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    Works 3,356
  • バンジョーを弾く男

    2015/02/17

    変な話

    暗い道の先の向こうから 
    バンジョーを弾きながら男がやってくる。


    「ハーイ!」

    陽気な男だ。
    おそらく酔ってる。

    「ハーイ!」

    俺も酔ってる。
    片手を上げて挨拶する。


    男はバンジョーを弾きながら 
    そのまま俺が歩いて来た道を行く。

    俺はバンジョーを持ってないが 
    そのまま男の歩いて来た道を行く。


    お互い、もう会うこともなかろう。

    バンジョーの物悲しい音だけが 
    しばらく俺の耳に残る。

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  • 待ち合わせ

    2015/02/13

    愉快な話

    恋人と待ち合わせていた。
    だが、なかなか姿を現さない。

    さすがに待ちくたびれてきた。
    (まさか忘れたわけじゃ・・・・)

    ほとんど諦めかけた頃、ようやく出現した。
    「ごめんなさい!」

    「まったく、遅すぎるよ」
    「だって、仕事が忙しくて・・・・」

    彼女の職業は死神だった。

    「そんな仕事、やめちゃえよ」
    「そうもいかないのよ」

    いつも繰り返される会話。

    「なあ、俺の番、そろそろか?」
    「そんなの、教えられるわけないでしょ」

    「でも、俺たち恋人同士だろ?」
    「仕事とは無関係よ」

    その美しいまでに冷酷な横顔。

    「できれば、その、あんまり苦しめないでくれよな」
    「ええ、そのつもりよ」

    はあ・・・・ 
    惚れた弱みか。

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    • Tome館長

      2015/02/13 20:26

      「koebu」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2015/02/13 20:26

      「ゆっくり生きる」はるさんが動画にしてくださいました!

  • 形に残そう

    2015/02/11

    明るい詩

    素敵なことを見つけたら 
    忘れないうちに形に残そう。

    だって 

    素敵なことは 
    そんなにポンポン生まれない。

    消えてしまったら 
    跡形もない。

    記憶だって 
    いつか消える。

    それにそれに 
    その素敵なことは 

    もう二度と生まれそうもないような 

    すっごく貴重な 
    すっごく素敵なことかもしれないのだから。
     
     

     

    Comment (1)

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    • Tome館長

      2015/02/11 17:30

      「ゆっくり生きる」はるさんが動画にしてくださいました!

  • 空の上

    2015/02/10

    ひどい話

    空の上には神さまがおられて 
    ウトウトと昼寝を始められた。


    空の下には恐竜が生まれ 
    そこそこ繁栄していたが 

    そのうち絶滅した。


    しばらくして人類が生まれ 
    なかなか繁栄した。

    けれども 

    神さまが昼寝から目覚めた頃には 
    人類は絶滅していた。


    「ああ、よく眠った」

    神さまはウウウンと 
    気持ち良さそうに背伸びをなされた。

    Comment (2)

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    • Tome館長

      2015/02/10 00:15

      「koebu」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2015/02/10 00:14

      「ゆっくり生きる」はるさんが動画にしてくださいました!

  • 山神の笛

    2015/02/08

    愉快な話

    山頂の城跡で笛を吹いていたら 
    山の神が姿を現した。

    「なかなか良き音じゃ」

    なんだか昔話みたいだな、と思った。

    「フルートという名の異国の横笛です」
    「もっと吹いてくれぬか」

    私は喜んで吹き続けた。
    山の神も喜んで聴き続けてくれた。

    「おかげで、楽しかったぞ」
    「ありがとうございます」

    「お礼に、わしの笛をやろう」

    別れ際に、山の神は竹笛をくれた。
    私は恐縮しながら受け取った。

    吹いてみると、なかなか素敵な音がする。

    そして、たくさんの野鳥が集まってきた。
    リスやウサギやタヌキまで。


    どうやら寄せ笛らしい。


    そりゃ、もちろん 
    嬉しいには嬉しいんだけど 

    ヘビやトカゲや虫けらどもまで 
    ウジャウジャ集まるのには 

    少々まいった。

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  • 急ぎ足

    2015/02/07

    怖い話

    「おはようございます」

    「それどころじゃない」
    担任の教師が急ぎ足で通り過ぎた。

    同級生たちも急ぎ足でやって来た。

    「どうしたんだ?」

    「どうしたもこうしたもない」
    やはり通り過ぎようとする。

    「教えろよ」
    「学校が崩壊するんだ」

    おれも合流して急ぎ足になった。

    「いわゆる教育現場の崩壊?」
    「違う。校舎が壊れる」

    「どうして?」
    「知るか」

    おれは立ち止まった。
    同級生たちは廊下の角を曲がって消えた。

    どうしたというのだろう? 
    みんな急ぎ足だったが、駆け足ではなかった。

    ただの避難訓練か? 
    それとも、まさか予知能力? 

