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2016/06/12
そこは岩場のある海岸のようであり
潮騒とも思えるざわめきがかすかに聞こえる。
そこにあるそれは巨大な巻貝の抜け殻のようであり
入り口の穴にはヤドカリならずとも引かれるものがある。
本能的とも呼べるその抗あらがいがたい誘惑に負け
私またはあなたは、この不思議な巻貝の穴に入り込む。
私またはあなたは裸足のまま滑らかな通路を進む。
通路の内壁には貝殻の内側のような光沢がある。
大きな弧を描きながら曲がっているにもかかわらず
いつまでも通路が明るいのは内壁に光が反射するからだろう。
そう。まるで光ファイバーの通路のように。
それにしても、なかなか行き止まりにならない。
また、通路の曲がり具合に変化は感じられない。
つまり、蚊取り線香のように平面的な渦巻きではなく
やはり巻貝のように縦方向に螺旋を描いているのだろう。
ただし、上っている感じも下っている感じもしない。
それほど大きな直径または円周ということか。
なんにせよ、いつまでも終わりがないのは困る。
引き返す決断を下すきっかけが欲しい。
あるいは、これは罠なのだろうか。
入り込んだら抜け出せないネズミ捕りのような。
私は不安になり、あなたは立ち止まる。
私またはあなたは振り返る。
真っ直ぐな道ではないのだから
まさか進行方向を間違えるはずはない。
しかし、この不安な気持ちはなんだろう。
ひょっとすると、私はあなたによって
習慣的な思い込みを逆用されたのではなかろうか。
または、あなたが私によって。
つまり、私にとって右へ曲がることは、すなわち
あなたにとって左へ曲がることを意味しないか。
いやいや、待ってくれ。
そもそも、その意味するところがわからない。
私またはあなたは
いったい何を考えているのだろう。
今更のように迷いが渦巻く。
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2016/06/11
あやしげな売店である。
ありきたりなものは売らない。
食品なら、たとえば半魚人の肉。
衣類なら、たとえば天狗の隠れコート。
文房具なら、たとえば書ける消しゴム。
宝石なら、たとえば水星の水晶。
貴重品なんだか冗談グッズなんだか
よくわからない。
美しい人妻さえ売られている。
ひとりで店番しているこの妙齢の女性、
じつはこの店の商品でもある。
なぜなら、その豊満な胸に「商品名:人妻」
ちゃんと値札も下がっている。
ただし、恐ろしく高い。
値引き交渉するのもためらわれるほど。
ただの話題作りであろうか。
いや、どうも本気のような気がする。
なぜなら、この店そのものが売り物だから。
出入り口の扉には貼り紙がある。
「値段交渉によっては店ごと売ります」
まさに売店。
そういえば、注意してよく見ると
来店客の背中に値札シールが貼ってあったりする。
悪質ないたずらだろうか。
それとも、サービスだろうか。
まあ、買い手と値段によっては
売られてもいいような気がしないこともない。
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2016/06/10
妖精がいます。
とても小さな妖精です。
肉眼では見えません。
虫めがねでも見えません。
顕微鏡だって
電子顕微鏡だって見えません。
たとえ目に見えずとも
そこにいるという確かな感触。
それがつまり
妖精です。
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2016/06/09
ここをこうして こうやって
それから おっと
こんなことまでやらかして
さらには
あれ それはいくらなんでもごむたいな
みたいなことまでやってしまって
いやいや まだまだ
このていどではすむまいぞ
とかいいながら
あんなところを あんなふうにして
あまつさえ あんなものまでもちだして
とんでもない
あきれはてたるしょぎょうのかずかず
なになに まだまだ これからよ
ほれ そのしょうこに
みよ これでもしらをきるか
どうじゃ どうじゃ かんねんせよ
なりませぬ なりませぬ
ごしょうでございます ひどすぎます
いくらがたらこでも あんまりで
もはや にんげんのすることではあるまじろ
やけのやんぱち ばんちゃもでばな
しじゅはっても えいけいびい
さきがしれる たかがしれる
おさともしれる しりわれる
これこれ なにをなさっておられまするか
あなた ごぞんじでござりまするか
なんと するめがいかでした
むくつけきこと せんもなし
これまでか
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2016/06/08
