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2012/09/26
難しいことを易しく言えない人は
易しいことまで難しく言う。
もし今、恋愛したい気分なら
ただ退屈しているだけなのかもね。
いかにも冒険らしい冒険ほど
冒険していない冒険もない、と思う。
幽霊が現れたら怖そうだけど
むしろ現れないから怖いのでは。
だからなんだ、と怒鳴られたら
なんでもないです、と謝ろう。
2012/09/25
曲がりくねった地層の夕焼け
断崖に建てる朽ちた十字架
病気の蟹は泡を吹きながら
難破船の帆を切り刻んでいる
なにが蟹を駆り立てるのか
帆にもマストにもわからない
渚の貴婦人が貝の胸をはだけ
海牛の素足でそっと歩み寄る
そのまわりに波の舌がからむ
瞳の奥で星砂が切なげに泣く
「あなたを待っていたの
こんなに潮が満ちてしまって」
髪は海草 海百合の飾り
唇は珊瑚 黒真珠の入れ歯
漂着したばかりの潮騒の缶詰
腐乱死体の浜辺の恋の物語
2012/09/23
霧に煙る湖面に小舟
ゆらりろ ゆらりら
ゆれ ゆれて
おぼろ月ふたつ
櫓はひとつ
ゆれるや小舟
寄る辺なく
濡れたなら
絹の衣は肌の色
ぬらりろ ぬらりら
ぬれ ぬれて
波紋は乱れし
蛾の鱗紛
笛吹くな
竜神様が顔を出す
2012/09/23
三年前の冬、雪山でなだれに襲われた。
悪夢のような崩落の響き。
僕は奇跡的に助かった。
しかし、恋人は死んでしまった。
なぜそうなったのかわからない。
あれから僕は登山をやめた。
今、新しい恋人が僕の横で眠っている。
やすらかに幸せそうに眠っている。
雪山のように白く大きなホテルの一室、
雪のように真っ白なシーツの上で。
生きていることに感謝せずにいられない。
しかし、まさにその瞬間だった。
ベッドが激しく揺れ、振り落とされた。
地震だ。恐ろしい地鳴り。崩落の響き。
いつか聞いた響きと同じ。
忘れかけていた思い出が蘇る。
懐かしい声まで聞こえてくる。
「アナタモ、マキコンデ、アゲル」
2012/09/22
落葉よ 落葉
踏まれて つぶれて
土のよう
誰が踏んだ
みんなが踏んだ
雪が降ったら
冷たかろう
乙女よ 乙女
爪を噛んでは
いけません
舐めてごらん
指がとける
蜂蜜かけたら
甘かろう
乙女は 落葉
枝から離れて
風まかせ
落ちてみたい
落ちたくない
虫に食われりゃ
痛かろう
2012/09/21
拍手に迎えられ、舞台に立った。
埋めつくされた客席。
期待のまなざし。
やけに照明がまぶしい。
司会者はいなかった。
案内をしてくれる人も。
頭の中が真っ白だった。
何も思い出せなかった。
「あの、私は何をすればいいのでしょうか?」
この質問は大いにウケた。
会場に響き渡る笑い声。
しかし、私はコメディアンではなかったはず。
「あまり歌はうまくないのですが」
これもウケた。
歌手だったのだろうか。
それにしては楽団が見当たらない。
とりあえず、でたらめに踊ってみた。
罵声が聞こえたので、すぐにやめた。
「ここは、どこなんですか?」
まるでウケなかった。
「そもそも、私は誰ですか?」
まるでウケなかった。
「あなたがたは、いったい・・・・・・」
ざわめく客席。
数え切れぬほどの非難のまなざし。
だが、それでも
この舞台は終わりそうもない。
2012/09/20
皆は僕に喪服を着せた。
そのまま僕は家を出た。
僕は外で待っていた。
日が暮れても待っていた。
誰か見た人、いませんか。
僕の父さん、どこですか。
2012/09/18
そこは海辺のようであった。
または山奥のようでもあった。
どちらでもないような
またはどちらでもあるような・・・・・・
あやしげな表札があった。
何が書かれてあるのかわからない。
表札かどうかもあやしかった。
でも、泊まれるはずだと思った。
根拠など何もないのに・・・・・・
半開きの壊れかけた扉をくぐり抜けた。
「あら、いらっしゃいませ」
