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2015/10/10
花火見物の帰りであろうか。
浴衣姿の君と歩きながら
僕は夜空を指さし、説明している。
「あれは乳首座。
なぜなら、ふたつある」
君は無邪気に笑う。
「それじゃ、あそこの三つ星は?」
小さく三角形に並ぶ星を示す君。
パンティー座と陰毛座が浮かんだものの
残念ながら倒立していない。
額に巻く死装束の白い三角の布を連想させる。
しかし、それを言ったら
せっかくのムードが台なしだ。
適当な命名もできなくて
僕は言い淀む。
すると、君は振り向いて
「あれは三つ目座よ」
にっこり笑う。
ああ、なるほど。
君の額に光る、三つ目の目。
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2015/10/09
小学校に入学した頃、実家にテレビが流れ着いた。
丸みのあるブラウン管の白黒テレビ。
小さな画面を拡大して観るためのフレネルレンズがあった。
当時はNHKの他に民放一つ、計3チャンネルしかなかった。
切り替えはグリップ式のダイヤルだった。
おそらくその前後であろう、
いつの間にか洗濯機が風呂場に、冷蔵庫が台所に漂着していた。
どちらも子どもにとってテレビほどに興味ないため、印象が薄い。
そう言えば、洗濯機には手回し式の脱水装置が付いていた。
風呂は木の桶で、壁を隔てた隣室の風呂釜に薪をくべて沸かした。
近所の伯父の家は五右衛門風呂だった。
冬のコタツは炭を使い、アンカにも豆炭を使った。
伯父の家には囲炉裏があり、その真上には吹き抜けの穴があいていた。
いつ実家にプロパンガスが入ったのか記憶にない。
冬の学校の教室には石炭ストーブがあった。
生徒が当番で石炭置き場から教室へバケツで石炭を運んだ。
実家の台所には井戸があってモーターで汲み上げていたが
それまで使っていた手押しポンプも残っていた。
さして離れてない場所に汲み取り式便所もあったわけだから
今考えてみると不衛生だった気がしないこともない。
当時のトイレットペーパーは新聞紙だった。
よく手でもんで、しわくちゃにしてから使っていた。
最初の電話機にはボタンもダイヤルもなく、交換手との対話式だった。
そして、定時になると有線放送が勝手に流れていた。
家が改築されたり新築されるたび、流れ去ったり流れ着いたり、
時代の漂着物が次々と変わるのだった。
オープンリールのテープレコーダーで自分の声を初めて聞いた時は
あまりに変な声なので内心ガッカリしたものだ。
すでに解散していたビートルズのラジオから流れる曲を録音して
繰り返し聴きながらカタカナで歌詞を書き出したりしたっけ。
原付バイクの親子二人乗りで親父はお巡りさんに注意されたりしたが
そのうち中学生の私がバイクの無免許運転で捕まってしまった。
やがて親父が自家用車を手に入れた。
知人から5千円で購入し、修理費が5万円だったそうな。
高校2年の秋、親父は業務上のクレーン事故で亡くなった。
高校時代、レコードを初めて買った。
中古の歪んだレコードを買ったら、針がジャンプして困った。
高校卒業と同時に田舎を出て上京。
時代の流れの勢いの差に数々のカルチャーショックを受ける。
いくつか路上で詐欺商法に引っ掛かったりしたが
苦いながらも今では懐かしい思い出。
映画や出版物は次々と時代を反映し、ビデオデッキが出回り、
街にはビデオのレンタルショップが登場。
貸本屋も近所にあって、毎週のように漫画を借りていた。
ゲーム機は次々と登場するも、ついに買わずに現在に至る。
携帯電話が登場、今なお進化を続けているが
わずらわしいので必要に迫られて一時的に関わっただけ。
ワープロが発売され、すぐに壊れるので次々と買った。
出始めの頃の表示はたった2行だった。
パソコンは上京したばかりの頃から触れてはいたものの
Webにつないで本格的に使うようになったのは、ここ10年ほど。
現在、自作のスライドショー動画までブログに投稿している。
そのため、外出時にはデジカメ必携だ。
もうテレビは自宅にない。
観てもいないのに時代錯誤なNHKの集金人がうるさいので
壊れてもいないのに処分してしまった。
