1万8000人の登録クリエイターからお気に入りの作家を検索することができます。
2016/01/18
どんなに風が吹いても
液晶の池に波は立たない。
まれに波紋がひろがることはあっても
ただ、そのように見えるだけである。
液晶の池の水面は「画面」と呼ばれる。
「スクリーン」または「ディスプレイ」
などと称する場合もある。
おおむね四角、縦長か横長の長方形が多い。
「液晶」は、固体と液体の中間状態。
液体の流動性と結晶の異方性を合わせ持つ。
小まめに光を透したりさえぎったりすることで
観察者の視覚をたぶらかし、幻をかいま見せる。
たった今、あなたがご覧になっておられるのも
おそらく液晶の池に違いあるまい。
ログインするとコメントを投稿できます。
2016/01/17
この人である私が あの人であった
という場合はない とは否定できまい
たまたま この人が私であって
あの人が私でなかっただけ
私がこの人ではなく
あの人である可能性はあったのだ
だから 私は許せない
あの人にあんなことをする別のあの人を
私があの人でないとしても
私があんなことをされたら どうだろう
まったくの他人事ではないのだ
ほとんどそれは 私の問題なのだ
あんなことをする別のあの人が私なら
私は私を許せない
ログインするとコメントを投稿できます。
2016/01/16
おそとは あんなに あかるくて
あんなに ひろくて あたたかい
なのに あたしは おうちに いるの
おうちは とっても くらくって
とっても せまくて おまけに さむい
ひとりっきりで かいわも なくて
だあれも こなくて どこへも いかない
なのに あたしは きにしない
がめんの むこうは もっと ひろくて
なにより もっと おもしろい
ことば ならべて えをかいて
うたって みたり おどって みたり
ログインするとコメントを投稿できます。
2016/01/15
ワッショイ ワッショイ
みこしが通る
ワッショイ ワッショイ
きつねも通る
笛太鼓の音頭とともに
町内会の神輿が家の前の通りを通る。
ゆっくり走行するお囃子のトラックの後に
大人神輿と子ども神輿、および父兄の集団が続く。
その前後左右には町内会の役員の方々。
まことにご苦労なことだと思う。
この神輿がどこから来て、どこへ行くのか
また、どのような意味があるのか、じつはよく知らない。
おそらく普段は、近所の神社に納められているのだろう。
毎年、いくばくか神社奉賛会費なるものを支払わされている。
神社では獅子舞の見世物もあるそうだが
わざわざ行くのも億劫なので、まだ見物したことはない。
それはともかく、なんだかおかしい。
神輿を担ぐ人々の中に狐がいる。
大人神輿にも子ども神輿にも、どちらも一匹ずつ。
お面ではない。
着ぐるみでもない。
犬が立ったみたいな形の、本物っぽい狐だ。
目が悪いので、なにかの錯覚だろうか。
デジカメで写真を撮ろうとしたが
いくら探してもファインダーの中に狐の姿が見つからない。
とりあえず、狐がいたあたりを撮りまくる。
当然ながら、と言うべきか、やはり
どの静止画像にも狐の姿は写っていなかった。
つまり、なんということはない。
いたずら好きな狐に化かされたのだ。
そもそも、あの神社は稲荷神社ですらない。
ログインするとコメントを投稿できます。
2016/01/14
うっかり小人の首まで刈ってしまった。
「いやあ、ごめんごめん」
私は素直に謝る。
「まったく、気をつけてもらわなきゃ困るな」
「だって君たちときたら、あんまりにも小さいんだもの」
「ふん。そっちが大き過ぎるんだよ」
小人は自分の頭を拾いながら文句を言う。
それにしても、小人の生命力はすごい。
首の切断面がふくらんで、もう小さな頭が生えている。
「その取れちゃった頭はどうするんだい?」