初対面のような、けれど顔見知りのような女。
この宿の女将と思われた。
なぜなら他に従業員はいないようだから。
「お待ちしてましたわ」
すると、予約していたのだろうか。
言葉が見つからない。
何か伝えたいことがあるはずだが・・・・・・
「とりあえず、お座りになったら」
疲れた顔をしていたのだろう。
実際、疲れていた。
しかし、見渡しても椅子がない。
しかたがないので、そのまま床に座った。
床には草が生えていた。
夏草の匂い。
つまり、季節は夏なのだろう。
「あれはもう遠い昔の話だ」
「ええ、そうでしたわね」
どうして女将が相槌を打つのだろう。
唐突に独り言を始める客である俺も変だが・・・・・・
いつの間にか女将も床に座っていた。
その膝小僧がひどく懐かしく感じられた。
「もう娘さんは大きくなっただろうね」
「いやだわ。娘なんかいませんよ」
女将は口を押さえ、さもおかしそうに笑った。
「わたしが娘だった頃はあったけど」
それから女将は床にうつ伏せになる。
その丸いお尻にホタルが一匹とまった。
ああ、やっぱりあれは夏だったんだ。
「あの頃の川はまだ澄んでいたね」
ふたたび女将が相槌を打つ。
「そう。川底にはカワニナが這っていたわ」
どうして女将が知っているのだ。
ホタルの幼虫に食べられる細長い巻貝の名。
澄んだ流れにしか生きられない弱虫。
思わず泣きたくなってきた。
でも、泣けなくなってから随分たつ。
見上げても夏の夜空はなかった。
天井の明るい蛍光灯がまぶしかった。
どうしてホタルの光なんか見えたんだろう。
何か間違っているような気がした。
こんなところで俺は何をしているのだ。
そもそもここはどこなのだろう。
あわてて床から立ち上がった。
そのため軽いめまいがした。
「悪いけど、今夜は泊まらないよ」
女将は床にうつ伏せのままだ。
その背中が小さくなったような気がする。
「そうね。その方がいいわね」
なんだか声まで幼くなったみたいだ。
このまま放っておけない気持ちもする。
だが、もう帰らなくてはならない。
ここでないどこかの別の家に・・・・・・
心から帰りたいわけではないのに・・・・・・
とりあえず、まず
あの壊れかけた半開きの扉を探そう。
そして、あの扉を出たら
あの表札をもう一度確認しよう。
あやしげな表札に何が書かれてあったのか・・・・・・
あるいは、ここを出てしまったら
もう何もかも、すべて
なくなっているのかもしれないけれど・・・・・・
2012/09/17
長い長い戦いが続いた結果として
ほとんど人の言葉が話せなくなり、
獣の鳴き声しか出せなくなった仲間たち。
銃弾に傷めつけられた穴だらけの家を
敵が中まで侵入してこないように
男たちが寝ずの番をしている。
ただし、もう
敵は一人しか生き残っていない。
マシンガンの弾が底をついたらしく
口真似で発射音を出し続けている。
音のなくなった世界が怖いのかもしれない。
神経質そうな味方の男が
かつて友であったはずの敵を恐れ、
家の外の闇へ向かって吠えている。
おそらくライオンのつもりなのだ。
敵はマシンガンの口真似を続けながら
手作りの骸骨みたいに痩せ、
よたよた歩くように走っている。
一声吠えると
ついに仲間の男が外へ飛び出した。
目を背けながらも、願わずにいられない。
たった一人の敵なんだから
早く逃げてくれたらいいのに。
外に隠れる場所がないなら
この家の中に逃げてくればいいのに。
2012/09/15
あさ ケーキをたべた
なまクリームのうえにひとつ
やわらかそうなかのじょのみみたぶ
ちょっとコリコリして
なかなかおいしかった
ナニヲキキタカッタンダロ
ひる ケーキをたべた
なまクリームのうえにひとつ
なやましげなかのじょのくちびる
ちょっとヌメヌメして
とてもおいしかった
ナニヲツブヤイテイタンダロ
よる ケーキをたべた
なまクリームのうえにひとつ
こまったようなかのじょのめだま
ちょっとプチプチして
すごくおいしかった
ナニヲミツメテイタンダロ