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Tome館長

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  • 雪 女

    2012/10/04

    切ない話

    ひとりの旅の僧侶が吹雪の山を歩いていた。

    昼なお暗く、天狗や山姥が棲むという。
    冬ならば、雪女が袖を引くという。


    「お待ちなされ。そこなお坊様」

    背中を凍らせるような冷たい声がした。

    振り返ると、白装束の女の姿があった。
    その美しさに僧侶は身動きできなくなった。

    「お山へ、なんの用かえ」

    女の吐いた白い息で、僧侶の足は凍りついた。

    「私は、雪女に会いに来たのです」
    「おやおや。なんでまた会いたいと」

    女の白い手が触れ、僧侶の腕と肩は凍った。

    「わたくしの、母上だからです」

    女は吹雪のような白い息を吐いた。
    その瞬間、僧侶は気を失った。


    吹雪は止み、澄んだ月夜であった。
    まわりの雪がとけ、僧侶は土の上にいた。

    僧侶は生きていた。
    雪女の姿はなかった。

    僧侶の腹の上に、濡れた白装束があるばかり。


    「やっと会えたというのに」

    梢の雪を落とし、風が吹き抜けていった。
     

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    • Tome館長

      2013/08/15 12:28

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2013/03/18 01:47

      「さとる文庫 2号館」もぐらさんが動画にしてくださいました!

    • Tome館長

      2012/10/07 13:23

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • 火の酒

    2012/10/03

    怖い話

    どうだ、おまえ。
    こんな酒、見たことなかろ。

    なんでも火の国の地酒なんだと。
    羨ましいか。すげえうめえらしいぞ。

    のん兵衛にはこたえられん酒なんだと。
    飲めるんなら、火の中でも飛び込むとか。

    だから、一口でも飲んだら危険なんだと。
    もう飲むことしか考えられなくなってな。

    たとえば、殺人だってやりかねないと。
    なんてね、酒屋の親父が言ってた。

    もちろん、冗談だろうけどさ。
    おい、なんだその眼は。

    なんか燃えてるぞ。
    まさか、おまえ。
     

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  • 喉にナイフ

    2012/10/02

    怖い話

    ナイフの刃を喉に当てられている。

    身動きできない。
    動けば殺される。

    「あんた、私が怖いのかしら」

    正直なところ怖い。
    もう失禁してる。

    だが今、彼女に嫌われるのは
    もっと怖い。

    退屈な奴と思われるくらいなら
    死んだ方がマシだ。

    「怖くないと言っても、信じないくせに」

    声が震えていた。
    仕方あるまい。

    笑う彼女。
    軽く見られたかもしれない。

    「信じてあげてもいいわよ」

    どうすれば彼女を満足させられるのか。

    意識をめぐらすのだ。
    手段はあるはずだ。

    「君の鼓動が聴こえるよ」

    彼女の胸に押し当てた耳たぶ。
    心に余裕があるように思われて欲しい。

    「それ、自分の鼓動じゃないの?」

    驚いた。
    指摘されるとそんな気もする。

    しかし、簡単に認めてはいけない。

    「たぶん、君と同じリズムなんだ」

    強がりか。
    馴れ馴れしかったか。

    「あら、それは光栄ね」

    皮肉に違いない。
    彼女の声は正直だ。

    ナイフの刃先が喉に突き刺さる。

    鼓動が弱まる。
    意識が遠のいてゆく。
     

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  • 憂 鬱

    2012/10/02

    暗い詩

    胸の内に入りて
    臓腑を喰い破るもの

    頭の内に潜り
    脳を腐らせるもの


    腰を折り
    背骨を曲げ

    四肢を萎えさせ
    首を項垂らせんとする

    ああ 汝の名は
    言うも 憂鬱
     

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  • 君と来た道

    2012/10/01

    空しい詩

    君と来た道
     遠い道


    小川のせせらぎ
     今はなく

       山並みどこへ
        消えたやら


    君と来た道
     遠い道
     

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    • Tome館長

      2012/10/26 13:58

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

    • Tome館長

      2012/10/24 10:06

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 渚の恋

    2012/09/30

    空しい詩

    街は人の心を閉鎖する

    海はそれを解放する


    だから

    渚で芽生えた恋を
    そのまま持ち帰るのは

    至難の業
     

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  • 美女の食堂

    2012/09/29

    ひどい話

    誰かと一緒だったような気がする。
    あの夜、ひとりではなかったはずだ。

    空腹でもないのに食堂に入った。
    かなり酔っていたらしい。


    「美女の舌びらめのムニエルをくれ」

    ほんの冗談のつもりだった。
    美しいウェイトレスだったから。

    「はい。かしこまりました」

    なぜか笑ってもらえなかった。


    しばらくして運ばれてきたそれは
    なんとも奇妙な料理だった。

    ウェイトレスの顔は蒼ざめていた。

    片手で口もとを押さえているのは
    吐き気をこらえているのだろうか。


    さすがに心配になってきた。

    「あんた、大丈夫か?」

    その娘は必死で首を振るのだった。
    しっかりと口もとを押さえたまま。
     

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  • さよならの前に

    2012/09/28

    愛しい詩

    これで僕たちは

      どうしたって
       本当に

         お別れだけど

           ちょっとだけ
          ほんのちょっとだけ

        お願い


     さよならの前に
      微笑んで
     

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    • Tome館長

      2012/11/18 19:35

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

    • Tome館長

      2012/10/25 02:05

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 風の祭り

    2012/09/27

    楽しい詩

    風の横笛
     吹く夜は

       雷太鼓も
        鳴りまする


      ピーヒャラ
       ドンドコ

         ピーヒャララ


    風の祭りの
     笛太鼓

       時には鐘も
        鳴りまする


      ピーヒャラ
       ドンドコ

         ガラガラドン
     

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    • Tome館長

      2013/08/09 19:03

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

    • Tome館長

      2013/08/08 16:53

      「広報まいさか」舞坂うさもさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2013/08/08 09:26

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 待つわ

    印象のない街角で待っていた

    通り過ぎてゆく顔のない人々
    誰もかれもさびしそうに見える


    手首にすがるように立ち去る
    針をなくした腕時計たち

    嬉しくも哀しくもない思い出


    話しかけたりしないで欲しい

    待っているだけなのだから
    いつまでもいつまでも

    ずっとこうして
    こうやって
     

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