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2009/03/18
うぶ毛の生えた地平線
誰かの指が
散歩する
くれぐれも
髪の川に流されたり
せぬように
2009/03/17
ぽたぽたぽたと しずくが落ちる
なみだにしては ちと赤い
2009/03/16
もしも蚊が幽霊なら
気になって気になって
眠れない。
潰しても潰しても潰しても
遠く近く聞える
あの羽音。
疲れ果て
灯りをつける。
どこにも蚊はいない。
背筋に寒気が走る。
なにしろ
季節は冬なのだ。
もしも星が幽霊なら
ほとんど誰も
気にしない。
さまよえる幽霊星。
青白き火の玉
見たように
天文学者が悲鳴をあげる。
それから
宇宙飛行士もあわてそう。
もしも宇宙が幽霊なら
きっと誰も
気づかない。
だって
みんな幽霊なのだから。
2009/03/16
昔、砂漠に戦争があった。
砂漠には狐が棲んでいたが
彼らは砂漠に残った。
戦争は長く続いた。
狐は砂を掘り、
昼間は砂の中に隠れて過ごした。
争いは避けなければならない。
争いに巻き込まれてはならない。
かすかな音さえ聞き逃してはならない。
耳だけが
彼らの頼りだった。
だから
時は流れ
戦争は絶えて久しいけれど
それら砂の中に隠れし者の
子孫の末裔の
砂漠の狐の
耳は長い。
2009/03/14
華やかな衣装を身にまとい
端正な顔に美しく化粧をほどこして
世界中から集まった人形たち
麗しき人形
美しき人形
きれいな人形
かわいい人形
愉快な人形
良い人形
とても愛らしい
小さな貴婦人たち
もっとも
等身大のマネキンだっているけど
人形たちの素敵な舞踏会
もっとも
誰も踊ったりしないけど
2009/03/13
この家の玄関の扉を開ける時、
軋んだ音がする。
その音が
猫の鳴き声そっくりなのだ。
知らない客は驚いて
キョロキョロする。
いくら探しても
どこにも猫の姿はない。
その昔、
扉に挟まって猫が死んだのだろうか。
この扉を閉める時にも
軋んだ音がする。
なぜだろう。
女の泣き声そっくりなのだ。
知らない客は驚いて
キョロキョロする。
いくら探しても
どこにも女の姿など・・・・・・
おやおや。
この家の奥さんが扉に挟まっていた。
2009/03/12
キドラ辺境惑星における伝統音楽は
いたるところに存在するにもかかわらず
同時に見つけるのが困難とされている。
ロレロと呼ばれる宗教的な期間に
年配者が若者に伝説を語る風習があり、
そこで歌われるのがロレロ霊歌である。
現在では霊的なものは失われてしまったが
これはタヌヌ戦争直前に録音されたもの。
液体楽器ビハデを奏でるのは
村の古老ダグエラとその娘エダの親子。
ベキ音唱法を駆使して即興で歌うのは
タンニとウフニの双子の姉妹である。
録音に成功した辺境調査家エデレーは
自著において次のように解説している。
「ベキ音唱法が時空の認識を変化させ
時を越えて打ち寄せるビハデの波紋により
宇宙の意識が聴者の意識と重なると、
自他および因果の区別は意味を失う」
なお、ここで語り継がれる伝説については
サッササ叙事詩のキドラ辺境型変形、
またはそのピケ亜流と分類される。
2009/03/11
ねえ、あんた。ねえったら。
あんた、どうしたの?
あたしを置いてきぼりにしてさ。
もう、いやんなっちゃうな。
せっかく、ふたりっきりなのに
あたしも一緒に連れてってよ。
ねえ、もしかして、あんたったら
あたしのこと忘れちゃったわけ?
ポンポンって肩を叩いてやらないと
思い出してもくれないわけ?
こんなに近くにいるのに、
こんなに触れ合ってるのに。
それとも、ひとりで行きたいわけ?
ひとりで勝手に行って
残されたあたしなんか、どうでもいいの?
あたしのこと、なんだと思ってるの?
だめだめ、そんなのだめ。
全然信じられないよ。
あんた、ちょっとおかしいよ。
ううん、すごくおかしいよ。
2009/03/10
あっ
そうか
なるほど
そういうことね
なんだ
ばかみたい
ほんと
ばかみたいだ
2009/03/09
十二方位の十三番目
羅針盤さえ迷子の見知らぬ町
見知らぬ町の広場には
人影がない
見知らぬ町の時計台には
針もない
見知らぬ町を
見知らぬ商隊が通る
ラクダだけ
商人の姿はない
ラクダの背には荷物もない
そんな見知らぬ町で
見知らぬ人を見たら
それは見知らぬ町の
見知らぬ人