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2012/11/17
帰宅の途中、古本屋をのぞく。
外国語の文法に関する本を探していたのだ。
ところが、その古本屋の軒下にある入り口は
細かな仕切りのある棚で塞がれていた。
それは本棚ではなかった。
細長いスプリングやピン、
またはネジのようなものが並んでいる。
それらを指でつまんで調べていると
棚の上にある横長の引き戸が開いた。
しわだらけの老婆の顔が、ぬっと現われ
「もう閉めようと思うとるんやけどな」
なるほど、もう夕暮れである。
「ああ、そうですか」
指につまんでいた金属部品をあわてて棚に戻す。
「明日は何時からやってますか?」
その質問に対して老婆が返事をする。
けれども開店時間を知りたいわけでもないので
ほとんど注意して聞いていなかった。
「ああ、そうですか」
適当に相槌を打ち、逃げるように去る。
(ふん。あんな古本屋、二度と行くもんか)
そもそも外国語の文法にしたって
ことさら知りたいというわけでもないのだ。
2012/11/16
友だちの家に遊びに行った。
おもちゃの恐竜を見せてもらった。
手のひらサイズ、柔らかなゴム製。
のそのそ歩いたり、ジャンプしたりする。
濡れたものや温かなものが近くにあると
口をすぼめて突いたりもする。
指先を舐めて試してみたら
キツツキみたいに激しく突いてきた。
とてもかわいらしい。
なんだか僕も欲しくなった。
しばらく遊んでから友だちの家を出た。
そのまま近くにある店に入った。
段ボール箱や紙袋などが
床や棚に無造作に置いてある。
あまりおもちゃ屋らしくなかった。
それに売り場はとても狭くて
店員の姿さえ見当たらなかった。
「ごめんください」
そんなふうに声をかけてみると
奥から大人が現れた。
顔のやせた貧相な男だった。
「なんだね?」
「おもちゃの恐竜を探しているんですけど」
店員の男はゆっくりと売り場を見まわす。
「ないね」
やっぱり。
そんな予感がしていたのだ。
気落ちして、その小さな店を出る。
道路を挟んだ向かい側に目をやると
ほとんど真正面に大きな店が建っていた。
それは、いかにもおもちゃ屋らしく見えた。
さっそく店に入ってみると
やはりおもちゃだらけなのだった。
「いらっしゃいませ」
同じ顔のふたりの店員が迎えてくれた。
同じように太っているので双子かもしれない。
すぐにおもちゃの恐竜は見つかった。
透明な袋に入っていて
壁のフックにぶら下がっていた。
手に取る。
柔らかい。
値段も手頃だ。
「この恐竜、ひとつください」
「はい。ありがとうございます」
ふたりの店員は使い方を説明してくれた。
まず洗面器のようなものを持ち出す。
コーヒーみたいな色の液体が入っている。
そこにミルクを連想させる白い液体を注ぐ。
「混合の割合で柔らかさが違うんだよ」
製造方法まで教えてくれるのだった。
さすがに感心してしまった。
友だちみたいに話が盛り上がり、
ふたりは僕に手品まで披露してくれた。
水の入ったグラスにコインを落とすと
コインがはじけてグラスから跳び出すのだ。
僕だって手品なら少々できる。
指先に挟んだ小物を消すやつだ。
グラスに落とす瞬間にコインを消したら
ふたりとも手を叩いて喜んでくれた。
楽しくなってしまう。
ところが、そのとき不意に
手に持っていた透明の袋が跳ね上がった。
中にいるおもちゃの恐竜が暴れ出したのだ。
きっと遊び仲間に加えて欲しいのだろう。
おもちゃの恐竜の体が
むくむく大きくなってゆく。
わざわざ見るまでもない。
それがなぜか僕には
はっきりとわかるのだった。
2012/11/15
あっ。読んでくれてる。
ありがとうございます、本当に。
いやー、あなた良い人ですね。
こんな駄文を読んでくださるなんて。
いえいえ、とんでもない。滅相もない。
本心からそう思っておりますです、ハイ。
なにしろ内容ないですからねー。
私の頭ん中も行間もカラッポですよ。
それでもまだ読んでくださってらっしゃる。
あんたは偉い。私、尊敬しちゃいます。
あっ。えっ。お気に触りましたか。
す、すみません。どーも思慮が足りなくて。
ええと、まだ読んでくれてますよね。
見放しちゃったとかないですよね。
ごめんなさい。私、小心者なんで。
読者に嫌われちゃったかな、とか思って。
