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2012/11/07
水たまりは
昨夜の雨の
心残り
流せぬ想い
映します
2012/11/06
美しきもの
なべて欲望を映す
醜きもの
なべて真実を映す
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2012/11/05
唇を塞がれて
とても敵わぬ力で
暗い闇の底に組み伏せられ
いやらしく抱きしめられ
苦しくて呻くしかなく
なにか禍々しいもの
理不尽なものが
喉の奥へ侵入しようと
体の中に潜り込もうと
その気配だけで
もう息も絶え絶えに
抵抗もできぬまま
やがて占領され
惨めで情けなく
いけないこと
許されないこと
悪いことをしたというのか
なにも思い出せない
考えようとすらしていない
けだるくて
生きていないみたいな
死んでさえいないみたいな
こんな狂おしいばかりの
わけのわからぬ場所で
唇もなにもかも
塞がれたまま
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2012/11/05
おいら船乗り、
海の男よ。
「女に溺れるくらいなら、海に溺れるぜ」
なんてね。
ああ、
いまさら港にゃ
戻れない。
2012/11/03
おらの村の 娘っこ
野を越え 山越え
帯をゆらして 駆けてゆく
髪をなびかせ 村娘
おべべの裾が はだけたか
猟師の罠には 気をつけな
毒蛇の牙は 抜いちまえ
村一番の 長者の蔵には 米俵
村一番の 娘の胸には 白い餅
食べたかろうて 頬張ってみ
毒味はいらんか いらんかな
夕陽傾き 山鳩帰る
遠くで寺の 鐘が鳴る
2012/11/02
読むものすべて
来し方の手紙
書くものすべて
行く末の手紙
さてさて
誰が読むやら
読まぬやら
2012/11/02
とある映画館で
話題の新作を観ていた。
水深が膝くらいしかない浅いプールで
裸の若い男女のグループが戯れている。
そこへ武装警官らしき軍団が現われ、
若者たちを裸のまま拘束してしまう。
そして、手袋をしたまま体を撫でまわす。
「ほれほれ、どうだ、どうだ。
そろそろ密告する気になったか」
若者たちは抵抗できず、苦悶の表情。
女の武装警官もいて
かたわらで笑って眺めている。
やがて水しぶきが青い空に舞い上がる。
(なんなんだ? この映画は)
呆れてしまう。
さすがに映像は鮮明で美しいが
あの名監督の作品とはとても思えない。
わけがわからないまま考えていたら
太腿を撫でられるような感触があった。
見下ろすと
女の武装警官が床にしゃがんで
こちらを見上げて笑っているのだった。
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2012/11/01
森のはずれ、
切り株に腰をかけ、
きこりが休んでいました。
そこへ
木の実を抱えて
リスがやってきました。
「きこりさん、お食事はすみましたか?」
「いいえ、リスさん。まだですが」
「それでは、木の実を食べてくださいな」
いくつか木の実を地面に置くと
そのままリスは走り去りました。
「いやはや。妙なことがあるものだ」
首をかしげながら
きこりは木の実を食べます。
やがて
さっきのリスが
戻ってきました。
「きこりさん、お食事はすみましたか?」
返事はありません。
きこりは消えていました。
帰ってしまったのでしょうか。
不思議そうに
リスは首をかしげます。
きこりが座っていた切り株から
新しい芽が出ていました。
まるで首をかしげたような
その小さな木の芽。
2012/11/01
あとで考えてみると
それはあまり駅舎らしくなかった。
いかにもな階段はあるのだが
「網の坂」とでも呼ぶべきものであって
大きなクモの巣を連想させる銀色の網が
「登れ」とばかりに斜めに張られてあるばかり。
ラッシュアワーにおける通勤と通学の人々が
それにへばりついて登っている。
この網の坂の途中に
狭い門のような場所があるのだが
せいぜい二人しか通れそうもないのに
我も我もと大勢で通り抜けようとしている。
また、不意に左右に裂けていたり
意味もなく複雑に絡まっていたりもしている。
