Tome Bank

main visual

Tome館長

m
r

Tome館長

CREATOR

  • 3

    Fav 1,206
  • 9

    View 6,103,356
  • p

    Works 3,356
  • レ ム

    2012/11/27

    変な話

    レムは、宇宙の幽霊みたいなもの。

    物質ではない。
    存在しないものでもない。

    うまく説明できないなにものかである。


    しかし、レムは言う。

    明らかに存在するもの
    惑星や、そこに棲む生物の方こそあやしい、と。


    宇宙そのものを含め、なにも存在しなければ
    すっきりして、すんなり納得できる。

    なのに、光とか物質とか、真空という状態とか
    悲しみや殺意や、わけのわからないものが

    いたるところに存在する。

    それだから、まるで明確に存在を示すものの方が
    むしろまともであるような印象を持ってしまう。


    けれど、それは錯覚であり、経験に毒されている。

    存在の曖昧な幽霊の如きものの方が
    むしろ宇宙の住民としてふさわしい。

    少なくとも、レムはそう考えている。


    だからレムは、君たちを恐れる。
    まるで当然な顔して存在する君たちを。
     

    Comment (2)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
    • Tome館長

      2013/09/26 18:40

      「広報まいさか」舞坂うさもさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2013/09/26 18:40

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 鹿の肉

    2012/11/27

    ひどい話

    冬山に銃声がとどろいた。
    猟師が鹿を撃ったのだ。

    ところが、じつに奇妙なのだ。
    倒れていたのは鹿ではなかった。

    鹿の皮衣を着た若い女なのだった。

    猟師は途方に暮れてしまった。
    どうすればいいかわからない。


    とりあえず女を担いで自宅に戻った。
    独り者なので家には誰もいない。

    猟師は女の死体を土間に置いた。

    それを忌々しそうに見下ろしながら
    腕組みして考える。

    (さて、こいつをどうしたものか)


    結局、獣のやり方しか知らないのだった。

    まず、鹿の皮衣をはぐ。
    ゴロリと女の肉体があらわれた。

    死んでいるのに生々しい。
    なぜか銃弾の跡が見つからないのだった。

    次に、猟師は包丁で女の腹を裂いた。
    おびただしく溢れる鮮血。

    そして、はらわたを手早く抜き取る。
    さすがに慣れた手つき。

    続いて、鉈で首を切り落とした。

    女の生首が土間の端まで転がり、
    うらめしそうな顔を猟師に向ける。

    さらに、両腕を肩から切断。
    両脚も付け根から断ち切った。

    流れ出た血で地面が黒く汚れ、
    血だまりに猟師の汗がボトボト垂れた。


    最後に猟師は、女の肉を鍋で煮て喰った。

    (これは、うまい!)
    猟師は感心する。

    (鹿の肉より、ずっとうまいわい)


    やがて、季節は春になった。
    雪がとけ、山菜が顔を出し始めた。

    猟師の家にも春が訪れた。


    ある朝、猟師は体の異変に気がついた。
    なにやら頭に生えてきたのだ。

    それは、まるで
    鹿の角のようにも見えるのだった。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 大人の遊園地

    「ねえ。ちょっと遊んでいかない?」

    見知らぬ美女に誘われた。
    遊んでもいいかな、と思った。

    入場料はとても高かった。
    それでもいいや、なんて思った。


    世にも不思議な大人の遊園地。
    子どもは入場禁止なのだった。


    脱衣所で裸になり、
    そのまま鏡の迷路に入る。

    たくさんの男女が迷っていた。


    やがて、お馬にさせられ、
    メリーゴーランドでハイドードー。

    コーヒーカップに注がれたら
    洗濯機みたいに回されて

    理性も羞恥心も吹っ飛んだ。

    ジェットコースターに飛び乗れば
    絶叫しつつ、人生レールを踏み外す。


    怖いのだろうか
    泣きわめく男たち。

    楽しいのだろうか
    笑い転げる女たち。


    大人の遊園地は眠らない。
    眠くなると、追い出される。

    「バイバイ。それじゃ、また来てね!」
     

    Comment (2)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
    • Tome館長

      2013/09/25 10:13

      「広報まいさか」舞坂うさもさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2013/09/24 18:13