そうですよね。考え過ぎですよね。
それなのに内容、考えなさ過ぎですよね。
ええと、なに書こうかな。えーと。
あなた、なにかご希望ありますか。
BL小説とかゆーのですか。
なんだか流行ってますよね、あれ。
でも、よくわかんないんですよ、私。
あれ、女の方が読まれるんですか。
そうですか。まあいいでしょう。
どうせ書けませんから。
だいたい恋愛小説、駄目です。
かったるくて、鬱陶しくて。
それに長い話は無理ですよ。
途中で逃避したくなりますから。
結局、書きたくないんですね。
書くのって、けっこー疲れますもんね。
文字を読むのも疲れるでしょう。
どちらかというと、マンガ読みたいとか。
さて、どうしよう。困ったな。
うーん。なーんも浮かばん。
あの、まだ読んでらっしゃいますか。
誰も読んでないのに書いてたりしてませんよね。
なんか反応ないような気がするんですけど。
気のせいかなあ。どーもわからん。
おーい。聞こえてますかー。
いやいや。声じゃない。文章だからな。
ふん。もういいや。
どうせ誰も読んじゃいねーだろ。
ああ、くっだらねー。
なにやってんだ、俺は。
かしこまって書く必要ねえよ。
趣味なんだから、こんなの。
「あら、とても素敵な方ね」
「いやあ。みんなそう言うんですよ」
はいはい。もうやめたやめた。
自分でも読む気しねーもんな、全然。
いや、しかし。でも、まさか。
ここまで読んでる暇な奴、いねーだろーなー。
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2012/11/21 21:51
「さとる文庫」もぐらさんが朗読してくださいました!
2012/11/16 00:56
改作「聞いてください」を「こえ部」で朗読していただきました!
【 聞いてください 】
あっ。聞いてくれてる。
ありがとうございます、本当に。
いやー、あなた良い人ですね。
私の話を聞いてくださるなんて。
いえいえ、とんでもない。滅相もない。
本心からそう思っておりますです、ハイ。
なにしろ内容ないですからねー。
私の頭ん中、カラッポですよ。
それでもまだ聞いてくださっていらっしゃる。
あんたは偉い。私、尊敬しちゃいます。
あっ。えっ。お気にさわりましたか。
す、すみません。どーも思慮が足りなくて。
ええと、まだ聞いてくれてますよね。
見放しちゃったとかないですよね。
ごめんなさい。私、小心者なんで。
嫌われちゃったかな、とか思って。
そうですよね。考え過ぎですよね。
それなのに内容、考えなさ過ぎですよね。
えーと、なに喋ろうかな。えーと。
あなた、なにかご希望ありますか。
えっ、BLとかゆーのですか。
なんか流行ってますよね、あれ。
でも、よくわかんないんですよ、私。
あれ、女の人が聞くんですか。
そうですか。まーいーでしょう。
どうせ話せませんから。
だいたい恋愛の話、ダメです。
かったるくて、鬱陶しくて。
それに長い話は無理ですよ。
途中で逃避したくなりますから。
結局、あまり喋りたくないんですよね。
喋るのって、けっこー疲れますもんね。
話を聞く方も疲れるでしょう。
どちらかというと、歌を聞きたいとか。
ボカロとかアニソン、流行ってますよね。
私、知らなくて歌えませんけど。
さて、どうしよう。困ったな。
うーん。なーんも浮かばん。
あの、まだ聞いてらっしゃいますか。
誰も聞いてないのに喋ってたりしてませんよね。
なんか反応ないような気がするんだけど。
気のせいかなー。どーもわからん。
おーい。聞こえてますかー。
返事がないな。そりゃー電話じゃねーもんな。
ふん。もういーや。
どうせ誰も聞いちゃいねーだろ。
ああ、くっだらねー。
なにやってんだ、オレは。
かしこまって喋る必要ねーよ。
趣味なんだから、こんなの。
「あら、とても素敵なお声ですね」
「いやあ。みんなそう言うんですよ」
はいはい。もーやめたやめた。
自分でも聞く気しねーもんな、全然。
いや、しかし。でも、まさか。
ここまで聞いてる暇な奴、いねーだろーなー。
2012/11/14
しゃがんだまま氷の塊に乗り、
人通りの多い商店街を滑ってゆく。
ミニスカートのお姉さんばかりが十数人ほど
パチンコ店の前に立ち並んでいる。
ハイヒールの根を持つ美脚の林を
低く縫うように通り抜けながら
私はしきりに首をひねる。
(なんだろう? 客寄せイベントか?)
