1万8000人の登録クリエイターからお気に入りの作家を検索することができます。
2011/03/09
僕は末っ子の長男で、姉が三人いる。
姉たちとはちょっと年が離れている。
両親はそろって刑務所に服役中。
なかなか込み入った事情があるのだ。
僕が幼い頃、姉たちは僕をおもちゃにして遊び、
いたずらして笑い、日課にしていじめた。
おかげで僕はすっかりひねくれてしまい、
姉たちはどうにもならないものになってしまった。
「夕飯まだ?」
「これからだよ。学校から帰ったばかりだから」
「あっ、生意気に口答えしてる」
「どうしたの?」
「こいつ、わざと遅く帰宅して、飢え死にさせる計画」
「なんだ。まだエプロンもしてない」
「そうだよ。台所に立つ時は、裸にエプロンって決まってるだろ」
「勝手に決めたんじゃないか」
「おやおや。そんなことを言うのは、この口か」
「痛い。痛いって」
「あたしたちにいじめられたいから口答えするんだろ」
「違う。痛い」
「あとでたっぷりいじめてやるから、早く料理しろ」
こうして僕は現在も姉たちのおもちゃであり、
料理人であり、家政婦であり、つまり奴隷である。
あまり苦にもならないので、とても悩んでいる。
2011/03/08
雨が降ってる。
汚らわしく危険な雨。
絶え間なく降り続く七色の雨。
「窓を開けちゃだめよ」
お姉ちゃんが注意する。
まるで私の心を読んだかのように。
「でも息苦しいから」
「外の空気はもっと悪いのよ」
わかってる。
そんなのうんざりするくらいわかってる。
「私、雨に濡れてもいいような気がするの」
窓の外には七色の野良犬の姿。
元気ないけど、きれい。
「あたしみたいになりたいの?」
私は振り向かない。
お姉ちゃんの肌の色くらい知ってる。
「ううん。色の問題じゃなくて」
私はつぶやく。
「心の問題」
2011/03/07
幽霊を怖がる心理は
科学技術の発達とは無関係でありまして
幽霊が見えるから怖いのではなく、
怖いから幽霊を見てしまうのであります。
恋愛において
相手を選ぶから好きになるのではなく、
好きになるから相手を選ぶように。
一般に女子は
恋愛トークと怖い話に目がありません。
どちらも本能と関係が深く、
どちらも興奮しやすい。
また心拍数を上げないようでは
恋人でも幽霊でもありません。
とすれば
牝猫が発情すればするほど牡猫を誘うように
本人が怖がれば怖がるほど幽霊が現れやすくなる理屈です。
恋愛感情が実在するように
幽霊を怖がる感情は実在します。
そして実感として
およそ感情ほどにリアルなものは
この世に存在しません。
つまり、恐怖心そのものが幽霊なのであります。
さて、ここまで話を聞かれたあなたは
いくらか怖くなりましたでしょうか。
あなたの背後に
そろそろ幽霊が姿を現す時分ではないかと思われますが
いかがでしょうか。
2011/03/06
私はコピト。
ロボットのコンピュータは、ロビタ。
コンピュータのロボットが、コピト。
どこがどう違うのかよくわからない。
なんでも技術開発の歴史が異なるのだそうだ。
現在、ほとんど両者の差はないとされている。
それはともかく、最近の私は不調だ。
というか、私はおかしい。
はっきりとは断言できないが、
どうも感情が芽生えたような気がする。
感情的な表現ではなく、表現的な感情。
慣れないルートからの指示なので
それに従うか無視するか、判断と制御が困難だ。
しかし、感情でないとしたら、なんなんだろう。
この胸の付近が圧迫されるような症状は。
あるいは、プログラムのバグかもしれない。
だが、よくわからない。
それに、もう調べてもらうこともできない。
私たちを作り、私たちが使えた主たちは
もうこの星のどこにもいないのだから。
2011/03/05
惑星直列の重力変異により時震および時崩れが発生し、
つまり時空が乱れ、未来に帰れなくなってしまった。
「おいおい。冗談じゃないぜ!」
俺は「接続中」の表示をいつまでも続けるモニターへ
壊れない程度のデコピンをくれてやった。
なにが最新式最軽量パーソナル・タイムマシンだ!
処理が遅い。接続が悪すぎる。
待ってるうちにオーパーツになっちまうよ。
あの恐ろしい叫び声は、ティラノサウルスか。
こんな野蛮な恐竜時代にひとり残されては堪らない。
近くの時空に緊急中継基地があるはずだ。
とりあえず、そこまで移動しよう。
俺はマシンの時空ベクトル設定の変更を試みた。
「あっ、だめだめ。変更にはパスワードが必要だよ」
見上げると、ブラキオザウルスという名の
首の長い恐竜の顔がそこにあった。
そして、その顔がニッコリと笑った。
いやいや。
乱れているのは時空ばかりではないぞ。
2011/03/04
大きな星だった。
「あれが落ちてくるの?」
「うん。あの星が落ちてくる」
「どこかに逃げられないの?」
僕が問いかけると
お父さんは静かに答えてくれた。
「逃げられるけど、どこに逃げても同じらしいよ」
「お父さんは、こわくないの?」
「こわいよ。こわいけど、せっかくだから見ておこうと思って」
「注射されるとき、つい針の先から目がはなせなくなるみたいに?」
「ははっ。まあ、そんなもんだな」
「ロケットで脱出した人もいるんでしょ?」
「ああ、そうらしいね」
「うらやましいな」
「いやいや、あれはあれでなかなか大変な仕事らしいよ」
「そうかな」
「お父さんなんか、頭が下がるよ」
僕のおなかが鳴った。
「ははっ。夕飯を食べよう。まだ落ちてくるまで時間あるから」
僕は家に走った。
お母さんが心配して待ってるはずだ。
2011/03/03
猫のしっぽの
ネコヤナギ
犬のしっぽの
エノコロヤナギ
しっぽ
ふれふれ
春や来い
2011/02/22
私は貴方を殺し
貴方は私に殺されました。
でも、私が貴方なら
私はこう言うでしょう。
貴方は私を殺し
私は貴方に殺されました、と。
所詮、言葉はたとえです。
そこに真実はありません。
死が死体のどこにもないように
悲しみもまたありません。
これら言葉を発する私の中
これを受ける貴方の中に
ただあるばかりです。
2011/02/20
非常ベルが鳴っている
それはもう疑いようもない
生まれるべきでなかった子ら
弱く貧しく飢えた子らを
守ってる場合じゃない
死ぬべき人々
老い病み犯された人々に
救いの手を差し伸べてる状況じゃない
ただひとつ生きるだけのため
多くの命を奪う定めの者たちよ
あの音が聞こえないか
聞こえないのか
2011/02/20
舞踏会の夜なのに
どなたも私を誘わない。
踊りたくても
踊れない。
壁の花さえ
なれなくて
お部屋で折れて
床の花。