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2009/02/03
本当におもしろいことは
きっと単純で
ごく身近なことで
お金なんかほとんどいらなくて
つまらないことなんか気にせず
そこそこの勇気を持って
ときには悩んだり
ちょっとした工夫をしながら
見栄なんか張らず
我慢とか無理をせず
あたりまえのことをあたりまえに
やりたいことをやりたいように
やるだけのこと。
2009/02/02
桑畑の真ん中で教師に見つかってしまった。
「なにしてるの? こんなところで」
「別になにもしていません」
「あら、隠さなくてもいいじゃないの」
「僕だけの秘密なんです」
「だったら、先生も秘密にするわ」
「みんなに話されると困るんです」
「約束するわ。誰にも喋らないと」
「先生の言葉を信じていいのかな」
「神様に誓うわ」
「どこの神様に?」
「ええと、桑畑の神様に」
「・・・・・・」
「生徒が先生を疑うものでなくてよ」
「あの、その、つまり、魚雷を磨いていたんです」
「嘘ばっかり」
「本当です」
「どこにあるのよ」
「ええと、ほら、ここです」
「あら、なかなか立派な魚雷じゃない」
「破壊力は抜群ですよ」
「じつは私もね、駆逐艦を浮かべてるのよ」
「えっ、どこに?」
「ほら、この桑畑の端っこ」
こんな教師を信じた僕が馬鹿だったのだ。
2009/02/01
なんとなく奇妙な部屋なのである。
どこが奇妙なのかよくわからないので
なおさら奇妙な感じがする。
壁と床と天井があって、家具もある。
普通の部屋のはずだが、どこか違う気がする。
そう言えば、出入り口らしきものが見当たらない。
ところが突然、ドアが開いて誰か入ってきた。
こんなところにドアがあるとは・・・・
そうか。思い出した。
忘れていたのだ。
ここから私も入ってきたというのに。
ドアが閉まると、出入り口は再び消えてしまった。
もう記憶としてしか残っていない。
もし忘れてしまったら・・・・
この部屋の中には様々な人たちがいる。
ソファーの上で逆立ちしてる人。
壁を黙々と叩き続ける人。
床を舐める人。
立ったまま裸で抱き合ってる人たちもいる。
何人いるのか数え切れないほどいる。
つまり、それだけ部屋が広いわけだ。
広い部屋なのに、なぜか窓はひとつしかない。
そして、その窓の向こう側には風景がない。
この部屋のある建物のすぐ隣に別の建物があり
その壁面によって窓は塞がれているらしい。
その別の建物も、その壁面すら見えないのだが
風景が見えない以上、そう考えるのが自然なのである。
私は一度だけ目撃したことがある。
この窓から黒くて長い腕が部屋に侵入するのを。
その腕の先にあるクモの脚のような毛深い手は
ソファーに座っていた人の頭を鷲づかみにした。
そして、その人をそのまま窓から連れ去った。
結局、その人は二度と戻って来ることはなかった。
このような腕の出現は稀にあると言う。
それを目撃したことがある人なら
あるいはソファーに座らず、
逆立ちするようになるかもしれない。
私は、ソファーは勿論のこと
なるべく窓に近づかないよう注意している。
それでも、なかなか安心はできない。
なぜなら、ぼんやり壁際で考え事などしていると
こっそり窓の方から近寄って来ていたりするから。
そんな時、どうしても私は思ってしまう。
やはり奇妙な部屋なのだな、と。
2009/02/01
さて、そろそろ起きなければ。
もう起きる時間だから起きるのだ。
だが、どうやって起きるか。
それが問題だ。
まずは毛布を払いのけるべきだろう。
毛布を払いのけるには手を使えばいい。
右手か左手か、あるいは両手でもいい。
いや、足を使ってもできそうだ。
もし手も足も出なかったらどうするか。
どうしよう。わからない。