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 殺す理由

    「殺して欲しいの」
    かわいい顔して彼女がささやく。

    「お願い。私を殺して」

    だから、殺してしまった。
    彼女は死んでからも美しかった。

    窓から風が吹き込む。

    このままにしておけない。
    とりあえず死体を片づけなければ。

    裏庭に穴を掘り、
    そこへ彼女の死体を埋めた。

    汗をかいたので風呂に入った。
    それから夕飯を食べた。

    テレビを観て、そろそろ寝る時間だった。
    彼女が窓から入ってきた。

    そのまま彼女は浴室へ向かう。

    廊下が泥だらけになってしまった。
    仕方ないので掃除をする。

    ところが、途中で邪魔された。

    湯上りの美しい彼女。

    「ねえ、お願い」
    そのやるせない表情。

    「もう一度、殺して」
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 目には歯を

    2012/11/23

    変な話

    一瞬、ものすごい美人だと思った。
    視線が合い、それを剥がすのに苦労した。

    位置を変え、再び彼女を盗み見た。

    ところが、なんだかおかしいのだ。

    美人じゃない。
    普通以下かもしれない。


    今度は別の女性と目が合った。
    今度こそ、ものすごい美人だと思った。

    さっきのとは別タイプの美人だ。

    いや。
    さっきのは美人じゃなかった。

    よく見なければいけない。
    反省しなければ。

    すると、やはり美人ではないのだった。
    さっきのはもちろん、今度のも。


    そんな反省を、続けて五人も繰り返した。
    自分の目が信じられなくなった。

    いったいどうなってしまったんだ。

    そのうちにとは思っていたが
    ついに狂ったか。


    ひょっとして、歯の治療のせいだろうか。

    前歯を差し歯にしたばかりなのだ。

    しかも歯の高さが合ってない。
    奥歯で噛みたくても前歯が当たるのだ。


    それにしても、最近の歯医者はいい。
    なにより、昔みたいに痛くない。

    そして、歯科助手には美人が多い。
    歯科医師の職業的選択傾向かもしれない。

    客というか患者として嬉しい限りだ。
    電動椅子に座っただけでドキドキする。


    若い女性に恥ずかしい口の中を掻きまわされる。


    歯の治療中はほとんど目を閉じている。
    無神経な男と思われたくないから。

    本当は目を開けて見上げていたいのに。

    口を開けて、目を閉じる。

    不自然だ。
    ああ、不自然だ。


    やはり、これは歯の治療のせいなのだ。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 地の果ての壁

    2012/11/23

    切ない話

    旅果ての地は、壁の前だった。

    かすむほどの長さ、
    めまいするほどの高さ。

    おそらく鳥でさえ越えられないだろう。
    こんなもの、いったい誰が築いたのか。


    拳で壁を叩いたら、ため息が出た。
    地面を叩くような感触だったからだ。

    さて、どうしよう。
    諦めて帰るしかないか。

    とりあえず壁面に落書を残してやろう。
    この長く苦しかった旅のせめてもの記念として。

    とがった石を拾い、卑猥な絵を彫った。
    自分の名と日付も彫った。

    それから壁に向かって立小便をした。


    その時だった。
    壁面に小さな穴を見つけた。

    まるで、覗いて欲しい、と言わんばかりの位置。

    あたりを見まわした。
    もちろん誰もいない。

    壁面の穴に目を近づけ、覗いてみた。
    すると、壁の向こう側がはっきり見えた。

    異様な光景だ。
    なんとも説明し難い。

    しばらく夢中になって覗き続けた。


    ようやく穴から目を離す。
    ため息が出た。

    面白い。
    確かに面白い。

    だが・・・

    それだけ。
    見ていて面白いだけ。

    いつまでも楽しく時間を潰せるだけ。


    そんなものを求めて
    俺は旅を続けてきたわけじゃない。

    もう引き返そう、と思った。
    日が沈む。


    壁面の落書の絵を少しだけ修正した。
    それから、名は削ってしまった。

    壁を背にして歩き出す。
    そして歩きながら、つい考えてしまう。

    果たして
    この旅に意味はあったのだろうか

    と。 
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • コテ茶

    2012/11/21

    愉快な話

    なつかしい叔父から小包が届いた。

    叔父は遠い外国で暮らしている。
    貿易商なのに冒険家のつもりなのだ。

    小包の中には手紙と異国風の布袋が入っていた。

    手紙は短かった。
    「コテ茶だよ。煎じて飲んでも知らないよ」

    これだけ。
    いかにも変人の叔父らしい。


    コテ茶とは初耳だった。

    まともなお茶ではあるまい。
    麻薬みたいな幻覚作用があるのだろうか。

    それらしきものが布袋の中に入っていた。
    なるほど、コテッとした色をしている。

    さっそく煎じてみる。
    コテッとした色が濃くなった。

    まさか死ぬことはあるまい。
    恐る恐る飲んでみた。

    まずい! 
    ほとんど毒だ。

    めまいがして視界がゆがみ、
    キッチンの床に倒れてしまった。


    気がつくと、なにやら窓の外が騒がしい。

    いや、違う。
    騒がしいから気がついたのだ。

    かなりの数の群衆の声がする。


    窓を開ける。
    人の姿は見えない。

    しかし、うるさいほどの声。

    「この声はなんだ。幻聴か?」
    自分の声が木霊のように反響して聞こえる。

    さらに遠い異国にいるはずの叔父の声まで聞こえてきた。

    「おまえもコテ茶を飲んだな。
     まったく、うるさくてかなわんぞ」
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 桃色の温泉