    わけがわからない。
    もう校舎には誰も残っていないようだ。

    仕方がない。

    おれはバッグを開き 
    手製の時限爆弾を取り出した。

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  • 胸騒ぎ

    2015/02/05

    怖い話

    わたくしは水玉模様の日傘を差して砂漠におります。

    時折りに移り変わる蜃気楼の景色を眺めながら 
    どうしようもないくらいに今、胸騒ぎがしております。


    巨大な砂時計の底に置き去りにされたみたいな 
    こんな己の他に誰もいない世界の果てにいると 

    それほど悪いこともしていないはずなのに 
    いえ、悪いとか良いとかの問題ではなくて 

    慣れ親しんだ人々の営みから隔絶しているというこの状況が 

    ありもしない幻の監獄に囚われ 
    ありもしない幻の罪業に責め苛まれる病人のように 

    根本的に見当違いなあり方ではないか 
    という気がしてくるのです。


    「もう諦めて、帰ってきなさい」

    そのような幻聴すら 
    やはり時折りに聞こえてくるのです。


    なんの根拠もない 
    ただの胸騒ぎであれば良いのですが・・・・

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  • 秘密

    2015/02/03

    怖い話

    秘密は、人に知られぬゆえに秘密。
    その秘密知りたる者、生き続ける事かなわじ。


    「ああ、どうしよう」

    「どうしたの?」
    「あたし、大変なこと、知っちゃったの」

    「どんなこと?」
    「そんなの言えない」

    「どうして?」
    「だって、言ったら、大変なことになっちゃうもん」

    「どんなふうに大変になるの?」
    「みんな、生きていられなくなる」

    「わかんないな」
    「だから、わかんないままがいいのよ」

    「あんた、どうするつもり?」
    「どうにもできないよ」

    「困ったわね」
    「とりあえず、そういうことなので」

    「どこへ行くの?」
    「わかんない」

    「わかんないって・・・・」
    「とりあえず、さようなら」

    「あんた、まさか・・・・」
    「だって、これ、秘密なんだもん」

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  • 友だちなんかいらない

    2015/02/01

    愉快な話

    妹には友だちがいない。
    それこそひとりもいない。

    「どうして友だちを作らないんだ?」
    そう尋ねたことがある。

    「他にすることがあるから」
    それが妹の返事だった。

    けれども、妹は忙しくなにかしてる様子はない。

    寝転んでいなければ部屋の中を歩きまわるくらいで 
    家の外へも滅多に出ようとしない。

    「なにしてんだよ?」
    「考えごと」

    「どうだ、映画館に行かないか?」
    「興味ない」

    取りつく島もない。

    引きこもりではなく、たまに外出すると 
    一週間くらい家に帰らないことさえあった。

    「おれが友だちになってやろうか?」
    ある時、ふざけて言ってみたら 

    「あら、友だちじゃなかったの?」
    だって。

    まあ、兄と思われていないことくらい 
    とっくの昔に知っていたけどさ。

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  • 横長のピアノ

    2015/01/30

    変な話

    そのピアノは横に長いのだった。
    つまり、鍵盤の音域がとても広い。

    そのため、低音部は低すぎて音が聞こえない。
    高音部は高すぎて、やはり音が聞こえない。

    人間の耳に聞こえない音域まで鳴るのである。

    なんでまたそんなピアノを製造したのか 
    理由は不明である。

    ちなみに 
    このピアノを買った私の父は現在、行方不明である。


    たわむれに鍵盤の端を叩いてみる。

    近所の犬が吠えたり 
    窓辺に鳥が集まって来たりする。


    このピアノを演奏するピアニストは 
    床に敷かれたレールの上にある椅子に座り 
    鍵盤の前を左右に滑るように移動しながら演奏する。

    ただし 
    やがて精神に異常をきたすので 
    長時間の連続演奏は控えねばならない。

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