ああ 服が破れちゃう
いやよ 無理だってば
なんで わかってくれないの
なんで 普通になれないの
なんで そんなこと言うの
だから きらいなのよ
ほら すぐ泣く
泣けばいいと 思ってるのね
冗談じゃない からね
夢 見てるだけなのよ
まだわかんないの
そんなの うまくゆくはすない
誰だって 許してくれないよ
ああ もう いやだったら
あっちへ行ってよ しっ しっ
ちょっと 喋れるからって なによ
飼い犬の くせに
2012/09/13
長くなった髪の毛を切って
ゴミ箱に捨てた。
もう読まない漫画や小説も
ゴミ箱に捨てた。
着古した服はまとめて
ゴミ箱に捨てた。
使用済みの注射器はもちろん
ゴミ箱に捨てた。
使用済みの避妊具も当然ながら
ゴミ箱に捨てた。
死んだペットの犬だって
ゴミ箱に捨てた。
飽きてしまった恋人さえも
ゴミ箱に捨てた。
一緒に撮った写真はビリビリ破って
ゴミ箱に捨てた。
もらったプレゼントも一緒に
ゴミ箱に捨てた。
一度も泣かなかった胎児までも
ゴミ箱に捨てた。
親も兄弟も親類も友人もみんな
ゴミ箱に捨てた。
それから
なにもかも捨てた僕自身も
ゴミ箱に捨てた。
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2012/09/13
つづら折れの坂道を上ると
そこは深い山の中。
セミや鳥が鳴き騒ぐ。
木々が肩組み、立ち並ぶ。
空は青く、葉は緑。
雲は横に、樹皮は縦。
やがて坂道はゆるやかに
とぐろを巻き始め
目がまわる頃、山頂に着く。
そこは空の上。
道は下へと続く。
ただし、その道
今はもう、そこにあらじ。
はるか遠き
思い出の道ゆえ。
たとえ、よく似た道
まだそこに残るとしても。
2012/09/11
千匹の虫が這う 僕のカラダ
ケムシ ウジムシ ダンゴムシ
ムカデ ゲジゲジ ゴキブリに
ヒルやナメクジ ミミズまで
おぞましき万本の脚を蠢かせ
けがらわしき億本の毛を逆立てて
ウヨウヨ モゾモゾ
ワサワサ クネクネ
ゾロゾロ ベトベト グルルルル
かじり 飲み込み 味を占め
針刺し 毒注ぎ 産卵す
ガリガリ ボリボリ
ムシャムシャ ベチャベチャ
ヂグヂグ グジュグジュ ウヒヒヒヒ
2012/09/10
暴風
豪雨
嵐の如く
君過ぎて
首に
背中に
脇腹に
深く
鋭く
爪痕の残る
2012/09/10
美女が哀願するのである。
その美しい瞳を潤ませて。
その美しい唇を震わせて。
「わたし、もっと美しくなりたいの」
美しい声だ。
聞き惚れてしまう。
「わかりませんね。あなたはとても・・・・・・」
「ええ、そうなんです。美しいのです」
ますますわけがわからない。
「でも、もっと美しくなりたいのです」
美しい眉が曇る。
なかなか悩ましい。
耳の形も文句ない。
顎のラインも素晴らしい。
鼻なんか舐めたいくらいだ。
スタイルも抜群。
服のセンスも最高。
完璧である。
欠点が見つからない。
「このままで十分だと思いますよ」
女はうなだれ、ため息をつく。
思わず抱きしめてやりたくなる。
それを我慢して女の肩に手を置く。
ついに女は泣き出してしまった。
その美しい涙。
しかし、そこで気がついた。
「ひとつ、見つかりましたよ」
「えっ?」
「あなたはもっと美しくなれます」
「私のどこが?」
「泣き声が、いまひとつですね」
女の涙が止まった。
「もっと美しい声で泣けます?」
「ええ、大丈夫ですよ」
その笑顔の美しさといったら!
2012/09/09
「お客様のご要望なら、どのような演題でも
パントマイムで完璧に演じてみせましょう」
そのように豪語する美しき女芸人が
あなたの目の前の舞台の上に立っている。
その小劇場の観客の一人であるあなたは
彼女にやってもらいたいパントマイムの演題を
まるで彼女に挑戦するかのように必死で考え続ける。
穴
虚無
異次元
抽象美人
手乗り幽霊
蝉の幽体離脱
ムカデのダンス
火星人の愛情表現
円周率を計算する犬
酒の海で溺れる潜水艦
光速移動中のカタツムリ
三角関係の四角と円と直線
外科医自身による脳摘出手術
逆子の出産に悶えるハリネズミ
悲しみの裏側に潜む通販カタログ
月面でトランポリンをする透明人間
オアシスを残して消える蜃気楼の砂漠
心洗われる光に包まれた天使のほほえみ
スクール水着の立体構造を批判するイルカ
液体化するピアノから溢れる固体化する音符
バナナを食べながら宇宙誕生の瞬間を眺める猿
2012/09/08
僕の恋人
アイスクリーム
家に帰ったら
カバン放り投げ
冷凍庫から取り出し
フタをむしって
スプーン突き刺す
ひんやり甘くて
切ない喉越し
そのうち額が痛くなる
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2012/09/06
こことは別の場所で
今とは別の時間が流れる。
僕とは別の僕がいて
君とは別の君がいる。
そして
僕たちとは別のふたりの
別の関係がある。
別の世界が良いとは限らない。
別の世界が悪いとも限らない。
別の悲しみがあり、
別の喜びがあるのだろう。
あるいは
別になにもないのかもしれない。
そんな別の世界では
別の僕が
別の君を相手に
なにか別の話をしているのだろうか。
それとも
同じような話をしているのだろうか。