私が尋ねると、小人の新旧ふたつの頭は相談を始めた。
人間には聞き取れない甲高い言葉が飛び交い
ようやく相談がまとまったらしい。
双子のコーラスみたいに声をそろえて
「今晩のおかず」
どうも小人の考えていることはわからない。
ログインするとコメントを投稿できます。
2016/01/13
君の目の前に扉がある。
実際には、そんなものないだろうけど
(横を向いたらあるかもしれないけど)
とりあえず、扉があるものとする。
君は、その扉を開ける。
扉の材質や形状は問わない。
両開きでも片開きでもかまわない。
引いても押しても君の自由だ。
すると、細長い廊下がまっすぐ延びている。
異国風の絨毯も敷かれている。
先ほどイメージした扉の材質と形状を
君は修正したくなるかもしれない。
しかし、それは君のセンスと好みによる。
なんとなれば、絨毯なんぞ
はじめから敷かれてなかったことにすればいいのだ。
畳が縦にならんだような変な和風の廊下とか
またはライオンやヒョウの毛皮に埋もれた・・・・
ともかく、先を急ごう。
廊下を歩いてゆくと、やがてあなたは大きな鏡にぶつかる。
(二人称代名詞が変わっていても気にしない)
その鏡には細長い廊下が映っていて
あなたが先ほど開いた扉の向こう、部屋の壁へと続いている。
そこで、あなたは振り返る。
やはり、そのような光景があるばかり。
他へ続きそうな廊下も扉もない。
あなたは歩いて来たばかりの廊下を歩いて戻るしかない。
締め忘れた扉を通り過ぎ、部屋の中に入り
そのまま進むと、すぐにあなたは大きな鏡にぶつかる。
振り返ると、やはり細長い廊下が扉の中に延びているばかり。
つまり、この細長い廊下は合わせ鏡の廊下だったわけだ。
なるほど、よくある話ではある。
しかし、今さらながらあなたは驚く。
あなたはやっと気づいたのだ。
向こう側もこちら側も、どちらの鏡にも
あなた自身の姿が映っていなかったことに。
ログインするとコメントを投稿できます。
2016/01/12
バイクに乗って
僕はどこへ行こうとしていたのだろう。
やぼったい原付バイク
いわゆる農道バイクを押しながら
中学生だった僕は
狙いすました真夜中に
こっそり家を抜け出たのだ。
ただでさえ近眼乱視なのに
親父のサングラスまで借りて
深夜のツーリングとは
まったくもって危険極まりなし。
結局のところ
まったくもって情けない話
しばらく走って
パトカーの職務質問に捕まってしまった。
当然ながら無免許運転で
親は電話で起こされ
警察署に呼ばれ
のちには家庭裁判所へ行く羽目にまで
陥ってしまったわけだけれど・・・・
それはともかく
あの時の僕は
いったい
バイクに乗って
どこへ行こうとしていたのだろう。
ログインするとコメントを投稿できます。
2016/01/11
おれは新聞記者だ。
環境汚染やゴミ問題を扱いながら
新聞を売ることでゴミを増やしている。
うしろめたい気持ちでいっぱいだ。
今、おれは自動車整備工場の敷地にいて
ぼんやりタバコなんかふかしている。
白い煙が青空に消えるのを眺めている。
つまり、仕事でなくても空気を汚しているわけだ。
ちょっとやり切れない気分。
人声がして、立派な服を着た団体が現れた。
国内有数の自動車メーカーの方々である。
額の禿げあがった工場長に挨拶している。
こんな零細な自動車整備工場の工場長に
世界的に有名な社長が頭を下げている。
やはり何かありそうか気がする。
記事のネタになりそうな匂いがするのだ。
やがて話がついて、団体が立ち去ろうとする。
彼らにインタビューすべきか、おれは迷った。
その時、それは起こったのである。
整備工場の敷地から近所のビルの工事現場が眺められる。
鉄骨を組んでいる最中なので、不安定に見える。
新聞を売ったり、自動車を作ったり、ビルを築いたり
人々は色々なことをしているわけだ。
