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  • 駅のアナウンス

    2011/08/23

    愉快な話

    駅のホームで電車を待っていた。
    どこか遠くへ私は行くつもりだった。


    やがて、合図のチャイムが鳴った。

    「お待たせしました。まもなく2番線に」
    さわやかなアナウンスの声。

    「目玉焼きがまいります!」


    到着したのは、大きな目玉焼きだった。
    恐竜の卵かな、と思うほど大きかった。

    だが、こんなものに乗るわけにはいかない。

    やはり目玉焼きは食べ物なのだ。
    たとえ食べる気になれないとしても。


    残念だが、次の電車を待つしかない。
    ラッシュアワーでなくて、本当に良かった。


    再びアナウンスがあった。

    「お待たせしました。まもなく2番線に」
    見ると、腕時計の針が曲がっていた。

    「原始人がまいります!」


    その到着を待たず、
    私は諦めて家に帰ることにした。
     

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  • 真夜中の遊園地

    2011/08/22

    怖い話

     
    皆様にお知らせいたします。
    当遊園地はまもなく閉園時間となります。


    出口が見つからないお客様は、

    閉園時間を過ぎますと
    永遠に出られなくなる可能性がございますので、

    くれぐれもご注意ください。


    と申しますのも、

    真夜中の遊園地は大変楽しいのですが、
    それに比例して非常に危険な時空となるからです。


    観覧車は輪廻を繰り返しますし、
    コーヒーカップには本物の熱いコーヒーが注がれます。

    回転木馬は三角木馬になってしまい、
    ジェットコースターは銀河鉄道に連絡いたします。

    また、エクトプラズム・パレードをご覧になりますと、
    まれに魂が離脱するお客様がございます。


    さらに、幽霊屋敷は本物になりますので
    気の弱い方は決して近づかないでください。

    もっとも屋敷から出てきたら逃げようがありませんが・・・・・・


    あっ、もう時間ですね。

    門が閉まりましたら、運命と諦めてください。
    明日の開園時間まで爆弾が落ちても開くことはありません。


    それでは、またのお越しをお待ちしております。
    本日のご来園、まことにありがとうございました。
     

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    • Tome館長

      2011/08/22 10:08

      「さとる文庫」もぐらさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2011/08/22 10:03

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 門 番

    2011/08/20

    変な話

     
    それはそれは立派な門であった。

    絵にも描けないほど立派だった。
    つい入ってみたくなるのだった。


    「いらっしゃいませ」

    高過ぎず低過ぎず、
    じつに感じの良い声だった。

    「お待ちしておりました」

    おそらく門番とでも呼ぶのだろう。

    その男に家まで案内された。


    意外に狭い庭である。
    家も小さかった。

    玄関を抜け、居間らしき部屋に入り、
    そこで主人と対面した。

    「つい入ってしまいました」
    「そうでしょう、そうでしょう」

    この主人とは初対面であった。

    「私を待っていたそうですが」
    「話し相手が欲しくてね」

    幸せそうな笑顔の老人である。

    「それにしても、立派な門ですね」
    「そうでしょう、そうでしょう」

    「不思議な門と言いますか」

    老人の笑顔はそのままであった。

    「あれは、あとで建てたんですよ」
    「あと、と言いますと?」

    「あの門番を雇ったあとですよ」

    そう言えば、好感の持てる男だった。

    「なるほど。確かに立派な門番でしたね」
    「そうでしょう、そうでしょう」

    「そうですね、そうですね」


    もうなにも話すことがないのだった。
     

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  • ヘグナムシ

    2011/08/19

    愉快な話

     
    あやしげな物を売るあやしげな店で、
    あやしげな店主が教えてくれた。

    「この水槽の中にヘグナムシがいるのです」

    それを聞いて驚かないわけにいかない。


    外に待たせていた連れを急いで呼んだ。
    連れは正体不明のあやしい虫である。

    「なんだい?」

    小さな虫だが、しっかり言葉を話せる。


    「この水槽の中に入ってごらん」

    連れの虫は素直に水槽の中に入ると、
    なんの疑いもなく水面を泳ぎまわる。

    少し頭が足りないのだ。

    「これがどうかしたの?」


    突然、水面から胴長の生物が跳ねると、
    その大きな口で連れの虫を捕らえた。

    「なんだなんだなんだ!」

    連れの虫はひどく騒いだ。
    まあ、当然の反応ではあるけれど。


    ヘグナムシは一気に飲み込めないらしく、
    すぐに連れの虫を吐き出した。

    「なんだなんだなんだ!」


    逃げまわる連れの虫に教えてやる。

    「それ、ヘグナムシなんだって」

    連れの虫は水面に立ち止まる。

    「なに、ヘグナムシ?」

    そのため、性懲りもなく
    再び大きな口に捕らえられてしまった。


    「ああ、とっても気持ち好い!」

    そんな強がりを言うのだった。
     

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  • ミミムシ

    2011/08/18

    愉快な話

     
    子どもというのはおかしなことを言う。

    「あっ、ミミムシ! ミミムシ見つけた!」

    娘に抱きつかれ、耳を引っ張られた。


    休日の昼下がり、居間で読書中のことだった。
    せっかく物語に夢中になっていたのに。


    鋭い痛みが両耳の付け根に走った。

    「ほら。とっても大きなミミムシ」

    幼い手のひらに耳が載っていた。


    なるほど。耳の虫か。
    なかなか面白い発想だ。

    言われてみれば、虫のように見えなくもない。
    蝶の羽のような形をしている。

    それに、ちゃんと六本の脚も生えている。

    なんと、二本の触覚まで伸びている。


    ミミムシは両耳を動かし、空中に浮き上がった。

    つまり、羽ばたいたわけだ。


    その羽音が妙にうるさく感じられた。

    なんだか心配になって声を出してみた。

    「おい、ミミムシ。どこへ行くんだ?」

    やはり、声がおかしい。

    というか、それを聞く耳がおかしいのだ。


    立ち上がって、壁の鏡を見る。

    両耳がなくなっていた。


    隣の家の犬の吠える声が聞こえる。

    目の前の娘は開いた窓を指さしている。

    「ミミムシ、窓から逃げちゃった」

    そんな娘の声が遠くかすかに聞こえた。


    これはどうも大変だ。

    とにかく、ミミムシを捕まえなければ!