考えるのだ。
そうだ。頭だ。
頭を使うのだ。
しかし、丸い頭では毛布をめくれない。
いや、頭をつぶせばなんとかなる。
ヘラみたいに平らにつぶせばいいのだ。
しかし、どうやってつぶすのだ。
足で踏みつぶせるだろうか。
いやいや。ちょっと待て。
足が出ないから頭を使うのだった。
そうだ。そうだった。
そうだったっけ。
違う。違う。
なにを考えているのだ。
こんなことしている場合じゃなかった。
起きなければならなかったはずだ。
毛布なんか無視だ。
起きればいいのだ。
起きれば毛布なんか床にずり落ちてしまう。
それで一石二鳥だ。なんて賢い。
起きながらあくびをすれば一石三鳥だ。
素晴らしい。
天才かもしれないぞ。
さすがに一石四鳥というのは無理かな。
無理かどうかやってみなくてはわかるまい。
なにをやるか。なにをやっているのか。
そうだ。なにをやっているのだ。
いかん。いかん。
こんなはずじゃなかった。
すぐに起きねばいかんのだ。
ええと、どうすれば起きられるんだっけ。
いつものようにすればいいはずだが。
確か、まず上体をなんとか起こすのだ。
上体を起こすには腰を曲げればいい。
そうだ。曲げるのだ。
腰を曲げるのだ。
やった。
少しだけだが腰が曲がったぞ。
それにしては起きてないではないか。
なぜだ。
寝ぼけているのだろうか。
ああ、そうか。
横向きで寝ていたのだ。
横向きの姿勢で腰を曲げてもしかたない。
どうりで簡単に腰を曲げられたわけだ。
まぬけだな。
笑ってしまうな。
笑ってしまおうかな。
いいのかな。
誰にも遠慮することはないはずだが。
どうせ寝言と思われるくらいで。
わあ。なんだ。
どうなっているのだ。
笑ってる場合ではないぞ。
なにしてるんだ。
いいかげんにしろ。
すぐに起きないとまた眠ってしまうぞ。
ほら、起きるのだ。
今すぐ起きるのだ。
だめだ。体が重い。
寝返りも打てない。
なぜだ。わからない。
頭がおかしい。
眠い。眠いのだ。
たまらなく眠いのだ。
そうか。そうなのだ。
眠いからだ。
こんなに眠いから起きられないのだ。
だが、どうしてこんなに眠いのだろう。
寝不足だからか。
そうかもしれない。
いや、待てよ。
あるいは寝すぎだろうか。
そうかもしれない。
そうでないかも。
あまりにも眠いので判断できない。
そもそも、なぜ起きねばならんのだ。
眠いなら起きなくとも良いではないか。
よいではないか。のう、お女中。
色が白くてかわゆいわ。
ほれ、帯をとくのだ。
ほれほれ、コマのようにまわってみよ。
あれえええええ。
なにをやっておるのだ。
2009/01/31
「もういいかい」
「まあだだよ」
「もういいかい」
「もういいよ」
「どこだろう」
「どこかしら」
「見つからない」
「どうしたの」
「消えちゃった」
「見つけてよ」
「教えろよ」
「しいらない」
「もう出てこい」
「まあだだよ」
2009/01/31
ある図書館に完全無欠の辞典がある。
この辞典の言葉の定義は完璧である。
図や写真は一切載せず、
曖昧さを残すことなく
言葉だけで言葉を定義している。
勿論、誤植や落丁などの不備は皆無。
意味不明の言葉があれば、見出し語で引く。
そこにまた意味不明の言葉があれば、
さらにまた見出し語で引く。
こうして意味不明の言葉がある限り、
見出し語を引き続けるのである。
ところで、頁の間に挟まっているのは
しおりではない。
つぶれて乾燥した閲覧者である。
いわゆる押し花のようなもの。
この辞典に限り、さして珍しくもない。
2009/01/30
ある朝、ベッドの上で目覚めると、
恋人のからだがふたつになっていた。
双子のようによく似たふたりの少女。
どちらも痩せて小さく、かわいらしい。
肌の色だけはっきり違っていて、
一方は色黒、片方は色白。
