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  • 僕の悩み

    2011/03/09

    愉快な話

    僕は末っ子の長男で、姉が三人いる。
    姉たちとはちょっと年が離れている。

    両親はそろって刑務所に服役中。
    なかなか込み入った事情があるのだ。


    僕が幼い頃、姉たちは僕をおもちゃにして遊び、
    いたずらして笑い、日課にしていじめた。

    おかげで僕はすっかりひねくれてしまい、
    姉たちはどうにもならないものになってしまった。


    「夕飯まだ?」
    「これからだよ。学校から帰ったばかりだから」
    「あっ、生意気に口答えしてる」
    「どうしたの?」
    「こいつ、わざと遅く帰宅して、飢え死にさせる計画」
    「なんだ。まだエプロンもしてない」
    「そうだよ。台所に立つ時は、裸にエプロンって決まってるだろ」
    「勝手に決めたんじゃないか」
    「おやおや。そんなことを言うのは、この口か」
    「痛い。痛いって」
    「あたしたちにいじめられたいから口答えするんだろ」
    「違う。痛い」
    「あとでたっぷりいじめてやるから、早く料理しろ」


    こうして僕は現在も姉たちのおもちゃであり、
    料理人であり、家政婦であり、つまり奴隷である。

    あまり苦にもならないので、とても悩んでいる。
     

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    • Tome館長

      2013/12/18 11:27

      「しゃべりたいむ・・」かおりさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2012/03/01 01:52