    2012/11/20

    変な話

    どうやら温泉のようである。
    あたりは桃色の湯煙に包まれている。

    脱いだ記憶はないが裸であった。


    水音のする方向へ進んでゆく。

    慎重に歩かなければならなかった。
    足もとがヌルヌルしているので滑りやすいのだ。


    やがて桃色の川が見えてきた。

    川面には船が浮かんでいる。
    温泉に浮かぶ船なら湯船に違いない。

    その湯船に誰かが乗っていた。

    湯浴みする後ろ姿がぼんやりと見える。
    長い黒髪と白い肌が妙になまめかしい。

    湯船はこちらに向かって流れてくる。
    船頭もいないのに不思議なこと。


    「一緒に乗ってくださいますか」

    なつかしい女の声であった。
    昔、どこかで聞いたような、聞かないような。


    「からだが冷えてしまいますよ」

    あいかわらず湯船の女は後ろ姿のまま。
    その顔を見たいような、見たくないような。
     

    Comment (2)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
    • Tome館長

      2013/09/17 19:36

      「広報まいさか」舞坂うさもさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2013/09/17 13:13

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 工場地帯

    2012/11/19

    ひどい話

    「休むのは自由だが、今月は休むな」
    「ああ、休む予定はねえよ」

    「売り上げが足らねえんだからな」
    「ああ、わかってるって」

    俺は背を向ける。

    (ふん。死ぬのも自由だがな)


    この上司は中学の同級生だった。


    彼と別れ、工場を出る。

    やがて、レンガ橋を渡る。
    古くて大きな橋なので、その下は暗い。

    なんとも言えぬ色の川が流れている。

    異臭を放ちながら重く淀み、
    巨大なミミズが這っているようにも見える。

    川を挟むようにゴミだらけの川原がある。
    その上に脚の長い女の子が立っていた。

    もっと近くで彼女を見たい、と俺は思った。


    レンガ橋を渡ったところで
    引き寄せられるように体が傾いた。

    土手から転がり落ちて川原に降り立つ。

    悩ましいほど柔らかい地面に
    鉄板入りの安全靴が埋まる。

    ここは堆積した産業廃棄物の川原なのだ。


    今まで気づかなかったが
    たくさんの子どもが遊んでいた。

    さっきの女の子と目が合う。

    きれいなはずの顔が崩れていた。
    工場地帯に多い奇形児だった。

    それでもなぜか、とても美しいと思った。


    彼女の近くへ行きたい。

    そのためには川を越えなければならない。

    少し離れたところに川のY字路があり、
    そこは違法廃棄物で埋まっている。

    なんとか反対側まで渡れそうだ。


    何が面白いのか、俺の真似をして
    男の子が背後からついてくる。

    その男の子が川に落ちた。
    すごい悲鳴をあげて暴れる。

    強い酸のために皮膚が溶けるのだ。

    誰も助けようとしない。
    もちろん、俺もだ。

    それにしても、聞き覚えのある悲鳴。


    この男の子も中学の同級生だった。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • マリコちゃん

    2012/11/18

    切ない話

    マリコちゃんが踊っています。

    上手なのか下手なのか
    よくわかりません。

    とにかく
    踊るのが楽しくて仕方ないみたい。


    そんなマリコちゃんを眺めている人がいます。

    椅子に座っているおじいさんです。
    眺めているのが楽しくてたまらないみたい。


    そのおじいさんが
    おもむろに立ち上がりました。

    片足をあげ、次に両手をあげました。

    それから、とまどった表情になりました。

    おじいさんの肩がひとつ
    床に落ちたのです。


    苦労して肩を拾いあげると
    おじいさんは椅子に腰をおろしました。


    マリコちゃんはまだ踊り続けています。

    ちょっと大人びたしぐさも見せたりします。
    それがまたかわいらしいのでした。


    おじいさんがマリコちゃんを眺めています。
    ちょっと哀しそうなまなざしで。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
RSS
k
k