駅前広場で待っている。
「誰を待っているの?」
約束したはずなのに
なかなか待ち人は現れない。
この場所ではなかったのだろうか。
「思い出せないの?」
列車がホームに滑り込むのが見える。
誰も降りず、誰も乗らない。
どうやら無人駅のようだ。
車内にも人影は見えなかった。
今、何時なのだろう。
「時計を持ってないの?」
花壇に日時計はあるが
空が曇っていて使えない。
突風が吹き、新聞紙が舞い上がる。
寒くて鳥肌が立ってきた。
「どうして裸なの?」
話しかけないで欲しい。
ただ待っているだけなのだから。
ここでこうしていつまでも。
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2016/06/07
君がその 腕の先の
手の肌の白さより 白き爪
伸びて 伸びて 伸びきって
我が黒き 曲がった背に突き刺さり
潜るがごとく どこまでも
深く 鋭く 喰い込みて
その傷口の 赤き血の
にじみ したたり とめどなく
君があえぎ すさまじく
また悩ましくも ありぬれば
今宵 命 尽くるとも
まこと本望にて ござります
南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏
以下同文
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2016/06/06
女王様は怒っておられます。
それはもう大変な剣幕でございます。
すでに大臣の首が三つも飛びました。
まったくもって情け容赦ございません。
先ほど、女王様の激しい怒りのために
城の南の胸壁が崩れ落ちました。
もう誰にも女王様を止められません。
このままでは王国の壊滅です。
何を怒っていらっしゃるのか
お心当たりはございませんか?
聞こえていらっしゃいますよね、王様?
まさか寝たふりとかしてませんよね?
どうか、あの恐ろしい女王様を
なんとかしてくださいませ。
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2016/06/05
ある時、ある地点で、竜巻が生まれた。
はじめ、ほんの小さなつむじ風だった。
それがだんだん大きくなり
とうとう竜巻と呼べるほどになった。
竜巻は、もう夢中でぐるぐるまわった。
まわることが楽しくてしかたがない。
どんなことでもできるような気がして
独楽こまのようにまわりながら旅に出た。
もう誰にも竜巻を止められない。
途中、なんでもかんでも飲み込んだ。
枯れ葉、棒切れ、石ころ、子犬、
芝刈り機も自転車もオートバイも
人もクルマも家さえも
みんなみんな巻き上げた。
それこそ情け容赦なく
墓石も棺桶も骸骨も空に舞うのだった。
竜巻は、ビー玉と宝石を区別しなかった。
性別や年齢や美醜で人間を区別しなかった。
恋愛中でも食事中でも遠慮なし。
結婚式だろうが葬式だろうが関係なし。
道徳や宗教や法律なんか知りもしない。
ただもう気まぐれに暴れまわるだけ。
悲鳴も叫びも祈りも聞こえず
聞こえていたって気にするもんか。
さすがに暴れ疲れたか、満足したか
やがて竜巻は、天に昇って消えてしまった。
その深く鋭い爪痕を
大地と人の心にくっきり残して。
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2016/06/04
いらない商売が増えているような気がするのだが
セールスぎらいな私の気のせいだろうか?
もしそれが必要とされる商売なら
わざわざ売り込まれなくてもこっちから探す。
もし必要でないとしても便利な商売なら
余裕あれば使ってみるかもしれない。
もし必要でも便利でもない商売なら
たとえ売り込まれてもいらない。
時代にそぐわなくなった商売もあるだろう。
時代を追い越している商売もあるだろう。
しかし、一番ありそうな理由は
とにかく商売しないことには自分が喰えないから。
限られた市場におけるパイの奪い合いなんか
なんだかんだ言い訳したところで、まさにそれ。
その商売の社会における必要性や利便性は二の次。
最悪、詐欺でも暴力でも博打でもかまわないわけだ。
表現として身も蓋もないが、これはつまり
いらない人間が増えているせいではなかろうか?
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2016/06/03
いかにも良さそなことやろうとして
ろくでもないことする人いるけど
あれ、やめて欲しいな。
迷惑さえかけなきゃ
それで十分だよ。
高望みは愚の骨頂。
余計な親切、お節介。
放っときゃいいのさ、おっかさん。
なるよになるって
世の中は。
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