その工事中のビルの頂上から何かが落ちた。
昼頃だから、人夫の弁当箱だったかもしれない。
落下の途中、それが鉄骨か何かに当たり
かなりの音を立てて周囲に響き渡った。
新聞記者らしくない考えのような気もするが
落ちたのが人間でなくて本当に良かった。
続いて小さな建築資材らしきものが落ちた。
さらに、あまり大きくない資材がバラバラ落ちた。
それで終わりかと思ったら
しばらくして頂上の鉄骨が一本はずれて落ちた。
ものすごい音がした。
人夫たちの叫び声があがった。
あるいは誰かにぶつかったのかもしれない。
頂上付近に人が集まる様子が見える。
すると、かれらの体重のせいなのか
その足場の鉄骨がはずれ、載っていた人もろとも落下した。
とんでもない事故。
あの高さからではまず助からない。
国内有数の自動車メーカーの社長は
この光景をしっかり見ているのであろうか。
そんな考えが頭のどこかに浮かんだが
おれはビルの惨状から視線をそらすことができない。
人夫たちが集まり、その重みで鉄骨がはずれ
そのまま人夫もろとも落下する。
その単調なパターンの繰り返し。
おれの目の前で工事中のビルが崩れてゆく。
まるでオモチャというか、ほとんどマンガだった。
積み木の城みたいだ、とおれは思った。
それなのに、工事中で崩落中のビルの向こう側は
あいかわらず青空なのだった。
ログインするとコメントを投稿できます。
2016/01/10
あまりにも遠い夏休みの思い出。
半ズボンで、麦わら帽子をかぶって
林を縫うように山道を歩いていた。
手には捕虫網と虫かご。
小さな昆虫図鑑も持っていたかもしれない。
いたるところに清水が湧いていたから
水筒は持っていなかったはず。
暑かった。
アブラゼミが鳴いていた。
のちに自然保護地域に指定される池にたどり着く。
当時は、珍しい浮島のある怪しい池。
池のほとりに小さな社が建っていた。
その裏側にある大きな石にひとり腰かけ
しばらく池を眺めていた。
さびしいとは思わなかった。
ひとりだから楽しい。そんな気分。
小石を投げ入れると、水面に波紋が広がった。
その波紋の上を赤い蝶が飛んでいた。
息をするのも忘れ、胸が苦しくなった。
赤い翅の蝶なんか見たことなかったから。
捕虫網をつかんで夢中で駆け出した。
そして、そのまま池に落ちてしまった。
そうだ、落ちたのだ。
たしかに池に落ちたはずなのだ。
忘れられるようなことでもないはずなのに
どうして今まで忘れていたのだろう。
あまりにも遠い夏休みの思い出。
ログインするとコメントを投稿できます。
2016/01/08
幅広い車道を挟む形で両側に幅狭い歩道があり
その片側の歩道を歩きながら、私は思う。
(クルマなんか、なくなれば良いのに)
そうすれば、ゆったり安心して歩ける。
向こう側にも簡単に渡れる。
排気ガスと騒音をまき散らしながら
車道のクルマの流れは途切れる気配もない。
はるか前方に歩道橋が見える。
あそこまで歩かなければならないようだ。
(歩行者をなんだと思っているんだ?
でかい顔しやがって)
実際、クルマの正面は顔のように見える。
人格らしきものさえ感じられる。
それを彼らは好しと、または悪くもなしと
あるいは気にもせず運転しているに違いない。
ようやく歩道橋の下まで辿り着いた。
しかし、楽しい作業が待っているわけではない。
ペンキの剥げかけた急勾配の階段を
忌々しい気持ちのまま上り始める。
一段ごとに地面が低くなる。
ただし、空の高さに変化は見られない。
歩道橋の真ん中、車道の中央分離帯の真上で
私はクルマの流れを見下ろす。
なかなかの景観だが、不安定で落ち着かない。
急いで反対側の歩道に下り立つ。
(さて、どうしたものか)
これからどこへ行こうか
あらかじめ決めていたわけではないのだ。
ログインするとコメントを投稿できます。