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Tome館長

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    Works 3,356
  • 闇の隠者

    2009/03/08

    楽しい詩

    窓を開けたまま眠ると、
    真夜中、あいつに襲われる。

    あいつは、するりと部屋に侵入する。
    あいつは、ふとんの中まで入ってくる。

    抱きつかれてから気づくのだ。


    「なんだ。おまえは何者だ」
    「闇の隠者とでも呼べ」

    「なにをするつもりなのだ」
    「なにもしない」

    「抱きついているではないか」
    「抱くだけ。なにもしない」


    闇の隠者に抱かれたら、もう逃げられっこない。
    じっと夜明けを待つしかない。

    ほら、窓の外、闇の隠者が覗いてる。
     

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  • 宝石箱

    2009/03/07

    楽しい詩

    白い指が宝石箱のふたを開ける


    「首に巻いてください」
    哀願するネックレス

    「耳にぶら下がってやろうか」
    生意気なイヤリング

    「胸にしがみつきたいな」
    甘えん坊なブレスレット

    「捨てられちゃった」
    戻ってきたばかりのリング


    白い指が宝石箱のふたを閉じる
     

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  • 水底の雪

    ひとりぼっち 沈んでゆく

      おかしなくらい ゆっくりと

        裏返しの水面 遠のいてゆく


            ドウシテ 沈ンデ ユクンダロ



    手を振りながら 小さな泡たち 昇ってゆく

      まわりが だんだん 暗くなる

        一緒に沈む プランクトンの 死骸たち


            コンナ 水底ニモ 雪ガ 降ルンダ
     

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  • 踊らせて

    2009/03/05

    空しい詩

    わたし、いつまでも踊るつもり。

    いつまでもって、いつまでなんだろ。


    なにが悲しくて、こんな救われないこと
    こんなむなしいこと、続けるんだろ。


    ああ、また思い出してしまう。

    忘れたい。忘れられない。
    どうしても消え去ってくれない記憶。


    だから、だから踊るしかない。

    そんなの追いつけないくらい速く。
    そんなの振り落とすくらい激しく。


    苦しい。ここから逃げ出したい。

    でも、もう逃げる場所なんかない。
    もう駄目になってるのかもしれない。

    踊るのをやめてしまったら
    きっと本当に駄目になってしまう。


    なんにもないんだから。

    蝉の抜け殻みたいに空っぽなんだから。


    親も兄弟も友だちも呆れてしまって
    みんなどこかへ消えてしまった。


    もう誰も一緒に踊ってくれない。

    こんな暗くさびしいところに
    わたしひとりだけ残して。


    もう演奏さえ聞こえない。


    でも、やめるわけにはいかない。

    うまくなくても、みっともなくても
    情けなくたって、踊るしかない。


    だって、そうなんだから。

    ほかにはなんにもないんだから。
    もうなんにもわかんないんだから。


    いつまでもわたしを踊らせて。

    迷惑かもしれないけど
    あまり迷惑かけないようにするから

    どうか、わたしを踊らせて。
     

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  • 紙の鳥

    女の背中が見える。
    その前には男がいる。

    ふたりは話し合っている。
    ただし、声は聞こえない。


    色紙が床に落ちている。

    それを拾いあげ
    なんとなく紙の鳥を折る。


    振り向いてもらいたくて

    できあがったそれを
    女の肩越しに差し出す。


    こんなに上手にできたのに
    女は気づいてくれない。

    紙の鳥を前後に振れば
    紙の翼が上下に羽ばたく。

    それでも女は知らんぷり。

    いつまでも、いつまでも
    羽ばたき続ける、紙の鳥。
     

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  • お天気雨

    2009/03/03

    暗い詩

      雲ひとつないのに
      どうして雨が降るんだろ


    雨傘 サシテイルノハ 私ダケ


      恋人みたいなのに
      どうして他人なんだろ


    雨傘 ヤブレテイルノハ 私ダケ


      笑っているのに
      どうして泣くんだろ


    雨傘 ステラレナイノハ 私ダケ
     

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  • しずくの音

    2009/03/02

    空しい詩

    眠れない夜

    ポタポタポタと
    しずくが落ちる。


    ふと大切なことを
    思い出せそうな気がして

    言葉に置き換えようと
    あせっているうちに

    跡形もなく
    消えてしまった。


    しずくの音だけが
    ポタポタポタと

    耳に残る。
     

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  • ふたりの少女

    夢見る少女は
    目覚めた少女より楽しい。

    鏡に映る少女は
    鏡の前の少女より美しい。

    手紙の中の少女は
    手紙を書いた少女よりやさしい。


    ひとりの少女が問いかける。
    「あなたは誰なの?」

    もうひとりの少女が問いかえす。
    「あなたこそ誰なの?」
     

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    • Tome館長

      2014/04/20 08:32

      「ゆっくり生きる」はるさんが動画にしてくださいました!

    • Tome館長

      2011/11/08 13:10

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 暴走族

    と言っても
    おもちゃの暴走族。

    仲間とミニチュアのバイクを操って
    深夜に段ボールの国道を暴走するのだ。


    集団は左右にわかれ
    暴れまわる。

    「やっちまえ! 蹴散らせ!」
    「ふざけるな! ぶっ殺せ!」

    狭い室内は修羅場と化す。

    割り箸の角材、ストローの鉄パイプ。
    あたりに飛び散る赤いトマトジュース。

    ついにパトカーと白バイが現われる。
    逃げ惑う秩序なきバイクの群。


    「あんたたち、いいかげんにしなさい!」

    この家の女主人が怒り狂う。

    子どもの邪魔をするのはいつも大人だ。


    夜が明けると、集会は散開。
    みんな、それぞれの家に帰ってゆく。

    ひとり、この家の子だけ残される。

    背中を丸めてうずくまる少年の
    そのさびしそうな横顔。
     

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  • 氷の音

    2009/02/28

    愉快な話

    深夜に飲み水を切らしてしまったので

    冷蔵庫の冷凍室から氷を取り出して
    陶製の器に山盛りにして机の上に置き

    しばらく氷がとけて水になるのを待っていた。


    すると
    ほんのかすかではあるけれど

    コソコソと内緒話をしているような
    なんとも不思議な音が聞こえてきた。


    (氷がとける音だ!)


    器をつかんで耳もとに寄せてみると
    炭酸水がはじけるような音がする。


    そのままスタンドの明かりを消すと
    闇の中に

    巨大な流氷と流氷がぶつかって
    軋むような雄大な音が響いた。


    その瞬間

    すっかり冷えた陶製の器が
    火照った耳たぶに触れ

    ひやりとして

    乾いた唇から思わず
    ため息がもれた。
     

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