    なんとかしないと大問題になりそうだ。


    「ちょっと捕虫網を貸してくれ」

    そう喋ったつもりなのに、
    なぜか自分の声が聞こえない。

    だが、うなずいて娘は居間を出たのだから、
    確かに声は出たはずである。


    さてさて。
    ともかく落ち着いて行動しなければいけないぞ。

    ミミムシなどいるはずがないのだから。
    仮にいるとしても、幻覚に違いないのだから。


    すると、これは幻聴なのだろうか。

    「まったく変人よね。ふたつ隣の家のご主人って」


    それは、ふたつ隣の家の奥さんの声だった。
     

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  • 花いちもんめ

    2011/08/17

    暗い詩

    買ってうれしい
     花いちもんめ

       まけてくやしい
        花いちもんめ


    となりの姉さん
     ちょっと来ておくれ

       靴がないから行かれない


    裸足でいいから
     ちょっと来ておくれ

       服がないから行かれない


    布団かぶって
     ちょっと来ておくれ

       布団がないから行かれない


    しょうがない
     しょうがない

       お金やるから出ておいで


    あの子が欲しい
     あの子じゃわからん

       この子が欲しい
        この子じゃわからん


    まあるくなって
     考えよう

       考えたってわからない
     

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  • 母子像

    2011/08/16

    怖い話

    雄大な海を見下ろす崖の上に
    不釣合いに見える母と子の姿があった。

    美しい夫人が醜い赤ん坊を抱いていた。

    夫人は遠い水平線を見詰め、
    そんな母親を赤ん坊が見上げていた。


    ところが不意に、夫人はめまいに襲われ、
    意識を失って崖の上に倒れてしまった。

    赤ん坊は崖から海に落ちてしまい、
    いくら探しても死体さえ見つからなかった。


    そのため、夫人は気が触れてしまった。
    でも、なぜか誰もそれに気づかない。

    もう夫人の美しさは怖いくらい。
    正気の美しさではなかった。


    ・・・・・・知らんぷりして、時が流れた。


    雄大な海を見下ろす崖の上に
    絵のように見える母と子の姿があった。

    美しい夫人が美しい赤ん坊を抱いていた。

    夫人は遠い水平線を見詰め、
    そんな母親を赤ん坊が見上げていた。


    すると不意に、まだ幼い赤ん坊が
    しっかりした言葉を喋り出した。

    「ママ。今度は落とさないでね」

    あの醜い赤ん坊の顔。


    「ええ。心配しなくていいのよ」

    怖いほどに美しい夫人の微笑み。

    「今度は、ママも一緒に落ちてあげるから」
     

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  • 冬の夜の目

    2011/08/15

    怖い話

    さびしい夜道をひとり歩いていました。

    ときおり冷たい風が吹き抜けてゆきます。
    両親の待つ家に急ぎ帰るところでした。

    こんなに時刻が遅くなってしまったので
    きっとひどく父に叱られることでしょう。

    もう子どもでもないのに
    いまだに私は父が怖いのです。


    ふと不安になり、
    あたりを見まわしました。

    誰かに見られているような気がしたのです。


    見上げると
    大きな目が光っていました。

    でも、なんということはありません。
    木の枝の間から満月が覗いていたのです。


    それにしても人の目にそっくりでした。

    その目がまばたきをします。

    私が歩くと視点の位置が変わるので、