ふたりを仮に、黒子、白子と呼んでおく。
「腹減った」
黒子が寝たままつぶやく。
「朝食を用意するわ」
白子が起きながら言う。
それがほとんど同時。
黒子も白子も、恋人に似ていた。
ただし、年齢も体重も、恋人の半分ほど。
ふたり合わせて、やっと恋人と吊り合う。
ベッドの上でふたりに挟まれ、
両方の胸に左右の耳を当ててみると、
まったく同じリズムの鼓動が聴こえる。
ひとり分の食事をふたりで食べる。
外出も入浴も、いつも仲良く一緒。
呆れたことに、トイレまで一緒に入る。
結局、恋人がふたつに裂けただけ。
ただそれだけのこと、かもしれない。
2009/01/29
なんとか車道を横断することに成功した。
と思ったら、歩道で男にぶつかった。
「ちぇっ、ついてねえな」
唾を吐き捨て、そのまま男は歩み去ろうとする。
「おい。それはないだろ」
声をかけたが、男は振り向きもしない。
またか。
ため息が出てしまう。
また無視されてしまった。
どうして私はこうも無視されるのか。
存在感がないのは、よく知っている。
もともと目立たない子どもだった。
学校では友だちもできなかった。
誰も私と一緒に遊んでくれないのだ。
授業中に指名されたこともなかった。
教師が私を無視するからだ。
カウンセラーに相談しても無駄だった。
「僕、みんなに無視されるんです」
「はい。次の人」
近頃、ますます目立たなくなってきた。
ついに親兄弟にまで無視されるようになった。
きっと僕が死んだって
ハエの死体ほどにも感じてくれない。
こんな状態では働くこともできない。
もっとも、衣食住で困ることはないけどね。
裸で往来を歩いても注意されないから。
万引きとか家宅侵入だって平気だ。
たとえ見つかっても
盗品を返せば問題にならない。
盗品の方が私より存在感があるわけだ。
映画館は入場券がなくても入れる。
私の存在感は、ほとんど路傍の石。
透明人間より便利かもしれない。
覗き見できるし、痴漢で捕まる心配もない。
そう考えると、少しは気が楽になる。
しかし、いまだに仲間も友だちもいない。
もちろん、恋人なんかいるはずない。
さびしくない、と言えば嘘になる。
けれど、それほど不満は感じない。
けっして強がりではない、と思う。
強がっても、どうせ無視されるし。
2009/01/28
私は背後霊である。
ただし、背後霊の背後霊である。
つまり、ある生者の背後に背後霊がいて、
その背後霊の背後に私がいるのである。
ゆえに私は背後霊の背後霊なのである。
生者が自分の背後霊に気づかないように
背後霊も自分の背後霊に気づかない。
理屈はわからないが、そういうふうになっている。
ということは、私に見えないだけで、
私の背後にも背後霊がいるのかもしれない。
そして、その背後霊にも背後霊がいて、
さらにその背後霊にも背後霊がいて、
そんなふうに、私の背後には
背後霊の列が無限に続いているのかもしれない。
い、いやだなぁ〜。
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2011/07/01 20:54
「こえ部」で朗読していただきました!
2011/01/24 13:50
朗読していただきました!
ケロログ「しゃべりたいむ」かおりサン
2009/01/27
たくさんの異国の船が運河を渡る。
ありとあらゆるものが運ばれてゆく。
美しく、いかがわしく、危険なものまで。
この運河がなければ大陸を迂回するしかない。
想像しただけで、吐き気とめまいがする。
誰が運河を作ったのか、いまだ謎のままだ。
「昔ね、幼い神様が砂遊びをしたのよ」
そんな母の話を信じていた頃があった。
この砂の海しか知らない船乗りにも。
青い星が昇る。
わが祖父の星、水の惑星。
火のように燃えるこの赤い星の夜空に。