シャッターは上がりかけているが
氷の塊は勝手に滑ってゆくばかりなので
店内の様子は確認できないのだった。
氷の塊は足早なナメクジの如く滑り続け、
通過した跡は浅い小川を連想させる。
ヌルヌル流れるナメクジの小川。
小川と言っても
こんなに底が浅くては
たとえミニスカお姉さんが落ちたとしても
ハイヒールの先っぽが
ほんのちょっと濡れるだけだ。
2012/11/13
あんまりウサギの耳が長いから
なんだかタヌキは困ってしまう。
「ウサギさん、ぼくの鼓動が聞こえますか?」
その長い耳を折りながら
ウサギは恥ずかしそうにうなずく。
「ええ、大きな音がするわ。
それに・・・」
「他にも聞こえるのですか?」
「ええ。ネズミの骨がきしむ音とか」
「僕がネズミを食べたこと、なぜ、ご存知ですか?」
「あなた、よく噛まないで飲み込んだでしょ?」
ウサギはタヌキから目をそらす。
「さっきまで、鳴き声が聞こえていたわ」
「まいったなあ」
タヌキはウサギを見つめる。
「まったく、じつにまいってしまうなあ」
「タヌキさん、そろそろ失礼します」
ウサギはあわてて立ち上がる。
「わたくし、帰らせていただきます」
「ウサギさん、待ってください」
タヌキはウサギの細い前足をつかむ。
「ぼくの筋肉の音は聞こえますか?」
あんまりタヌキの筋肉がすごいので
なんだかウサギは諦めてしまう。
2012/11/12
「やめて。いけないわ」
闇の中で彼女はささやく。
「私には双子の妹がいるのよ」
ほら、彼女の言い訳が始まった。
「その存在を痛いほど感じるの」
会ったことさえないくせに。
「その妹のことが心配なのよ」
彼女の両親は否定しているが。
「だから私に触らないで欲しいの」
暗くて彼女の表情は見えない。
「双子の妹が感じてしまうから」
2012/11/11
冷酷無比の姉
神をも恐れず
十字架 突き刺す
怪力無双の妹
罰当たりにも
仏像 振りまわす
神も仏も ないけれど
美人姉妹なら
許そうぞ
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2013/09/12 11:12
「こえ部」で朗読していただきました!
2012/11/11 23:42
canbeesantaさん、初めまして。
コメントいただき、嬉しいです。
やはり美人には弱いですね。
美人の絶対的不足から戦争が起こるのではないか、
などと考えないこともありません。
これからも、よろしくお願いいたします。
2012/11/11 20:41
拝啓
此の頃、よく拝読させていただいております。
今回の、ラストの感想は、、、
『えーっ、ゆるしちゃうのーーー?』です。
次回を楽しみにしております。
草々
Tomeさんへ
canbeesanta
2012/11/09
カワイイなら底浅く
カッコイイのは上っ面
無闇な元気は疲れるし
意味ない明るさ
白けちゃう
酸いも甘いも噛み分けた
大人の魅力
今いずこ
2012/11/08
ゆめゆめ夢よ
夢の夢
夢見る頃に
夢はなく
夢ある頃に
夢を見ず
夢なら覚めよ
覚めぬ夢
2012/11/08
恋は不思議な
催眠術
好きな相手に
そっと掛ける
互いに掛け合えたら
しめたもの
ずっと覚めぬ事
ただ願うのみ