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2011/02/19
彼は帰宅恐怖症。
家に近づくと動悸がする。
家の明かり見えると冷や汗が出る。
「あなた、おかえりなさい」
やさしい妻の笑顔。
「お父さん、おかえりなさい」
元気な娘の笑顔。
「・・・・・・ただいま」
なのに彼は笑顔を作れない。
妻と娘を恐れている。
ふたりとも足がなくて透けている。
どうして成仏しないのか。
どうしても彼にはわからない。
2011/02/17
「助けて!」
密かに好意を寄せる女性にそんなこと言われたら
どんな状況であれ無視できるはずがない。
俺は彼女に手を伸ばす。
「大丈夫。もう少しだ」
彼女は、氷に覆われた岩壁に必死でへばりついている。
つまり、我々は登山の最中であり、
非常に厳しい状況にあった。
生存者は俺と彼女だけ。
他の隊員たちは皆すでに奈落に転落していた。
彼らが生還できる確率は
俺が女性にもてる確率より低い。
遭難者リストの中には
彼女の婚約者であった男もいた。
もし彼女を救出して一緒に下山できたとすれば
あるいは愛が芽生えて・・・・・・
という可能性も、まったくないこともない。
不謹慎であろうとなかろうと
命懸けのアタックであることに間違いはない。
「助けて! 助けて! 助けて!」
ちょっとうるさいな、とは思いながらも
伸ばした俺の手が彼女の手に届いた・・・・・・
と思ったら、目覚まし時計だった。
2011/02/15
わたしはクラゲ
骨がない
ふわふわ
ほわほわ
漂って
生きてる意味も
わかんない
2011/02/14
見知らぬ町で女の子を拾った。
もちろん、見知らぬ女の子だった。
「拾ってくれて、ありがとう」
知らんぷりするには、もったいない笑顔だった。
「なんでまた、こんなとこに落ちてたのかね?」
「あたし、捨てられたの」
「誰に?」
「いろんな人に」
なるほど、ありそうな話だ。
「さて、どうしようかな」
「どうするの?」
「とりあえず交番に届けようか」
すると、彼女は顔をそむけ、しゃがんで泣き始めた。
「ひどい、ひどい、ひどい、・・・・・・」
髪飾りの花が小刻みに揺れた。
きれいな花だが、やはり見知らぬ花だった。
「でもね、落しものは交番に届けないと」
「おじさん、あたしがきらい?」
「いや、そんなことはないが・・・・・・」
むしろ好みかもしれない。
できれば持ち帰りたいくらいだ。
「とにかく立ちなさい」
手を差し出すと、彼女は素直に立ち上がった。
「さて、どうしたものかな」
「交番に行くんでしょ?」
「そうなんだけどね、
どこに交番あるか知らないんだよ」
すると、彼女は微笑み、手を引っ張った。
「あたし、知ってるよ」
そして、見知らぬ通りを一緒に歩き始めた。
「ところで、おじさんの名前は?」
なんだか拾ったのではなく、
拾われたような気がしてきた。
2011/02/10
あなたは風
吹き抜ける
さわやかな
一陣の風
さあっと駆け寄り
短いスカート
はためかせ
クルクル回って
長い髪を
巻き上げる
わたしは
そんなあなたの
ささやかな
一本の
抜け道でありたい
2011/02/08
近所に棲んでる
ろくでもないノラ猫どもが
空き地とか
裏庭とか軒下とか
あっちこっちから
せっせと掻き集めて
毛繕いしながら
こしらえたような
猫の額みたいに
小さな陽だまり
2011/02/08
真夜中の棚の上
こっそり踊るは
お古の人形
よい人形
小首かしげて
かかとをトン
トントントントン
ふり向いた
おめめ合ったら
遊びましょ
2011/02/06
追いかけても
追いかけても
虹の橋は 遠く
求めても
求めても
君の愛は 遠い
2011/02/01
名も知らぬ
ほの白き
その横顔
凛として
淡き恋
淡き夢
幼き胸を
痛めたり
2011/01/30
おぞましき紅蓮の炎や
百目なる蝋の縁より
滴り落つる
熱き涎のそこもとに
なべて朱に染まりし
夜もすがら
絡まる縄の
罠に泣け
だらりだらだら
だらだらり
だらだらだらり
だらりだら