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2015/10/08
指を舐めていたら
指先が融けてしまった。
いけない、いけない。
指を舐めてはいけなかったんだ。
歩いていたら
脚が折れてしまった。
いけない、いけない。
歩いてはいけなかったんだ。
考えていたら
頭が痛くなってしまった。
いけない、いけない。
考えてはいけなかったんだ。
ぼおっとしていたら
わけがわからなくなってしまった。
いけない、いけない。
なにがいけなかったんだっけ。
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2015/10/07
いろんなこと考えすぎて
とうとう頭が壊れちゃった。
手の指さえ数えられない。
これでは使いものにならない。
両手を使わなくても
むずかしい計算だってできたのに。
もう考えようともしないだろう。
生と死はどう違うのか、
始まりと終わりはどう違うのか。
なんでも知ろうとして
とうとう頭が腐っちゃった。
親の顔さえ忘れてしまった。
これではなんの役にも立てない。
この世界のすべてを
理解したような気さえしたのに。
もう知ろうともしないだろう。
空虚なるものの内側とか
無限の果ての向こう側とか。
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2015/10/06
ここをこうして こうやって
それから おっと
こんなことまでやらかして
さらには
あれ それはいくらなんでもごむたいな
みたいなことまでやってしまって
いやいや まだまだ
このていどではすむまいぞ
とかいいながら
あんなところを あんなふうにして
あまつさえ あんなものまでもちだして
とんでもない
あきれはてたるしょぎょうのかずかず
なになに まだまだ これからよ
ほれ そのしょうこに
みよ これでもしらをきるか
どうじゃ どうじゃ かんねんせよ
なりませぬ なりませぬ
ごしょうでございます ひどすぎます
いくらがたらこでも あんまりで
もはや にんげんのすることではあるまじろ
やけのやんぱち ばんちゃもでばな
しじゅはっても えいけいびい
さきがしれる たかがしれる
おさともしれる しりわれる
これこれ なにをなさっておられまするか
あなた ごぞんじでござりまするか
なんと するめがいかでした
むくつけきこと せんもなし
これまでか
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2015/10/05
始まらない
まだ始まらない
まだまだ始まらない
いつになっても始まらない
物語が始まらない
物語?
そう 物語
なぜ始まらない?
始めないから 始まらない
なぜ始めない?
それは あなたへ問いたい
私へ?
そう あなたへ
意味 わかんない
この物語は あなたの物語
私の?
そう あなたの物語
知らなかった
だから この物語
うん
あなたが始めなければ 始まらない
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2015/10/04
ひとり雪原を歩いていた。
目印になるものは何もなかった。
山も人家も見えず、一本の木さえない。
陽の位置すらつかめぬ灰色の空。
まったく何もない世界。
色すらない。
「おーい、誰かいないかぁ」
返事はなかった。
木霊すら帰って来ない。
ひとりぼっち。
風すら撫でてくれない。
諦めかけた頃、足跡を見つけた。
鳥や獣ではない。
あきらかに人の足跡だ。
白と灰色とのあいまいな地平線へと続いている。
その先に誰かきっといるはずだ。
その足跡をたどるように歩く。
雪原にどこまでも続く足跡。
前にも、そして後ろにも続く。
どれくらい歩いただろう。
いつから歩いているのだろう。
距離と時間の感覚が麻痺している。
まだ足跡は消えていない。
いや、むしろ濃くなっている。
一人分の足跡だったのが二人分となり、
やがて三人分ほどになっている。
その上を踏むことになるで
前に比べたら随分と歩きやすくなった。
振り返れば四人分ほどの足跡の道ができている。
もうどれが自分の足跡なのか区別できない。
この歩きやすい道からはずれたくない気分。
もう自分は若くないのだ。
まだ誰にも会えない。