あまり人通りのなさそうな部分には
本当にクモの巣が張られていたりもする。
そんなまさにクモの巣のような坂を
まさにクモのように這う女たちは
スカートの乱れが気になるのか
その裾を片手でしっかり押さえている。
いつもながら不思議に思う。
どうせ毎回のことなんだから
スカートなんか穿いて来なければいいのに。
女のスカートの丈が短くなるほど
すぐ下に続く男の密度が明らかに高まるのも
なんともあさましい姿である。
とにかく、みんな急いでいる。
急がなければいけないような気もする。
だから登り続けることにためらいはない。
苦労して斜め上を見上げる。
靴と脚と尻が蠢いているのは見えるが
電車のホームはまだ見えない。
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2012/10/29
何事かについて僕は悩んでいた。
そして、窓辺の机に頬杖を突きながら
開いた窓から外の景色を眺めていた。
草木が生い茂る田舎臭い風景で
あるいは本当に田舎なのかもしれない。
大声で笑ったり叫んだりしながら
目の前を制服の女子学生たちが通る。
彼女たちが高校生なのか中学生なのか
僕には区別できない。
また、なぜそんなにふう彼女たちが騒ぐのか
やはり僕にはわからないのだった。
そんな僕のいびつな楕円形の視界の端に
なつかしい友人の顔が現われた。
女子学生たちとふざけ合っているので
僕が手をあげているのに気づきもしない。
なぜか僕は手頃な小石を持っており、
それを向こうに放り投げて大声で呼んだ。
「おーい、ちょっと寄っていけよ」
その友人を僕は同性のように思っていて
なんだか気安く呼んだのだけれど
よく見なくても明らかに異性であり、
それもなかなかの美女なのであった。
ようやく友人は僕に気づいたようで
手を振ってくれたのだけれど
一緒にいる女子学生たちが開放してくれないらしく
すぐにこちらへは来れないように見えた。
「よければ、君たちも一緒においでよ」
僕がそんなふうに窓から声をかけると
女子学生たちは互いに顔を見合わせ
恥ずかしそうに小さく笑うのだった。
あるいは友人は彼女たちの先輩なのかもしれない。
たがいに抱きついたり蹴る真似をしたり、
なにやら楽しそうにふざけ合いながら
彼女たちは坂道をゆっくり上がってくる。
友人だけでなく女子学生たちも一緒なので
僕はなんだか嬉しくなってしまう。
友人のおかげなのだ、と感謝する。
なんだか何か言わずにいられなくなる。
「彼女は僕と同級生だったんだけど」
僕は自分の言葉にいくらか驚く。
「よく相談を持ちかけられていたよ」
まるで彼女たちが友人に相談を持ちかけてばかりいて
「僕にも相談を持ちかけても悪いことあるまいよ」
とでも言いたいみたいに聞こえる。
「そうだったんですか」
かわいらしい女子学生が目を丸くする。
本当に驚いたのかどうかわからないが
ともかく返事をしてくれたので
いくらか救われたような気になる。
とぼけた顔のコアラの親子みたいに
背中に女子学生を一人ぶら下げたまま
友人は勝手口から僕の部屋に入ってきた。
跳び上がって僕の机の上に裸足で立つと
彼女は窓から外に思い切り首を突き出した。
それから、僕には理解できない類の冗談で
まだ外にいる女子学生たちを笑わせるのだった。
友人の短いスカートから下着が見える。
元気に開いた太股が健康そうだった。
彼女は、たしか人妻ではなかっただろうか。
それに同級生ではなかったような気もする。
なんであれ、彼女は僕の友人に違いない。
背中の女子学生は天井に押し付けられ、
遊園地の観覧車にでも乗っているつもりなのか
キャーキャー叫びながらも笑っている。
見ているだけで僕まで楽しくなってくる。
僕の机の上には書きかけの原稿用紙があり、
小説家にでもなったつもりなのか
万年筆なんかもそれらしく置いてある。
僕は文章が書けなくて悩んでいたのだろうか。
なにを悩んでいたのか
もう思い出せないのだけれど
なにやらすごく幸せな気分である。
そういうわけなので僕は
ここに忘れないように書いておく。
あいにく万年筆ではなくて
パソコンのキーボードではあるけれど。
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