    木の枝のまぶたが動くように見えるのです。


    それは花も葉もない冬の桜の木でした。

     
    私は立ち止まり、しばらく
    その枝越しの満月を見上げ続けました。

    本当に目としか見えないのでした。


    だんだん私は腹が立ってきました。

    そして、こんなふうに叫んだのです。

    「そんないやらしい目で私を見ないで!」


    突然、その目がつぶれてしまいました。

    カラスが飛び立って
    枝の形の邪魔をしたのです。

    あるいは、その鳥はフクロウだったかもしれません。


    すぐに私は家まで走って帰りました。


    玄関に入ると
    そこに父が立っていました。

    「・・・・・・遅くなってごめんなさい」

    いつものように私は謝りました。


    けれど、今夜の父は
    いつものように私を叱ろうとはしませんでした。

    ただ黙って
    片目でじっと私を見るのです。


    そして、なぜか今夜の父は
    不自然に片目を手で押さえているのでした。
     

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  • 明日になれば

    2011/08/13

    切ない話

     
    「明日は、なにして遊ぼうかな」

    天井を見上げたまま僕がそう呟くと、
    お父さんが水をさすのだった。

    「いくら待っても、明日は来ないぞ」

    寝耳に水とはこのことか。


    僕は上半身を起こす。

    「どうして?」
    「どうしてもさ」

    お父さんは背中を向ける。
    僕は途方に暮れる。


    「あのね、どうも明日が壊れちゃったらしいのよ」

    お母さんが小声で教えてくれた。

    「うそだ!」
    「夜中なんだから、大きな声ださないで」

    「でも、うそだ」
    「本当なのよ」


    僕は頭を枕に戻して、また天井を見上げる。

    大人の言うことなんか信用できない。
    明日が来ないはずあるもんか。


    だって、ほら。

    僕の家の天井はとても高くて、
    あんなにたくさん星がまたたいているんだから。
     

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  • ヘビの論理学

    2011/08/11

    論 説

    AがBよりも強く、
    BがCよりも強いなら

    一般にAはCより強いとされる。


    だが、成立しない場合がある。

    たとえば、ジャンケン。

    グーがチョキに勝ち、
    チョキがパーに勝ち、

    なのにグーはパーに負けてしまう。


    これは、三匹のヘビがいて

    ヘビAがヘビBの尻尾を噛み、
    ヘビBがヘビCの尻尾を噛み、
    ヘビCがヘビAの尻尾を噛む、

    という三つ巴の関係である。

    つまり、順番の列がまっすぐでなく、
    曲がり、連結し、環状になっている。


    このような環状の構造を持つ世界では

    まっすぐな構造を持つ世界での常識が
    ほとんど通用しなくなる。


    もし、陸上競技場のトラックで
    ウサギとカメが競走したら、

    ウサギがカメをいくら追い越しても

    ウサギの前にいるのは
    いつもカメである。


    また、環状の構造を持つ論理では
    真でありかつ偽である命題が成立する。

    つまり、矛盾が許されてしまう。


    完全な矛が存在する。
    その矛は、とにかくなんでも貫く。

    完全な盾も存在する。
    その盾は、とにかくなんでも弾く。

    そして、もし矛と盾が衝突すれば

    矛は盾を貫き、
    盾は矛を弾くのである。

    互いの尻尾を噛み合う二匹のヘビのように。


    なお、矛盾しない矛盾の正体は
    自分の尻尾を噛む一匹のヘビである。
     

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