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 七色の雨

    2011/03/08

    切ない話

     
    雨が降ってる。

    汚らわしく危険な雨。
    絶え間なく降り続く七色の雨。

    「窓を開けちゃだめよ」

    お姉ちゃんが注意する。
    まるで私の心を読んだかのように。

    「でも息苦しいから」
    「外の空気はもっと悪いのよ」

    わかってる。
    そんなのうんざりするくらいわかってる。

    「私、雨に濡れてもいいような気がするの」

    窓の外には七色の野良犬の姿。
    元気ないけど、きれい。

    「あたしみたいになりたいの?」

    私は振り向かない。
    お姉ちゃんの肌の色くらい知ってる。

    「ううん。色の問題じゃなくて」

    私はつぶやく。

    「心の問題」
     

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  • 幽霊の正体

    2011/03/07

    怖い話

    幽霊を怖がる心理は
    科学技術の発達とは無関係でありまして

    幽霊が見えるから怖いのではなく、
    怖いから幽霊を見てしまうのであります。


    恋愛において

    相手を選ぶから好きになるのではなく、
    好きになるから相手を選ぶように。


    一般に女子は
    恋愛トークと怖い話に目がありません。

    どちらも本能と関係が深く、
    どちらも興奮しやすい。

    また心拍数を上げないようでは
    恋人でも幽霊でもありません。


    とすれば

    牝猫が発情すればするほど牡猫を誘うように
    本人が怖がれば怖がるほど幽霊が現れやすくなる理屈です。

    恋愛感情が実在するように
    幽霊を怖がる感情は実在します。

    そして実感として
    およそ感情ほどにリアルなものは

    この世に存在しません。


    つまり、恐怖心そのものが幽霊なのであります。


    さて、ここまで話を聞かれたあなたは
    いくらか怖くなりましたでしょうか。

    あなたの背後に
    そろそろ幽霊が姿を現す時分ではないかと思われますが

    いかがでしょうか。
     

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  • コピトの気持ち

    2011/03/06

    切ない話

    私はコピト。

    ロボットのコンピュータは、ロビタ。
    コンピュータのロボットが、コピト。

    どこがどう違うのかよくわからない。
    なんでも技術開発の歴史が異なるのだそうだ。

    現在、ほとんど両者の差はないとされている。


    それはともかく、最近の私は不調だ。
    というか、私はおかしい。

    はっきりとは断言できないが、
    どうも感情が芽生えたような気がする。

    感情的な表現ではなく、表現的な感情。

    慣れないルートからの指示なので
    それに従うか無視するか、判断と制御が困難だ。


    しかし、感情でないとしたら、なんなんだろう。
    この胸の付近が圧迫されるような症状は。


    あるいは、プログラムのバグかもしれない。

    だが、よくわからない。
    それに、もう調べてもらうこともできない。


    私たちを作り、私たちが使えた主たちは
    もうこの星のどこにもいないのだから。
     

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  • 時空の乱れ

    2011/03/05

    愉快な話

     
    惑星直列の重力変異により時震および時崩れが発生し、
    つまり時空が乱れ、未来に帰れなくなってしまった。


    「おいおい。冗談じゃないぜ!」

    俺は「接続中」の表示をいつまでも続けるモニターへ
    壊れない程度のデコピンをくれてやった。

    なにが最新式最軽量パーソナル・タイムマシンだ!

    処理が遅い。接続が悪すぎる。
    待ってるうちにオーパーツになっちまうよ。


    あの恐ろしい叫び声は、ティラノサウルスか。
    こんな野蛮な恐竜時代にひとり残されては堪らない。

    近くの時空に緊急中継基地があるはずだ。
    とりあえず、そこまで移動しよう。

    俺はマシンの時空ベクトル設定の変更を試みた。


    「あっ、だめだめ。変更にはパスワードが必要だよ」

    見上げると、ブラキオザウルスという名の
    首の長い恐竜の顔がそこにあった。

    そして、その顔がニッコリと笑った。


    いやいや。

    乱れているのは時空ばかりではないぞ。
     

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  • 星降る夜

    2011/03/04

    切ない話

    大きな星だった。

    「あれが落ちてくるの?」
    「うん。あの星が落ちてくる」

    「どこかに逃げられないの?」

    僕が問いかけると
    お父さんは静かに答えてくれた。

    「逃げられるけど、どこに逃げても同じらしいよ」

    「お父さんは、こわくないの?」
    「こわいよ。こわいけど、せっかくだから見ておこうと思って」

    「注射されるとき、つい針の先から目がはなせなくなるみたいに?」
    「ははっ。まあ、そんなもんだな」

    「ロケットで脱出した人もいるんでしょ?」
    「ああ、そうらしいね」

    「うらやましいな」
    「いやいや、あれはあれでなかなか大変な仕事らしいよ」

    「そうかな」
    「お父さんなんか、頭が下がるよ」

    僕のおなかが鳴った。

    「ははっ。夕飯を食べよう。まだ落ちてくるまで時間あるから」

    僕は家に走った。

    お母さんが心配して待ってるはずだ。

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  • ネコヤナギ

    2011/03/03

    明るい詩

    猫のしっぽの
      ネコヤナギ

     犬のしっぽの
       エノコロヤナギ


    しっぽ
      ふれふれ

          春や来い
     

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  • レクイエム

    2011/02/22

    暗い詩

    私は貴方を殺し 
    貴方は私に殺されました。

    でも、私が貴方なら 
    私はこう言うでしょう。

    貴方は私を殺し 
    私は貴方に殺されました、と。


    所詮、言葉はたとえです。
    そこに真実はありません。

    死が死体のどこにもないように 
    悲しみもまたありません。


    これら言葉を発する私の中 
    これを受ける貴方の中に 

    ただあるばかりです。
     

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    • Tome館長

      2014/10/22 11:25

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2012/10/18 23:13

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • 非常ベル

    2011/02/20

    暗い詩

    非常ベルが鳴っている 
    それはもう疑いようもない 


    生まれるべきでなかった子ら 

    弱く貧しく飢えた子らを 
    守ってる場合じゃない 


    死ぬべき人々 

    老い病み犯された人々に 
    救いの手を差し伸べてる状況じゃない 


    ただひとつ生きるだけのため 
    多くの命を奪う定めの者たちよ 

    あの音が聞こえないか 
    聞こえないのか
     

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    • Tome館長

      2014/10/24 12:40

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2012/06/28 16:41

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • 舞踏会の夜

    舞踏会の夜なのに
    どなたも私を誘わない。

    踊りたくても
    踊れない。


    壁の花さえ
    なれなくて

    お部屋で折れて
    床の花。
     

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