ただ足跡が続くばかり。
そして、うすうす気づいている。
もう自分はこの足跡から逃れられないと。
この終わりなき雪原の道が
たとえウロボロスの蛇のごとく
閉ざされた大いなる円環であるとしても。
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2015/10/03
昼寝していたら
電話の呼び出し音に起こされた。
せっかく楽しい夢をみていたのに・・・・
ふらふら立ち上がり、よろよろ居間へたどり着き
いやいや受話器を持ち上げる。
「はい。もしもし」
なにやら挨拶らしき言葉のあとに
どこぞの会社のいかがわしい売込みが始まる。
やれやれ、またか。
限りなく迷惑なだけのセールス電話。
おれは呟いた。
「呪いあれ」
「はっ?」
「呪いあれ。呪いあれ。呪いあれ」
「あの・・・・」
「死の声、遠く深く届くべし」
「・・・・あのですね」
「セールス電話に地獄の呪いあれ!」
おれは心より呪う。
「身勝手なる売込みにより我が眠り妨げし者すべて
子々孫々の末代まで続く未来永劫の呪いあれ!」
おれは静かに受話器を置くと
そのまま寝室へ戻った。
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2015/10/02
通販で着せ替え人形を注文したつもりだったが
届いたのは着せ替えドレスセットだった。
表示が人形の写真だったから、素直に人形と思い込んだら
じつは、その人形が着ていた服だけだったのだ。
そこそこ安いな、とは思っていた。
よく読めば、ちゃんと「ドレスセット」と表示されている。
なんと言うことはない。
つまり、安さに目がくらんだわけだ。
くそっ、再挑戦だ。
同じ失敗は二度としないぞ。
今度は商品説明をしっかり読み、
少々高価な着せ替え人形を注文した。
この際、値段には目をつぶろう。
やはり安いには安いなりの理由があるのだ。
ところが、しばらくして届いたのは
着せ替え人形ならぬ、着せ替え人間だった。
生身の着せ替え女子高校生、
その名も「ハルちゃん」。
どうなっているのだ?
わけわからん。
しっかり通販サイトの説明を読んだつもりだったが
どこをどう間違えたんだろ?
確かに人形にしてはリアルな写真だったけど・・・・
・・・・ふふ。
まっ、いっか。
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2015/10/01
これから選挙へ行くところだ。
まったく政治に興味はない。
しかし、投票せねば殺されかねないので仕方ない。
銃殺派、絞殺派、撲殺派、毒殺派から一人ずつ
全部で四人の男女が立候補している。
くすぐり派とかあれば喜んで投票するものを
これでは悲しんで投票するしかない。
長引く世界的な人口爆発の影響で
死刑制度の廃止案は議題にすらならない。
それにしても、私は撲殺派がきらいなのだが
その他の党派を選ぶしかないというのも情けない話だ。
人には肯定の意志があるだけでなく、否定の意志だってある。
プラス票しか選択できないのは不自然であろう。
理屈からすれば、ゼロ票だってあってしかるべきだ。
いつになってもマイナス票が実現されないおもな原因は
道義的または便宜的な理由ではなく
じつは単なる与党多数派の保身のためではなかろうか。
それに、だいたいだよ、これまで
一票差で当落が決まるなんて、まずあったためしがない。
すでに投票前に結果はムードで決まっているのだ。
そもそも、高額納税者も滞納者も一票というのは不公平。
いっそ、票を買えるようにしたらどうだろう。
いくつでも一票いくらかで買える。
それがそのまま納税になるわけで
税金の使い方を決める人を選ぶようなものだから
筋が通っているのではなかろうか。
というか、投票率の過半数割れがあった昔、
多数決で多数決選挙制度を廃止できなかったのか。
・・・・などと考えているうちに、投票所が見えてきた。
ああ。ますます気が重くなる。
拳銃を所持した役所の職員たちが並んでいる。
どんどん足も重くなる。
死にたくないが帰りたい。
しかし、帰っても不安になるばかり。
ああ。
つくづく、いやな世の中になったものだ。
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